2056年 3月11日 0811時 ウズベキスタン
ジェラルド・グリッドレイと仲間たちは徒歩でごつごつした山肌を歩いた。狙撃を避けるため少し間隔を空けての進軍となったが、AN94とFive-Sevenだけは護衛のためグリッドレイのすぐ近くにいる。
暫くの間、周囲を警戒しながら一行は進軍していた。暫くは沈黙が続いていたが、AN94にはどうしてもグリッドレイに聞きたいと思ったことがあった。彼女は少々ためらっていたが、ようやく口を開いた。
「指揮官・・・・・・指揮官は、さっきみたいに人を・・・・・・」
グリッドレイはAN94が言わんとしていることはわかった。
「94、言ってなかったな。俺たちは、グリフィンの中でも特に"やばい仕事"をやる部隊なんだ。"やばい仕事"ってのは鉄血の掃討だけじゃなく、人殺しを含む仕事を請け負うということだ。FSBにいたお前ならわかるだろ?」
AN94は沈黙で答えた。
「じゃあ、何で俺たちがその"やばい仕事"を請け負うかって?俺が人殺しに慣れているからだ。俺はグリフィンに来る前は、中東やアフリカで結構人殺しをしていた。元海兵隊の狙撃手だからな。最初に人を殺したのは、俺が18歳の二等兵の時にシリアに派遣されたときだ。M38-SDMRでテロリストの頭を300ヤードの距離から吹っ飛ばした。その時は・・・・・何人殺したかな?まあ、分隊15人で一斉にぶっ放したからわからんが、まあ、新兵だった時から射撃は得意だったし、成績はいつもトップクラスだったから、いきなりマークスマンとして配属されたわけだ」
グリッドレイは続けた。
「シリアに派遣されていたのは2か月で、その後はアメリカのキャンプに帰ったんだが、そこで部隊の教育担当の上官から狙撃手としての適性がずば抜けていると言われてね。すぐにスナイパースクールに送り込まれたよ。結構きつい訓練だったけどな。あっという間にクリアして、気が付いたら強襲偵察隊、続いてMARSOCに送り込まれていた。まあ、MARSOCに入ってそれほどしないうちに海兵隊を辞めたんだけどな」
「指揮官、つまり、指揮官はその・・・・・今まで何人くらい人を撃ったの?」
「さあな。まあ、三桁は行かないかもしれないが、それでも何十人以上は撃ったな。数えたことは無いから、よくわからん。それに、94は12と一緒にFSBの作戦をやったことがあるだろ?」
確かにその通りだった。だが、彼女たち二人は作戦に同行はしていたものの、相手をしていたのはテロリストが使う無人兵器であり、人間と直接交戦していたのはFSBの任務部隊の連中であった。
「確かに、私とAK12はアンジェリカの部下だった時は、色々な作戦に関わった。でも、人を撃つのはFSBの部隊の仕事。私たちは無人兵器とかサイボーグとか、そういうのしか撃ったことしかなかった」
つまり、AN94とAK12はついさっき、初めて生身の人間を撃ったのだった。
「俺だって、最初に人を殺した時は、何と言うか、おかしな感じだった。現実感が無かった。だけどな、それが10人、20人となると、何も思わなくなる。敵の頭を吹っ飛ばして、作戦が終わってキャンプまでJLTVやオスプレイに乗って帰還。で、帰ったら平気な顔してハンバーガーを食ってコーラを飲む。それを5年以上も続けていたら、感覚だって麻痺するさ。敵兵やテロリストの頭じゃない。生きている人間と言うよりは、銃を持った、標的射撃の動くスイカにしか見えない。そんなもんさ」
グリッドレイはウェストポーチからラミネートパックされた丸パンのターキーサンドを取り出して咀嚼し、胃袋に送り込んだ。本当に人を殺す事をどうとも思っていないと言わんばかりに。
「それにしても、さっきの車を手に入れられなかったのが残念だね。燃料のタンクやパイプが穴だらけになっていたから、使い物にならなくなったし。おかげで、歩いて移動しなきゃならなくなったし」ヴェクターが残念そうに言う。
「全くだ。あのピックアップトラックが手に入ったらだいぶ楽になったんだけどな。よし。こうなったら、車泥棒をやるとするか。適当なジープとかトラックとか、そういうのを探そう。できれば軍用のでかいのがいい」
「ほー、面白そうじゃん。それで、一番良いのは装甲兵員輸送車って言うんじゃないのかい?」とネゲヴ。
「その通り。パラシュートで車を投下してもらう手配が出来なかったのが痛いな。今頃衛星通信で前線基地に要請しても、すぐには手配できないだろうしな。こいつは俺のミスだな」
「今更無理だと思うよー。無線機で長距離通信を試してみたけど、雑音ばっかりで、アマチュア無線すら拾えないんだもん」
VZ61スコーピオンがグリッドレイに無線機のヘッドセットを差し出した。確かに彼女の言う通りで、どの周波数に合わせても耳障りな雑音が聞こえるだけだ。
「ある程度予想はできていたが、ここでもジャミングが酷いか。敵のジャミング施設を潰していけばどうにかなるんだろうけど」
「小型のECCM装置は?あれを試してみない?」ヴェクターが提案する。
「あれか。と言っても、あれは殆ど役に立った試しなんて無いからな。ボスニアでもリトアニアでもそうだったろ」
「確かにね。でも、あの時は試作品だったじゃない。今日貰ったもの、ペルシカは改良型とか言ってなかった?」
「ううむ。俺はあまり信用していないんだが・・・・・・やってみるか」
グリッドレイはザックからスマートフォンを分厚くしたような装置を取り出し、側面にあるスイッチを押した。表面にあるグリーンのランプが光るだけで、アニメのように妙な音が鳴ったり目に見える光のような物が出たりはしない。
「どう?」
「うーん、どうだろ?周波数があっていないのかもしれんが」
「色々試してみるしかないか。まあ、期待はしないでおこうよ」
「だな。それよりも車を見つけよう。そこら中に放置されている車で構わんさ。まあ、ガソリンもその辺でネコババすればいいだろ」
「私たちって山賊みたいなことばっかりやってるよね。軍の基地を襲撃して弾薬強奪したり、車を盗んだり」
「ああ。俺はそのやり方を海兵隊にいる時に知ったんだけどな」
「へぇ」
「場合によっては、そうやって敵地から逃げ出さなきゃならないしな。それに、リーコンには俺みたいな歩兵出身の人間以外にも、パイロット出身の奴が何人かいて、そいつは敵のヘリを奪って操縦する技術まで身に付けていたよ」
「指揮官は操縦できないの?ヘリ」
「訓練受けていないから無理さ。まあ、それでも、BMPや大型トラックくらいなら運転できるさ。さて、俺たちの目的は敵を引っ掻き回して、本隊から遠ざけることだ。そのために弾薬も爆薬もたっぷり持ってきたからな」
「何でRPGやC4をあんなにと思ったのでありますが、そのためでありましたか!」四式が口を開く。
「その通りさ四式。とにかく、鉄血の重要施設があれば、それを片っ端からぶっ壊してやろう。そうすれば奴らはAR小隊の奴を探し回らずにサボタージュの犯人探しを始める。結果的には、捜索部隊がROを探すのが楽になるって算段だ」
「そうでありましたか!流石は指揮官殿!」
「指揮官、これを」
64式がグリッドレイにタフブックを差し出した。画面には滞空無人機から見下ろしたリアルタイム画像が表示されている。雪原にパラボラアンテナを取り付けられた円筒形の建物があり、周囲にはプラウラー、ダイナゲート、リッパー、ヴェスピド、ストライカーの姿が複数見える。
「座標は?」
「ここから西に5キロくらい。見た感じ、奴らのジャミング装置か通信設備か。これだけの数で警備しているなら、そこそこ重要な設備なのかもしれないわ」
「よし。じゃあ、こいつを偵察して、攻撃して、爆薬で吹っ飛ばしてやろう。そうすれば、奴らは血眼になって犯人を探し回ってROを探し出すどころじゃ無くなるはずだ」
「いい考えね。そうなると、B中隊は少しは楽をできるってわけね」
「そういうことだ。そうすれば、連中はターゲットの捜索に集中できる。俺たちはこっちに引き寄せられた敵を片づけて行けばいい」
2056年 3月11日 0815時 ウズベキスタン
五十嵐智基は朝食のチョコレートパンを破いたラミネートパックをグリップ代わりにして手に持って齧った。すぐ近くにいる416は銃を手に周囲を見張っている。
「指揮官様、コーヒーです」
G36が白い湯気を上げる金属製のマグカップを五十嵐に差し出した。
「ありがと」
五十嵐はコーヒーを啜った。苦味と香ばしい香りが口の中に広がる。
「RFB、信号はどうだ?」
「ジャミングが酷くてしっかり捉えられないけど、一応、ビーコン信号の方向は判明してるよ。でも距離と正確な場所がまだわからない・・・・・・」
「方向だけか。まあ、仕方が無い。その方向に向かおう」
そこへSV98とファルコンが走り寄ってきた。
「子羊ちゃん。装甲車の燃料が満タンになったよ」
「残りの燃料は?」
「十分あると思いたいですが、いざとなったら無人機で運んできてもらわないといけないですね」SV98が答える。
こればかりは仕方が無い。いざとなったら装甲車は置いていくしかないが、それだけはできれば避けたい。こんな所を徒歩で歩きたくないし、敵の銃弾から守ってくれる盾が無くなってしまう。
「ガス欠にならないことを祈るしか無いってことか。そうでなければ、その前に早くターゲットを見つけて帰れってことだろ」
「だね。子羊ちゃん、ヌガーバーある?」
「もう食べ切ったのか?ほら」
五十嵐はファルコンにアーモンドが入ったヌガーバーを差し出した。
「ありがと。物資を送ってもらう時に、これも入れといて」
「問題は、ジャミングのせいで補給を受けられないかもしれないところだな」
「それは問題ですね。そろそろ食べ物は節約しないと・・・・・」G36が会話に加わる。
「なあに。その前にターゲットを見つけ出して回収して帰ればいいだけの話さ」