2056年 3月11日 0832時 ウズベキスタン
ジェラルド・グリッドレイはマクミランTAC-338のマウントレールに取り付けたカールツァイスのスコープで敵の施設の状況を確認した。リッパーとストライカー、ヴェスピドの姿が複数見える。観察したところ、連中は一定のエリアを歩き回っているようだ。こいつらは警備部隊だな。恐らく、ワンパターンの行動を取るようにプログラムされているのだろう。
グリッドレイの隣では四式とネゲブが銃を構え、ターゲットに銃口を向けている。周囲ではAK-12とAN-94、スピットファイアが警戒していた。
「いいか。俺の合図でぶっ放せ。A3G、お前は東の建物の周りをぐるぐる回っているリッパーをやれ。四式、お前は北の鉄塔の上のイェーガーを殺せ。81式、お前は西の櫓のイェーガーだ。俺は東のバラックの上のイェーガーを殺す。ネゲブ、お前は視界に入ってきた敵を片っ端から皆殺しにしろ。他は周囲を警戒するんだ。近づいてくる敵をやれ」
無線からクリック音が聞こえた。全員、準備完了のようだ。グリッドレイはエレベーションノブを回し、着弾点を調整した。クロスヘアの中心はバラックの屋根で警戒し、不格好なアサルトライフルを持ち、強化プラスチックのヘルメットを被ったサイボーグの頭に重ねられている。グリッドレイがほんの数ミリだけ引き金を引けば、そいつは簡単にあの世行きだ。
グリッドレイは再び慎重にターゲットに狙いを定めた。そいつは銃を持ったまま、頭を左右に動かし警戒しているようだ。グリッドレイは大きく息を吸い込み、鼻からゆっくりと吐いた。そして、吐ききったところで呼吸を止め、引き金を引いた。
.338ラプアマグナムの弾丸がサイボーグが被ったプラスチックのヘルメットを貫通し、頭を吹き飛ばした。続いて、他のサイボーグも頭を撃たれる。銃声が聞こえてきたのは、着弾からコンマ数秒経ってからのことだ。鉄血のサイボーグやロボットが一斉に警戒態勢を取った。駐屯地の中で大きなサイレンが響き渡り、各所で警戒態勢が取られる。そんな中、再びサイボーグの頭が弾けた。SPR-A3Gが放った7.62mmNATO弾によるものだ。続いて、7.7×58mm弾や7.92×57mm弾も敵の頭を吹き飛ばす。銃を持った鉄血のサイボーグが慌ただしく外に出てきて敵を探し始めた。
「ネゲブ、やれ」
フルオートで放たれるNATO弾が敵を切り刻んだ。ズタズタになったサイボーグやロボットが地面に倒れ込み、油圧オイルや人工血液をぶちまける。
迫撃砲を持ってくれば良かった、とグリッドレイは思った。このような設備を攻撃するには持ってこいの装備なのだが。60㎜迫撃砲M224を持ってきたとしても、それほど大きな荷物にはならなかったはずだ。しかしながら、グリッドレイは迫撃砲をぶっ放し、かつ精密に目標へ着弾させる技術は持ち合わせていない。まともに使える爆発物はAT-4やRPG-7、SMAWといった肩撃ち式の対戦車兵器や各種手榴弾、C-4などだ。
「指揮官、マンティコア!」
「おっと!」
AK-12が背負っていたFGM-172SRAWを肩に担いだ。このロケット兵器には慣性飛翔装置が備えられており、目標まで追尾する訳ではないものの、極めて安定した弾道特性を持っている。AK-12は四足歩行ののろまな兵器にしっかりと狙いを定めた。隣にいたAN-94が後ろを見て、誰もいないことを確認してからAK-12の肩を叩いた。バックブラストの炎と煙を上げながらロケットが真っすぐ飛んでいく。二人はロケットのチューブをその場に捨ててすぐにその場から走って離れた。その3秒後、彼女たちがいた場所に弾丸の雨が降り注いだ。ところが、2人の戦術人形は既にその場から逃げ出した後だった。
マンティコアは目の前の敵を排除すべく一旦停止し、周囲を赤外線カメラとミリメートル波レーダーでスキャンした。そして、雪煙が大きく巻き上がるのを検知した。搭載されている軽機関銃を向け、フルオートでぶっ放す。やがて、視界に何かが高速で向かってくるのを検知した。
対戦車兵器。大きなロボット兵器は赤外線を妨害する小さな発煙弾をディスチャージャーから一斉に発射した。この兵器は対戦車ミサイルで狙われる事が多く、鉄血はこういった妨害装置を大型兵器に備えていた。
ところが、向かってくるのは、ミリ波レーダーも赤外線センサーも使わない、ほぼ無誘導で飛んで来るロケット弾であった。動きの遅い巨大なロボット兵器はタンデム式に成形炸薬弾を食らって胴体に大穴を空けられ、機能を停止した。
2056年 3月11日 0835時 ウズベキスタン
鉄血のハイエンドモデル、ハンターは駐屯地が攻撃されているという通信を受け取った。一体何者が。ここにいるグリフィンの部隊は、AR小隊の生き残りを探しに来た連中だけでは無かったのだろうか。元々ここに駐屯して活動していた部隊なのか。それとも、ウズベキスタン軍か、他の武装組織か。
だが、鉄血のサイボーグには仲間の救援に向かうという思考回路を全く持ち合わせていない。あの駐屯地は切り捨てるしかない、とハンターは判断した。とは言え、攻撃してきた連中を放置する訳にもいかない。これだけ組織だった攻撃をする連中となると、厄介な存在になるだろう。ハンターは指揮モジュールを使い、一部のサイボーグにそいつらの排除を命じた。
2056年 3月11日 0838時 ウズベキスタン
対戦車兵器を使ったことから、荷物がだいぶ軽くなった。グリッドレイは双眼鏡で今しがた攻撃した駐屯地の状況を確認する。その辺にサイボーグの死体が転がり、破壊された無人兵器が転がっている。
残っている車があるかどうか、PPsh-41と64式に確認に向かわせた。そいつを強奪できれば、かなり楽になる。やがて、64式から通信が入った。
『指揮官、ジープが1台だけあるけど全員は乗れない。頑張って5人までね』
「他にはありそうか?」
『Mi-8が3機あるけど、指揮官は操縦できないでしょ?他は、何も無いわ。それと、奴らのジャミング装置を見つけた。画面に無線の周波数らしき数字が表示されてるし、間違い無いわ』
「C4はあるか?そいつを吹っ飛ばしたいが」
『あるわ。任せてちょうだい』
15分後、PPsh-41と64式が戻ってきた。二人に怪我は無いかとグリッドレイが訊いた直後、向こうで爆発音が鳴り、炎と黒煙が上がる。ジャミングのせいでリモコン装置がうまく作動しないことを考慮して、タイマーを使ったらしい。全てグリッドレイが教えた通りに。
さあて、どうなるか。敵はまさか20人足らずの部隊で駐屯地を破壊されたとは思わないだろう。
グリッドレイはフォースリーコンに所属していた時、シリア軍の小さな飛行場を偵察し、司令部に情報を送ったことがあった。その飛行場はデルタとDEVGRUの合同部隊が襲撃し、破壊したという。
「指揮官、ジャミングが晴れたわ。これを見て」
Five-Sevenがビーコン装置を差し出した。先程まで砂嵐状態だった画面がはっきりと地図、自分たちの位置情報を表示している。
「よし。さて、早いところとんずらしよう。こっちに敵が向かってきてドンパチすることになる前にな」
「それで、次は?」
「ゲリラ戦だ。隠れながら奴らを撃ち、なるべくB中隊から引き剥がす。場合によってはこっちからぶちかます」
「了解。いつものことね」
「ああ。それに、これだけ暴れたら奴らだって様子を見に来るだろ」