2056年 2月11日 1346時 タジキスタン ペンジケント市内
ジェラルド・グリッドレイはMk18カービンを射ち、目の前の敵を倒した。Five-Sevenとスコーピオンが指揮官の背中を守り、PPsh-41が前方の敵を片付ける。
「畜生!敵が多い!M4を回収できたら、さっさと逃げるぞ!邪魔な奴だけ倒せ!」
『ジェリー、M4ならもう合流した!』無線機からM16の声が聞こえる。
「ならさっさと逃げ出そう!そっちの様子はどうだ!?」
『敵がわらわら寄ってきてるが、ほとんど追い払った!あと、負傷者が一人!軽傷だ!』
くそっ!
「軽傷?誰だ?」
『404の指揮官が撃たれた!大丈夫だ。今、404の隊長様が装甲車の中に無理矢理押し込んで休ませてる!』
あの新米指揮官か!畜生!
「よし、こっちが片付いたら、早いところ・・・・・」
「おやおや、そうはいかんぞ」
グリッドレイはその無機質な声の主の方を見た。長い黒髪、右手に刀を持ち、左手に拳銃を持つ女が立っている。回りにはリッパーとヴェスピドがそれぞれ4体。
鉄血のハイエンドモデル。家に帰りたければ、こいつを始末する他無いだろう。グリッドレイはMk18カービンをそいつに向ける。ヴェクターが一歩前に出た。
「さーて、獲物かな?」
彼女はそう言って、短い連射を素早く数回放った。取り巻きのサイボーグがもう倒れている。Five-Sevenがエクスキューショナーに銃を向けたが、そいつは既にその場から消えていた。どこだ、とFive-Sevenは周囲を見回し、敵を見つけた。そいつは刀を振りかぶり、空中からグリッドレイ目掛けて落下してきた。
「指揮官!」
Five-Sevenがグリッドレイにタックルした。刀の先端がグリッドレイの頬を掠め、短く赤い条を描く。エクスキューショナーは再び刀を振りかぶり、今度はFive-Sevenを串刺しにしようとしたが、何かが刀にぶつかり、弾かれ雪の中に埋もれた。グリッドレイが投げたL115A3ライフルだ。ライフルはそのままビルの鉄筋コンクリートの壁に勢い良くぶつかった。ステンレススチールの銃身が曲がり、グラスファイバーでできた銃床が割れる。
エクスキューショナーはホルスターの拳銃に手を伸ばしたが、顔面に強烈な右ストレートを食らって倒れた。グリッドレイはついでに敵が持つ拳銃を蹴飛ばした。不恰好な銃は雪に埋もれ、見えなくなった。
「こうなったら、サシの勝負だな。決着を付けるか」
グリッドレイは指の骨をポキポキと鳴らしてから両手で拳を握り、エクスキューショナーの前に立った。
「ほう。いいだろう。人間風情が私に勝てるとでも?」
「さて、どうかな?」
エクスキューショナーはグリッドレイに掴みかかった。だが、グリッドレイはサイボーグの細い腕を掴み、捻り上げた。敵は抵抗し、グリッドレイの顔面にパンチを食らわせる。グリッドレイは一度下がり、両腕を頭の位置まで上げた。エクスキューショナーが殴りかかって来たが、グリッドレイはそいつの攻撃をさらりと避け、左腕を掴んで再び捻り、背中に蹴りを入れて倒した。
ハイエンドモデルは憎々しげにグリッドレイを睨み付けながら立ち上がり、再び突進してきた。元海兵隊員は左にサイドステップして攻撃をかわし、足払いをかける。エクスキューショナーは再び雪原にうつ伏せの状態で倒れた。
エクスキューショナーは再び立ち上がり、怒りの声を上げて飛びかかった。グリッドレイは雪の上を転がりながら避け、姿勢をたて直してから飛び上がってから回し蹴りを食らわせる。コンバットブーツの踵を敵の頭にクリーンヒットさせた。MARSOCの格闘戦技の教官がこれを見ていたら拍手を送ったであろう。それくらい見事なキックだ。
敵が起き上がって再度殴りかかってきたが、グリッドレイは敵の肩と腕の動きからどういう風に殴りかかって来るのかを的確に見極め、攻撃を避けながら隙をついて蹴りやパンチを繰り出す。殴り方が、まるで素人だ。子供の喧嘩でも、もっとマシなパンチをするはずだ。こいつ、どう考えても銃に頼り切った戦い方しか知らないな。だとしたら、普通にぶん殴ればいい。グリッドレイのパンチが敵の顔面を捉えた。
エクスキューショナーはどんどん怒りを募らせていた。人間ごときに遊ばれるとは!こいつは必ず、自分の手で殺す。彼女は叫びながらグリッドレイ目掛けて突進した。鉄血のハイエンドモデルとは言え、怒りに我を忘れ、冷静さを欠いたそいつは、元特殊部隊員の敵では無かった。グリッドレイは敵の首にチョップを食らわせ、腹に蹴りを入れ、顔面に左手で突きを入れる。エクスキューショナーは崩れて、両手と両膝を地面に突く。勿論、グリッドレイはその隙を見逃さなかった。
グリッドレイはエクスキューショナーの背後に回り込み、両腕で首を締め上げ始めた。エクスキューショナーは血走った目を剥き、グリッドレイの丸太のような太い腕を両手で掴み、酸素を求めて喘いだ。しかし、グリッドレイが狙っているのは窒息では無かった。首の骨がミシミシと軋む音が鳴り、やがて、ゴキリ!と不気味な音が静かな廃墟の通りに鳴り響いた。鉄血のサイボーグの首はあまりにも不自然な方向に捻れていた。
「人間様をなめるなよ、人工細胞と強化プラスチックの屑が」
グリッドレイはとどめのために.45ACPのブラックタロン弾をサイボーグの頭にマガジン丸々2個分を全弾撃ちこんだ。重たい大口径の弾丸が脳細胞とCPUを砕き、エクスキューショナーは完全に機能停止した。
「くたばったか。このポンコツなあばずれが」
「指揮官」
AN94が歩み寄ってきた。隣にはAK12もいる。
「94、12。焼夷手榴弾はあるか?」
「ありますよ。どうするんですか?」
「2つくれ」
AN94がグリッドレイにM34焼夷手榴弾を渡した。グリッドレイはそれを持ってエクスキューショナーに近づき、ピンを抜いて立て続けに放り投げた。焼夷手榴弾が爆発し、白燐を巻き散らした。生体部品とプラスチック、炭素繊維があっという間に焼けて、黒い炭になった。
「バーベキューの出来上がりだな」
「指揮官、銃が・・・・・・」
Five-Sevenが拾い上げたL115A3ライフルは銃身が歪み、銃床はひび割れて使い物にならなくなっていた。一見、スコープは無事なように見えたが、キャップを開くと、接眼レンズも対物レンズも割れている。
「あーあ。わかっていたとは言え、ちょっとショックだなぁ。後でカリーナに新しい銃とスコープを調達して貰わないと」
グリッドレイは完全に壊れた銃をFive-Sevenから受け取ったが、弾倉から.338ラプアマグナム弾を抜き取ってから地面に落とした。使えない銃はただのお荷物だ。
「指揮官の大事な銃なのに・・・・・私のせいで・・・・・・」
Five-Sevenはかなり落ち込んだ様子で言った。
「気にするな相棒。俺にとっては、銃なんかよりもお前の方がずっと大事だからな。それだけの話だ」
2056年 2月11日 1415時 タジキスタン ペンジケント市
「いたたたた。やっぱりBB弾とは大違いだ。あれならばちっこい痣か、酷くても蚯蚓腫れで済むのにな・・・・・・」
止血帯と包帯を巻かれた五十嵐が装甲車の兵員輸送室の座席に座っていた。隣にいるUMP45がぴったりくっついている。
「ええっと・・・・・はいこれ。飲んで下さい」
TMPがザックの中身を探り、錠剤と水筒を差し出した。
「何だこれ」
「痛み止めと化膿止めですよ。それと、破傷風の薬です。全部1錠ずつ飲んでください」
「ああ。そうだな」
五十嵐は3錠の薬を飲み下した。
「了解。回収部隊の手配、頼んだわよ。制空権は・・・・・確保できてるのね。米軍の動きは?」
呉が無線のヘッドセットのマイクに向かって話している。その上を轟音を轟かせながら4機の戦闘機が飛び去って行った。アメリカ海兵隊のF-35Bだ。
「・・・・・わかった。ややこしくなってきたわね。とにかく、ここから早いところ逃げ出すに越したことはないってことね」
呉は全員の方を振り返った。
「回収のヘリが来るわ。装甲車は置いていくわよ。ジェリーたちが戻ってくるまで防御陣地を作っておいて。マシンガンを持っている子たちは周囲を固めて」
「任せときな。行ってくるぞ、指揮官」
AEKが銃に弾帯をセットしてボルトを引いた。MG23とM60も彼女に続く。
「9A、G36、援護に行け」
「わかりました。お任せを」
5人の戦術人形が見張りに向かった。家に帰るまでが遠足だ。ヘリに乗って前線基地に戻るまで油断してはいけない。M4A1たちは任務の帰りに行方不明になったのだ。
2056年 2月11日 1735時 ベラルーシ某所
「そうですか。彼女は失敗した、ということですね。それにしても予定外ですね。あいつは仕留めねばならなかったのですが・・・・・・・仕方ありません。あとの1人を殺すことに全力を上げましょう。それで・・・・・我々が捕まえた1人は・・・・・そうですか。いえ、まだ生かしておきなさい。利用価値はありますから」
鉄血のハイエンドモデルは通信を切った。残るターゲットはあと1人。その1人が厄介者だ。それに、AR小隊のメンバー2人をグリフィン側に回収されたのは痛い。いずれは頭痛の種となって残り続けるだろう。