※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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暗闇に消える絶叫

 2056年 3月15日 2333時 タジキスタン某所

 

 いつまでこれを続けなきゃならんのだ、と鉄血製造工厰のハイエンドサイボーグ、アルケミストは目の前の戦術人形を眺めながら、そう考えていた。

 このアジトは、元々は人間が地下から金属資源を掘り出すための鉱山だったようだ。地面の至るところに、かつてその上をトロッコが通っていたとおぼしき腐った枕木と錆びた鉄製のレールが人体を這う血管のように設置されている。

 

 銃を持ったリッパーやヴェスピドが内部を巡回していた。内部は蛍光灯で照らされ、十分な視界を得ることはできている。

 ドラグーンやプラウラー、ジャガーの集団が列を成し、出入り口に向かって行った。これから、昨日、スカウトが偵察行動中に発見した人間が住む集落に対する攻撃に向かっていく。その様子を、アルケミストは横目で見送って行った。

 

 その後ろから一人の女性が近づいてきた。髪を二つの団子型に結び、長いスカートのメイド服姿のその女は、鉄血のハイエンドモデルの元締めであり、ボスであるエルダーブレイン直属の部下、エージェント。

 

「おい、どうするんだ?そろそろこいつは処分しても良くないか?」

 

 アルケミストは捕虜を一瞥してからエージェントの方を見た。捕虜は裸に剥かれ、目隠しと猿轡をされ、金属製の鎖で天井から吊り下げられている。体には無数の青あざや蚯蚓腫れ、火傷や裂傷の痕が残っている。

 

「いえ・・・・・、まだ生かしておくようにとご主人様が」

 

「ふん・・・・・」

 

 気に入らん。だが、自分のAIは上位の存在であるエージェントの考えや命令に異を唱えることはできないようにプログラムされている。

 

「それよりも、アルケミスト。ご主人様よりあなたに新しい命令です。直ちに実行するように、と」

 

 エージェントはアルケミストにマイクロチップを渡した。アルケミストはそれを受け取り、ドアに向かって立ち止まり、振り返った。

 

「お前はこれからどうする気だ?」

 

「ご主人様からの命令を受けていますので、それを実行するまでです」

 

「ふん。まあ、いいだろう。ところで、この前捕まえた連中はどうする?」

 

「役に立たないなら捨て置きなさい。あなたの判断に任せます」

 

「なるほど、わかった。では」

 

 アルケミストは部屋を後にして廊下に出た。その時、様々な得体の知れない器具を載せた大きな台車を押して歩くリッパーとすれ違った。アルケミストは小さな無線機を取り出し、配下のサイボーグに指示を出した。

 

 エージェントが何を始めるのかは興味は無いが、だいたい想像はついた。アルケミストは命令の内容を確認するため、マイクロチップを機械に挿入し、命令の内容を確認した。

 

 2056年 3月15日 2334時 タジキスタン某所

 

「こんばんは、AR15」

 

 エージェントは吊るされている戦術人形に近づいた。両手をAR15の肩に置き、耳元で話しかける。

 

「まだ喋る気にはならないみたいですね。まあ、そうでしょう。あなたのメンタルモデルのソースコードは極めて特殊です。なんと、他の人形と違って、コピーすることができなかったんですから。それに、他の人形ならば、とうの昔に情報を漏らしかねない程の拷問にも耐え、反応すら示さないのですから」

 

 エージェントはAR15の背中に手を当てた。まだ人工心臓の脈動が手のひらに伝わってくる。

 

「どうやら、まだ"死んで"はいないようですね。まあ、壊してしまっては、私たちの目的は達成できませんから。あなたに"生きていて"貰わねば、困るのは私たちの方ですから」

 

 エージェントは無反応のままでいるAR15の周りをゆっくりと一周した。靴の音が、やや狭い尋問部屋にカツン、カツン、と響く。他に聞こえるのは、鉄筋コンクリートでできた部屋を這う、剥き出しの配管の中を水が流れる音だけだ。エージェントはAR15の首筋に軽く左手を置き、親指で顎を支えるように持った。そして、右手をAR15の目の前にかざして振ったり、指を鳴らしたりして、反応を確かめた。

 

「話なさい、AR15。ご主人様に関して、何を知っているのです。そうしなければ、苦しい思いをするだけですよ」

 

 沈黙。

 

「口も利けなくなりましたか?いえ、それはあり得ません。あなたの人工声帯は、まだ機能しているはずです。私たちは、それを壊さないように、慎重にやってきましたからね。しかし、何も話さない代償は払ってもらいましょう」

 

 エージェントは台車の上の機器に近づいた。それは、キーボードとダイヤル、モニターなどが組み合わせってできたものだ。それからは、幾つかの電極が取り付けられたコードが延びている。その電極は、人間に使われる心電図のものにそっくりだ。

 

 その電極はAR15の体の至る場所に張り付けてられていった。そして、エージェントは椅子を台車の前に置き、座ってキーボードを叩いて機器の設定を終えた。

 

「そうですね。一つだけ、教えてあげてもいいでしょう。あなたたちや私たちは、人間が持つ"感覚"というものを、外部からの刺激を電気信号に変換し、電子頭脳にフィードバックする事で得ています。この機械は、様々なパターンの電気信号を人形の感覚回路に流す事で、様々な感覚を強制的に疑似体験させる、というものです。試したところ、人間には効果が無かったのですが、自律人形には効果は抜群でした。わかりますか?つまり、あなたは体に傷一つ付けられる事なく、様々な感覚を様々な程度で体験して貰います」

 

 エージェントはAR15の周りをゆっくりと歩き回り、これまたゆっくりとした口調で語りかけた。

 

「わかりますか。私は苦痛から快感まで、あなたにどんな感覚でも無理矢理与えることができるのです。なかなか面白いことだと思いませんか?」

 

 AR15は沈黙したままだ。エージェントが彼女の顔を覗き込んだ。微かに呼吸する音が聞こえてくるだけだ。AR15の目の焦点は、完全にズレているようだった。彼女は、ただ、機能しているだけの状態だ。

 

「おやおや。機能してますか?先程、あなたを尋問していたアルケミストは粗暴過ぎましてね。情報を聞き出す前に、あなたを破壊しかねなかったもので、私が代わりを務めることにしました」

 

 エージェントはタブレット端末を取り出して、画面を数回タップした。

 

「まずは、これから始めてみましょう」

 

 エージェントが言葉を放った直後、AR15の背中に鋭い痛みが数回走り、彼女は悲鳴を上げて体を痙攣させた。しかしながら、AR15の白い背中には新しい傷は全くついていない。

 

「あがっ・・・・・!がはっ・・・・・!」

 

「ふむ。どうやら、効果はあるようですね。それに、声はまだ出るではないですか。意識もはっきりしているようですね。では、言いなさい。あなたたちが盗み出したファイルは他にどこにやりました?誰が持っているのです?ファイルのコピーは幾つあって、どこに保管されているのです?」

 

 沈黙。

 

「次は、こうしてみましょうか」

 

 次に襲いかかったのは、勢いよく振り下ろされたハンマーで両手両足を砕かれるような感覚だ。AR15は悲鳴を上げ、吊るされた状態でのたうち回った。

 

 そして、氷点下の氷水に全身を浸される感覚、真っ赤に熱した鉄串で体の至るところを連続で貫かれる感覚、高電圧の電気を体に流される感覚、炎で皮膚を炙られる感覚、万力のようなもので腕や脚、指の骨格を砕かれる感覚、高圧で噴射される水を浴びせられる感覚、化学薬品で皮膚を焼かれる感覚、首をワイヤーで締め上げられる感覚。全てが電気信号による擬似感覚として、AR15の体に刻み込まれた。

 

 しかしがら、AR15が口を割ることは無かった。全身に擬似的に与えられる苦痛に彼女は耐え続けた。AR15は肩を上下させ、音がはっきりと聞こえるくらい荒く呼吸を続け、半開きになった目で憎々しげにエージェントを睨み付けた。

 

「おやおや。まだそんな余裕がありましたか。しかし、単純に痛みを与えてやるだけでは無理なようですね。だとしたら・・・・・」

 

 エージェントは別の信号を設定し、送信の準備を終えた。

 

「ならば、これならどうでしょう?これは面白い反応が見られそうです」

 

 エージェントが信号を送信した途端、太く、固い物体で女性器と排泄口を無理矢理抉られる感覚がAR15に襲いかかった。

 

「ああああああああっ!」

 

 AR15は体を痙攣させ、絶叫しながら激しく揺さぶり続けた。勿論、実際にレイプされている訳では無いが、身体中に張り巡らされた神経回路が、それと全く同じ感覚をAIに送信し続ける。AR15の口の端から唾液が、目から涙が流れ出す。

 

「ひっ、ひぎぃ!嫌っ!やっ、やめっ!」

 

 エージェントは尋問部屋に置いてあった椅子から立ち上がり、壁にもたれかかって腕を組み、電気信号によって擬似的に犯されている戦術人形を暫しの間眺め続けた。

 

「やはり、素体もメンタルモデルも、元々人間の愛玩のために作られているだけありますね。これは今までのやり方より効果が期待できそうですが・・・・・・どうなるか見ものですね」

 

 2056年 3月15日 2346時 タジキスタン某所

 

 捕虜になっていた4人の戦術人形が、乱暴にリッパーの群れに独房から連れ出された。彼女たちは、部隊のメンバーと離ればなれになり、指揮官を探し回っている途中で鉄血に捕まったのた。

 

 リッパーはたちは、戦術人形をそれぞれ拘束したまま、別室へ連行し、金属製の台の上に置いた。その台には溝が縁まで掘ってあり、液体を流したら、それに沿って流れ、床に落ちるようになっている。

 

 部屋の扉が開き、アルケミストが現れた。まるで、標本になった蝶を見るような目で捕虜となった人形━━━ベレッタM38、56-1式、ワルサーPPK、イングラムM10を見た。

 

「全く・・・・悪趣味・・・・ですわね」

 

 PPKはアルケミストを睨み付けながら言った。しかし、武器と身体の自由を奪われている今となっては、何の意味もない言葉だった。

 

「おや、そんな口を利けるのも今のうちだ。最後に言いたい事はあるか?」

 

 沈黙。

 

「始めろ」

 

 サブマシンガンと盾の代わりにチェーンソーを持ったガードが前に出た。そいつはチェーンソーを起動させ、56-1式に近づき、彼女の左膝を切断した。

 

「ぎゃあああああああ!あ、脚・・・・脚・・・・」

 

 切断面から大量の人工血液が流れだし、リノリウムの床に広がる。ガードは再びチェーンソーを振るった。

 

「あががっ、し、指揮官、助け・・・・」

 

 続いて右膝から下の部分がボトリ、とリノリウムの床に落ち、人工血液の血溜まりが広がる。今度は、開かれた両脚の間から一気に肋骨のすぐ下まで切り裂かれた。飛沫となった人工血液と人工生体組織の微細な断片が空中に飛び散る。切断面から、ズルリ、と人工臓器の塊が落下し、ベチャッという音を立てて床に叩きつけられた。

 

 作業はものの5分で終わり、台の上とその周辺の床には"戦術人形、56-1式だった、切り刻まれた人工生体組織と炭素繊維の欠片の集まり"が残っていた。

 

 PPKとM38は戦慄した。まさか、あんな残虐な"処刑"を見せられるとは思ってもいなかったからだ。人工筋肉の破片を付着させ、人工血液を刃先から滴らせるチェーンソーを持ったガードがその場から去ると、電気ドリルを持ったリッパーが数体、現れた。

 

「あっ・・・・・あっ・・・・・・嫌・・・・・・」

 

 M38は目に涙を浮かべ、首を振った。だが、凶悪な工具を持った敵は、無情にも可憐な戦術人形に歩み寄る。M38は両脇から鉄血人形に抱えられ、処刑台に仰向けに拘束された。

 

 見るもおぞましい処刑が、絶叫に近い悲鳴と共に再開された。

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