今回は少しだけ、今までより足を伸ばしてみようかな。そんな事を思って船を進める。
私が未だ海図を描いてない地域で、それでも可能な限り近場を選んで狩りを行っていた。だからカリーナと、狩りの相手が重なるのでは無いかと気付いたのだ。
出会わなければ、巻き込まなくて済むわ。まだ歳若い少女なのだから、厄介事に巻き込むなんてしたくない。
船を進めて
海王類が狩りをする関係で、船は獲物だと思われて襲われるのよね。だとしたら、小舟や樽なら……そうよ、エースのストライカーは凪の帯を移動出来たわ!
ストライカーでは魚人島を通過できないから、凪の帯を渡れたのは間違いないと前に良く話して……。……誰と、話してたんだろう、そんな事、話せる相手なんて、いる筈ない……のに。
頭が割れるように痛んで、誰も居ない事が心に油断を呼び、情けなくも小さく呻きながら小舟の中で丸くなる。その間に、僅かな波に揺られて船は凪の帯へと侵入していた。
頭痛が落ち着いた時には現在位置が分からなくなっていて、困ったわと溜息を1つ。でも実際予想は当たってたみたいで、海王類に襲われる事はない。
仮定が確定となったのは嬉しいけど、さてこの先どうするかよね。海の真ん中で目印も無い中では、何処へ向かうかなんて決めようが無い。
その時微かに人の声が聞こえて視線を向ければ、どうやら凪の帯に限りなく近い所に停泊してる船があるらしいと気付く。そっと近付けばどうやら海賊船だと分かり、これは幸いと侵入を試みる。
何処かの島に到着する迄潜伏して、貰う物貰ってからおさらばしましょ。……と、ほくそ笑む私は、その船に誰が乗っているのかわかっていなかった。
船内に女は1人だけいるらしいと考えながら、宝の位置と船の見取図を把握して宝をそっと盗み出した。どうやらこの船の目的地は……アラバスタらしい。
だとすると少し厄介ね。クロコダイルは、ロギアであり覇気を使える筈だもの。
ルフィとの戦いで覇気を使わなかったのは、ルフィを甘く見てたから。そして、後半にはそんな体力的余裕が無かったからだもの。
そもそもロギアである時点で、普段は必要としないのだから、使えても使おうと思わないのはよく分かる。クロコダイルと遭遇せずにここを出るには、貰う物を貰ったんだから後は逃げるしか……その時、妙な音と女の呻き声が聞こえて動きを止めた。
……今の、声。まさか……?
初めて聞くのに、懐かしいその声。まさか、まさか!?
そっと音のした部屋に忍び込めば、海楼石であろう鎖で縛られたロビンがいた。ポニーテールにしてても、間違える事なんて有り得ない。
基本的に有名所の女達は、美しいと言われていても結局は可愛い顔立ちをしてるこの世界で、ロビンは明らかに美しい顔立ちをしてる。その美人が暴行を受けていて、私はどうしたら助けられるだろうかと視線を動かす。
すると、蹴り飛ばされたその場所で私を見付けたロビンが、静かに目を伏せた。諦めたような顔で。
けれど私の存在を他に知らせるでも無く、静かに暴行を受け入れ、男達に視線を投げる。そして言ったのは、ただ1言。
「気はすんだかしら?」
その言葉に逆上して殴りかかろうとする男を、別な男が押さえる。殺しては不味いと言って。
そうして忌々しそうにそいつらが出て行くのを見送り、私はそっとロビンの元へと駆け寄った。警戒するようにビクリと身体を震わせるロビンに、持っていた物で簡単に治療をしながら、その耳元でたずねる。
「このまま船でアラバスタ迄連れられて行くのと、私と逃げるの、どっちがいい?」
「……貴女と、逃げる?」
「私、泥棒なの。海賊専門の」
「……私と1緒に、逃げて、くれるの?」
僅かな期待と、多大なる不安をその瞳の奥に宿しているのが分かり、私は頷いた。大丈夫、私はロビンを裏切らない。
私は泥棒。海賊が求めるお宝を、手にしたお宝を奪い取るのが私の役目だもの。
だからと言って、1度手にした大切な宝を粗末に扱うつもりは無いわ。ロビンを苦しませたりしない……!
「勿論よ。貴女もお宝でしょ。……大切にするわ」
「っ!でも、私は」
「もし、良かったら……比較的安全な島に案内するわ。落ち着くまで、居られそうなところ。……私の村は、ちょっとリスクが大きいから案内できないけど、安全に暮らせそうな村ならいくつか知ってるのよ」
「……ありがとう」
戸惑い怯え、そして警戒しながらもそう言ってくれたロビンに頷いて、私は鎖を外しながら言う。船があるから2人でも逃げられるわと。
それにロビンは頷くから、そっと肩を貸して部屋を出ようと立ち上がり……クリマタクトで幻のロビンを作り出せばロビンが驚いた顔で私を見た。それに対して唇に指先をツンとして笑えば、何故か泣きそうな顔で俯くから急いで侵入した時の船に向かう。
小舟で脱出した直後に、その船と進路を大きく変えて進めばロビンが慌てたような声を出すけど、今は構っていられない。何せ、サイクロンが来る……!
「今は待って、このままだとサイクロンにぶつかるわ!……あ、あの幻は持って2時間だから、それ迄に身を隠しましょう」
「貴女、名前は?貴女も悪魔の実の能力者なの!?」
「私はナミ。悪魔の実の能力者じゃないから、海に落ちても助けられるわよ。よろしくね……お姉様」
笑いかける。名前を呼びそうになるのを必死で耐えながら。
そんな私に、ロビンは戸惑いを残しながらも名を告げてくれた。だから私はそれを受けて堂々とその名を呼ぶ。
「私は、ロビン……よ」
「ロビンも漕いでね!時間が無いの!」
私の言葉に従い漕ぐのを手伝ってくれたロビンのおかげで、無事にサイクロンをやり過ごした後で、どうやらここが
そうして私とロビンは小舟の上で他愛無い話を繰り返しつつ、途中で見付けた島に立ち寄ったけど、そこは無人島。そこで食料補給を行い、ロビンに現在位置が分かるかを確認してみると、大体ならと言ってくれたので
ロビンはそれに驚いたような声を出すけど、だからこそ、追い回されなくなるだろうってのがある。そして、最弱の海だからこそ、ロビンの実力なら捕まる事も無く安全に過ごせると思うのよと笑えば、何故か強く抱きしめられてしまう。
「ロビンは、私の大切な宝物よ。ロビンが無事で居られると分かるまで、手放したりしないわ」
「ナミ」
「大丈夫。ロビンを苦しめるつもりなんてないから。……私の村が安全なら、連れて行くんだけどなぁ。私の家族皆女だから、そういう意味でも安全なのよ。でも、今はちょっと……工事中でね、危ないの」
私の言葉にロビンは笑ってくれた。それから私はロビンと共に東の海へと帰り、宝を換金したりしながら同じ時を過ごして行く。
そんな日々の中で、私がアーロンの元へと戻る時ロビンは待ってるわと言って無人島に残るのを繰り返し、そんな生活が半年程続いた。そうしていれば当然カリーナと出会う事もあったし、海賊達と戦う事も幾度もあったのだ。
けど、ロビンは自分が〝
「ナミ待って!あ……ロビン姉さんはそっちで待ってて。ナミに話があるの」
そう言ってロビンから引き離したカリーナは、私の肩を強く掴みロビンに聞こえないように小声で怒鳴る。器用な事するわねと思いながら見れば、カリーナの表情が般若のそれに変わっていく。
けど、どうしたって私にはカリーナが可愛くて仕方ないのだ。だからニコニコしていたら、肩を掴んだまま大きく揺さぶられてしまう。
「ナミ、あの女が誰だかわかってるの!?」
「えぇ、勿論。ロビンよ。私の親友」
「そうじゃなくて!あの女は「手配書の金額も、何故手配されたのかも全て知ってて……私の宝物って呼んで連れ出したのよ。ロビンは、暗闇にいるべきじゃないわ」」
それ以上言われせる気は無かった。だって、ロビンはきっと聞いているから。
それに、聞いてなくても言わせたくなかった。大切な妹みたいな子が、大切な親友を悪く言うのを聞きたくなかったの。
「私に力があれば……ロビンの夢を叶えながら私の夢も叶える為に世界に飛び出すんだけど……私は、まだ東の海を離れられないの」
「ならナミは、全部知ってて助けたの?どうしてそんな危険な事を!?」
「ロビンは何も悪くない。ロビンは被害者でしかないもの。それに……私は、ロビンの事が好きなのよ」
「……私の事より、も?」
泣きそうな顔で、身体を震わせて。何を言い出すかと思えば……。
そっとカリーナの事を抱き締めて、その背と頭をヨシヨシと撫でる。初めてできた友達を取られたくなくて、必死な幼児のそれと似てる気がした。
私も、ノジコに近付く相手に威嚇しそうになった事があるわ。ベルメールさんやゲンさんが他の人に優しくすると、捨てられるんじゃないかって……怯えた事がある。
でも、それは杞憂なの。捨てられるなんて、有り得ない事なのよ。
それぞれが別な個体で、それぞれが別な関係性を築いてる。だから、新たな関係性の人間が生まれても、それだけを理由に捨てられる事は有り得ないの。
「カリーナとロビンは別個体でしょ。カリーナの事は可愛いわ。妹みたいに思ってる」
「……妹……。ねェナミ、それなら三人で泥棒団を結成しない?」
「え?」
「説得なら任せて。私がロビン姉様を落としてみせるわ!ナミは猫っぽいし昔から泥棒は猫って表現されやすいから……〝
そう言って笑ったカリーナに、考えておくわと笑ってその場を離れるとアーロンの所で数日を過ごした。そして、いつものように出発しようとした時花の香りが漂い……。
「ナミ」
「ロビン……?」
どうしてここに。どうやってここまで。
問いかけるより早く紡がれる言葉。それは、黒いオーラを纏っているように思えてしまう程、壮絶な凄みを持っていた。
「私が誰だかわかってて、それでも守り続けてくれたナミが、私の妹として世界に羽ばたくのを邪魔する要因……取り除きに来たわ。……工事を、終わらせましょう」
そう言って微笑んだロビンが、手を上に上げると始まったのはアーロンパークへの突然の砲撃。そして、海軍本部の軍艦が見えた。
何が起きているのかと声を無くした私に、カリーナが飛び付いてきた。そして言ったのだ。
大将青雉に、東の海のコノミ諸島にて魚人海賊団が陣を張り、その場で見目麗しい人間の女が数人囚われていると。その中にどうやら〝悪魔の子〟が紛れているらしい……と。
「なんですって!?そんな事をしたら、ロビンが危ないじゃな「大丈夫よ、私は水色の鬘をつけて……貴女のお姉さんが黒髪の鬘をつける事になってるの」」
「え?」
「そう手配書の女だと勘違いした少女、囚われの少女達と、それらの命を盾に取られたナミって構図よ。問題ないわ」
青雉は覇気が使えるから分かっちゃう気がするわと思いながらも、でもそうよねと思って頷く。名前も、その時だけ入れ替えて呼べばいい。
「なら、解決するまではロビンをノジコ、って……呼ぶからね」
「わかったわ」
そうして大将である青雉を騙し切れたとは思わないけど、なんとか騙してアーロン1味を壊滅に追い込み、連行してもらった。私は海軍の手で刺青を家族の印に変えてもらい、それに感謝して笑う。
青雉が去った後、宴を開くそれを3人揃って少し離れて眺めてから、私達はそっと旅立った。泥棒団猫瞳としてこの先を生きる為に、それぞれの夢を叶える為に。
波間の向こうを目指して、三人組の女達は進んで行く。希望なんて見えないけれど、絶望ばかりではないと彼女達は知ったから。
この先彼女達が奪う物は、お宝ばかりではなかった様子だが……はてさて、その被害者は如何程になるのか。それはまた、別なお話。