※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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航空偵察

 2056年 2月11日 1223時 タジキスタン 旧ペンジケント市

 

 少女は放棄されていた建物で手に入れた缶詰の中身をスプーンで掬って口に運んだ。ここに取り残されてもう1か月を過ぎている。離れ離れになった姉妹たちがどうなっているのかもわからない。

 

 少女は手にした自動小銃を通常分解し、掃除して組み立て直した。奇跡的にGPSビーコン装置が一度だけ作動し、信号を発信することができたが、それっきりそれは動かなくなった。今朝早い、まだ日が昇っていない時間のことだった。少女は時間の感覚すら失っていた。彼女が分かるのは、朝、昼、夕方、夜。その4つの時間だけ。

 これまでのところ、何とか敵に遭遇せずに済んでいる。まともに戦わず、身を隠し、敵に見つからないように慎重に行動していた。そのせいで、この国の住民にすら見つからずにいるが、そっちの方がむしろ好都合だ。

 

 軍の武器庫から5.56mmNATO弾を、放棄されていたPMCの駐屯地から銃の部品を手に入れて戦ってきた。

 

 見渡す限り、雪原と人間の死体と一部が破壊された建物があるだけ。それにしても、たった一人で、よくここまで生き残れたものだ、と彼女は思った。戦いは最小限に。しかし、何度か敵の集団が隠れ場所のすぐ近くを通り過ぎる場面に何度か遭遇し、その度に肝を冷やした。

 周囲に目を凝らし、じっと音に耳を澄ませる。できるだけ大きな物音を立てないように注意して行動する。できるだけ摺り足で歩き、足跡も残さないようにする。

 

 あまり聞きなれないローター音が聞こえてきたため、素早く身を隠した。岩陰から空を見上げると、2つのローターを回しながらCV-22Bオスプレイが4機、VTOLモードで飛行しているのが見えた。アメリカ軍だろうか。

 

 アメリカ軍ならば、死体から武器の部品や弾薬を手に入れることができるだろう。生き残るためには手段を選んでいる場合では無い。オスプレイは高度を上げ、飛行機モードで西の方へ飛び去って行った。何をしているのかはわからない。

 

 軍、鉄血、グリフィン。3つの勢力がここに集まっている。しかし、アメリカ軍はここで何をしているのか。だが、彼女がそんな事を考えるだけの余裕が無かった。まずはグリフィンの部隊と合流せねばならない。但し、グリフィンの部隊がここにいれば、の話だが。

 

 2056年 2月11日 1228時 タジキスタン

 

 先ほどまで晴れ渡っていた空だったが、北の方から鉛色の雲が流れ込み始めていた。タブレット端末で気象情報を確認すると、雪雲がロシアの方からやってきており、午後になればタジキスタンからカザフスタンの方に移動してくるようだ。

 

 銃座でM2機関銃のグリップを握るジェラルド・グリッドレイは常に周囲の状況を確認していた。嫌な天気になってきた。恐らく、このままの調子だと荒れてくるだろう。アラスカで育った自分にとっては大したことでは無いが、温かい地域で育っていた呉と五十嵐にとってはかなり厳しい状況になるかもしれない。

 

 エンジンのラジエーターには不凍液を入れておいてあるし、燃料も十分用意しておいたが、それでも足りなくなる可能性はある。ドローンで輸送してもらうこともできるが、通信が鉄血のジャミングで妨害される可能性もある。そんな状況にならない事を神に祈るしかない。

 

 RG-33Lのハンドルを握るFALは車内の温度設定を1度上げた。外気温はマイナス15℃と表示されている。外で長時間活動し続けるのは危険だ。

 後部座席で五十嵐が寒そうに五十嵐が襟元のジッパーを締め直した。それを見たUMP45と416が二人で指揮官を挟むように身を寄せる。

 

「嫌な天気になってきたわね。シェルターはあるのかしら」

 

 416がタフブックを広げ、GPSで地図を確認した。この先にあるのは旧ペンジケント市。かつてはタジキスタンの大都市の一つであったが、第三次世界大戦後、ゴーストタウンになっているという。こういった廃墟は世界中至るところに存在する。かつて大都市として栄えた街も、復興することができたのは、世界各国の首都と、一部の都市のみ。アメリカ、西ヨーロッパ、ロシア、インド、イスラエル、日本、中国、オーストラリアなどはかなりマシな方で、多くの大都市を再生させることに成功したが、アジア、中南米、アフリカの中小国は大戦のダメージからまともに復興できず、かつてその国の大都市であった街も荒廃し、放棄されている場所もある。三次大戦による大幅な人口減少も、それに更なる拍車をかけていた。

 ここまで来て、民間人をほとんど見かけていない。異様な雰囲気だ。グリッドレイ曰く、彼はアフリカや南米などで作戦を行ってきたが、それでも幾つか点在するように残っている集落があり、そこでなんとか生活している住民を多く見かけていたという。だが、この辺りでは、そんな様子が全くと言って良いほど見られない。

 

 2056年 2月11日 1232時 タジキスタン

 

 グリッドレイはM2の銃口で周囲を指し示しながら見回した。すぐ下の運転席でFive-Sevenがハンドルを握り、時折、ダッシュボードの上のタフブックで道を確認している。

 雪がどんどん積もってきて、視界も悪くなってきた。ヘルメットの上の暗視・赤外線両用ゴーグルを下ろし、赤外線モードに切り替えて周囲を見回した。デジタル処理された独特の白黒映像が視界に広がる。

 

 こういう状況だと、敵からしてみたら雪に隠れて待ち伏せをすることができる。しかし、それを打破する方法はある。

 

 グリッドレイは一度、装甲車の中に引っ込み、ザックの中から手のひらよりもやや大きいサイズのドローンを取り出した。USBケーブルでタブレットとつなぎ、コマンドを入力してスイッチを入れた。そして、装甲車のハッチを開けた。ドローンの4枚のローターが回り飛んでいく。このドローンはバッテリー駆動で、最大で8時間飛行し続けることができる。そして、バッテリーが切れたらそのまま使い捨てだ。外気温が低いので、通常よりも駆動時間は短めになるだろう。

 

「さて、赤外線画像に切り替えてっと。周りはどうなっているかな?」

 

 ドローンからの赤外線画像を確認した。旧ペンジケント市は全く人の気配が無く、まさにゴーストタウンとなっているようだ。ビーコンの反応が近づいている。

 

 M4はここにいるのか?確かに、ゴーストタウン化した場所ならば、隠れられる建物は無数にある。だが、それは、同時に鉄血の連中が捜索にやって来る可能性が高いことも意味している。

 

 こういう市街地に車列を無暗に突っ込ませるのは危険だ。狭い道を通っているときに建物の影や屋上などからRPGを撃たれたら逃げ場は無い。

 

「全員、一旦停止しろ。町の中に突っ込むな」

 

 グリッドレイの命令に全員が従った。装甲車がばらけて停車する。固まって止まった結果、対戦車ミサイルやRPGの一斉射で全滅するのを避けるためだ。

 

「暫く待て。偵察する」

 

 グリッドレイはPCでドローンを操作した。小さな無人機が街中に向かい、低空飛行しながらカメラやレーダーで地上のスキャンを開始した。

 

 2056年 2月11日 1234時 タジキスタン 旧ペンジケント市

 

 M4A1は建物の中から外の様子を窺った。積もった雪に新しい足跡は無い。

 

 自分たちAR小隊は、指揮官がいなくても作戦を遂行できる唯一の部隊だ。しかし、それは5人全員が揃っていれば、の話だ。鉄血の奇襲により、5人は散り散りになった。しかも、最後に姉であるM16A1と連絡が取れた時、姉は涙ながらにM4A1にこう報告してきた。

 

 SOPⅡのメンタルモデルが突然崩壊し、置いて行かざるを得なくなった、と。M16A1はそれだけ言ってから、通信を切った。その後、二人がどうなったかはわからない。

 

 AR15と最後に連絡を取った時は、鉄血に追われ、それどころでは無いと返され、銃声が聞こえた直後、連絡が途絶えたままだ。RO635に至っては、全く足取りが掴めていない。

 

 M4は目の前で動きを確認した。建物の中に隠れ、様子を窺う。2体のリッパーが現れ、何かを探すような動きをしているのが見えた。後ろからは、プラウラーやハンターの姿も見える。

 

 ふと、M4は後ろから視線を感じた。振り返ると、小さな無人機が浮かんでいるのが見えた。銃にサプレッサーを取り付け、1発撃つ。無人機が墜落する。M4は再び敵の方を見た。気付かれた様子は無い。

 

 M4は素早くこの市内から離れることにした。ぼろぼろになった建物を利用し、素早く移動する。ここにいるのは、極めて危険だ。

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