2056年 2月5日 2101時 S14地区 鉄血の基地
不正な命令がウィルスを通じてUMP45のメンタルモデルに送られていた。彼女は必至にその命令を抑え込もうとしたが、どうしても上手くいかない。そして、その命令によって、今、UMP45は自分自身の手で最愛の指揮官の命を奪おうとしていた。
五十嵐は拳銃を引き抜き、45を撃つこともできた。だが、仲間を撃つことなど、できるはずもなかった。両手で45の手首を掴み、抵抗するのが精いっぱいだ。
「45姉!」
UMP9が姉を後ろから掴み、五十嵐から引き離そうとしたが上手くいかない。ウィルスの影響で、身体機能も強化されているらしい。UMP45のメンタルモデルはスケアクロウの命令に抵抗し続けているが、体がその命令を受け付けない。
銃声が聞こえてきた。仲間がUMP40に向かって発砲しているらしい。だんだん呼吸が苦しくなり、体から力も抜けていく。意識を持っていかれないように集中しようとする。UMP9は姉を羽交い絞めにして、五十嵐から引き離そうとしたが、とんでもない力で五十嵐を締め上げているため、上手くいかなかった。
2056年 2月5日 2012時 S14地区 鉄血の基地
AR70とStG44の暴風のような攻撃により、雑魚をあらかた片づけることができた。あとは、本丸であるスケアクロウを仕留めるだけだ。だが、スケアクロウは形勢が不利になったのを悟ったのか、手榴弾を投げて逃げ出した。手榴弾から緑色の脂ぎった煙が噴き出し、ブレナンたちの視界を塞ぐ。だが、それはブレナンたちには通用しなかった。
ブレナンとAR70、ステンはバッグパックから赤外線ゴーグルを取り出して身に着けた。輪郭が極めてはっきりとした白黒の光景が広がる。戦車や装甲車のスモークディスチャージャーに装填される、対赤外線弾と違い、単に肉眼による目視を妨害するための煙なので、赤外線ゴーグルを使えばはっきりと視界を確保することができる。
「M200、見えるか?」ブレナンが部隊の狙撃手に言う。
「見えています」
「撃てると思ったら、自分の判断ですぐ敵のボスを仕留めろ。頭か心臓を吹っ飛ばしてやれ。俺の命令は待つな」
「わかりました」
ブレナンは銃を構え、慎重に前進した。ホールの向こうを見ると、扉が開き、暗い雪原が見えていた。地面を見ると、足跡が続いている。奴は逃げ出したか。だが、積もった新雪の上に足跡が幾つも見える。
「奴を仕留めるぞ。慎重に進め」
「私が先に行きます。指揮官は後ろから」
RPDが銃に弾薬ベルトをセットし、前進した。MDRが彼女の隣に並ぶ。この戦術人形は銃のマウントレールにスマホを取り付けていた。
「ちょっと、MDR、何をしているんですか!?」
「何って、グリフィンタレコミ掲示板の動画コーナーで生放送に決まっているだろ?」
「もう、こんな時に!」
「さっき、鉄血のハイエンドモデルを放送で流したら、視聴者数がうなぎのぼりになったからね。これだから生放送はやめられない」
「おいおい。どう考えても15禁動画にしかならないだろ」ブレナンが言う。
「そこがいいんだよ。鉄血が銃弾でバラバラになるところを映すと、コメントも視聴者数も増えるからねー」
「飛んだ物好きがいるもんだな」
「録画もしているぞ。後で指揮官も見るかい?」
「いや・・・・・・遠慮しとく。それよりも、とっとと奴を仕留めるぞ」
ブレナンは敵の足跡を探して林が点在する雪原を見回した。あった。真っすぐ西の方の林に向かって伸びている。
「あっちだ。早いところ仕留めよう」
2056年 2月5日 2013時 S14地区 鉄血の基地
416とG11、スオミが少し間隔を空け、狭い通路の中を進んでいた。416はUMP40を捕まえろと命令されていたが、やむを得ない状態に陥った場合は射殺も辞さないと決めていた。
積まれたコンテナの上から突如としてUMP40が現れた。3人が発砲し、UMP40を銃口で追う。コンテナや壁、天井に弾丸が当たり、弾ける音がする。鉄血に操られた戦術人形はコンテナの上を飛び回り、再び姿を消した。
「こうなったら仕方が無い。致命傷を負わせずにあいつを止めるのは無理だわ!」416が空になった弾倉を捨て、新しいものを装填しながら言った。
「でも、それだと指揮官の命令が」スオミが416の方を見て言う。
「やむを得ないわ!指揮官に悪いけど、致命傷になったとしても、後で応急手当をすれば助かることを祈って撃つしか無いわ!」
「わかりました。行きましょう!」
2056年 2月5日 2014時 S14地区 鉄血の基地
UMP45は命令に抵抗し、五十嵐の首を締め上げている右手を動かそうとしていた。後ろから掴みかかった妹が、彼女を指揮官から引きはがそうとしている。彼女のメンタルモデルには不正な命令が津波のように流れ込んできていた。なんとかそれを止めようとしたがどうしても上手くいかない。
このままでは指揮官を殺してしまう。指揮官を殺してしまうくらいなら、撃たれた方がマシだ。UMP45は指揮官か妹が、自分を止めるために射殺してくれることを祈った。だが、それは叶わないこともわかっていた。二人とも、何があっても自分を殺すという選択肢を選ぶことは無いだろう。
2056年 2月5日 2015時 S14地区
ブレナンたちは猛烈な勢いでスケアクロウの足跡を辿って走った。奴を仕留めれば、あとはB中隊を見つけて救出部隊を呼ぶだけだ。
やがて、林の中を移動するスケアクロウを見つけた。ブレナンが標的を狙い撃ちし始めた。StG44とAR70、MDRもそれに加わる。弾丸が鉄血のハイエンドモデルの背中に何発か命中し、スケアクロウは一度倒れたものの、立ち上がり、何かの装置を手にした。それが何かはわからないが、ろくでもないものだろう。あれも破壊する必要がありそうだ。
『指揮官!伏せて下さい!』
M200の声がイヤホンから聞こえた直後、ブレナンは地面に転がった。その直後、2発の銃声が鳴る。1発目はリモコン装置をスケアクロウの右手ごと撃ち抜き、2発目はスケアクロウの左目に直撃した。生体組織と骨格、電子頭脳の部品が撒き散らされる。スケアクロウが倒れた時、彼女の頭部の3分の1が消失していた。
2056年 2月5日 2016時 S14地区 鉄血の基地
不意に五十嵐の喉を掴んでいたUMP45の手から力が抜けた。五十嵐は床に転がり、激しく咳き込んだ後に、酸素を求めてあえいだ。
「指揮官!」
UMP9が五十嵐を助け起こした直後、銃声が連続して響き渡った。五十嵐が大きく深呼吸をして、銃を拾い上げる。
「ナイン、45は!?40はどうなった!?」
「45姉は無事・・・・だと思う。40はわからない」
「45、大丈夫か?」
UMP45は体を両腕で支え、立ち上がろうとしていた。五十嵐は地面を這いながら45に近づき、彼女の肩に両手を置いた。
「指揮官、私・・・・・」
45はぼろぼろ泣きながら、崩れるように五十嵐にもたれかかった。
「45、大丈夫なのか?」
「大丈夫な訳ないでしょ。指揮官を殺すところだったのに」
「ハッキングされていたのか」
「さっき40に射たれたやつで。多分、ウィルスの一種だと思う」
「そうか。それで、」
銃声が数発鳴り、一瞬、間を置いて再び複数発の銃声。すぐに五十嵐のイヤホンからG36の声が聞こえてきた。
『指揮官、40を仕留めました。残念ですが、40は』
「わかった。みんな、集合してくれ。それから、肝心の無人機のデータを取らないとな」
『・・・・・聞こえるか?』
どこかで聞いたことがある声が通信に割り込んできた。
『B中隊、聞こえるか?』
「聞こえます」
『P中隊だ。救出しに来た。やっと通信が回復した』
「わかりました。ビーコン信号を送ります。そっちはどうですか?」
『鉄血の連中を片づけた。1人、他とは違う妙な奴が混じっていた。そうだな。今からそいつのAIのCPUを回収しようと思う』
「大丈夫なんですか?そんな事をして」
『まあ、ペルシカが欲しがるだろうしな。手土産に持って帰ったら報酬を弾んでくれるだろうし』
「そうですか」
そこで、五十嵐は他に回収しなければならない人物があることに気づいた。
「こっちも連れて帰らなきゃならないのがいました。では、後程」
『連れて帰る?まあ、いい。救助のヘリを呼んでおく。じゃあ、後でな』
「はい。通信終了」
五十嵐が無線機を切ろうとしたとき、再び無線から雑音が聞こえた。
『指揮官、40はどうしますか?』
「回収できそうか?」
『いえ・・・・指揮官は見ない方いいです』
「わかった。合流してくれ。救助部隊が来る」
2056年 2月5日 2034時 S14地区
五十嵐はUMP45を背負い、基地の外に出た。そこではスコット・ブレナンたちが周囲を警戒するように立っていた。
「トモキ、大丈夫だったか?」
「はい。そっちはどうでした?」
「鉄血のハイエンドモデルを仕留めた。やっと1体撃破ってところだ」
ブレナンはポケットに右手を突っ込み、マイクロチップを取り出して見せた。
「これがそいつのAIのメンタルモデルが入ったCPUだ。持って帰ったら上層部の連中が報酬を弾んでくれそうだな」
「416、40のCPUは?」
「それが。仕方なくあいつに焼夷榴弾を撃ち込んだの。その時に、近くにあったガソリンのタンクも一緒に吹き飛ばしちゃって。後は、想像にまかせるわ」
「そうか。まずは、迎えが来るのを待とう」