2055年 8月3日 オーストラリア G&K訓練施設 0935時
五十嵐と戦術人形たちは、市街地戦闘訓練施設のゲートの前にいた。弾倉には空砲を装填し、銃口には空砲アダプターを取り付けている。
「さて、状況を説明する。市街地に鉄血の連中が侵攻し、市民に犠牲者も出ている。軍や警察が制圧に乗り出しているが、どうも旗色が悪い。君たちの任務は、鉄血の連中の掃討だ。"撃った"標的は、蹴飛ばして倒しておけ。民間人は現地の軍や警察に任せることになっている。敵味方、無関係の人間をしっかりと区別しろ。以上だ。作戦開始」
五十嵐たちは隊列を組み、訓練施設へと入っていった。そこは"住宅街"になっており、一軒家やアパートが立ち並び、自動車や自転車、バイクも置かれている。
五十嵐は、最初に手前の一軒家を掃討することにした。五十嵐、UMP45、UMP9、416が窓に近づく。他のメンバーは、通りに展開し、安全確保に向かった。
五十嵐が背負っていた大きなハンマーで、窓ガラスを割った。UMP45がすかさずスタングレネードを投げ込んだ。爆発の直後に416が突入する。銃声は聞こえない。敵はいないようだ。
部屋に入ると、奥に別の扉があった。416が扉を指差し、そこへ進むよう指示する。まずは五十嵐が先頭を歩き、扉の右側に立つ。UMP9が指を3つ立てて、1本ずつ折っていき、"1"のカウントでUMP45が再びスタングレネードを投げる。爆発音が鳴り響く。416が部屋に飛び込み、銃を撃ち始めた。
「クリア!」
416の声で五十嵐が部屋に飛び込む。後ろからUMP9とUMP45が付いてくる。部屋の中には、ハリボテの人形や奇妙な形をしたロボットのようなものがあった。それは全て地面に倒してあった。416が全て掃除してくれたようだ。
4人は次の部屋に進み、銃を構えた。次は五十嵐と416が突入する番だ。五十嵐がドアを蹴り開けると、416がスタングレネードを投げ込み、顔をそむけた。凄まじい閃光と爆音が部屋を満たした直後、2人は突入した。五十嵐は、部屋の左側に向かって横歩きをしがら部屋の左奥にある標的を2つ"撃った"。続いて416が扉の直線状にある的を"撃つ"。部屋の掃除が終わると、外から銃声が聞こえてきた。他のメンバーが、外にいる敵を掃討しているらしい。
「クリア!」
「クリア!」
五十嵐と416は平屋の建物の中を進んだ。他の"敵"はいない。4人は部屋の中をスルーしていき、奥のドアを開け、次の建物へと向かっていった。
次の建物は、人間が入っていけるような大きさの窓が無く、突入口はドアだけの様子だった。UMP45がドアノブに手をかけたが、鍵がかかっており、動かない。416が背負っていたザックからC4プラスチック爆薬を取り出し、信管を突き刺した。信管と起爆装置を長いコードでつなぎ、4人は十分な距離を取ってから爆破した。ドアが吹き飛ばされたことによってできた突入口に、416がスタングレネードを間髪を入れず投げ込む。強烈な爆音と閃光が部屋を満たした直後、UMP姉妹が突入し、銃を撃ち始めた。
「クリア!」
「クリア!」
2055年 8月3日 オーストラリア G&K訓練設備 0936時
AM-RFBとG36、FNCは通りを横切り、五十嵐たちが掃討している建物の南の建物へ向かっている。そのすぐ東の建物の屋上では、M1903、SV98、M14が3人を援護していた。
G36が建物のドアの横に立つ。彼女の背後では、爆発音と銃声が響いている。更に後ろからは、M9とUSPも付いてきた。5人はドアを爆破し、中に入っていった。すぐそこに鉄血のUAVの形をした標的を確認し、AM-RFBがその全部を一人で撃った。
「クリア!」
更にその奥に部屋があった。後ろから来たG36がそこにスタングレネードを投げ込む。爆発音の直後に戦術人形たちが雪崩れ込み、中の標的を全て撃った。
2020年 8月3日 オーストラリア G&K訓練設備 0943時
2機のMH-60Lブラックホークが上空から接近していた。これも、グリフィンが保有しているヘリだ。ヘリは編隊で施設上空を旋回した後、建物が並ぶ偽物の市街地の中にある広場に着陸した。これから、隊員たちをピックアップして、隣の訓練施設へと運ぶ。それまでの間、ローターを回したまま、ヘリは待機を続けた。中のクルーチーフは、ドアガンとして備え付けられたM240B機関銃の銃口を油断なく周囲に向けていた。
建物の壁が爆破され、突破口が開かれた。そこに2つのM84スタングレネードが投げ込まれる。その時、五十嵐は誤って爆発から顔を背けそこなってしまった。
「うわっ!」
激しい爆音と閃光に曝され、体の動きが完全に止まってしまう。UMP45がその様子に気付き、五十嵐を建物の外の壁まで引っ張った。代わりにUMP9と416が突入する。
「くそっ、どうなってるんだ?」
激しい耳鳴りに襲われ、更には自分がどの方向を向いているのか全くわからなくなった。少し経っただかけで目ははっきり見えてきたが、頭が回らなかった。
「落ち着いて、まずはそこに座って!」
UMP45が五十嵐の両肩を掴み、建物の陰に座らせた。五十嵐はまばたきをして、周囲の様子を確認する。スタングレネードがこれ程の威力だったとは。テロリストや凶悪犯罪者が怯む訳だ。視覚は回復してきたが、未だに耳鳴りが続いている。通りの向こうから、USPとM9がやってきた。45が手を振る。
「指揮官どうしたの?」USPが言う。
「スタングレネードの爆発をまともに食らったの。それで、動けなくなってる」
「あちゃー。私もやっちゃったことあるよ。耳がキンキンして、自分がどこにいるかわからなくなるでしょ」M9の声に五十嵐が頷いた。
「暫く座っていたら元に戻るよ。と、言っても、5分や10分そこいらじゃ無理だけど・・・・・」
UMP9と45に付き添われたまま、五十嵐はその場に座った。G36が無線でヘリアンに、指揮官がスタングレネードの爆発に巻き込まれて動けなくなったと連絡する。訓練は中止となった。
2055年 8月3日 オーストラリア G&K訓練設備 1131時
五十嵐は医務室の椅子に座り、テレビから流れてくるオリンピックのライフル射撃3姿勢40発競技の中継を見ていた。選手たちは、22口径ロングライフル弾を使う競技用の単発式ボルトアクションライフルで、50m離れた標的のど真ん中を狙っている。
22口径LRの弾丸そのものは非常に小さく、威力も自分が使っている5.56mmのAPM弾や9mmハイドラショック弾に比べたら非常に非力としか言えない威力ではあるものの、心臓や脳といった急所を直撃すれば、簡単に人を殺すだけの殺傷力を秘めている。実際、軍の特殊部隊の中には、ルガーMk2という22口径の拳銃にサウンドサプレッサーを装着して、歩哨や警備犬を静かに排除することに使用している部隊があり、イスラエル国防軍は、ルガー10/22という22口径の狙撃ライフルを使っている。
「指揮官、大丈夫?」
振り返ると、いつの間にかUMP9が後ろに立っていた。様子を見に来たらしい。
「ああ。目もはっきり見えているし、耳もちゃんと聞こえるよ。検査の結果だと、視力にも聴力にも問題は無いってさ」
「良かった。ヘリアンが、今日はもう休みにしようって」
「ん、そうか」
五十嵐は、オリンピックの中継に注意を戻した。丁度、伏射競技が終了し、立射競技に移るところだった。選手たちは、射撃コートの仕様を変えて、ヒップレストと呼ばれる姿勢を取る。
「変な格好。あんなんじゃ戦えないよね。全然動けなくなるじゃん」
「M14とSV98に聞いてみろ。銃を支えるものが何も無いときに最大限の精密な立射をするという条件なら、二人ともあの姿勢になるぞ」
「そうなの?」
「あの人たちがやってる射撃は、僕らのとはまるで違う。撃っているのは、動かない紙の標的だからな。だけど、僕らが戦う相手は銃で撃ち返してくるだろ」
「確かにね」
「さて、さっきみたいにならないためには・・・・・・」
「そうだね・・・・・スタングレネードを投げ込む時は、ドアをちょっと閉める癖を付けるといいよ。後は繰り返し練習するしか無いね」
「なるほどな。さっきみたいなことがあったら、実戦じゃ死んでいたからな」
「そうそう」
「わかった。じゃあ、グレネードを投げる練習をみっちりやらないとな」