それの続きが、海軍パロ及び軍狂になります。
上昇海流に乗り樽で浮かび上がれば、サイクロンが近いのを感じ取れた。私は流れに乗ってきた木片を掴むと、波間を見て樽の上から漕いで移動を開始する。
その時誰かが私の事を掴んだのを感じて、激痛に呼吸を1瞬忘れる。そう言えば認知症の人の死因に多いのが、呼吸する事を〝忘れて〟しまう事による窒息死だと聞いた事があるななんて、そんな余計な事を思った。
意識を取り戻すと私は何故か、海軍の服を着た人達に囲まれていた。痛みは軽減しているから、治療をされたのかも知れない。
視線を回らせれば武器達はすべてサイドテーブルに置かれていて、私はそっとそれらを手に取る。動いた事で傷は確かに痛むけど、この海兵達が味方とは到底思えないのだから仕方ない。
アーロンの指示で見張っていたのではないと、どうして言いきれる?
布団の中にある体は包帯が巻かれているけど、衣服は無い。視線を向ければボロ雑巾のようになって落ちているのが見えて、成程と思う。
服を着ていない限り胸元に隠すのも困難だし、仕方の無い処置だと思う。そして私は、海兵の様子を見る。
私が動いていたからか、私が意識を取り戻した事に気付いた様子の海兵が、無言で手を伸ばしてきたのを咄嗟に振り払う。もう、反射的なもので自分でもどうにも出来なかった。
「触るな」
思ったよりも低い声が出たなと思ったけど、海兵はそれを受けて1瞬動きを止めてからその表情に怒りを滲ませた。……全く〝正義〟を掲げる海軍が聞いて呆れる。
子供、それも怪我をしている少女1人にこの反応。ろくなもんじゃ無いわね。
「てめェ、何様のつもりだ!えェ!?助けて貰っといてなんだその態度はよ!……だいたいその肩、何処かの海賊の1味だろうが!」
「……乙女の柔肌に無言で触れようとした方が悪いんじゃないかしら?それに、そんなに毛嫌うならば、助けなければ良かったでしょう。私なら樽で充分海を渡れたわ」
思わずそう返して居たけど、恐らく海を渡る事は本当に出来たと思う。あの時確かに海流が見えたから、少し動かせば後は勝手に運んでもらえた筈だから。
そう思った時、パンパンと言う手を叩くような音が聞こえて視線を向けると、見知らぬおっさんが立っていた。その顔を見て、これ良くない奴と思った私は咄嗟にクリマタクトに手を伸ばして雷雲をゆっくりと生み出して行く。
私に突っかかっていた奴は、慌てて姿勢を正して居るから、上官なのだろう。見知らぬおっさんが、私に向ける視線は思わず顔を顰めたくなる程に下卑たもので……。
「そいつの相手が嫌なら、俺が相手をしてやろうか?今は偶然にも時間があるから、お嬢ちゃんを満足させてあげられると思うけどな」
「お生憎様、私もう売約済みなの」
嘘はついてない。今の私はアーロンの所有物だから。
でも男は違う意味に取ったようで、生意気なと言うと私に無遠慮に手を伸ばすから、クリマタクトに電撃を纏わせて殴る。それによりおっさんが倒れると、外に居た海兵達も何事かと中に入って来て5対1の構図になる。
私は問答無用でそいつらにサンダーボルトテンポをかまして、倒れた男達の間をミラージュテンポで姿を消してから飛び出して行く。私が飛び出すのと入れ違いで入って来た男達は、惨状に悲鳴をあげると私を探すように大声で怒鳴る。
明らかに私被害者よねと思いながらも甲板に飛び出せば、そこにいる人物を見て動きを止めるしか無くなる。よりにもよって、中将だなんて……。
「全く……うちの馬鹿共がすまなかったね。無事では無いみたいだけど、私がもう、手は出させないから姿を見せな」
当然のように声をかけられれば、私も仕方ないからと姿を見せる。その私の姿を見た人物……おつる中将は柳眉を上げた。
そして正義のマントを私にかけると、倒れている海兵達を縛り上げて地下に放り込むようにと指示を出してくれた。それにより少し体から力が抜けて、体がふらついた時軽々と私を支えてくれたのはやはり件のつる中将で。
「……こんな幼い子を襲うなんて、男共の気が知れないね。その刺青を入れた男も、アンタを拷問した奴も、この船の馬鹿共もね」
「……どうして」
どうして……すべて男だと思ったのだろう。海賊には女だっているのに。
そう思って見つめた時、つる中将は分かるさと言った。声に出していない筈の問い掛けに、困ったように笑いながら応えてくれる。
「アンタ、私には警戒しなかったけど、男達には総じて警戒してたからね。それに、念の為にここから見てたから知っていたよ。助けに行くより待った方が早そうだったから動かなかったけど、その怪我じゃ助けに行くべきだったね」
警戒し無かったのは、女だからじゃなくて……つる中将だったから。そう言える筈もないので、私はつる中将の考えた通りだという事にしておいた。
心配そうに私に視線を向けて、申し訳なさそうな顔をされては、何も言えない。見ていたと言ったのは見聞色の覇気かなと思えば、かなわないなと思う。
その間にも、体から血液が流れて行くのが分かる。視界が歪み指先がの感覚が失われていく。
血液が減った分体重は軽くなるのだから、体はその分動かしやすくなる筈だと思うのに、どうしてこんなにも私の体は重いのだろう。この体だと2リットル抜けたら、多分持たない。
そして多分既に1リットルは抜けていると思われるから、この状態もわかると言えば分かるのだけど……。そう思っていた私の様子に気付いたらしい、つる中将が叫ぶように船医を呼ぶ声が遠く、微かに聞こえていた。
意識を取り戻した私は手術着のような物を着せられており、武器も体に装着されていた。なのに治療はされた後の様子で、意味がわからなくて首を傾げるとつる中将がドアを開けて部屋に入って来た。
「……その短剣以外も、武器なんだね。護身用程度だけど、女の子が持つには便利そうだ」
そう言って差し出してきたのは温かな焙じ茶で、私はそれを受け取ると、無意識で毒が無いか確認してから口にした。それを見たつる中将は、何故か頭を撫でてくるからその顔を見つめてしまう。
つる中将は何も言わずに、私が焙じ茶を飲み終えるのを待ってくれる。飲み終えると湯呑みを回収して、まだ飲むかいと聞いてくれるけど、もう飲めそうにない。
飲んでる間に焙じ茶が冷めるくらいの時間がかかったのに、つる中将は何も言わずに居てくれた。それが何処かベルメールさんと重なり、早く帰らなければと思い出す。
「……助けてくださって、ありがとうございました。この刺青の件で、私はインペルダウンに送られるのでしょうか?」
「事情によるよ、アンタは懸賞金も掛かってないしね」
話すべきだろうか。本来ならばこれは海軍の仕事だ。
でも、この人は海軍の中で珍しくいい人だから……巻き込んでしまう事が怖い。
ベルメールさんのように、立てなくなるかもしれない。ゲンさんのように消えない傷を負うかもしれない。
力が及ばなくて、ノジコのように苦しんだり、村の人達のように心が血の涙を流す事だって充分考えられる。そもそも船で近付けるのかさえ、怪しい。
「……話せません。つる中将を失う事は、大いなる損失になる。それに、どの海兵がどう繋がってるか分からないので、何をされるか分かりません。だから……巻き込めないんです。ただもしも叶うならば、私をインペルダウンに送る前に、少しだけ時間をください」
「あんた、私の名前……それに、まさか海軍が……?」
「お願いします!せめて、1度手紙を出させてくださるだけで良いのです。それだけさせてくれたなら、私はインペルダウンに送られても構わない!その覚悟は常に持って生きてきたの」
今はだいたい6億貯まってる。皆を助けられないならせめて、皆がそれで僅かな時間だけでも何かあった時の予備費にしたい。
全員が働かなくても、24ヶ月、所謂2年はそれでどうにかなるから。……それをノジコに伝えて、アーロンには海軍に捕まった事を知らせて、シャンクスには不治の病にかかったからもう助からないとでも連絡して……それで終わる。
心配なんて掛けたくない。皆の事を、少しでも護りたいのよ。
どちらも無理ならせめて、想う事だけは許して欲しい。私は家族や村の人達に、愛を少しでも返す事が出来ただろうか。
「……私も、甘く見られたモンだね。どれだけのものを背負ってるのか、私が何も分からないと、本気で思ってるのかい?」
賢さでや知略で知られるつる中将は、その時呆れたような顔で私を見ていたのに、その瞳は穏やかで優しかった。そして〝泣くな〟ではなく〝泣いていいんだよ〟と言いながらその腕で私を抱き締めてくれる。
「独りで、良く耐えたね。もう、頑張らなくていい、必ず解放してあげるからね」
その言葉を聞いた直後、私が何かを答えるより早く首筋に衝撃を感じて意識を失った。意識を刈り取ったその手が優しくて、私は混乱しつつその小さな体に自らの身体を預ける形となる。
少女の意識を刈り取った犯人は、少女をそっとベッドに寝かせる。武器を身につけさせておいた方が、穏やかにしていられるような生活を、この幼さでさせられている事が不憫でならないと、つるは思っていた。
恐らくは今、水を飲むのもつらいだろうと用意した焙じ茶を見て、少しホッとした顔をした。だと言うのに、飲む時には毒見をしてからだった事もそれに拍車をかける。
何も初めから少女をインペルダウンへ送るつもり等無かった。ただ、少しでも追い詰めれば何か話すかと思ったのに、実際は大した事は話さなかったのだ。
インペルダウンへ送られる事さえも覚悟の上で、背負い守る存在が居る事と海軍に裏切り者がいる事しか語らない少女に眉が自然と寄る。幼い少女が1人で抱えるべき問題では無いのは、嫌でもわかると言うのに……。
肩の刺青からだけでも随分と多くの情報は手に入ったのだが、後少し何かが足りない。どうにかして、この少女を解放したい。
治療の為に麻酔を使おうとしても効かず、毒に異様な程の免疫を持っている事が分かる。それに、
色々な意味で美しい少女だと、つるはその頭を撫でながら思う。世界が放置してくれないのだろうと、少女を見て思ったつるは、集めさせた資料を読み、答えを導き出す。
まさかと……有り得ないと思う事は、この世界ではそれこそ無意味。この少女の置かれた状態を正しく理解したつるは、その抑えきれない憤りをぶつける為だけに電伝虫に手を伸ばした。
船が大きく揺れて、怒号が響き渡り、私は意識を浮上させた。つる中将が近くにいてくれて、だからこそ何が起きているのかと不安に思う。
「目が覚めたかい。もう少しで終わったのに、起こして悪かったね」
「あの、何が終わるのですか?」
体を起こそうとする私に、つる中将は優しく肩を押さえて起き上がるなと指示してくる。私はそれに甘えて、体をベッドに横たえたままでつる中将を見た。
「……解放すると、言っただろう?もう、終わるよ」
その言葉で私は体を勢い良く起こして、外に飛び出した。甲板に出ればそこには魚人達の捕まっている姿があって、私はその場で崩れ落ちるように座り込んだ。
「ナミ……てめェ!裏切ったんだな!」
話が見えない。見えないけど、私はほぼ無意識で笑みを浮かべて答えていた。
「……そもそも仲間じゃないのに、裏切ったも何も無いじゃない。アーロンもやられたの?」
「アーロンさんは、今戦ってる!」
音のした方に視線を向ければ、ガープさんが暴れていて、アーロン相手に遊んでいるのが見えた。それを見れば、まだまだ私は弱いのだと痛感させられる。
流石はあの兄弟を育てただけの事はあるわ。純粋に強いなと思う。
「……傷が開いたらどうすんだい、この馬鹿娘」
背後から聞こえた声に、振り向かずに答える。
「ごめんなさい、信じられなくて。これで、村の人達……いいえ、島の人達は助かるのね」
「まァ、そうなるね」
「よかった……。それなら、もう、充分です。インペルダウンに送って下さい」
力が抜けて座り込んでしまったけど、私は嬉しくて、幸せで微笑みを浮かべてつる中将にそう言った。それなのに、誰がそんな所に送るもんかと突き放された。
何をと思って見てみると、嘆願がこれだけあって、事情を鑑みて、アンタに罪は何も無いと笑ったつる中将。けれども続け様に、その代わりに海兵になりなと言ったのを、脳が言葉として理解するのに時間がかかった。
それからベルメールさんとゲンさんを交えて、つる中将とガープ中将が、私を海兵として引き受けたいと言う事で、話し合いの席が持たれる事になった。既に独特な戦い方ではあるものの、東の海の担当としてなら申し分ない実力を持っているから、本部で育てていつかこの東の海を守れるようにと言ってくれたのだ。
けれどもそれを聞いたベルメールさんが反対した。自分も海軍に居たベルメールさんだから、素直に喜ぶと思っていた私は驚き、ベルメールさんとゲンさんに視線を向けたけど、ゲンさんも驚いた顔をしている。
理解出来ないで黙る私の目の前で、ベルメールさんは真っ直ぐに中将達を見て反対ですと繰り返して言った。それから、握り締めた拳を微かに震わせて言葉を紡ぐ。
「ナミは元々、戦いに向いてる性格じゃないんです。人を傷付ける事を恐れて……戦うより庇おうとするから、だからいつも……死にかけて……。甘い子なんです。優しい子なんです。戦場とか、天竜人とか、七武海とか、そんなのと対峙させたら壊れてしまうわ」
「ベルメールさん……」
思わず呟いた私の声は、誰にも拾われる事は無かったのかもしれない。けど、ベルメールさんの言葉は……想いは、ゲンさんに届いた。
「ベルメールの言う通りです。私も随分と長い事、駐在としてこの子を見てきましたが、10歳の子供が1人で海賊から我々全員の命を守ろうとした。そろそろ戦いから解放したいと思って、何がおかしいのでしょうか」
そこにノジコが口を挟んだ。それは涙を溜めての言葉で、だからこそ周りを囲むようにして様子を見ている人達は涙を流した。
「もう、私の妹をこれ以上苦しめないで!ナミはもう、自由に生きてもいいと思うの!ナミには夢があるのよ。なのに……私達の為にすべて犠牲にして来た。私達の為に、やりたくない事も今まで沢山やってきたのに、まだ何かをやらせようって言うの!?」
その言葉を受けてガープ中将は、つる中将に情けない声でおつるさんと呼び掛ける。それに対して呆れたように溜息を落としたつる中将は、ガープ中将の横腹を殴って黙らせた。
それからベルメールさんとゲンさん、そしてノジコを見てつる中将は微笑んだ。それは、本当に優しい笑みだと私には思えた。
「天竜人と関わらせるような事はしないと約束しよう。この子の夢も、それが何であれ叶えられるようサポートして行く。戦いも極力少なくなるように取り計らうつもりだよ。この子には、私のサポート等、事務的な所で手伝って貰いたいんでね」
「……それなら、ナミ得意よ」
ノジコが言うとつる中将は1瞬私を振り返り、賢そうだとは思っていたけどと呟いた。それからノジコを見て、問い掛けた。
「ナミがやりたくない事って、何をしていたんだい?」
「自分の歌を売り物にしたり、色々なお話書いて売るのは罪悪感があるからって、嫌がってたのに、皆の為にって売ってたの」
「……歌や話を、売り物に?」
「ノジコ!辞めて!」
その時海兵の1人が、つる中将に私の本を手渡した。まだ発売されてないそれは、私の家にしか無い筈の物。
「自分、その〝宝玉〟さんのファンでして、全作品持っておりますが、それはまだ発売されておりません!恐らくは、これの事ではないかと!」
「人の物を勝手に触るな!」
思わず叫んだ私に、ガープ中将とつる中将が視線を向けて来て、ファンだと言った人は申し訳無さそうに頭を下げた。つる中将は受け取ったそれを見て、成程ねと呟くと、3人に向き直った。
「……この子はここにいたらまた誰かに狙われて、今度こそ返して貰えなくなるだろうと思うよ。だからこそ、海軍本部で保護しながら衣食住確保の為に働いて貰う。そして叶うなら、私を手伝って貰いたい。その代わりに、この子が理不尽に苦しむような事にはしないと、約束する。なので……お願いします」
何故、つる中将がそこまで言ってくれるのか分からない。分からないけど、ベルメールさん達はつる中将を信じて、私を託してくれた。
私は蜜柑の木を数本と、書籍と海図を荷物として運んで貰い、海軍本部に居を移す事となった。この時私は14歳。
それからつる中将の元で事務的な所での働きを続けて、つる中将の家の真横にあった小さな庭付きの空き家にて生活して行く。見聞色と武装色の覇気を使える事を気付かれてしまうまで、ヒラとして働き続けていた。
本部で大佐の地位に上らされた私は、それより上には絶対に行かないと言い張り、とうとう16歳になった。……これは、16歳になってから後の私が、どうやって海軍で生き抜いて行ったのかと言うお話の始まりの物語。