※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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追尾

 2056年 3月10日 0943時 ウズベキスタン

 

 寒い。とにかく寒い。今までノルウェーやリトアニアなど、寒い地域に行ったことはあった。しかし、自分にとってはイタリア北部や中国北東部程度の寒さであっても、かなりの苦痛なのだ。こんな所に派遣されるよりも、蒸し暑いコロンビアやエクアドルの方がよっぽどマシだ。グエン・タオ・ランは装甲車の後部座席で防寒着の襟をきつく締めた。このBTR-4は決して乗り心地が良い乗り物ではない。シートは固く、黒いビニールで覆われていて冷たい。暖房が効いているのが唯一の救いだが、がたがた揺れるわ、狭いわ。

 グエンは手に持った弾倉が装着されていないMk16-SCARのボルトを引いて薬室の中を確認し、続いて引き金を引いて正常に動くかどうか確かめた。胸のホルスターに収めているSFP-9も同じように確認する。ここは戦場だ。いつ敵が襲撃してきてもおかしくない。

 

 グエンはタフブックを開き、滞空型UAVにアクセスした。画面に無人機から送信されてくるリアルタイム画像が映し出される。所々に森林が点在する、ただただ白い雪原が映るだけ。人っ子一人どころか、狐一匹すら見当たらない。それもそのはずだ。ウズベキスタンの人口は、今は1000万人程度で、第三次世界大戦が始まる前の東京都よりも人口が少ない状況だ。そのほとんどが都市部に集中している。

 戦略マップ上には偵察用UAV、ネットワーク中継用UAV、そして自分たちともう一つの部隊の位置が表示されている。滞空型無人機は世界各所の飛行場に派遣され、グリフィンの作戦部隊の支援を行っている。機体単価も運用コストも決して安い代物では無いが、大抵の地対空ミサイルやジュピター砲の射程外である成層圏の近くを長時間飛行でき、かつネットワークによりグリフィンの戦闘部隊が必要とする情報を即座に手に入れるには不可欠な代物であるため、場合によってはコスト度外視で作戦地域に投入されることが多い。

 

「指揮官、それは何なの?」MP7がグエンが持つタフブックの画像を見て言う。

 

「多分、放置された軍の基地だと思う」

 

 画像からは壊れたトラックや装甲車、ジープ、ヘリが確認できる。最低でも数年。もしかしたら10年以上は放置されていたと思しき状態だ。アスファルトで舗装された道路の殆どがひび割れ、建物の一部も風化して崩れている。

 

「何か使えそうなものが残っていたりしないかな?」

 

「こんなところに?もう、三次大戦から誰も来ていないような場所よ?それよりも、HQに連絡して、無人機で物を送ってもらった方がずっといいはずよ」

 

「そのあたり、鉄血が潜んでいたりしないかしら」とOTs-14。

 

「可能性は、ゼロとは言い切れないわね。でも、RO635が隠れている可能性も捨てきれないじゃない?」

 

「ビーコン信号はどうなっているの?指揮官」

 

「相変わらず、役に立つのか立たないのかわからないわ。ジャミングのせいで、信号を捉えたりロストしたり。幸いにも、衛星通信は生きているからHQとの連絡については問題無いわ。今のところは、だけど」

 

 グエンは周囲を見回した。ショーシャとT65、P-90は周囲を警戒し、モシン・ナガンとM99は銃の狙撃スコープをのぞき込んで、遠くから近づいてくる敵がいないかどうか確かめている。その一方で、SAAは呑気に銃をくるくる回したり、空中に放り投げたりして遊んでいる。

 事前情報によれば、理由は不明だが、ここではロシア軍もアメリカ軍も、人民解放軍も全くノータッチのようだ。もっとも、ロシア軍とアメリカ軍は中東とヨーロッパ、人民解放軍は東南アジア方面に夢中で、アフリカや中央アジア方面には見向きもしていないのが現状だ。グリフィンは、その力の空白ができた場所に、まるで真空状態になったガラス瓶の中に一気に流れ込む空気のように部隊を派遣している。それだけの話である。もっとも、軍という邪魔が入らないおかげで、こっちとしてはAR小隊の捜索という任務を心置きなく進めることができる。

 

「もう一つの部隊とは連絡は付きそう?」そう言ったのはモシン・ナガンだ。

 

「今は必要ないでしょ?それに、衛星通信でいつでも連絡はできるんだから、必要になった時だけでいいんじゃない?」

 

 2056年 3月10日 0955時 ウズベキスタン

 

 広い荒野に敷かれた幹線道路を装甲車の集団が走り抜けていく。2ヶ月前に行ったカザフスタンと同じような光景が、そこには広がっていた。五十嵐は、そんな光景をRWSのカメラ越しに見ていた。RWSは乗員がハッチから身を乗り出さずに車内から遠隔操作で銃座に取り付けた武器を操作するシステムで、20世紀末頃に実用化された、やや古いものであるが、それに代わるものが未だに開発されていないため今でも軍やPMCに広く採用されている。

 それにしても、思っていた以上に人間や自律人形を見かけない。他に見かけた生き物は、山羊や羊、野良犬、カラス、トンビ程度だ。鉄血は躍起になってターゲットを探して回っているという情報だったが、そのような様子も見られない。一体、どういう事だろうか。ここまで何も敵の動きを殆ど確認できないのもかえって気味が悪い。

 

「本当に何も無いな。どうなっているんだ?」

 

 装甲車のハンドルを握るAEKがこの場にいる全員が考えていることを吐き出した。

 

「奴らのやり方から考えると、そこら中に部隊を派遣して、ターゲットをローラー作戦で探し出しているものと思っていたけど、そんな感じじゃないみたいね」と416。

 

「AR小隊のメンバーがビーコン信号を発信したんだろ?だとしたら、奴らも捉えているから、それだけを目指しているんじゃないのか?」

 

「その通りよ。でも、その信号は常時出ている訳じゃないわ。途切れたり、送信されたり、ムラがあるの」

 

「だとしたら、ターゲットが死にかけている可能性は無いか?」

 

「十分考えられるわね。だから、死ぬ前に回収しないと・・・・・・」

 

『指揮官、RFBだよ。この先、敵が集まっているみたい』

 

「わかった。AEK、停車だ」

 

 五十嵐の指示と同時に装甲車の列が雪原で止まった。

 

 2056年 3月10日 1001時 ウズベキスタン

 

 五十嵐は車外に出てRFBが持ってきたタフブックの画像を確認した。イェーガーやリッパーが列を成して北の方へと移動している。他の人形たちは周囲を見回し、他に敵がいないかどうかを注意深く見回している。特に、G36と416は、まるで大統領の護衛をするシークレットサービスのエージェントのように、五十嵐のすぐそばに立っていた。

 

「奴らを不意打ちして排除するか、それとも後を追いかけてみるか。難しいところだな」

 

「無理に戦うことは無いわ。それに、こいつらは見るからに何かを目的に行動している。普通、奴らの行動パターンは、一定のエリアを一定のパターンでぐるぐる巡回して、見つけた人間や人形を排除するか、一ヶ所でじっと獲物を待ち構えるかのどちらかよ。でも、こいつらは違う。見て。まるで、何かを探しているみたいだわ。つまり、こいつらにはっきりと命令を出している奴に従って行動しているのよ」

 

 すっかり五十嵐の参謀役となった416の意見には一理あった。

 

「じゃあ、何だ?そいつらを追跡すれば、ROかAR15を見つけられるとでも言うのか?」口を挟んだのはM16だ。

 

「可能性の話よ。でも、試す価値はあるんじゃない?それに、見てみなさい。また信号が途切れている。他にアテがあるなら話は別になってくると思うけど?」

 

 最終判断をするのは指揮官である五十嵐だ。

 

「RFB、無人機を固定できるか?奴らを追跡させろ。それと、行方不明の人形の信号がまた拾えるかどうか、試してみてくれ。後は、奴らを後ろからこっそり追いかける」

 

「任せて。じゃあ、出発かな?」

 

「ああ、そうだ。前進微速。ノロノロ運転で奴らを追いかける。なるべく奴らに気付かれないように注意しろ」

 

 人形たちと人間が乗り込んだ装甲車が動き出した。だが、その動きは人間の徒歩とそれほど変わらない速さだった。

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