2056年 3月11日 0720時 ウズベキスタン
ジェラルド・グリッドレイは荒れた岩地に着地して、少し前に歩いた。パラシュートのハーネスをすぐに取り外して畳む。すぐ近くにFive-Sevenがストンと着地した。そして、彼女に続いて仲間たちが地上に降り立つ。グリッドレイが鍛えた賜物なのか、この中隊の全員が半径100m以内の場所に降り立った。
グリッドレイは背負っていたTAC-338を手に持ち、弾倉を装着した。仲間たちも手にする銃を点検し、戦いの準備を始める。
「いいか。今回の任務はターゲットの確保と作戦本隊であるB中隊の支援だ。俺たちはRO635を別ルートから捜索しつつ、B中隊に攻撃を仕掛ける敵を引き付け、妨害する。乗り物が必要なら現地調達だ。鉄血だけじゃなく、現地の武装勢力やゲリラにも気を付けろ。それから・・・・・」
「指揮官・・・・・これを見てくれ」
ヴェクターがタブレット端末をグリッドレイに差し出した。滞空UAVがリアルタイムで送信してくる画像が映っている。そこには、自分たちがいる場所に、2台のジープと1台のピックアップトラックが西から向かってくる様子が映し出されていた。トラックの荷台には、銃を持った人間の集団が乗っているのがわかる。
「全員戦闘準備!待ち伏せするぞ!A3G、お前はそこの東の斜面から狙撃しろ!81式と四式は南の斜面からだ!ネゲブ、PPshとスコーピオン、64式を連れて南の木陰に向かえ!12、94、ヴェクターはそこの東の岩陰に隠れて合図を待て!スピットファイア、相棒、お前たちは俺について来い!展開!」
海兵隊強襲偵察隊の元軍曹に鍛えられた戦術人形たちの動きは素早い。彼女たちは接近してくる車列がここにやって来る前に持ち場に付き、迎撃する準備を整えた。
2056年 3月11日 0726時 ウズベキスタン
3台の車がグリッドレイたちが着地した地点に向かっていた。車には、AK-74やAKMSで武装した人間たちが乗っている。更に、最後尾のピックアップトラックにはPKM汎用機関銃が取り付けてあった。
この車両に乗っているのは、地元のゲリラでは無く、反サイボーグ組織である人類人権団体の細胞の一つだ。この連中は、自律人形を使っている個人や組織を攻撃し、殺すという活動を常に行っている。連中は、先日、村を攻撃し、労働用や愛玩用の自律人形を破壊してきたばかりだった。襲撃を終えたこの連中はこれからアジトに帰還しようとしていたが、先程、飛行機が低空で飛行して、そこからパラシュートで10人近い人影が降下してくるのを目撃したのだ。そこで、この連中の小隊長は様子を見に行くことにした。もし、降下してきたのが自律人形だったら、破壊して、一緒にいた人間も殺すつもりでいた。
この小隊は10代前半の少年から60代の年配者まで、ざっと12人。そのうち、軍隊経験者は4人だ。
「おい、セルゲイ。お前が言ったことは確かなんだろうな?」
「ああ、間違いない。飛行機から15人くらいがパラシュートで降りてきた。俺の情報網は確かだ。この辺りに軍は派遣されていない」
「だとしたら、PMCってことか。おい。奴らを捕まえたらどうする?」
「とりあえず・・・・・・人間だろうが人形だろうが殺すまでだが・・・・・そうだな。人間の方が女だったら、"お楽しみ"でもいいだろ?」
セルゲイと呼ばれた男は下卑た笑い声を上げた。
「なるほどな。いい考えだ。おい、ミーシャ。最初はお前に譲ってやる。その代わり、しっかり働け。いいな」
ミーシャと呼ばれた、ジープを運転する少年は頷いた。
「よし、わかったら、しっかり働け。やるぞ?」
2056年 3月11日 0731時 ウズベキスタン
グリッドレイはスコープ越しに敵の様子を確かめた。向こうから汎用機関銃を搭載したトラックを含め、3台が接近してくる。風はグリッドレイから見て左側から少しだけ吹いている。スコープのヴィンテージノブを動かし、着弾点を微調整した。まずは、あのPKM機関銃の銃手を片づけねばならない。
「ジェリー、距離は1000メートルよ。もうすぐ射程内かしら?」
Five-Sevenが双眼鏡でターゲットを見ながら言った。
「もう少し引き付ける。それと、SMAWは使わなくていい。あの程度の車なら.338ラプアどころか、5.56mmでも貫通する」
「わかったわ。じゃあ、あなたとA3Gに任せていいってわけね」
「そういうことだ。それに先手必勝、一撃必殺だ。奴らに反撃する暇をみすみす与えてやる事は無いからな」
グリッドレイは再度、機関銃手に狙いを定めた。スコープのクロスヘアにそいつの頭が重なる。そして、距離を確かめつつエレベーションノブを動かして着弾点を調整した。
ピックアップトラックが停車した。中から数名の人間が銃を持って現れ、周囲を確認するように見回っている。PKMの銃手は相変わらず銃を回して、辺りを見回している。
「A3G、聞こえるか?」
『何だ?指揮官』
「俺が機関銃の奴を撃ったら、トラックの運転手をやれ」
『お任せあれ。撃っちゃっていいんだな?』
「ああ。どうせ、殺したところで誰も気にしやしない」
グリッドレイは再びガンナーに狙いを付けた。そして、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。限界まで吐き出し切ったところで人差し指を動かし、遊びの無い引き金を引いた。
2056年 3月11日 0737時 ウズベキスタン
PKMを左右に動かしていた男の頭が突然、スイカのように破裂した。トラックを運転していた男はそれに気づかずにターゲットに向かって車を走らせた。続いて運転手も同じ運命を辿る。
「畜生!」
トラックが横転し、助手席の男が窓から放り出された。そのトラックに乗っていた武装ゲリラが地面に折り重なるように転がる。
機関銃の銃声が聞こえ、曳光弾が飛んできた。弾丸はさらに飛んできて、他のメンバーの左膝から下を引きちぎり、喉を切り裂く。
「どこだ!?奴はどこだ!?」
AKMSを持つ男は周囲を見回し、襲撃者を探し回った。そいつは5.56㎜弾の連射を腹に食らって倒れる。そして、再び狙撃。犠牲者は自分が何にやられたのもわからないまま死んだ。
「くそったれ!出てきやがれ!」
メンバーの一人がM16A1を滅茶苦茶に撃ちまくった。しかし、狙いすまされた.338ラプアマグナムの弾丸が男の頭蓋骨と脳髄を砕いた。さらにフルオートやセミオートで放たれる銃声が続く。ほぼ一方的な攻撃は10分と続かず、人類人権団体の小隊は壊滅していた。
2056年 3月11日 0743時 ウズベキスタン
ジェラルド・グリッドレイはAKS-74Uを手に先ほど攻撃した連中の様子を見に行った。車は銃弾で穴だらけになり、漏れ出したガソリンの臭いが鼻を突く。銃弾に斃れた連中がそこら中に転がっている。最初に人間を殺したのは、海兵隊に入っていつの頃だっただろうか。もう三桁単位で殺していたような気がする。
グリッドレイが地面を見回すと、銃弾で穴だらけになった死体が辺りに転がり、血だまりが出来ている。中には四肢の一部が千切れていたり、腹部から内臓がはみ出ている死体もあった。見慣れた光景だ。
ブーツで死体を蹴り、死んだかどうかを確認した。ターゲットの生死確認をしていると、うめき声が聞こえてきた。グリッドレイの後ろにいたAN94がその声の主を確かめに行く。そいつは頭が禿げ上がった、50代と思しき太った男だった。体には銃弾による無数の穴が開いている。生きているのが不思議なくらいだ。
男はグリッドレイとAN94を見た。右手の近くにはHK433が転がっている。恐らく、PMCから手に入れたものだろう。男は口から血を流しながら声を出した。
「お・・・・・お前は・・・・・・」
「俺か?元軍人の阿呆さ」グリッドレイが答える。
AN94は男が持っていた銃を取り上げ、そのまま極めて手際よく分解して中身のバネを捩じった。これでこの銃は使えなくなった。
「・・・・なぜ・・・・・こんな奴らの味方をする・・・・・」
「愚問だな。こいつらは俺の仲間だ。仲間を傷つけようとする奴は、誰であれ殺す。それが俺のやり方だ」
「くそ野郎・・・・が・・・・・」
鋭い銃声が鳴った。銃声がした方を見ると、硝煙を上げる銃を手にするP226が立っていた。彼女がグリッドレイを見る。
「まだ生き残りがいましたわ。そこのAKを拾おうとしたので、撃って差し上げましたわよ」
「上出来だ。俺が教えた通りにやったな」
「・・・・・・お前、人形に人殺しを教え込んだのか・・・・・・」
「ああ。自分や仲間を攻撃するような奴は、例え人間であっても容赦なく殺せとな」
「ふ・・・・ふざけやがって・・・・・」
「ああ、そうだ。人間ってのは、意外としぶといからな。お前がもし生き残って回復したら、俺たちや、他のグリフィンの仲間をまた襲撃するだろ。そうなるもとは、断っておかないとな」
グリッドレイは手に持ったAKS-74Uで男の頭を2回撃った。5.45mm弾が頭蓋骨に穴を空け、地面に血と脳漿の染みができる。
「ようし、全員集まれ。怪我をしているなら俺に言え」
中隊のメンバーが周囲を警戒するような体制を取って集合した。グリッドレイはよく仲間たちを見回し、全員が揃っていることを確認した。
「みんな無事だな?いい子だ。それじゃ、早いところに先行している部隊に追いつこう」