2056年 3月13日 2301時 アテネ グリフィン支部宿舎
M16は机に向かってグラスに入った琥珀色の液体を口に含んだ。同室にいるM4とRO635は既に寝入っている。
この酒は昼間に五十嵐が買ってきたものだ。M16は満足そうに5杯目をグラスに入れる。黒いラベルには白い文字で"Jack Daniel"と書かれている。
やはり、これを飲んでいる時が一番落ち着く。グラスの中の氷で冷やされた空気中の水分が手に滴る。
AR小隊は5人中3人が揃った。メンタル崩壊を起こしたSOPⅡを除けば、あと1人だけ。そのAR15の居場所は全く手掛かりが無い状態だ。
だが、中央アジアのどこかで、AR15は一人放置されているはずだ。早く助けに行くべきなのだろうが、この中隊はあくまでもグリフィンの本部からの命令で動く。M16一人の意志でどうにかなる問題でも無い。
さて、もう少し飲んだら寝るとするか。明日も・・・・・まだ休暇だ。しかし、あともう数日でそれも終わり、それまではゆっくり過ごさせてもらおう。M16は酒を飲み干し、もう一杯、グラスに注いだ。
2056年 3月13日 2304時 アテネ グリフィン支部宿舎
「さて、見回りですよ。武器の準備はできていますか?」
G36は銃に5.56㎜弾を27発装填した弾倉を装着した。30発フルに装填しないのは、五十嵐とグリッドレイのアドバイスに従ってのことだ。30発をずっと装填していると、弾倉のバネがへたってしまい、それが給弾不良のもとになる。
弾倉はパウチに20個入っている。廊下は照明のおかげで薄明るく、静まり返っている。外部のセキュリティは最新のものが採用されているし、周囲には武装した人形と警備員が巡回しているので、簡単に部外者が侵入できるような建物では無い。
G36と共に今日の見回りに参加しているのは、FALとTMP、スオミだ。銃には光学照準器とフラッシュライト、サプレッサーが取り付けてある。
4人はボルトを動かし、薬室に初弾を送り込んだ。ガチャリ、という金属音が静かな暗い建物で響き渡る。これでいつでも銃をぶっぱなすことができる。
G36はスオミと、FALはTMPと二人一組になって、別々のルートを巡回することにした。建物の外にはグリフィンの警備員と小型UAVが警戒に当たっているはずだ。
二人の戦術人形は、ドアが両側に整然と並ぶ廊下を進んだ。他の仲間たちはこの区画一帯の部屋を使用している。そして、住居区画の一番奥、窓が無く、そこへ至るまでのルートが1つしか無い部屋がある。G36たちは、まずは、その部屋の方向に向かった。指揮官である五十嵐智基が使っている部屋だ。
二人はその部屋の前まで歩き、注意深く周囲を見回した。ドアは鋼鉄製で分厚く、12.7mm弾の複数発の直撃にも軽く耐えられるほど頑丈だ。
そして、そのドア越しにベッドが軋む音と甘い声が微かに聞こえてくる。これだけでも、指揮官が誰と一緒にいるのか、すぐにわかった。
G36はハンドサインでスオミに合図を送り、来た道を引き返した。二人が担当しているのは、指揮官がいる部屋の近くのエリアだ。非常時には、すぐに五十嵐がいる部屋に駆け付ける。これが二人の役目だ。
『第1チェックポイント、異常無しよ』
無線機のイヤホンからFALの声が聞こえてきた。
「第2チェックポイント、異常無し」
『了解。あなたたちは、そのまま予定通りのルートを巡回して。不審者がいたら容赦なく撃っていいわよ』
2056年 3月13日 2306時 アテネ グリフィン支部宿舎
UMP45は五十嵐に両手でしがみつき、唇を指揮官の顔面に何度も押し付けた。五十嵐は彼女の頭を撫で、その手を剥き出しの背中に沿って下ろしていく。
五十嵐は一度、ジェラルド・グリッドレイと二人だけで話す機会があった時、思いきって45との関係を打ち明けたことがあった。戦術人形と体の関係を持ってしまったことに対して、上手く説明できないが、何かつかえるような思いを抱え続けていたのだ。
グリッドレイは、微かに笑い、そんなのはここじゃ普通のことだ、と言った。そして、グリッドレイ自身も、同じ部隊にいるFive-Sevenとかいう戦術人形とは人間の男女の関係と変わらない仲だという。
そして、彼女を受け入れてやれ、それしか人間にできることは無いと、元海兵隊員の友人は五十嵐にそれだけをアドバイスした。
そのおかげで、五十嵐は戦術人形UMP45を受け入れることができた。五十嵐はUMP45の腰に左手を回し、右手を尻に置いた。
その直後、ぬらりとしたものが五十嵐の唇をこじ開け、口の中に入ってきた。そしてそれは、舌に巻き付いてくる。
不思議なことに、嫌悪感は感じなかった。それどころか、五十嵐自身も、自分の舌をUMP45の舌に絡めていく。
45は顔を一旦離し、口を五十嵐の右の耳たぶに近づけた。
「指揮官・・・・・・大好き・・・・・・」
戦術人形は両腕で五十嵐の頭を抱え、体を密着させてくる。部屋は冷えていたが、暖房を使う必要は無かった。
五十嵐は少し疲労感を覚え、マットレスの上で体の力を抜いた。45は相変わらず抱き付いたままだ。
「もう疲れたの?ねえ」
45は不満そうに指揮官を見た。一方で、五十嵐は疲労と欲望の、丁度、中間にいるような感覚を感じていた。このままぐっすり眠りたい自分と、UMP45と交わりたい自分。
天井を眺めていると、UMP45は五十嵐にのしかかってきた。頭を撫でてやると、彼女は満足げな表情でこちらの顔を覗きこむ。
五十嵐は少しだけ横たわって、微かな照明で照らされた天井を眺めた。が、すぐに視線を45に戻し、また周囲を見回した。拳銃とテーザー銃はベッドのすぐそばの机の引き出しに入れてあり、壁際のガンロッカーには自動小銃とショットガンが入れられている。どれも装填済みで、いつでもぶっ放すことができる。
五十嵐が目を閉じようとすると、UMP45は一層強く抱き付いてきた。まだ甘え足りないらしい。
「わかった、わかったよ。45が満足するまで・・・・・むう」
五十嵐は口をUMP45に吸い付かれ、また、彼女の中に入って行くのを感じた。こうなったら、もうどうしようもない。45が満足するまで相手をしてやらねばならない。
「指揮官、遠慮なんてしなくていいのよ。私のことは好きにして良いんだから」UMP45は五十嵐の耳に唇を当てて言う。
確かに、UMP45、いや、グリフィンの戦術人形たちは、射撃管制コアを備え付けられる前は、こういう目的のために設計されたのかも知れない。そうでなければ、個性や感情、そして、こうして人間と性交する機能なんて、戦闘には不要なものなのだから、設計段階で省かれているはずだ。
五十嵐はUMP45の体に両腕を回し、ゆっくりと突き上げた。サブマシンガンの名を持つ戦術人形は恍惚とした表情で指揮官の顔を眺め、抱き付き、甘ったるい喘ぎ声を上げる。
こんな事には、例え五十嵐が中学生の時に他界した父方の祖父が、突然、元気な姿でひょっこり現れたとしてもあり得ないが、ある日、五十嵐が日本に帰ると決心して、UMP45を生涯の伴侶としたい、と両親に告げたら、きっと二人はどういう反応をするだろうか、と思った。
だが、それは今や無意味な思考だ。五十嵐は上体を起こし、自分にガチガチにしがみついて、甘えてくる45の頭を撫でてやった。
「ねえ、指揮官。さっき、私が満足するまで付き合ってくれるって言おうとしてたの?」
「ん?ああ、そうだよ」
「うふふ、随分と不用意なこと言ったわね。どうなっても知らないわよ」
UMP45は今まで他人に見せたことが無いような、満足げな笑顔を顔面に張り付け、五十嵐を押し倒した。45は五十嵐と繋がったまま、下半身を動かし続ける。
五十嵐は、一瞬だけ、目の前の戦術人形に対する感情を心の中に押し込もうとした。だが、薄明かるい部屋の中で、自分に密着してくるUMP45を見て、そんな事をしても無駄だとも思った。
五十嵐は一糸纏わぬ姿のUMP45の顔を見た。45は五十嵐の鼻を自分の鼻先を触れさせ、舌を唇に這わせた。彼女の息が五十嵐の顔を撫で、彼女の体臭が鼻腔の奥に入り込む。45は五十嵐の右手を掴み、自分の胸の膨らみに触れさせた。それは、少しの間だけ冷まそうとしていた熱を再び上昇させるには十分過ぎる程の効果があった。
五十嵐は戦術人形を押し倒し、両手で彼女の尻を掴んで欲望をぶつけ始めた。UMP45は、最愛の指揮官を両腕で抱き寄せ、体をくねらせながら、愛情と自らの欲をもって受け止めた。