珍しく外で2人で呑もうなんて言われて、それに少し浮かれつつ着いて行く。そうして、居酒屋ではなくホテルのBARへと連れて行かれた事に少し驚いてしまう。
自然な動作で席につくと、迷わず酒を頼む。そうして夜景が綺麗だと聞いたとかなんとか言いながらグラスを傾けるその姿に、私は何とも言えないむず痒さを感じつつもありがとうと笑った。
何杯呑んだか分からなくなってきた頃に、カクテルの種類が書いてあるメニュー表に、シンデレラカクテルを見付けて、ふと思い出して口を開く。勿論その直前に次のカクテルを1つ追加で注文してから。
「私の書いた作品に〝白雪姫〟って言うのがあるのは知ってる?」
私の問い掛けに頷いてくれたので、知っててくれた事が嬉しくて笑えば、それがどうかしたのかと不思議そうに問われる。それと同時にバーテンダーが私の注文したお酒……
赤い色のこのカクテルは、ベースはリキュールでウォッカ、パイナップルジュース、レモンジュース等で作られている。アルコール度数もこうしたストレートやロックではないカクテルにしては高い方で、30度ある為1般的な女性には怖いお酒だったりするのよね。
果物の味が強く感じられて呑みやすいので、強いと知らずに飲んで夢の世界へ行ってしまう人も多いカクテルだけど、今日は会話的にこれを呑みたい気分だったのだ。余談だけど、このお酒は紫色のタイプもあり、そちらはフルーティな感じではない。
だから大人向けな雰囲気のお酒になるけど、名前は同じなので注文する時にどっちの色か確認してみるのもいいかも知れない。ただし、どちらもアルコール度数は高く、賞味期限が15分という恐怖のお酒なのでのんびり呑みたい人には向かないかも知れない。
……それにしても本当に、美味しいわ。バーテンダーの腕が良いのか、それとも隣に居る人のお陰なのか。
カクテルを口にして、その果物の味を楽しみつつ視線を向ける。……童話の王子様って感じじゃないけど、まぁ、いっか。
「騙されて毒の林檎を食べさせられたお姫様は、王子様からの優しいキスで息を吹き返すんだけど……まぁ、実際には有り得ないわよね」
いくらファンタジー系なこの世界でも、流石にそれは無理だと分かってる。それでも……夢を見るくらいは許されはしないだろうか。
「好きな人からのキスで目覚めるとか、憧れるわ」
「キスで毎朝起こしてやろうか?」
「……お願いしちゃおうかな」
あ、駄目だわ。私なんか酔ってる気がする。
「風に、当たってくるわ」
そう言って立ち上がったのは間違いない。その直後にバランスを崩した私は、受身を取る事も失敗して頭を強打したのだった。
慌てたような声が聞こえた気がして、でも、その声が〝誰の声なのか分からなくて〟自分に違和感を覚えつつも、暗い所へと意識だけが落ちて行った。その途中、誰とも分からなくなっている相手に、縋るように手を伸ばして願う。
どうか〝必ず、迎えに来て〟と。そうして私の意識は深く沈んで行った。