久々に降り立つ大地に、僅かに浮き足立つ自分の心を自覚する。海は好きだけど、私は海賊になりきれてないんだなとこんな時に痛感するのだ。
だって、どうしたって陸にいる方が落ち着くもの。そう言えば1人で島に降りたのは何時ぶりだろうと少し考えながら、忙しそうにしていた大切な人を思い出す。
その時ふと視線を向ければ、笹竹が風に揺れているのに気付く。見れば大小様々あると分かり、もしやと思って近付けば販売してると分かった。
懐かしいな。そう言えば、そろそろそんな季節かも。
島を移動するだけで、下手したら1日の中で何度も季節が変わる不思議な海に居ては、季節感なんて殆ど無いのだけど。
「おや、観光かい?」
「え?はい。ここは観光が盛んな島なんですか?」
「あら!知らないで来たのかい?ここはタノシーミ島だからね、お祭り系の事はなんでもやる島なのさ。だから年中無休で旅行客が来てるんだよ」
「毎月と言うか、日替わりで色々あるでしょ、それ」
思わず口にした言葉に、店主は楽しそうに頷く。季節のイベントは語呂合わせや地域性のあるもの、国別等で見てしまえば毎日何かしらのお祭りやイベントが存在する。
日本でもお馴染みのバレンタインやホワイトデーなんかは、中国では毎月14日にあるイベントの内のたったふたつでしかない。なのでイベントを毎日やってるのかと思って問い掛けると、流石にそれはしないと言われた。
どうやら島を4つに分けて、週替わりでイベントを開催するらしい。選ばれるイベントがどういう形式で決まるのかまでは、この島に住む訳でも無いので割愛する。
そうして話を聞けば、この地域は七夕を任されたから、その道具等をそれぞれのお店が販売してると教えられた。それにより船に居る人数を伝えてから私はそれに合いそうな笹竹を選ぶ。
七夕をやるなら必要よねと考えて、書き損じる事を想定して人数×3の短冊。その他、飾りを作るのに必要になりそうな小物や折り紙等の材料を用意してもらうと、全て船まで届けてくれるようにお願いして手配する。
その後少し島を散策して、浴衣を1着衝動買いしてから船に戻り、部屋で島の地図を描いていく。折角来たんだもの、ちゃんと残しておきたい。
地図を書き上げた私は、今度は鉄笛を取り出して音を確認しながら有名すぎる七夕の歌を描いていく。譜面として販売できる頃には、七夕終わってるわよねと微かに思いながら。
「たなばたさま」
この歌の歌詞が理由で、きらきら星って題名だと思ってる人がたまに居る。でも、この歌はたなばたさまであり、きらきら星はカノンの曲に歌詞をつけたものだったと思う。
記憶が曖昧だわ。違ってたらごめん。
「ーーー」
そう言えば〝のきば〟がなんだか分からない人も今は増えてるのかな。この世界だとワノ国でしか通じないかも。
〝のきば〟は〝軒端〟で古い日本家屋には当然あった場所。雨が降ることも多い季節だから、当日まで軒端に飾られていた事に由来する。
別な言い方だと、ひさし……屋根の壁より外側に出っ張ってる所ですね。なので縁側に座ってるイメージだと、この歌の意味も理解しやすくなるかも。
「ーーー」
物語が星にちなんでるから、星そのものと、歌が作られた時代にあった今で言うラメのような物を歌詞に入れられている。〝砂子〟とは、襖とかの彩色や装飾として入ってる金色のアレなんだけど……今は襖の無い家も多いから、若い人だと分からないかなぁ?
あ、色紙に入ってる金粉、アレです。卒業式とかの時期に、寄書きに使った事あるんじゃないかな?
「ーーー」
短冊は時代と共に折り紙等で代用されるようになり、五色では無くなったけど、元々は五行属性の色で五色だった。なので元々は青、赤、黄、白、黒を意味したの。
五行とは陰陽道……安倍晴明が使ってた事で有名な物で、現在でも茶道や風水なんかではその考えが根強く残ってる物の、根本的な思想の所にある自然界における五つの力を意味するのよ。木、火、土、金、水。
並べてみるとわかりやすいかも。そう、見慣れた曜日のそれ。
元々陰陽道が元で暦……カレンダーが作られたからそれが使われてるの。それもあって、五行には色が定められているわ。
それが先に説明した五色。ただしこれは、同じ属性でも色を二つ、三つと有してる事もあるので、地域によって多少異なる事もあるけど、大筋ではこの色が使われてたってのを紹介してます。
それぞれの色は……え、その話は良いから早く本筋に戻れって?もう少し聞いてくれても良いのに。
コホン……。ただ、墨で文字を書くのと、色そのもので黒が縁起が悪いと言う事で紫を使っていたので、黒の短冊を使う地域は基本的に無いと言えるわ。
「ーーー」
皆の願いを星々と幸福なカップルが見て、微笑み合う。そんな終わり方をするんじゃないかと思わせてくれるこの歌は、短いけど後世に残して欲しい歌である。
歌いながら描きあげたその譜面を見て頷いていたら、背後から拍手の音が聞こえて、私は驚き振り向いた。そこには私の大切な人がいて、聞かれてたのかと思えば頬が熱を持つ。
そうして俯いた私に、ゆっくりと歩み寄るその人は、私の描いた譜面を眺めながら、もう1度歌うようにと願うから……仕方ないなと言いつつ、私は唇を動かし始めた。皆様も楽しい七夕祭りを出来ると良いですね。
そして、皆の願いが叶えば良い。大切な人と共に過ごせる時に感謝して、幸福で優しい時を過ごせる事を、私は切に願っている。