予定には無かったその島に上陸したのは、私が原因だと言う事をちゃんと分かってる。じっと見えた島を睨み、市販されている地図に無い事を指摘したのが多分、この島に来る事になった直接的な理由だもの。
船がその島に到着するのと同時に、何故か誰かに呼ばれてるような気がして、測量して来ると言い残して飛び出してきたけど……。何だろう、この変な感覚。
生い茂る植物は図鑑でも見た事の無いような物が多い。なのに、危険は無いと判断してしまうのは何故なのかな。
奥へと進むと小さな花が咲き乱れている場所についた。見た事の無い花は可愛らしく、何処か儚い。
この世界の特有の物なのかな?
知らないその花を極力踏まないように避けて歩くと、川岸に到着した。そこで腰を降ろしてここ迄の道をメモに記していたら、ふと泣き声が聞こえて私は慌てて立ち上がると辺りを見渡す。
……何処から?
声に導かれるように歩くと、そこに小さな……と言うか明らかに乳幼児と思われる存在が落ちているのが見えた。近くに人の居る気配は無いし、ここは明らかに無人島だと言うのに。
それでもその子供を見捨てるなんて選択肢は、少なくとも私には存在しない。そっと手を伸ばしておくるみに包まれたその子供を抱き上げると、ベルメールさんもこんな気持ちだったのかなと思う。
ベルメールさんが私を拾ったのは21歳の時、3歳のノジコと1歳の私を引き取り育ててくれた事を思い出す。21歳なんて、日本ならまだ大学生だと言うのに。
本当にベルメールさんは偉大だわ。そんな事を思いながらも、子供の親が近くに居たりしないかと泣き喚く子供をあやしつつ探すけど、姿は見えない。
お腹がすいたのかな?
それともオムツかな?
そう思って、その子供の顔をのぞき込んだ時、私は思わず息を飲んだ。いつも私を抱いている彼と、本当に良く似ていたから。
これで女の子って事は無いだろうと言いたくなる程に、彼をそのまま小さくしたようなその姿。それに、思い当たる節は無いか聞くだけ聞いてみるか……それとも聞いたら殺されるかと少し考える。
浮気をするとは思わないけど、聞き方間違えたら疑ってるとしか思われなくなるから、私の命が危険になる。それに、子を宿してる女がいた事を知らなかっただけって可能性も有るわよね。
でも、どちらにしてもこれだけは聞くつもりだったから、連れて帰って聞いてみようと思う。この子を育てても良いですか?って。
それにしても、泣き止まないわね。私のあやし方が悪いのかしら?
「どうしたの?お腹すいたの?」
問い掛けると小さな手が私の上着を掴んだ。それにより少し引っ張られて子供に顔を近付けると、その小さな手が顔に伸ばされる。
求められるままに顔を近付けると子供はそっと私の頬にキスをして、笑った。見慣れた彼と良く似た顔で、無邪気に笑ったのだ。
そろそろ歩き出してもおかしくなさそうな乳幼児のそれを見て、恐らく1歳になったばかりかなと思う。だとするならば、まだもう少しミルクが必要な筈で、ここに残す選択肢は無い。
育てるのがダメだと言われたらせめて、里親は探してあげたい。子供を抱く腕に、知らず力が籠る。
「あー……ぅ?」
「泣き止んでくれてありがとう。これからお船に向かうけど、良いかな?」
「ぅー?」
……やだ、本当に可愛い。彼にもこんな時期あったのよね、きっと。
今の姿からだと全く想像出来ないけど、きっとあった筈よ。どれ程人間離れしてるように思えても、結局は人間なんだから。
そんな事を思いながら、子供に笑いかける。
「私はナミって言うのよ。お名前……あってもまだ、言えないか」
まだ言えてもママとか、パパが限界値の頃の筈だと小さく笑うと、船へと向かって歩き出す。その揺れが楽しいのかキャッキャッと笑う男の子に、つい笑みが浮かぶ。
「まんま……まー……」
「……うん、ごめんね、まだママになっていいか分からないのよ。とりあえず、戻ったらご飯にしようね」
母か飯かは知らないけど、何かを求める子供に自然と表情は綻ぶ。私はだからこそ、そんな事を言いながら来た道を引き返して行く。
愛しい彼に良く似た子供を胸に抱いて。何故か彼が船でヤキモキしながら待ってるような気がするので、極力急いで船へ向かって歩む。
その間中子供は私の上着や髪を引っ張って楽しそうにしていて、それが本当に愛しくてたまらないのは何故なのか。似ているだけでこんなにも愛しく想えるなんて不思議。
それでも手放したくないと、こうして抱いていたいと思うのは、きっと彼に似ているから。この子と離れたくないななんて、そんな我儘な願いが私の胸に広がっていた。
必要に応じて序章を掲載しておりますので、順不同です。