恐ろしく感じる程の風の音。そんな中で、私を抱き締めて離れない愛しい存在。
そっとその腕から抜け出して、枕を代わりに差し込んでから毛布をかけておく。大丈夫だとは思うけど、風邪でもひかれたら困ってしまう。
大切な、愛しい人……。そっとその頭を撫でてから、起こさないように気を付けつつベッドから抜け出せば少し寒く感じてしまう。
……今寒いと感じているのは、心なのか、身体なのか。とりあえず漸く尻尾が消えてる事に胸を撫で下ろして、ズボンをはいてしまう。
つい最近まで尻尾が気になって、スカートとTバックになってたから普通の服装になれた今が、本当に嬉しかったりする。もうすぐ到着する筈の島は、風が強い事で有名なのは本で読んで知ってた。
だからこそ、スカートでしかもTバックなんてのは論外だったのである。甲板から島を見れば流石はこの世界で風が強いと言われるだけの事はあると思わされる程に、強い風が吹き抜けているのが理解出来た。
何せ、樹が斜めに生えているのだから。それも、相当太い樹なのが溜息を吐きたくなる要因だと思う。
つまりは風が吹くのは、大抵決まった方角であることも示しているのだけどね。よく見れば島はどうやら春島のようで、見慣れた植物が沢山ある事に気付く。
懐かしくて、切なくなる。……前世でどんな生き方して来たのか、ろくに覚えてもいないくせに、懐かしいなんて不思議。
植物から視線を動かせば、島の奥の方では色とりどりの屋根が見えた。それの正体が、おそらくはショッピングモールのような場所だと分かれば到着が異様に待ち遠しい。
春や秋の物は案外持ってないなと気付けば、買物に誘うのも良いかも知れないと思う。その時ふと、先日猫になった時の事を思い出す。
気付いてくれたお礼に、何かプレゼントするのも良いのかな。あ!でも、何か作る方が喜ぶかも。
そんな事を悶々と考えていたら、比喩ではなく飛ばされそうな程に強い風が吹いて来た。それにより肩に羽織ってたショールが飛ばされてしまえば、慌てて手を伸ばすけど間に合わない。
海へと向かって行くショールは、きっとこのままでは水没を免れない。風が強くなければ月歩で取りに行くけど、この風では私も飛ばされかねないわよね。
それでも必死で手を伸ばすのは、失うのが惜しいから。風向きが変われば、なんとか届くかもなんて期待を込めて、伸ばした手を引っ込められない。
それを難なく風から取り戻してくれた人は、呆れた様子で近付いてそのショールを巻き付けてくれた。でも、私としては内心ドキドキである。
私の小物は、案外……その、無意識の内に好きな人をイメージした刺繍を入れてるから、当然このショールにもしてある訳で……。本人にそれを見られたら、恥ずかしいなと思ってしまう。
「あ、ありがとう……」
「海に落ちなくて良かった」
それは、私が、なのか。それとも、ショールが、なのか。
どちらにしても、心配そうにしてくれる事が嬉しい。きっとそう、嬉しいと思えるようになった分、私はこの人に甘えているのだろう。
「ふふ……」
「ん?」
「私、甘ったれになったなぁって思って」
「……足りない」
何が足りないの?そう尋ねる前に、再び訪れた突風により言葉は遮られてしまう。
だって、ショールが風に飛ばされないようにと強く掴んでいたら、私の足が浮いてしまったから。そして人間、咄嗟の時は月歩を使うなんて考えは浮かばないものである。