※この作品はR-18です。

共通序章置場   作:夢枕 七変化

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バースデーイベント 序章

 蜜柑の葉は今日も元気……って、あら?

 やだ、揚羽の幼虫だわ!

 発見と同時に、私は慌ててそれ用の軍手やら道具を手に幼虫と戦う。だって、虫ダメなんだもん。

 毎回命懸けよ。怯えてる私を見てノジコとベルメールさんがそこは成長しないわねって、よく笑ってたっけ。

 そんな時にふと、まだ緑色の蜜柑がいくつか見えて、少し嬉しくなる。順調に育ってくれてる事が、何だか故郷と私を繋いでくれてるような、そんな気がするから。

 風香る瞬間に、ふと思い出した。ナミちゃんの歌で蜜柑のがあったわよねと。

 題名何だっけ?

 蜜柑蜜柑って笑ってる所から始まったのは覚えてるんだけど……。ああ、思い出した。

 

 「蜜柑と風車」

 

 思わず言葉を音にして、私はそれを口遊んでいた。1度思い出せば自然と脳内に曲が流れ始める。

 ナミちゃんらしい歌。肩に刻んだ家族の歌。

 本来これを歌う権利なんて、私には無いのだと分かっているけど。それでも、自然と歌いたくなってしまうの。

 

 「ーーー」

 

 ナミちゃんの台詞だと分かっていても、何だか私が言っても違和感が無い気がするわ。本物より、中身は随分残念だけどね。

 

 「ーーー」

 

 蜜柑の香りと、潮の含まれた風が故郷を思い出させる。だからかな、蜜柑の傍に来る度に、ただいまって呟きたくなるのは。

 

 「ーーー」

 

 遠くて、懐かしくて……でももう、きっと帰る事なんてできない。そんな離れ過ぎたそれを思い出しているの。

 

 「ーーー」

 

 どんな時でも、ベルメールさんとノジコが私の心を支えてくれてた。例え頼ったり甘えたりするのが難しくても、2人は私の大切な人。

 いつの間にか、守る対象だと思っていて、甘えられなくなっていた。それでも、愛しい人達である事に何ら変わりはないのよ。

 

 「ーーー」

 

 私が自分で決めたの。守るって事を。

 誰かに強要されたんじゃない。私が自分の意思で決めた、数少ない事なのよ。

 

 「ーーー」

 

 私が笑ってる事、大切な人と共に夢を追いかけている事、伝わるといいな。私は犠牲になんてなってないよ。

 

 「ーーー」

 

 もし何かのタイミングでまた会えたら、伝えたい事があるの。ただ1言だけ、ありがとうって。

 

 「ーーー」

 

 今が幸せで、だからって訳じゃないけど、帰りたいとは思わないの。でもね、多くの事を知って行くうちに、余計に故郷が大切になるのよ。

 

 「ーーー」

 

 時に泣きたくなる時もある。2人は、皆はどうしてるかなって思って。

 弱気になって、全てから逃げ出したくなる時もある。存在する事が許されない気がする時もあるわ。

 

 「ーーー」

 

 それでもね、そんな時は思い出の中に居る皆の声が、背中を押してくれるの。私は、愛されてるって事をもう知ってるからかな。

 

 「ーーー」

 

 大丈夫だよ。私は今も歌ってる。

 噴水の前でノジコと歌ってたみたいに、今も大切な人の傍で歌ってる。村の皆に歌っていたのが、愛しい人へのそれへと変わっただけ。

 

 「ーーー」

 

 他の誰にも見えない、夢の地図を広げて、先へと進んでるよ。それを支えてくれる人が居るから。

 

 「ーーー」

 

 悔しいけど、私の口癖がね、なんか2人に似てきた気がするのよ。そんな些細な事も、虹の向こうにいる皆に届けばいいな。

 

 「ーーー」

 

 私は今、笑ってるよ。私は今、幸せだよ。

 明日もきっと笑ってる。そう、当たり前の事として信じられるようになったの。

 

 「ーーー」

 

 だからこそただ1言だけ伝えたい。大切な言葉を。

 

 「ーーー」

 

 空の彼方に居る皆へ、届け。祈るように、願い、歌う。

 歌い終えて蜜柑に水もあげ終えた所で、いつの間にか近くに居た愛しい人に背後から抱き締められていた。その腕が暖かくて優しいから、それに無意識で擦り寄ってしまう。

 

 「帰りたくなったか?」

 「何処に?」

 

 何を言われているのか分からなくて、思わず振り向いてその顔を見詰めると、何故か唇が降ってきた。それを甘受すればどうやら不安らしいとわかる。

 

 「……ばかね……」

 「ん?」

 「私の帰る場所は、ここだけよ」

 

 唇の隙間でそう言えば、何故か私を抱き締める力が強くなる。でも、腕力とかの違いを考えて欲しい。

 地味に、痛いから。てか、苦しいから。

 そうして私は暫く蜜柑の木が作る木陰にて、ぎゅうぎゅうと抱き締められていた。突然歌い出した事で不安にさせたのかなと思って、私は少しだけ申し訳ないような気持ちになる。

 この時はまさか、今日が私の誕生日だなんて事を、私はすっかり忘れていたのだ。それにより、この後何が待ってるのかなんて事、当然欠片も理解はしていなかった。

 Happy Birthday私。今の人生を、私はこれで案外、楽しんでるのよ。

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