二次創作が捗りそう。
2056年 3月11日 0714時 ウズベキスタン
東の空から少しずつ白い光が差し始めた。真っ黒だった空は藍色に変わり始めている。雲は殆ど見られず、この上無いほどの快晴になりそうだ。荒涼とした黄色と茶色の大地が広がり、所々に樹木が点在している。遊牧民の13歳の少年が馬に乗って、白いテントが並ぶ集落を目指していた。背中には古いSKSカービンを背負っている。
ここはとても危険なのだ。数日前も、別の遊牧民のグループがおかしな武装集団に攻撃され、一族郎党殺されるという事件があったばかりだ。そいつらがテロリストなのか、それとも強盗団なのかはわからない。
近年は、軍も警察もてんで頼りにならない。おかしな武装集団に襲われて、軍の施設や都市部の警察署が壊滅したという話をよく聞く。遊牧民とは言え、ソーラー発電機と大容量バッテリーを持ち、それによってスマホやタブレット端末、Wi-Fiルーターを運用している。そういった物も、都市部へ行けば手に入れることができる。それに、このように伝統的な遊牧を続けているグループはかなり減っている。
少年は馬を止め、SKSカービンを手にして周囲を見回した。自分以外には狼や狐すら見かけない。少し前まではロシア軍の連中をよく見かけたが、そいつらもどこに行ったのか、数日前からちっとも姿を見かけなくなってしまった。
第三次世界大戦も、おかしな武装集団も、遠い外国の話だと思っていた。しかしながら、もうそんな状況では無いのかもしれない。いつ、自分がそいつらの攻撃の犠牲になるかわからないのだ。
微かに飛行機の音が聞こえてきたので、東の方を見た。逆光になっていてよく見えないが、1機、大きな飛行機が山の向こうで飛んでいるのがわかる。こんな所に何用だろうか。しかし、それは問題では無い。早いところ集落に戻らねば。きっと両親は死ぬほど心配しているはずだ。少年は馬の横腹を踵で軽く蹴り、砂漠の上を走らせた。
2056年 3月11日 0717時 ウズベキスタン上空
C-5Mの右側のサイドドアが開き、冷たい風が一気に機内に吹き込んできた。カーゴマスターが機内を点検し、ジャンプマスターがモンキーハーネスで体を床に固定し、機外の状況を確認する。グリッドレイたちはお互いの装備に不備が無いかどうか、最後の確認を終えた。グリッドレイがカーゴマスターに親指を立てて見せる。
「降下5分前!」
地上に降り立ったら、取り合えずは徒歩で移動するしかない。車があれば良いのだが、そこは現地調達。つまりは、放置されていた車をネコババするのだ。グリッドレイはキー無しで車のエンジンを動かす術を習得している。今度、トモキにも教えてやらないとな、とグリッドレイは考えた。
「3分前!」
グリッドレイは気を引き締めた。ここは既に敵の支配地域だ。81式カービンと64式が二人そろって指揮官を見て親指を立てる。
「30秒前・・・・・・20秒・・・・10秒・・・・・5、4、3、2、1、ゴー!ゴー!ゴー!」
人間と戦術人形たちが次々と機外に飛び出し、パラシュートを開いた。
2056年 3月11日 0717時 ウズベキスタン
グリッドレイはパラシュートを操作し、螺旋を描くようにして降下した。上を見て開いているパラシュートの数を数える。全部で13。全員、無事に降下している。C-5Mギャラクシー戦略輸送機は北の方に向かい始めた。一度旋回してからディエゴガルシア島へと向かうのだろうか。グリッドレイは上と下を繰り返し確認し、状況を見る。本来ならば、先遣隊がいて降下を誘導するのだが、今のグリフィンにはそのような余裕は無い。そんな事を考えているうちに、白と茶色の斑模様の地面がどんどん近づいてきた。
2056年 3月11日 0718時 ウズベキスタン
C-5Mのパイロットは機体を旋回させ、南に飛行機を転進させた。カーゴマスターからは既に扉を閉じたと無線で知らせてきた。早いところこんなやばいところから逃げ出し、さっさとインドのインディラ・ガンディー国際空港に着陸させたいものだ。交代要員がいるとはいえ、オーストラリアから長時間、このコックピットに缶詰めになって操縦し続けていたのだ。
機長はエンジンの出力を上げ、高度を取ろうとした。地対空ミサイルに狙い撃ちされるのを防ぐためだ。流石にSAM一発程度の爆発で簡単に墜落するほどこの飛行機はヤワでは無いが、複数回に渡って狙い撃ちされればひとたまりもない。防御装置として、ミサイル警報装置、赤外線ジャマー、レーダージャマー、チャフ・フレアディスペンサーを装備しているが、それでも不安は拭えない。AC-130Jゴーストライダー攻撃機は速度の問題で追随できないため、今回は護衛から外れていた。
「くそっ、まだウズベキスタン領内か」
「インドまではまだ随分ありますよ」
この先、アフガニスタン領空とパキスタン領空を通過する許可は取り付けてある。とはいえ、アフガニスタン政府は機能しておらず、パキスタンも最近は信用して良いものかどうか怪しいとさえ聞く。と、いうのも、あの辺りの国には、政府関係者や軍内部どころか、一般市民の中にかなりの数の親鉄血派の人間がいるという。
とはいうものの、鉄血のシンパ連中は碌な目に遭っていない。どうせ、使い捨てされて、殺されるのがオチである。
副操縦士がドリンクホルダーのコーヒーカップに手を伸ばした時だった。レーダー警報装置が鳴り始めた。敵の射撃管制レーダーが作動し、こっちに狙いを定めているらしい。
「Lバンドレーダー!ECM作動!」
「ECM!」
レーダー警報装置は一旦鳴りやんだが、また鳴り始めた。
「くそっ!今度はXバンドレーダーだ!気を付けろ!」
けたたましい電子音がコックピットの中を満たす。ここは鉄血の支配地域であるため、ある程度の覚悟はしていたが、いざ、実際に対空ミサイルに狙われるとなると話は違ってくる。
2056年 3月11日 0719時 ウズベキスタン
何もない荒れ地に設置されたパッシブフェーズドアレイレーダーが敵機を捉えた。そのデータは光ファイバーケーブルを通じて、50kmほど離れた場所にある、地面に埋め込まれた地対空ミサイルのVLSに標的のデータを転送した。VLSの蓋が2つ開き、凄まじい炎が噴き出した。その直後、2つのミサイルが立て続けに飛び出し、上空の標的目掛けて飛んでいった。
2056年 3月11日 0719時 ウズベキスタン上空
『警告。ミサイル。警告。ミサイル』
こんな時だというのに、落ち着いた様子の電子化された女性の声が特徴的な警告音に混ざってコックピットの中で鳴る。
「畜生!チャフ!フレア!」
「防御装置を自動に切り替えろ!高度を下げるんだ!」
しかしながら、巨大で愚鈍な輸送機は戦闘機を撃墜するために設計され、超音速で飛んで来るミサイルからしてみたらはっきり言って楽勝な標的だ。唯一違う点といったら、標的自体が大きく、複数発射撃しなければ完全に撃墜するのが難しいという点だ。
1発のミサイルがC-5Mの機体の左側面で破裂した。金属の破片が機体にめり込み、第2エンジンを炎上させる。
「第2エンジンで火災!」
「カットオフしろ!残りのエンジンで飛ばす!」
4発機の長所はこれだ。エンジンを1つ失った程度で簡単に墜落したりはしない。最悪でも、1つのエンジンさえ生きていれば飛び続けられるようにはできている。とはいえ、次々とミサイルが飛んで来るような状況では、そのエンジンがいつ全部破壊されてもおかしくない。
「ミサイル!ミサイル!」
再び警報が鳴り響いた。わかるのはミサイルが接近している事実だけであって、何発のミサイルがこちらに向かってきているのかはわからない。
「くそっ!低空へ逃げろ!」
「高度を3000フィートまで下げます!」
巨大な輸送機が一気に降下した。それに向かって、ざっと数えただけでも10発以上のミサイルが向かって来た。ミサイルは機体の近くで近接信管を作動させ、無数の金属片をC-5Mに浴びせた。後続のミサイルも続く。さしもの巨大な戦略輸送機は攻撃に耐えられず、空中分解した。