2056年 4月2日 1332時 UAE ドバイ上空
4機のMH-60Mブラックホークが6機のAH-64Eアパッチ・ガーディアンに護衛されながら、かつては西アジア随一の栄華を誇った大都市の上空に現れた。
ブラックホークのキャビンから五十嵐智基はドバイの街を見下ろした。建物の多くは破壊され、崩れかけている。時折、曳光弾が上空目掛けて発射されるのを確認した。
『こちらハンター31、敵の対空兵器を確認。排除する』
無線から女性の声が聞こえた直後、アパッチの一番機がAGM-114Lヘルファイアミサイルを1発放った。ミサイルは標的に命中したらしく、やや遠くで火炎と黒煙が立ち上る。
『ハンター31、ターゲットを排除。引き続き護衛する』
五十嵐はこの光景を見て、自分のお気に入りの映画を思い出した。今でもグリフィンのネットワーク・オンデマンドで繰り返し観る、20世紀末に起きた、ソマリア内戦に置けるアメリカ軍の戦いを描いた作品だ。
本来ならば、日が傾いてから出発したかったが、今回ばかりは時間との戦いになるため、そこまで待つ余裕は無かった。その代わりにグリフィンの戦区司令部が寄越してくれたのが、この護衛のアパッチと、更に上空を飛んでいるMQ-9リーパーという訳だ。
昨日までは、UAE空軍のF-16が頻繁に飛んでいたらしいが、今はそんな様子は無い。だが、下を見下ろすと、ルクレールやBMP-3と共に、HK33やM4A1を持つ陸軍の兵士たちが進撃しているのが見えた。
まだ軍は負けた訳では無いらしい。だが、情報によれば、残っている部隊の任務は逃げ遅れた一般市民の救助であり、鉄血の掃討をしている訳では無いようだ。通りでは家財道具を満載した車が渋滞し、沢山の荷物を抱えた人々が列を成している。
「目標まであと5分!」
パイロットが叫んだ。その声に、五十嵐と416はそれぞれ太いロープを手にした。ヘリは高度を下げ、ムシャリフ・パークに接近した。
2056年 4月2日 1336時 UAE ドバイ
MH-60Mは公園の広場から、約10mの高度でホバリングを開始した。キャビンが開き、太いロープが勢いよく垂れ下がる。
「降下!」
五十嵐の合図でUMP9とG36がファストロープで地上に降り立った。五十嵐とUMP45が続いて降下する。2番機のヘリから、RO635とSV98が降下しているのが見えた。戦術人形たちは、続々とヘリから地上に降りていく。その間、ホバリングするアパッチがまるでメリーゴーランドのように周囲をぐるぐると回り、警戒している。
部隊の戦術人形たちはあっという間に降下を終え、五十嵐がヘリに向かって手を振ると、MH-60のクルーチーフが親指を立てて見せた。ヘリは強烈なダウンウォッシュを五十嵐たちに浴びせ、離脱していった。
五十嵐はM4とUMP45、416を呼び、タブレットPCに戦術マップを表示させた。他の仲間たちは、銃を手に周囲を警戒している。
「ターゲットは、ここから50km南に行ったところだ。帰りの分の弾薬も考えてくれ。敵を排除しながら・・・・・・」
「指揮官!」
SV98の声に五十嵐は頭を上げた。彼女が指し示した上空を見ると、つい先程まで自分たちを乗せていたヘリが、煙と火を吹きながらあっという間に落下していくのが見えた。
そして、轟音。向こうでアパッチが30mm機関砲やミサイルを放つのが見える。やがて、そのアパッチも地対空ミサイルを受けて墜落してしまった。
「畜生!」
「どうする?助けに行くか?」M16が五十嵐を見て言う。
「任務を優先しましょう。どのみち、両方を救助するのは無理です」そう言ったのはM4だ。
「指揮官、残念ですが、あの状況だとパイロットたちが生きている可能性はかなり低いです。それよりも、任務に集中すべきです。例え、生きていたとしても、重傷の人間を護衛しながら任務を続けるのは無理です」
RO635はM4に同意した。確かに、M4の考えは最もだ。それに、仲間たちは、負傷したパイロットを連れて歩いても、いざという時には、指揮官である自分を優先して助けるだろう、と五十嵐は判断した。
「救難信号だけ出しておきましょう。運が良ければ、味方部隊に拾って貰えるはずよ」
416はタブレットPCで作戦本部にメッセージを送信した。ジャミングで妨害されていなければ、司令部の誰かが受信するだろう。
「仕方が無いか。まずはターゲットに向かおう。地図は?」
「ここから真っすぐ南に向かって、3番目の交差点を左に曲がって真っすぐ進めばターゲットに到着するわ。勿論、敵に妨害されればそれだけ到着は遅れるけど」
「その前に、助けに行く部隊がやられなきゃいいけどな」
「それと、ミイラ取りがミイラにならないようにな」
そう言ったM16はニーリングの姿勢で東の方を警戒していた。今のところ、鉄血の連中が近くをうろついている様子は無いが、接敵するのも時間の問題だろう。
「M16、RO、あんたたちが先頭よ。間隔は5m空けなさい。しんがりは誰がいいかしら?」
「それなら、私に任せて頂戴」416にFALが答えた。
「それと、私も」とTMP。
「じゃあ、任せるわ。ファルコン、SV、敵を見つけたら、すぐに排除しなさい。先手必勝よ。鉄血だけじゃないで、ゲリラにも注意しないとね。RFB、無人機に接続できたかしら?」
「できてるよ」
「ならば問題無いわね。45、ナイン、G36、あなたたちは指揮官の護衛をお願い。広い通りはなるべく歩かないように気をつけて。間隔を空けて、左右に展開しなさい。あ、M9・・・・・・そうね。あなたも指揮官の護衛、お願いできる?」
「任せてなの!指揮官のことは、この人気者がちゃんと守るなの!」
「それじゃ、M14、FNC、M60、そしてM4。あなたたちは左を固めて。スプリングフィールド、スオミ、9A、RFB、AEK。5人は右側に展開しなさい」
416はタクティカルベストを兼ねた、分厚い防弾チョッキのストラップを締めた。新素材により、NIJ規格でレベルⅣの防御力を持ちながら、従来型と比べて3割ほど軽量化を実現させた新型だ。これはNATO加盟国の軍や自衛隊も採用しているものと同系統のタイプだ。
「さて、回り道はせずに、ターゲットには直行できる感じかな?」五十嵐がRFBに訊いた。
「ダメみたい。そこら中で鉄血が道を封鎖していて、簡単にはいかないかも」
RFBが見せたタブレットPCには無人機からの俯瞰映像が映っていた。通りのそこら中に敵が大勢屯していて、バリケードを作っている。
「仕方ない。遠回りして、安全なルートを確保しながら、支部のビルに近づこう」
「それじゃ、私がナビをした方がいいかな?」RFBが五十嵐に訊く。
「そうしてくれ。RO、M16。RFBが無人機からの俯瞰画像でナビをするから、それに従って歩いてくれ」
「わかりました、指揮官。RFB、まずはどう動きますか?」ROがRFBの方を見て言う。
「この通りを真っ直ぐ歩いて、突き当たったT字路を左にまがって、そのまま直進。そこからは右に曲がって。それと、高い建物が見える開けた場所は避けた方がいいかも」
「何故です?」
「理由は簡単。建物の屋上や高い階にイェーガーがいたら狙撃されちゃうでしょ」
確かにその通りだ。
「ま、イェーガーがいたら、私とSVに任せてよ。全部排除してあげるからさ!」
M14が意気揚々といった様子で二人に話しかける。彼女の銃のレシーバーの上にはピカティニーレールが追加され、それを介して狙撃用のスコープが載せられていた。