※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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弾丸の応酬

 2056年 2月11日 1334時 タジキスタン ペンジケント市

 

 ペンジケント市内はすっかり静まり返っていた。ボロボロとなった建物、整備されないままひび割れたコンクリートの道路。狼の群れが我が物顔で市内を歩き回っている。第三次世界大戦後、世界的に人工が激減したため、このような町は世界の至るところにある。

 戦術人形たちが装甲車のハッチから上半身を出し、マウントリングに取り付けられたブローニングM2重機関銃の銃口をあちこちに向けている。

 

 ジェラルド・グリッドレイは危険を承知の上で装甲車のハッチを開け、外の様子を窺った。狙撃される危険はあるが、外の状況を確認できなければ部隊の全員を危険に晒す可能性があるからだ。装甲車の大きく頑丈な冬用のコンバットタイヤが地面に張られた氷を踏み砕く。

 

「ちょっと、指揮官、何してるんですか」

 

 グリッドレイの背後からAN-94がやや非難めいた声で話しかけた。だが、グリッドレイはハッチから上半身を出し、手にMP-7サブマシンガンを持って周囲を見回す。 

 

「誰かがちゃんと周りを見ていないと全員が危険に晒されるからな。こういう場所だと、どこで敵が待ち構えているかわからん。市街地戦闘訓練の時に教えただろ」

 

「それなら、ますますそんな事をさせる訳にはいきません!」

 

「陸軍や海兵隊の戦車部隊や機械化歩兵部隊の指揮官の一番の仕事が何か、教えよう。部隊のみんなが危険に晒されないように、自分から戦車や装甲車ハッチの外に顔を出して、周囲を警戒することだよ」

 

「そんなのは、ほら。ドローンに任せればいいじゃないですか」

 

「そんなものかね」

 

 グリッドレイはタブレットPCを持ち、ドローンが送信してくる画像を確認した。雪原の上を、自動小銃を持ち、いかにも重たそうな荷物を背負ったやや長い黒髪の少女が歩いている。彼女がM4A1であることは間違いない。だが、他の仲間はどうしたんだ?SOPⅡは?AR15は?ROは?他の3人も見つけ出してやらねばならないが、今回の任務はM4を救出するのが最優先事項だ。それに、他の3人の信号が捉えられていない以上、生存していない可能性もあると考えるのが普通だ。

 しかし、他の戦術人形と違って、どういう訳かAR小隊の5人のAIのメンタルモデルのバックアップは存在しないという。つまり、死亡したらそれっきり。人間と同じだ。グリッドレイはその理由についてペルシカに聞いてみたが、彼女自身も説明できないという。まあ、AIについての技術的考察は、グリッドレイの専門外だ。

 

『ビーコン信号が強くなっています。このまま真っ直ぐ進んで下さい』

 

 81式カービンが無線でグリッドレイに報告した。

 

「わかった。まずは・・・・・・」

 

 グリッドレイがそこまで言った時、ロケット弾が飛んできてビルに命中した。

 

「くそっ!敵だ!」

 

 グリッドレイはM2重機関銃のトリガーを押した。曳光弾混じりの50口径徹甲弾が放たれ、目の前に突然現れたリッパーの集団を人工生体組織のミンチに変える。他の装甲車が広い道にバリケードを作るように停車して、中から人間と戦術人形たちが降りてきた。

 

 AN94は斜めに停車した装甲車の陰から膝射の姿勢で敵を狙い、アサルトライフルを単射で数回射った。5.45mm弾が鉄血のサイボーグに命中し、仰向けに倒す。

 装甲車の増加装甲に弾丸が命中し、弾かれる金属音が聞こえてくる。2台向こうの装甲車の陰から呉と95式が敵を狙い撃ちしているのが見えた。

 

 2056年 2月11日 1338時 タジキスタン ペンジケント市

 

 M4A1は建物に侵入してきたダイナゲートを片づけた。割れた窓から外を見ると、スカウトが飛び回り、リッパーやヴェスピドといったサイボーグが歩き回っている。逃げ道は殆ど無くなっただろう。更に、両手でガトリングガンを持ってのっしのっしと歩く敵も見えた。ストライカーだ。

 

 敵は一定方向に向かって移動している。しかも、かなり統制され、洗練された動きだ。十中八九、ハイエンドモデルの司令で動いているのだろう。だとしたら、何がいるのだろうか。自分たちの拠点を破壊したエージェントがまだいるのだろうか。

 ビーコンや無線機、衛星通信機器を失った以上、味方と連絡を取る手段が全く無い状態だ。M4は姿勢を低くして移動を始める。弾薬は死んだ軍の兵士やPMCのオペレーターから奪ってきた。

 

 敵から身を隠しながらこそこそと進む。時折銃声と爆発音がする。バタバタというヘリの羽ばたき音が聞こえてきた。AH-64E。アメリカ軍のヘリだ。4機のヘリは高度を下げ、地上を嘗め回すように低空飛行を始めた。アパッチ・ガーディアンは機体同士の間に距離を取り、何かを探すかのようにホバリングを開始した。やがて、アパッチは30mm機関砲を発射し始める。だが、地上からミサイルが放たれ、1機の戦闘ヘリを撃墜した。他の3機はフレアを撒いて上昇したが、今度は大きな黒い筒のようなものが空中に飛び出した。それはその場で割れて榴散弾の雨を降らせ、ヘリのメインローターとキャノピーを砕き、2人のパイロットを殺傷した。

 

 攻撃ヘリが地面に墜落してスライディングし、ビルに突っ込んで止まった。パイロットに構っている余裕は無い。早いところここから逃げ出さねば。だが、ほぼ完全に封鎖されている以上、脱出手段は無いに等しい。再び銃声。M4は危険を承知でペンジケントから郊外に続く広い幹線道路に向かい、走り出した。

 

 2056年 2月11日 1343時 タジキスタン ペンジケント市

 

「やっと見つけたか。手こずらせやがって」

 

 エクスキューショナーは武器に弾倉を装着し、M4A1を確認した地点に向かった。通信機を使い、配下のサイボーグに指示を出した。最優先目標はM4A1だが、他の連中もまとめて片づけても構わないだろう。別動隊には軍の連中の処理を指示した。まあ、グリフィンと違って、軍の戦力は強大だ。攻撃したところで足止め程度にしかならないだろう。まあいい。サイボーグも自律兵器も、工場から腐るほど生産されてくるのだから。

 とにかく、任務が最優先だ。ハイエンドモデルは自律的な思考ができるとはいえ、結局はエルダーブレインの働きアリに過ぎないのだ。

 

 2056年 2月11日 1344時 タジキスタン ペンジケント市

 

 五十嵐は銃を撃ち、プラウラーの群れを片づけた。敵はまだまだそこら中にいる。装甲車を盾にしてその陰から敵を狙い撃つ。

 

「装填!」

 

 M60が最初の弾薬ベルトを使い切り、新しいものを装填した。その間、ネゲブが敵の群れに向かって牽制の弾幕を張る。被害に構わず前進してくる敵の群れが近づいてきた。416が銃身の下に取り付けたM320ランチャーから40mm破砕榴弾を放った。鋭い金属片がサイボーグを切り裂いて倒す。

 

 M16が弾倉を取り換え、敵を撃つ。そして、通りの向こうで見慣れた姿を確認した。

 

「おい!M4!」

 

 少女がM16の方を見た。

 

「M4こっちだ!」

 

 M4は姿勢を低くしてM16がいる方向へと駆け出した。後ろから敵が迫ってくる。その中にエクスキューショナーの姿もあった。

 

「畜生!敵だ!」

 

 M16は銃を向けるが、どうしても射線にM4が重なってしまう。これでは敵を倒そうにも倒すことができない。だが、M4を撃たずに敵を倒す芸当ができる人間はいた。

 

 .338ラプアマグナム弾が敵のサイボーグに命中し、頭を吹き飛ばす。グリッドレイが撃ったものだ。更に、M14が物陰から単発で敵を撃つ。射程距離が長く、精密かつ速射性に優れた武器がこういう時は役に立つ。だが、敵はどんどん接近し、更に激しく銃撃を浴びせてきた。奴らは何がなんでもM4の回収を妨害するつもりのようだ。

 

 五十嵐は装甲車の陰からやや半身を出して自動小銃を射ち、敵を倒す。だが、自分から見て8時の方向から1体のイェーガーに狙われていたことに全く気づかなかった。

 弾倉を取り替え、ボルトを引いた瞬間、左肩に猛スピードで車に衝突されたような衝撃が走り、装甲車の車体に叩きつけられた。衝撃に一瞬、息が詰まり、直後に強烈な痛みが襲いかかる。五十嵐は、そのまま装甲車にもたれかかるように崩れた。

 

 2056年 2月11日 1345時 タジキスタン ペンジケント市

 

 UMP45とスプリングフィールドは装甲車を盾にして歩き回りながら敵を探していた時、五十嵐が倒れて呻くのを見た。防弾ベストを弾丸が貫通したのか、五十嵐の白と灰色の斑模様の寒冷地用戦闘服の左肩の辺りが血で赤く染まっている。

 

「指揮官!」

 

 UMP45はわき目も振らずに五十嵐に駆け寄った。一方、スプリングフィールドは、銃を構え、指揮官を撃った敵を探す。

 

 やがて、スプリングフィールドは一体のイェーガーが自分の指揮官に狙いを定めているのを見た。素早く狙いを付け、銃の引き金を引く。敵は第二弾を放つ前に、頭を撃ち抜かれ、電子頭脳を破壊された。

 

「指揮官!」

 

 UMP45は目に涙を浮かべて五十嵐に呼びかけた。当の五十嵐は痛みに声も出ない様子だ。

 

「45!手伝ってください!」

 

 UMP45はスプリングフィールドの声に我に返った。二人で五十嵐を装甲車の陰に隠し、傷の状態を確認する。

 

「あまり出血は無いですね。綺麗に貫通しています。45、押さえてください」

 

 UMP45はスプリングフィールドが自分の装備パウチから止血帯や包帯、薬品を出している間、五十嵐を抱きかかえるようにして銃創を押さえた。スプリングフィールドはナイフで五十嵐の戦闘服の肩の辺りを切り裂き、傷に殺菌作用のある軟膏を丹念に塗りつけ、止血帯と包帯で手当てをした。

 

「素早いな」

 

「慣れていますから」五十嵐の言葉にスプリングフィールドが返す。

 

「指揮官、いいですか。私と45が護衛します。ここに隠れて下さい。いいですね」

 

 反論するのは無意味だ。彼女たちは、指揮官である自分を守ることを最優先に行動する。五十嵐には黙って頷く以外の選択肢は無かった。

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