2056年 4月2日 1340時 UAE グリフィン ドバイ支部
R93は屋根の上で伏射の姿勢になり、スコープ越しに800m先の通りの状況を観察していた。彼女とは反対側の屋根のへりでQBU-88が銃を構えている。
やがて、扉が開きADSとAKS-74Uがやって来た。二人は周囲を見回し、ADSがR93に話しかける。
「状況はどうですか?」
「良くないですね。15分置きに向こうの交差点の辺りを鉄血の連中が歩いています・・・・・そろそろです」
R93がADSに双眼鏡を渡した。ADSはそれを使って、R93から指し示されたポイントを見る。丁度、リッパーとヴェスパ、プラウラーの集団が通りを横切って行くのが見えた。
「見ました?あんなのがこっちに向かって来たら、航空支援でも無い限りはおしまいです」
「武装ヘリからミニガンかグレネードランチャーを射てば、あんなの一瞬で屑鉄なのに」
「無い物ねだりしても仕方がないよQBU」
AKS-74Uが小隊の選抜射手を努める人形をたしなめた。とは言うものの、武装ヘリの支援が欲しいという点では、QBUに同意せざるを得ない状況だ。
通りの向こうにUAE陸軍のハンヴィーが現れ、射手が銃座のM2重機関銃を撃ち始めた。M4カービンを持った兵士たちが展開し、鉄血の集団目がけて銃弾を浴びせ始めた。12.7mm弾を食らったリッパーの腕が千切れ飛び、人工血液がぶちまけられる。ヴェスピドの集団がアサルトライフルを放ち、兵士を撃ち倒していった。
ふと、ヘリの音が聞こえてきた。砂漠迷彩に塗られたUH-60Mが4機、東の方から広い通りに向かって高度を下げているのが見えた。R93がスコープでそのヘリを見る。
「指揮官、UAE陸軍のヘリが来ました。東の通りに軍が・・・・・・」
爆発音と共にブラックホークのうち1機から黒煙が噴き出し、スピンしながら地面に向かって落下していった。後続の3機にも、ミサイルや曳光弾が命中し、ヘリは全て撃墜されてしまった。
「うわーん。軍のヘリが落ちちゃった。どうしよう・・・・・」
100式が双眼鏡でヘリの墜落地点を見て、クリモヴァの方を見た。目に涙を浮かべ、もう生きて帰られないのではと言わんばかりの表情だ。
「ま、まあ、あなたたちはメンタルのバックアップがあるでしょ。16LABで素体と一緒に復旧させて貰えばいいのよ」
「でも、でも、指揮官は死んじゃったらそれっきりじゃないですか・・・・・!」
「そうね。だから、そうならないように気を付けるわ。それと・・・・・・」
「指揮官!」
クリモヴァが後ろからいきなり聞こえた声の主を見た。PA15だ。彼女は右手に拳銃を、左手には衛星無線機を持っている。 PA15は無線機をクリモヴァに差し出した。
「グリフィンと連絡がついたよ!」
「ハロー?」
『ミス・クリモヴァか?上級代行官のヘリアンだ』
「あら、どうも。それで?いつになったら助けてくれるのかしら?こっちは敵に囲まれて、突破なんて無理な状況よ」
『1個中隊を救助に向かわせた。それと、その中隊の支援のために、1個小隊を急遽、そちらに向かわせている』
「あら、それは期待しても良いってことかしら?」
『状況が悪化しない限り、夕食はキャンプで食べられるだろう』
「じゃあ、そっちにコインを賭けるわよ。補給物資は届けて貰えるのかしら?」
『無人機を用意している。前方展開基地に補給廠があるから心配するな』
「わかったわ。じゃあ、その部隊の指揮官には急いでもらわないとね」
『まあ、期待してもらっても構わんぞ。通信終了』
雑音と共に無線機が切れた。多目的バッテリーはそこそこあるが、節約するに越したことは無い。クリモヴァは一旦、無線機の電源を落としておくことにした。
2056年 4月2日 1343時 UAE グリフィン前方展開基地
NH-90汎用ヘリががらんとしたエプロンに着陸した。すぐ上では、AH-64Eが2機、地上にいる人間たちを威嚇するかのようにホバリングしている。
NH-90のサイドドアが開き、中から長い黒髪の少女が降り立った。手にはブルパップ式のアサルトライフルを持っている。
続いて、黒髪をツインテールに結んだ少女が降りてきた。彼女は、最初に降りた少女と瓜二つの銃を手にしている。やがて、銃で武装した若い女性たちが合わせて10人、降り立つ。最後に降りた、FN-SCAR-Lを持つ女性が拳を握って、水平に円を描くように振り上げた左腕を回す。ヘリのパイロットは彼女に敬礼し、NH-90を離陸させた。AH-64が独特な重低音を響かせながら、その場から離れていった。
「さて、みんな、準備はいいかしら?」
降り立った小隊の指揮官、呉明が仲間たちに向かって言う。
ドバイか。憧れのリゾート地で、いつかは訪れたいと思っていた所だ。だが、ここは戦場となっていた。
ヘリパッドからUH-1YやNH-90が離陸する。向こうに見える市街地から対空砲火の曳光弾が飛んでいくのが見えた。
「さて、ここからは陸路か空路か。どちらを選ぶにしろ、非常に危険なことには変わりは無いわね。79式、どっちが良いかしら?」
「これは何とも言えないですね。敵の対空兵器の配備状況次第だと思います」
「まずは、カリーナを探さないと。多分、指揮支援部の辺りに・・・・・・」
カリーナの方が呉を見つけた。相変わらずラフな格好で、タブレット端末を手に持っている。
「呉さん!」
カリーナが駆け寄ってきた。
「カリーナ、状況はどうなの?この様子だと、かなり悪いみたいだけど」
「ええ。1個小隊が市街地に取り残されて、救助部隊を派遣したのですが・・・・・」
遠くからヘリの轟音が鳴り始めた。空を見上げると、MH-60LやUH-1Y、NH-90、AH-64Eといったヘリが30機近い大編隊を組んで一斉に戻って来るのが見えた。ヘリは空中で整列し、かなり整然とした様子で次々と着陸する。
一体どうしたことか。これだけ纏まった数のヘリが一斉に着陸するというのは、普通ではなさそうだ。
ローターが回る音で、話を一時中断せねばならなかった。やがて、ヘリのエンジンがカットされ、基地は再び会話ができる環境になった。
「J小隊の皆さんには、取り残された部隊の救助に向かった部隊の支援に向かって貰います。場所はここです。ドバイのグリフィン支部の建物です。ヘリを使って・・・・・・」
カリーナは部隊輸送のプラットホームを表示させ、ヘリの手配をしようとした。だが、その直後、エラーメッセージが表示された。
「あれ?おかしいですね。ヘリの使用許可が出ません。どうしてでしょう?」
タブレットPCのメッセージアプリが強制起動された。そして、画面にヘリアンの顔が映る。
『カリーナ?ヘリアンだ。たった今、ドバイ上空にヘリを飛行させない決定を下した。敵の対空兵器で、軍は既に10機のアパッチと15機のブラックホークを失った。また、我々のプレデター無人機もかなり落とされている。これ以上、ドバイの上空にヘリを飛ばすのは危険だと判断した。ミス・ウーには悪いが、陸路で現場に向かって貰ってくれ。その間、別動隊を派遣して、敵の対空兵器を排除する。以上だ』
通信が終了した。
「何よそれ。私たちに支援部隊になれと言っておきながら、そのための足を出せないって言う訳?冗談きつ過ぎないかしら?」
「すみません、指揮官様。私には権限が無いんです」
「その代わりの足はあるのかしら?そうね・・・・例えば、歩兵戦闘車とか?」
「それならば手配できるかもしれません。少しだけ待ってて下さい」
カリーナはしばらくの間、猛烈な勢いでタブレットPCの上で指を動かした。
「これならどうでしょう?アルマータT-15IFV。勿論、予備の燃料に予備の砲弾やミサイル、機関銃も追加します」
呉はカリーナが差し出したタブレットPCの画面をしばらく眺めた。
「いいわ。早く手配してよね」