2056年 2月11日 1241時 タジキスタン
「それで、お前はこいつを見かけたんだな?」
「ああ、間違いない。こいつだ。ペンジケントって町があった場所にいるのを確認した」
エクスキューショナーは目の前の二人の男を睨んだ。この鉄血のハイエンドモデルは、そこら中にいるギャング集団や盗賊を使ってM4A1を狩る作戦を思い付いたのだ。この辺りの住民の暮らしぶりは非常に貧しい。報償金を出すと嘯けば、すぐにそれ目当てでターゲット探しをする連中が現れた。
「ではご苦労」
エクスキューショナーは銃を取り出し、目の前の男を撃った。男の頭が破裂し、大脳や頭蓋骨の破片が飛び散る。
「お、おい。約束が・・・・・」
鉄血のハイエンドモデルは、殺した男の相棒の心臓を極めて正確に撃ち抜いた。
「馬鹿め」
エクスキューショナーは電子頭脳に埋め込まれた通信機能を使い、サイボーグや無人機に命令を出した。鉄血の中で、自ら思考し判断や行動ができるのは最高位AIであるエルダーブレインと、少数のハイエンドモデルと呼ばれるサイボーグのみ。後は全て単に命令に従って動く末端の兵器があるだけだ。
かつてはハイエンドモデルのサイボーグも、鉄血に所属していた人間に従ってはいたが、その人間はほとんど殺していた。利用価値がまたあるとして、エルダーブレインは数十名程の人間を生かしているが、そいつらが殺されるのも時間の問題であろう。
人間が設計・製造したAIが反逆し、人間を殺傷する。ほんの80年前にはSF映画の中の出来事であったが、それが現実となったのだ。
エクスキューショナーは再び命令を出した。まずは奴を配下のサイボーグやロボットで狩り立てる。そして、追い詰めたところで自らそいつに止めを刺すことにした。ついでにお金で釣った人間を全員始末するよう命じた。
エージェントはグリフィンの部隊は放置しろと言っていたが、エクスキューショナーの考えは違った。連中はM4A1を探しに来たのだろうと結論付けたのだ。そいつらが邪魔をするようならば、排除するまでだ。
2056年 2月11日 1255時 タジキスタン
コンテナを吊り下げた輸送用無人機が車列に接近してきた。ジェラルド・グリッドレイが両手を動かし、それを誘導する。
周囲では戦術人形たちが警戒にあたっている。五十嵐智基は装甲車のハッチにマウントされたブローニング重機関銃のグリップを握り、呉明はFIM-92スティンガー地対空ミサイルのランチャーを担いでいた。
最後の物資を装甲車の中に収めるまでに、かなり時間がかかった。五十嵐が無線機を手に持ち、警戒にあたっていたSV98と9A-91を呼び戻した。
さて、最後にM4A1の反応を確認したのは旧ペンジケント市だ。情報によれば、ペンジケントは第三次世界大戦の時にロシア軍の核攻撃を受けて壊滅し、その後廃墟になっているところだ。だが、その後、反応は消え、ビーコン信号を捉えられていない。
状況は芳しくない。もしかしたら鉄血がM4A1とこちらの両方に気づいてジャミングを仕掛けたのかもしれない。しかし、調べてみる価値はある。その反面、市街地にこうした車列で突っ込むのは危険だ。
「全員、停止。町に入る前に偵察しよう。ああいう所に車列で突っ込んだら、通りを走っているときに建物の上から狙い撃ちされるからな」
グリッドレイはそう言って装甲車の中に入っていき、小さなブリーフケースのようなものを2つ手に持って出てきた。
グリッドレイが開けたケースの中には白い模型飛行機のようなものが入っていた。もう一つのケースにはごく一般的なノートパソコンが一つ入っている。グリッドレイは無人偵察機を素早く組み立て、ノートパソコンとUSBケーブルでつなぐ。
「さて、バッテリーは十分だな。とはいえ、こいつは使い捨てだからな。そんなに気にする必要は無い。まだ何機かスペアはあるし」
元海兵隊員はRQ-11レイヴンの調整を終えると、電源を入れた。バッテリー駆動のモーターが回り、無人偵察機の小さなプロペラが動き出す。
「そーれっ!」
レイヴンは羽虫が飛ぶような音を立てながら旧ペンジケント市に向かった。グリッドレイはレイヴンをPCで操作し始めた。この小さな無人機の良いところは安価で持ち運びが簡単なところだ。そのため、複数持ち運んでも車両ならばまったく重荷になることが無い。
「さて。あそこには何があるのか・・・・・・まだM4がそこにいればいいんだが」
2056年 2月11日 1258時 タジキスタン ペンジケント市
M4A1は建物や放置された大型車両の影に身を隠しながら周囲の様子を確認した。そこら中にスカウトやダイナゲートの姿を見かける。しかも、一定パターンの動きをしている訳では無く、何かを丹念に探すような動きをしている。
市内から出る道を探してみたが、道という道は鉄血の部隊に封鎖されている。このままだと、町から脱出することすら不可能となってしまうだろう。
一度、すぐ近くのビルの中に入り、窓から慎重に外の様子を窺いながら進んでいく。市内は破壊され、凍りついた人間の死骸が転がっていた。
気温が氷点下であるため、鼻を突く死臭はほとんど無かった。だが、この地域の長い長い冬が終わり、雪や氷が溶け始めると、死体はやがて凄まじい悪臭を放ち始めるだろう。
M4は再び慎重に物陰に隠れながら移動した。ビルを突き抜け、すぐ隣の役所とおぼしき建物の中に入る。その時、RQ-11無人偵察機が彼女の頭上を飛び去っていった。
2056年 2月11日 1303時 タジキスタン
「あれっ?今のは?」
ノートパソコンの画面を眺めていたRFBが何かを見つけたようだ。
「見つけたか?」
グリッドレイが後ろからRFBに話しかける。
「何か、人みたいなのが建物の間を走っていった気がしたんだけど、すぐ見失っちゃった」
「さてと。信号はまだ生きているみたいだな。UAVで・・・・ビンゴ!捉えた!」
グリッドレイがタブレットを操作すると、RFBが持つPCの画面上の地図にアイコンが表示された。M4A1が送信している信号を捉え、UAVが送ってきている。グリッドレイは立ち上がり、五十嵐と呉を呼んだ。
「いい知らせがある。ターゲットを捉えた。ペンジケント市内だ。だが、悪い知らせもある。鉄血の連中が市内をうようよしているらしい」
「で、考えはあるのかしら?」と呉。
「どうせ奴らに見つからないように行動するのは無理だ。信号を辿ってさっさとM4を見つけて回収。後は全速力で回収地点へとんずらだ」
「随分単純ね」
「作戦なんてそんなもんさ。びっくりするくらい段取りは単純に。中身を複雑怪奇にして自慢気に思っているのはど素人さ」
「わかった。で、町まではこそこそ入っていくのかしら?」
「それは状況次第だな。市内に入る幹線道路に鉄血がいなければステルスエントリー、つまり、静かに行くのが良いけど、もし奴らが検問を敷いていたらダイナミックエントリー。つまり、一気にやつらを排除しながらM4を回収。脱出する時も、同じようにすることになる」
「それじゃ、戦いの準備をしないとね。ペンジケントまではこの道を真っ直ぐかしら?」
「ああ。RFB、トモキを呼んできてくれ。今から、救出作戦を始める」
2056年 2月11日 1318時 タジキスタン
「確かに暗くなるまで待っていたら、敵が先にM4を見つけてしまう可能性の方が高いわね。それならば、増援が来る前にやっつけるのが効果的よ」
416は装備を整えながら五十嵐に話しかけた。他の仲間たちも装備を整え、戦いの準備をしている。
「さて、M16、あんたが先頭で突入しなさい」
416の言葉にM16は肩をすくめて、銃から弾倉を外し、点検してから再び装着した。
「それで。こそこそ近づいてM4と合流したらどうするんだ?」
「すぐにここからとんずらして、回収ポイントまで一直線だ。簡単だろ?」グリッドレイがM16に答える。
「随分単純だな。そんなんで大丈夫なのか?」
「その方が不確定要素が少なくて済む」
「そんなもんかね」
「プロってのは物事の段取りをできるだけ単純にしておくもんだぜ」
「回収地点にヘリはあるのですか?」と五十嵐。
「チヌークとアパッチ・ガーディアンが基地で待機している。いざとなったら呼び出せばいい」
「この車はどうするのよ」とAK-12。
「こんなもの消耗品さ。いらなくなったら捨てて帰るさ」
「確かに言えてるわね。さて、始めましょう」