※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

91 / 107
イベントのシナリオは完走したけど、ランキング戦きっつ!


古都での散策

 2056年 3月13日 1003時 ギリシャ アテネ

 

 3月半ばのギリシャはひんやりとしていて、やや厚めの上着が必要だった。しかし、それは五十嵐にとっては有難かった。おかげで、9mmのハイドラショック弾を8発装填したワルサーPPS拳銃と予備弾倉を2つ入れたウェストポーチを目立たないように持ち歩くことができる。

 

 観光シーズンになっていない分、人通りは少ない。かなり古い建物が建ち並ぶ街並みに、グリフィンの支部の近未来的な立っている様子はかなり不可思議だ。

 中心地の丘にひと際目立つ、大理石造りの古い建造物が建っているのが見える。憧れのパルテノン神殿だ。

 

 さて、何処へ行こうか。まずは、あのパルテノン神殿の近くまで行ってから・・・その隣のアゴラとゼウス神殿が良いだろう。五十嵐はスマホを持って道順を調べた。

 

「ところで、まずはどこへ行くの?」

 

 両腕で五十嵐の左腕を掴んでいるUMP45は、頭を自分の指揮官の肩に載せ、ご機嫌な様子だ。彼女の銃はリュックサックの中に入っている。傍から見たら若いカップルにしか見えない。その後ろからついてきているG36と9A-91は、二人の邪魔をしないようにしつつも、指揮官に危険を及ぼす者がいないかどうか周囲を警戒していた。

 

「まずはあそこだな。パルテノン神殿。あれも三次大戦の時に奇跡的に破壊されなかった建物の一つだよ。あの向こうのでかい格子みたいなやつさ。でも、それ以外の遺跡はほとんど壊れちまったからな・・・・・・・」

 

 欧州と中東地域、中央アジアは第三次世界大戦の爪痕が未だに残っており、かつて存在していた大きな都市が無くなり、放射能や化学兵器、更にはコーラップスによる汚染で人間が住めなくなってしまっている地域も少なくない。

 今日はカレンダー上では平日なので、周囲で見かけるのはビジネスマンや配送業者、あとは市街地をパトロールする警察官くらいのものだ。標識がギリシャ語に加えて英語で表記されているのは有難い。

 

 街中では様々な人種の人間を見かけ、様々な言語が聞こえてきた。だが、五十嵐には英語が聞こえ、かつ、聞いた限りの会話の内容がわかる程度で、その他の言語はわからない。

 

 五十嵐とUMP45がぴったり体を寄せて通りを歩いて行くのを、カフェの外にあるテラスの椅子に座る老夫婦がほっこりした表情で見送った。

 

さて、パルテノン神殿はアテネ市内の丁度、中心部にある。そこに向かう観光客は多い。

レンタルサイクルを使えばよかった、と五十嵐は少々後悔した。目的地までそこそこ距離がある。スマホを取り出し、地図アプリを使ってレンタルサイクルの店が近くにあるかどうか確認する。

 

「何してるの?」UMP45がスマホの画面を覗きこんで言う。

 

「レンタルサイクルの店が無いかどうかをね。歩いたら結構な距離だし、だからと言ってタクシーを使うまでもないから」

 

 その言葉に45は少々不満そうな目付きで五十嵐を見た。

 

「別にいいじゃない。ゆっくり歩きましょ」

 

 45は五十嵐の左手を指を絡ませるようにして握った。

 

「あ・・・・あの、指揮官。私、実は自転車はちょっと・・・・・・」

 

 9A-91が後ろから五十嵐にそっと話しかける。

 

「ありゃ。じゃあ、教えるから・・・・・」

 

 五十嵐は考えた。9A-91に自転車の乗り方を教えている間に、1日が終わってしまう可能性もある。そうなったら、折角の古代ギリシャの遺跡巡りが水の泡になってしまうだろう。

 

「いや、まあ、歩いて行くのもいいか」

 

「いいんじゃない。それで」

 

 UMP45はそう言って再び両手で五十嵐の左腕を掴み、体をぴったりと寄せ、頭を指揮官の肩に預けた。その様子を見たG36と9A-91はお互いの顔を見てから、二人同時に右手の親指を立て、にっこりと笑ってから二人の後からついていった。

 

 2056年 3月13日 1033時 ギリシャ アテネ

 

 結局、パルテノン神殿の近くに行くまで30分近くかかってしまった。途中で買ったアイスクリームを食べながら4人は古代ギリシャの世界遺産へと歩いていく。

 

 大変残念なことに、世界遺産や歴史的建造物の多くは第三次世界大戦によって破壊されてしまった。中国の紫禁城やロシアのクレムリンと赤の広場、フランスのシャンゼリゼ通りなどなど。日本でも、弾道ミサイルによる攻撃で犬山城や首里城などが破壊されている。

 

 パルテノン神殿は、そんな第三次世界大戦の中でも奇跡的に残った数少ない世界遺産だ。ヨーロッパでは、ルーブル美術館やブランデンブルク門などがロシアによる核攻撃で跡形も無く破壊されてしまっている。一部の遺産はユネスコなどの手によって修復する動きが出ているが、予算も人手も足りず、一向に進んでいないのが現状だ。おまけに、中央アジアやアフリカ、南米、中東などに点在してる世界遺産の多くは鉄血の支配地域のど真ん中にあるものも多い。勿論、そんなところに行く学者連中なんていないし、そこまで行くための護衛を引き受けるようなPMCも皆無に等しい。

 

「凄い人ね」

 

 UMP45は周囲を見回して言った。ヨーロッパでのバカンスシーズンはまだかなり先だが、それでも大勢の人々が行き交っている。

 

「ここは有名な世界遺産だからな。ギリシャといったら、ここと言ってもいいくらいだよ」

 

 五十嵐はスマホを取り出してパルテノン神殿の写真を撮った。後ろを見ると、G36と9A-91はぽかんとした様子で古代遺跡を見上げていた。

 

「これって、人間が造ったのですか?」9A-91が五十嵐に訊く。

 

「勿論。それも、設計に使うパソコンのCADソフトも、クレーン車やブルドーザーも無い、2500年も前に建造されたものさ」

 

「にっ、にせん?」9A-91が目を皿のようにして目の前の建造物を見上げた。

 

「ええっと、今が2056年だから・・・・・・マイナスになるじゃない!どういうことなの?」

 

「紀元前っていう数え方だよ。一応、今の世界の標準的な年数の数え方は西暦っていって・・・・」

 

「その話、長くなりそうなの?」

 

 UMP45は不満そうに五十嵐を見た。

 

「まあ、簡単に言うと、すっごい古い建物だってことさ」

 

「次はどうするの?」UMP45が訊く。

 

「ほら。あの西の方にも古い建物があるだろ?あれがアレオパゴス。その更に北にはアゴラっていう遺跡がある。そして、あの南東の方にあるのがゼウス神殿。そこを回ったら、そうだな。他に行きたい場所があるなら・・・・・・・」

 

「あ、じゃあ、街中を色々見て回ってみましょう。9A、G36、それでいいかしら?」

 

「いいですよ」

 

「では、そうしましょう」

 

 2056年 3月13日 0835時 ロンドン G&K本部

 

 クルーガーはPCを開き、送られてきた資料を読んだ。そこにはある人物のプロファイルが記載されている。クルーガー自身、知らされていなかったこと。そして、そのことは、本人も語ることは無かった。

 

 やがて衛星通信が入った。誰なのかはすぐに分かった。アメリカ合衆国海兵隊のカーター将軍。恐らく、この件についてのことだろう。

 

『ベレ。そっちは今、何時だ?』

 

 カーターは通信が繋がるなりそう言った。

 

「朝の8時半過ぎです。そちらは・・・・・・」

 

『真夜中を回ったところだ。私がいるのは、カリフォルニアのキャンプ・ペンドルトンだ。資料は受け取ったな?』

 

「はい。しかし、将軍。何もこんな時間に」

 

『いや。その方が私にとっては好都合だからな』カーターが遮るように言い、続けた。

 

『今、君の手元にある資料ははっきり言って、機密事項だ。我々が生み出した怪物についての』

 

「しかし、奴は一時期、PTSDになって・・・・・・」

 

『回復したそうじゃないか。君のお得意のドールセラピーってやつか?』

 

 その通りだった。とはいうものの、ジェラルド・グリッドレイは、定期的にグリフィンお抱えの心療内科医による診断を受けている身だ。その状況は当面の間は続くはずである。

 

 カーターが続けた。

 

『グリッドレイは強襲偵察隊の隊員となってそれほど経たないうちに、イギリス海兵隊へ訓練留学に送り込まれた。その時、奴の教育訓練を担当したイギリス人の大佐の目に止まり、SBS、つまり特殊舟艇部隊の候補生グループに送り込まれた。凄まじい訓練課程だったんだろう。50人いた候補生のうち、47人が脱落した。合格した3人に、勿論、奴も含まれていた。SBSがどういう部隊なのかは、君なら知っているだろう』

 

 当然だ。SBSはイギリス陸軍のSASに比べたら世間に知られている部隊では無いが、恐るべき戦闘能力を持つ部隊だ。

 

『一言で言おう。奴は我々海兵隊が生み出した高性能な殺戮マシンだ。そして、奴の上官は、こう言っていた。グリッドレイが我々の味方で良かった、とな』

 

「しかし、奴は、今は海兵隊の配下にはいない」

 

『そう。その通りだ。実際、奴はNCISの要注意リストにその名を連ねている。PTSDの診断を受けた兵士が、退役後に事件を起こす、というケースはごまんとあるからな』

 

「将軍。たったこれだけの話をするためだけに連絡してきたのでは無いでしょう」

 

『ああ。実は、だな。海兵隊と海軍のある兵士のグループの中に不穏な動きがある、という報告をNCISから受けている』

 

「不穏な動き?と、言いますと」

 

『軍の内部には、今の軍やPMCのやり方は生ぬるい、と考えている急進派の連中がいる。更に、君らPMCを排除しようとする動きさえある。その急先鋒がMARSOCとSEALsだ』

 

「SEALsとはまた」

 

『実際、MARSOCに対する私の影響力も低下してる状態だ。どこまで急進派を押さえつけていられるかわからん状態だ、という事だけは言っておく。もし、その急進派が事を起こしても、君らを助けることはできん。それだけは言っておく。では』

 

 モニターが暗転し、カーターの姿が消えた。

 

 クルーガーは現時点での部隊の状況を確認した。B中隊はギリシャで、V中隊は台湾で休暇中。P中隊とS小隊は現在、ベラルーシで共同で掃討作戦を行っている。そして、N小隊を近く、UAEに派遣する予定だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。