※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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追加派遣

 2056年 3月10日 1608時 オーストラリア G&K社

 

 ベレゾヴィッチ・クルーガーはモニターに映る男の顔を眺めた。アメリカ合衆国海兵隊特殊作戦コマンドのカーター将軍。この男から連絡をしてくるとは珍しい。現在、多くの国の軍や警察が鉄血相手に戦っているが、PMC同様、連中とて一枚岩では無い。特に、NATO軍はイランに侵攻を開始し、ロシア軍は鉄血の本拠地のある東ヨーロッパへと侵攻しようと手ぐすねを引いている。中国人民解放軍は鉄血の掃討と称しながら、どさくさに紛れて東南アジアへ軍を派遣し、実質上、ベトナムやフィリピンに侵攻準備を始め、オーストラリアや台湾、日本とにらみ合いをしている。

 全く。まともな奴が、何処にもいやしない。PMCはPMCでライバル社の施設や人員を攻撃し、資産を強奪するような状況だ。誰がどこから攻撃を受けるかどうかわからない。今、同盟関係にある相手でも、いつ、後ろから鉄砲玉をぶっ放してくるのか、わかったものでは無い。

 

「それで、NATOはイランに侵攻中ですが、何か成果があったのですかな?」

 

『ああ。連中の工場を見つけて、破壊した。それにしても、AIだけであんな設備を造り上げるとは、恐ろしい連中だ。人間の手を借りずに、どうやってやったのか、皆目見当もつかんよ』

 

「もうAIは人間の手を借りるような段階では無いのですよ。既に技術的特異点は過ぎてしまっているのです。あなただってわかっているでしょう」

 

『確かにな。それに、我々の装備の一部は、かつて鉄血で作られたものも含まれているからな。それと、軍の一部ではPMCに対して疑問の声も上がっている。一向に鉄血の掃討作戦に目立った成果が出ていないことにな』

 

「そんなことならば、軍がやればいい話です。どこの国がやるかは問題ではありません」

 

『正直、我々も一枚岩では無い。知っているだろ?昨夜、レバノンがまたイスラエルを攻撃した。勿論、イスラエルは反撃を開始。両国は戦争状態になった。他のアラブ諸国はと言えば、イエメンの鉄血の大規模な拠点にサウジアラビアを主体に、UAE、カタール、バーレーン、クウェートが連合軍を作って、攻撃を仕掛けている。そのパーティーに、今度はエジプトが加わろうとしている。我々は全く手が回らない状態だ』

 

「こっちもこっちで、部隊が足りない状態です。寧ろ、そっちから人を引き抜きたいくらいですがね」

 

 カーターはかぶりを振った。どこのPMCも同じ。おまけに、軍の一部では、そのPMCを邪魔者扱いしている者も少なくない。

 

『軍内部でも、君らを排除しろとの考えを持っている者は多い。そういう連中を、いつまで押さえつけていられるかどうかわからん。それに、かつて海兵隊からPMCに渡った人間が、こっちの情報をそっちに流しているという話さえも聞く。とにかく、軍の不満分子が噴火を起こす前に、我々は手を打たねばならんのだ』

 

「それはお互い様ですよ。我々の中にも、軍に不信感を持っている人間は少なくありません」

 

『だろうな。それはわかりきったことだ。では、失礼するよ』

 

 クルーガーはカーターが通信を切ってモニターが暗くなるまでその場に座っていた。そして立ち上がり、執務室を出た。廊下ではまだ多数の職員が歩き回っている。そんな中、大きなガンケースを背負った大柄な男が角を曲がってやってきた。長い銀髪を後ろに束ねた少女がそいつの後ろからついてきている。

 

「グリッドレイか。調子はどうだ?」クルーガーがその男に話しかけた。

 

「新しい銃にはもう慣れました。前使っていたL115よりも2キロ程軽いので、かなり扱いやすいですよ」

 

「それにしても、まだその大砲みたいな拳銃をぶら下げているのか?」

 

 クルーガーがグリッドレイのチェストリグのホルスターに収まったM45A1拳銃を指さして言った。

 

「海兵隊の遠征ユニットのメンバーになってから、ずっとこれですよ。実際、9mmならマガジン半分ぶちこまなきゃならないような敵でも、こいつならば3発くらいで倒せます」

 

「だが・・・・・重くてでかい上に、7発しか入らないだろ?おまけにシングルアクションだ。持ち歩くのは危険だ」

 

「そこは使い慣れれば問題無いですよ。それに、予備にこいつを持っていますから」

 

 グリッドレイが取り出したのは、6.5インチの長い銃身を持つ大きなリボルバーだった。スミス&ウェッソンM29。しかも、ダッシュ2モデルのヴィンテージバージョンだ。

 

「グリッドレイ君。確かに、こいつは威力の面では抜群だろ。アイギスやニーマムの装甲だって撃ち抜ける。しかし、実用性は・・・・・・」

 

「こいつは、俺の趣味で持ち歩いているんです。子供のころ、こいつで悪人どもを爽快にぶっ飛ばすヒーローに憧れていましてね。勿論、高かったですよ。海兵隊にいた頃に、こつこつ貯金をして買ったんです。あの時に貰っていた給料じゃ、なかなか買えない価格でしたからね。三等軍曹に昇進した時に、7歳の頃から父親によく連れていって貰っていた銃器店を経営している、ハワード・サリヴァンという顔馴染みから、記念として買いました。しかもですよ、サリヴァンは7才のちびっこと交わした約束をちゃんと覚えていてくれたんです。俺が大人になって、銃を一人できちんと扱える年齢になったら、売ってあげる、と。その約束を20年近く守ってくれたんです。だから、こいつは、俺にとっての宝物なんですよ」

 

 グリッドレイはホルスターに銃を戻した。

 

「ところで、他に用が無いならば俺たちは待機に入りますよ」

 

 グリッドレイは踵を返してその場から立ち去ろうとしたが、クルーガーが呼び止めた。

 

「グリッドレイ。今から前線基地に行って、そこで待機状態に入ってもらえるか?」

 

 グリッドレイの頭がT90戦車の砲塔のように回ってクルーガーの方を向いた。

 

「わかりました。では、少し時間をください。装備の調整をしなきゃならないので。それで、どこに行くのですか?」

 

「まずは、仲間を集めて装備を整え・・・・・・そうだな。2200時までにメルボルン国際空港のプライベートターミナルに向かってくれ。それからの指示は追って出す」

 

 2056年 3月10日 2157時 オーストラリア メルボルン国際空港

 

 ジェラルド・グリッドレイは大きなバスを運転し、メルボルン国際空港のプライベートターミナルのエプロン地区に続くゲートを通った。中には極地作戦用の装備を詰め込み、後ろの座席では仲間たちが眠って座っている。途中、ゲートで待機していた警備員に書類とIDを差し出し、チェックを受けた後、指示されたエプロンまでバスを走らせる。

 

 さて、あれだな。エプロンに駐機しているのは、C-5Mギャラクシー輸送機。世界で恐らく2番目に大きい部類に入る飛行機だ。海兵隊にいた頃、何度も乗ったことがある。グリッドレイはバスをエプロンに止め、仲間たちを起こした。

 

「それにしても、あまりにも急な話ね。全く、信じられない」

 

 AN94がバスから装備品を下ろすのを手伝いながら言う。

 

「俺たちにとっては、いつものことだ。言ったろ?ここの部隊指揮官は、軍人上がりは少ないんだ。ましてや、空挺降下や狙撃のスキルを両方持った特殊部隊出身の奴なんて、両手で数えるくらいしかいない。その貴重な人間が俺ってわけさ」

 

 グリッドレイは仲間の次に大事なマクミランTAC-338が入ったケースを背負った。今回、移動時のサブの武器は携行性と耐久性を重視して、AKS-74Uを選んだ。

 

「ま、こういう急な任務を頼まれるのも、エリートの証ですわ。それで、どこに行くことになったのですの?」

 

 P226が小さな体で大きなコンテナを下ろそうとしながらグリッドレイの方を見て言った。

 

「おっとおっと、無理するな。64式、ヴェクター。手伝ってくれ・・・・・P226、君はそのダッフルバッグを頼む。さっきボスから電話がかかってきてな。、中央アジアのウズベキスタンに向かう事になった。状況は機内でゆっくり説明する」

 

「任せてください。それで、向こうにはパラシュートで降りるのですの?」

 

「ああ。いつも通りだ。装甲車は無しだから、現地で車泥棒でもやるしか無いな。物資補給はいつものように、輸送機で空中投下かドローンで運んでもらうことになる」

 

 轟音が聞こえ、滑走路に飛行機が着陸した。B777-300だ。この時間でも、多くの貨物を乗せた貨物機や人々を乗せた旅客機が頻繁に離発着している。

 

 ヴェクターと64式は二人でSMAWロケットランチャーが入ったコンテナを運んだ。C-5Mの機内ではグリフィンの職員がいて、グリッドレイたちから荷物を受け取って貨物室に並べ、固定している。

 

「後は我々がやります。皆さんはデッキで休んでください」

 

 グリッドレイたちはC-5Mの後部にかけられたタラップから輸送機の上部後方にある兵員デッキに向かった。あそこは窓が無く、決して快適な場所では無いが、あの飛行機で人間や人形が休める場所はそこしか無い。

 

「よし、みんな。飛行機が水平飛行に移ったら状況と目的地、何をしなきゃならんかを伝える。それが終わったら、目的地に着くまで休憩だ。飯を食ったり、ゆっくり寝るなりしてくれ」

 

 グリッドレイは海兵隊にいた頃は士官では無かったので、グリフィンにやって来てすぐの頃は、作戦計画を立てる事に苦労していた。何せ、命令を受けて少尉や中尉の指示通りに動き、必要があれば彼らに助言を与える事ばかりをしていた元三等軍曹が、いきなりその士官と同じ仕事を与えられているのだ。

 

 飛行機が動き出したので、グリッドレイは椅子に座ってシートベルトを締めた。そして、足元のダッフルバッグからタブレット端末とタッチペンを取り出し、ブリーフィング資料の内容を確認した。

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