※この作品はR-18です。

ファイアーエムブレム ヒロインズ ~英雄たちの受難~   作:瀬部唯人

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多くの方々にアンケートのご回答を頂けたことを、この場でお礼申し上げます。
ご協力ありがとうございました。
頂戴したご意見は、今後の執筆における一つの方針として検討させていただく所存であります。


★マリータとタニアの受難 捕縛編

「待ちやがれ、このヤロォォォォォ!!」

 

 薄暗い回廊に烈火の如き少女の怒声と、慌ただしく石床を踏みしめる複数の足音が響き渡る。

 かれこれ五分近くこの状態が続いているというのにほとんど足の速度を変えず、なおかつ吐き出す声量もまるで衰えていないのだから、その少女の体力や凄まじい。

 

 回廊を駆ける人影の数は全部で三つ。先行して逃げる一人を、その少し後方から二人が追いかけるという鬼ごっこさながらの様相である。

 取り分け追う側に立つ一人が、うら若き少女が醸し出すには些か凶暴に過ぎる殺意をみなぎらせた鬼のような形相を浮かべているものだから、逃げる側もそれなりに必死だ。事情を知らない第三者がこの光景を見ようものなら、無条件に追われる側に味方してしまいそうでさえある。

 

「タニア! 流石に飛ばし過ぎよ! ペースを落とさないとバテるわ!」

「馬鹿野郎マリータ! ここで足を止めたら逃がしちまうだろうが!」

 

 追う側に立つ少女の一人マリータが己の少し前を走る相棒の背中に制止を呼びかけるが、呼ばれたもう一人の少女タニアは完全に頭に血が上っており聞く耳を持たなかった。

 既に何度と交わしたやり取りである。

 彼女がこうなってしまった以上、やはり己の言葉だけでは止めることはできないのだろう。普段あまり着飾ることに執着しないマリータが、自身の中で密かなお気に入り箇所としていた自慢の流れるような黒髪が乱れていく気配もあって、余計に憂鬱な嘆息を漏らさずにはいられなかった。

 

 マリータとてタニアの怒りが分からないわけではない。彼女がその身に受けた恥辱を考えれば寧ろ当然のことだ。

 マリータ自身、もしもタニアと同じような目に遭わされようものなら、間違いなく怒りに染まり報復を誓っていたことだろう。それこそ愛剣を鞘から抜き放ち、今のタニアと同様に下手人に凶刃を閃かせていたであろうと想像するに難くない。

 ……が、それに付き合わされるままにひたすら走り続けさせられる身としては、いい加減うんざりとしてくるというものでもあった。

 

 

 

 事の始まりはほんの数刻前。

 

 件の塔の調査を始めてから幾ばくかの時間が経過し、塔内をそれなりに上り進めることが出来ていた頃のこと。

 マリータとタニアの他に二人の少女を加えた小隊は、それまで比較的順調であったことが嘘であるかのように、トラブルの連続に見舞われるという事態に出くわしていた。

 

 発端は部隊の一人が落とし穴に落ちたということに始まる。

 

 誰もが予想もしない罠であったのだから落ちたその少女を責められる筈もない。

 しかし、その直後には周囲から複数の魔物が湧き出すという事態が発生し、戦力を欠いた状態での戦闘を交えていたこともあって、落ちた仲間を助け出すまでにかなりの時間を要することとなってしまったのである。

 殺傷性こそほとんど皆無の落とし穴はしかし。数多の淫魔がひしめくこの塔の最大の特徴である“女を性的に辱める”という性質を最大限までに発揮した非常に凶悪なものであったらしく、助け出した少女の惨状は筆舌に尽くしがたいものであった。

 意識を失って動けなくなった仲間をまさかこのまま放置していくわけにもいかず、止むを得ず一行は一先ず脅威を退けたこの場所で少女の介抱と仮初の休息の時間とすることとしたのだった。

 

 ―――そしてこの時あまりにも気を緩めすぎてしまっていたがために、直後タニアは大きな悲劇に見舞われることとなるのである。

 

 度重なる危機をどうにか切り抜け、無事とは言い難くもなんとか仲間も助け出せたという事に、ひどく安堵してしまったのは仕方のないことであろう。

 ……がしかし、結果としてそれは致命的な隙も同然となってしまったのである。

 

 だから彼女は、自身のすぐ背後に忍び寄る脅威に気が付けなかった。

 

 離れた位置で周囲に気を向けていたマリータが辛うじてそれに気づき、大声でこちらに警告を発してくる。その時になってようやくタニアは己の背後の気配に気づくが、振り返った頃にはすでに下手人がこちらを害そうと手を振りかざした状態にあり、最早対応など間に合いようもない瞬間にあった。

 そして身構える暇さえなく、タニアはその身を貫かれることとなってしまったのである。

 

 ……あろうことか、「菊門」という人体の中でも非常にデリケートといえるその場所を。

 

 迸った凄まじい痛みにタニアの口から声にならない悲鳴が上がる。立っていることもままならず、そのまま崩れ落ちるように膝を折り堪らず蹲った。

 

 タニアが受けたのは、所謂「カンチョー」というものであった。

 たかがカンチョーと侮るなかれ。肛門付近は人体の急所において立派な一つとして数えられる箇所なのである。傷つけられようものならば想像を絶する痛みを伴うのは必至で、猛烈な苦痛と恥辱に苛まれて涙することも致し方なしの場所なのだ。

 

 芋虫のように身を捩りながら痛みを堪えつつ、涙目になりながらもタニアは己をこんな目に遭わせた不埒者を改めて睨み付ける。

 悠然と構えるのは、おそらくはこの塔に属しているのであろう敵たる英雄の女。人とは異なる青白い肌と三股に分かれた刃のような尾が特徴的な闇の英雄クロニエであった。

 彼女は指先をまるで召喚士エクラが持つ神器――すなわち銃身――のように見立て、人差し指の先をひと吹きする仕草をしながら下卑た笑みを浮かべ、タニアを高らかに見下ろしていた。

 

 ―――嘲笑われている。そう理解した瞬間、タニアの沸点はあっさりと限界突破を果たした。

 

 即座にタニアの前に駆け付けたマリータが庇うように前に立ち、癒しの力を扱える仲間がタニアに向けて杖を振るう。

 今やまともに戦えるのはマリータだけとなってしまったが、少しのあいだ時間を稼ぐことが出来れば直にタニアも復帰できるだろう。それまではどうにかしのぎ切らねば。そう気を引き締めながらマリータは剣を構え直す。

 

 ところが、相対するクロニエはそこで予想もしない行動に出たのだった。――まさかの逃走に舵を切ったのである。

 

 堂々と背を向けて走り出していくその姿には流石のマリータも唖然となってしまう。

 しかしそれもほんの一瞬のこと。思わず呆けてしまっていたマリータであったが、自身の真横を高速で横切る矢によってすぐさま意識を引き戻す。

 クロニエを目掛けて飛翔していく矢は、予想以上の早さで復帰したタニアが放ったものであった。手負いの直後で射掛けた割には中々に精度の高い射撃であったが、僅かに軌道が甘かったのだろう。残念ながら惜しくも命中には至らなかった。

 ともあれ、相手が引いた以上ここで無理に追う必要もないだろう。こちらには動けない仲間もいる上に、ただでさえ連戦続きなのだ。無理な深追いは避けるべきなのである。

 

 そう、―――本来であれば。

 

 悲しいかな。人とは、たとえ問題の正否において正しき答えを頭で理解が出来たのだとしても、一方で感情がそれを良しと納得できるかどうかは全くの別問題と捉える生き物なのである。

 そして、今のタニアこそまさしくその状態だった。

 結果―――、本能ともいえるその感情を爆発させたタニアは素早く身を起こすと、報復するという一心の下に遠ざかっていくクロニエを追いかけ始めてしまったのであった。

 僅かに遅れてマリータが制止の声を飛ばすもタニアは止まろうとはしない。

 完全に頭に血が上ってしまっているのだろう。怒りに任せて突っ走っていく彼女をそのまま一人で行かせるわけにもいかず、意識を失っている仲間をもう一人に任せ、止むを得ずマリータも後を追うように走り出したのであった。

 

 

 

 そして話は冒頭へと戻る。

 

 追走劇は続き、二人はクロニエの背を追い続けていた。

 タニアの報復はともかくとして、実際この塔の住人である彼女を抑えることが出来れば、得られる情報はかなり大きいことには違いない。出来ることならばそうするべきだという点においては、マリータとしても大いに同意見なのである。

 ただそれと同時に、時々得意の弓矢で攻撃を仕掛けるタニアに対して一切の反撃もせず、ひたすら回避と逃げに徹する相手の様子に、自分たちが間違いなくどこかへ誘導されつつあるのであろうという確かな予感があることもまた事実であった。

 だからこそ、タニアには何度も深追いはするべきではないと制止を呼び掛けていたのだが、復讐心に駆られる彼女は全く聞く耳を持たないでいる。

 

 そして、そうこうしている間にとうとう三者の足が止まるという局面がやってきてしまった。

 回廊の行き止まりである。

 

「とうとう追いつめたぞ、このドスケベ変態女め! そのヘンテコな尻尾引っこ抜いて尻穴に突き刺しなおしてやる。覚悟しな!」

「もう一体どっちが悪人なのか分からないわね……」

 

 凄みのある笑みを浮かべながらタニアはバキボキと指を鳴らす。

 凡そうら若き乙女のする言動としてはあまりにも品がないもので、隣に立つマリータはまるで自分までもが悪事に加担しているような気がしてひどくやるせない気持ちとなった。

 

「――ハッ、あんな見え透いた挑発でノコノコと追いかけてくるなんてバッカみたい。追いつめた? おめでた過ぎて笑っちゃうわ。ここまで考えなしについて来た時点でとっくに詰んでいるのはあんた達の方なのにさ」

 

 向かい合う形で対峙したところではじめてクロニエが口を開く。特務機関にも仲間として所属しているクロニエと同様、やはりというべきかこちらも相当に口と態度が悪いようであった。

 

 両者の間にはまだ幾ばくかの距離が開いてはいるが十分にタニアの射程範囲内であり、マリータからしてもあと数歩大きく踏み込めば剣が届くという距離にある。

 だというのに、対するクロニエは背後の壁に背を預けたまま挑発的な笑みを浮かべるばかりで得物を構えようともしない。

 やはり誘い込まれてしまったのだろう。元より高かったマリータの警戒心がここに来て一段と引き上げられていく。

 

「……タニア、気をつけて。何を仕掛けてくるかわからないわ」

「わかってるよ。妙な動きを見せたら即座にこの矢で打ち抜いてやる」

 

 マリータに応じながら今度こそ外しはすまいとタニアは矢をつがえ弓を引き絞った。

 先程までは動きながらの射撃だったこともあってうまく狙いを定められなかったが、この距離で足を止めての射撃ならば十分に狙いがつけられる。

 

「だったらさっさとそうしておくべきだったね。さあ、これでも喰らいな!!」

 

 高らかに宣言するや否や、クロニエは己が背後の壁を強く押し込んだ。と、その部分の岩壁が大きく窪んだのだった。

 何かしらの仕掛けを起動するスイッチだったのだろう。まさか何の変哲もないただの壁としか思えなかったそんな場所に用意されていようとはと、二人して目を見開くがもう遅い。

 作動させてしまった以上、間もなく迫りくるのであろう未知の脅威に揃って身構えてしまう。

 

「…………あり?」

 

 ―――が、しばらくしても何かの仕掛けが作動した気配もなく、それまでの緊迫感が嘘だったかのような間の抜けた声がクロニエから漏れ出した。

 

「…………」

 

 無言となったクロニエの手が、再度同じ場所を押し込む。

 かこん。と、岩壁が凹むその音だけがひどく無機質に響き渡った。

 

「え、ちょっ、まさか故障ぉ!? ウソでしょぉぉぉ!!?」

 

 動揺も顕わに今度こそクロニエは仕掛けの要と思しき岩壁にしがみ付いた。

 彼女からしても予想外の事態であったのか、最早マリータたちを見てすらいない。

 

「なんだ、アイツ……。一体何をやってんだ?」

「どうやら作動するはずだった仕掛けが壊れていたみたいね。正直、助かったわ……」

 

 切羽詰まったクロニエの様子に思わず安堵の息が漏れた。

 どんなトラブルなのか彼女たちには知る由もないが、いずれにせよ用意されていた罠が作動しないという状況であるならば、彼女たちにとっては都合がいいことこの上ない。

 当初は実現できれば理想としながら不可能に近いと見ていた敵の捕縛であったが、今この瞬間においてはその絶好の好機と言えよう。

 未だに岩壁にしがみ付いたままのクロニエにじりじりと距離を詰めていく。

 

「ちょっ……! 待った、待った! タンマ、ちょっとタンマぁ……!」

 

 抜き放った剣先を突きつけるように剣を構えるマリータと、そのすぐ後ろで真っ直ぐに矢を向けるタニアに己の状況の不味さを再認したのだろう。狼狽も顕わにクロニエは頬を引きつらせた。

 

「……武器を捨てて投降しなさい。タニアからちょっとだけ報復はあるかもしれないけど、そう悪いようにはしないわ」

「いいや! ガッツリとお返しするね! 観念して尻を出しな!」

「タニア、少し黙ってて。―――さあ、どうするの?」

 

 切っ先に込める圧を強めて再度マリータは投降を促す。

 そろそろ置き去りにしてきた仲間たちのことも気掛かりであり、出来ることならばこれ以上は無用な戦闘などをして時間を割きたくはないというのがマリータの正直なところであった。

 このまま大人しく捕虜となってくれるというのならば大歓迎なところなのだが……。

 

「…………」

 

 僅かな沈黙が流れる。

 果たして如何なる答えを返すのかと二人が見守る中、これがその答えだといわんばかりに壁に付いたままのクロニエの手が再び押し込められた。

 

 ―――瞬間、天井が左右に開いたかと思いきや、突如として視界を覆い尽くすほどの煙が凄まじい勢いで通路一帯に降り注いだ。

 

「……ッ!?」

「うっ! ごほっ、なんだこれ!?」

 

 反射的に息を止めて口元を覆うことが出来たのは奇跡に近かった。

 ただの煙幕であるのならばまだいいが、見るからに毒々しさを抱かせる濃い紫の色合いをした煙が視界を覆うだけでのものであるはずがないだろう。どんな作用があるかわからない以上、吸い込むことは避けなければとマリータは必死に息を止め続ける。

 しかしどうにか堪えたマリータに対し、タニアの方はそうはいかなかったらしい。煙を吸い込んでしまったようで立て続けに咳き込む声が聞こえてくる。

 

(仕掛けを作動された!? そんな、壊れていたはずじゃ……いや、それよりもこの状況はとてもまずいわ……!)

 

 決して油断はしていないつもりであったが、これは全くの想定外の事態であった。

 煙はその濃度もかなり強いものであるらしく、視界が全くといっていいほどに機能しない。追いつめたクロニエを見失うばかりか、すぐ近くで咳き込むタニアの姿までもが見えないのである。

 幸いにも空気が流れている気配はあるのでいずれはこの煙も流されてはいくだろうが、それでもまともに視界が開けるようになるまではまだしばらくの時間が掛かるだろう。こんな状態で奇襲でもされようものならばひとたまりもない。

 そして、悪いことにその予感は実現することとなる。

 

「ッ!?」

「げほっ! こ、今度はなん……っ!? ちょっ、どこを触って……!?」

 

 下手に動くこともできずにいると、突如として何か紐状のものが手足と胴回りに絡みついてくる気配があった。

 煙のせいでその正体もわからないが、蛇のように細長く得体の知れない生物染みた嫌な肌触りに触れられ、巻き取られた箇所からどうしようもなく嫌悪感が込み上げてくる。

 どうにか引きはがそうともがくが、巻き付いてくる触手のようなそれは少しずつその数を増やしてきており、次第に身動きが取り辛くなっていく。

 愛剣を振り回して切り捨てようと試みるも、そうはさせまいとするかのように、腕への拘束は他の箇所よりも強固なものとなっておりそれも叶わない。

 

「キャハハハ! まさか本当に罠が動かないとでも思った? あんな猿芝居で気を抜くなんて、ホントにおバカさん! もう笑いが止まらないわ!」

 

 絡みついてくる触手を振りほどけずにもがいていると、不意に煙の中からクロニエ特有の甲高い哄笑が響いてきた。

 驚くことに、この激しい煙の中にありながら息苦しそうな様子も、僅かに咳き込んでいる様子さえもなさそうである。

 

「さてっと、あんまりもたもたしていると煙も流れちゃうし、手早く準備しなきゃね。というわけで、まずはその物騒な得物を手放してもらおうかしら。はい、没収~」

「なっ……けほっ、けほっ。くぅ……や、めろ……返せ……っ!」

 

 クロニエの言葉によって触手がその動きを変え、マリータの手から剣を奪おうとしてくる。おそらくはタニアからも同様に弓矢を奪おうとしているのだろう。

 戦場で得物を失うなどあれば命を落とすも同然だ。決して手放すまいと必死に抵抗する。

 しかしそれも無駄な足掻きとしかならず、こちらの指を器用にも一本一本と丁寧に外しに掛かる触手は実に巧みなもので、最後はあっさりと武器を奪われてしまうこととなったのであった。

 

「あはっ、大人しく渡してくれてうれしいわ~。それじゃあ次は、あんたたちが身に着けているその衣服を脱いでもらおうかしら。というわけで、脱ぎ脱ぎしましょうね~!」

 

 ギョッとする間もなく、クロニエの宣言によって新たな触手が動けない二人へと迫り、ゾワゾワと蠢きながら纏わり着いていく。

 

「っ……や、服が……!? おい、何するんだ! やめろよ! この……いやあっ!」

「んん~~~~~~~っ!!」

 

 煙に咳き込みながらも怒りと羞恥から怒声を上げるタニアと、まだどうにか息を止め続けていられるマリータも首を振り乱して明確に拒絶を示す。

 そんな二人を全く意に介さず、触手はテキパキとそれぞれが身に纏う衣服を剥いでいく。軽鎧などといった防具でさえ、器用に留め具を外されあっさりと取り払われていってしまう。

 

 程なくして、二人は下着だけを残した大変あられもない姿へとされてしまった。

 

 と、そこまで衣服を脱がし終えた触手は、次いで二人の身体を壁の方へと引き寄せ始めていく。四肢の全てを絡めとられているため、ろくな抵抗もままならない。

 そのまま二人は通路の両側の壁へと身体を大きく広げるように縫い付けられると、さらにそこから両の手足――それぞれ肘と膝から先――を壁の中に飲み込まれるような形で拘束を施され、今度こそ完全に身動きを取れないよう固定されてしまうのであった。

 

「くそっ。なんだコレ、全く動けねえ! ちくしょう離せぇ!」

 

 その頃にはようやく通路を覆っていた煙もその多くが流れて視界が回復し、反対側の壁でマリータと向かい合うよう同じ姿勢で拘束されているタニアの姿が確認できるようになっていた。

 ジタバタとタニアがもがくと、それに合わせて鮮やかなオレンジの下着に包まれた彼女の豊かな乳房が弾むように揺れ動く。

 

「…………」

 

 瞬間、今現在半裸に剥かれて拘束されていうという酷い現実さえも本気で忘れそうになった。

 色気のない白無地のスポブラタイプの下着に覆われた胸元に目を落とす。己では逆立ちしてもそうはならないだろうその光景に、マリータの口からほとんど無意識にため息が漏れ出した。

 

 何かと荒っぽい言動の目立つタニアであるが、その気質とは対照的に上から下まで中々に女性らしい体つきをしている。

 特に胸の実りにおいては、普段から服の上からであってもその存在を主張するほどであったが、実際に脱げば殊更巨乳であると改めて認めざるを得ないものであった。

 一方でマリータはというと、乳房に関しては成熟し切っていない少女相応のものとなっており、どちらかと言えば小振りに部類される大きさにある。

 しかし余分な脂肪がなく全体的にバランスの整った無駄のない体形は、同性からすれば間違いなく羨まれるものでもあった。しなやかな筋肉が肉付きながらも程よく丸みを帯びた肌など、まさしく健康美そのものといっても過言ではない。

 そう。両者には、間違いなくそれぞれに魅力があるのだ。

 

 しかしながら隣の芝生は青く見えるというもの。

 

 お互い年齢もそう離れておらず、育ってきた環境にもそれほどの違いがあるとは思えないというのに、一体どこでここまでの差が開いてしまったのか。

 己の体形に特段不満があるというわけではないが、それでも憧れがないといえばやはり嘘になる。穴が開くほどに強いマリータの視線は、タニアの胸元へと突き刺さり続けていた。

 

「やっぱり大きいわね……」

「この状況で何言ってるのアンタ!?」

 

 ようやくまともに呼吸ができるようになったことで漏らした呟きであったが、タニアには耳ざとく聞きつけられてしまったようだ。顔を赤らめて怒鳴りつけられる。

 

「それに下着も随分と可愛らしいものをつけているのね。明るい色もタニアに合っているし、とても綺麗に見えるわ」

「お、おう……。ありがとな。同じ弓使いのレベッカにちょっと相談してみたら、リグレ侯爵夫人のルイーズさんを紹介してもらって――って違う! おい、マリータ! しっかりしてくれ!!」

 

 先ほどよりもより強い怒声にようやくマリータの意識が正気に戻った。

 残酷な現実を見せつけられたことに、どうやら思考が少々明後日の方向へと舵を切ってしまっていたらしい。彼女は素直に頭を下げた。

 

「……そんな状態なのに随分と能天気なことね。仲が良いみたいで大いに結構なことだわ」

 

 と、幾ばくか空気が弛緩していたところで再びクロニエがひょっこりとその姿を見せた。

 直前のやり取りをしっかりと見られていたのか、やや呆れたような表情である。

 

「出たな、変態女め! あたしらをどうするつもりだ!」

「いきなり煩い女ねぇ。けどそうねぇ……間抜けを捕まえたことで今のあたしは気分もいいし、せっかくだから答えてあげるわ」

 

 早速噛みつくタニアに若干うんざりした様子を見せるクロニエであるが、意外にもこちらの疑念には答えてくれるようであった。

 

「あたし自身は別にあんたたちに手を出さないし何もしないわ。……まぁその代わり、これからあんたたちをいじめるのは、その罠そのものになるわけどね」

「罠そのもの……? ―――っ、ひゃっ!?」

「うわぁっ!? 今度はなんだ!?」

 

 マリータが思わずその言葉を反芻したところで二人を拘束する壁に変化が起きた。

 二人の股の間から、なにやら棒状の突起が伸びてくる。光沢のある白い表面に加え、先端部がなだらかな曲線を描いた丸みのある――現代でいうところのハンディーマッサージ器に似た――形状の突起棒であった。

 微調整しながら角度を変えるように動くそれは、やがて先端部を彼女たちの股間にあてがうようぴったりと密着させてくる。

 

「さあ、準備が整ったところでこの罠の特性を紹介!

 これからその突起の先端部は、とてもいやらしく、けれどもと~っても気持ちいい振動を続けるわ! 一度始まれば振動に終わりはなく、それこそ永遠に女の子の敏感な場所を刺激して善がらせるという、まさに天国と地獄を同時に味わい尽くせる装置なわけ!」

 

 予想はしていたが、やはり碌でもないものであったようだ。

 クロニエの説明に二人は揃って顔を青ざめさせた。

 

「けど安心して。最初の振動はごく微弱な強さから始まるわ。この時間はむしろ心地いいだけの時間といっても過言ではないほどにね。

 ただ、注意もあるから教えておいてあげる。二人ともそれぞれお相手側の頭上をご覧なさい!」

 

 饒舌に話す内容に物申したいところは多々あったが、今ばかりは流石に自重する。

 彼女の言う注意点次第ではあるだろうが、最早逃れることのできない不幸であっても、もしかするとそれを避けるための有用な術を見出せるかもしれないのだ。

 

 言われるままにマリータはタニアの頭上の壁を見やる。

 丁度真上に位置する場所にあるため自分のものを確認することはできないが、おそらくはマリータの側にも同じものがあるのであろう。そこには、なにやら「0」と数字の刻まれたパネルのようなものが設置されてあった。

 

「その数字は、一言でいうと下にいる人間がオーガズムに達した恥ずかしい回数を示すものよ。

 そして大事なのはここから! この装置、達したその回数が増えていくごとに責め苦が少しずつ強いものとなってく仕組みになっているわけだけど、それは“相手の数字が自分のものに反映される”という仕様になっているの!」

「……え?」

「……は?」

 

 二人して思わず呆けた声が出た。

 

「まあ要するに、パートナーの事を思いやるのなら精々自分が我慢しなさいっていうゲームみたいなものよ。―――さて、いい加減説明も長くなった事だしそろそろ始めましょうか」

 

 と、クロニエが締めくくったその瞬間である。

 

 ヴィィィィィィィン……といういやに低く響く音が、マリータとタニアの股間から鳴り始めた。

 より正確には、彼女たちの股間に押し付けられた突起棒のその先端部からであるが。

 

「うあぁっ!? こ、これが振動……んんっ!」

「んんぅぅぅ……、これ、すごく響いてくる……くぅっ」

 

 性器に与えられる恥ずかしい刺激に、二人は早速身悶え始めた。

 振動という、彼女たちにとっては全くの未知の刺激という事もあって戸惑いも大きい。どうにか逃れようともがくが、壁に埋め込まれた四肢の拘束はかなり強固なものとなっているようで、全く抜け出せそうになかった。

 

「気に入ってくれたようでうれしいわぁ。さてそれじゃあ、あたしはもう行くけど、泣き叫ぼうとも気絶しようとも、その装置はいつまでも動き続けるから思う存分に堪能してねぇ」

 

 そんな二人の様子をしばらく眺めていたクロニエであったが、程なくしてもうここに用はないと言わんばかりに手を振りながら通路を引き返していく。

 どうやら本気でこんな状態のまま彼女たちを放置するつもりであるらしい。赤らむ二人の顔が青ざめるには、それだけで十分のことであった。

 

「なっ! ま、待て……くああっ!」

「んぃぃっ……! これ……いやぁ……と、止めてぇ」

 

 思わず呼び止めようとした声は、堪らずに上がった悲鳴によって掻き消えていく。

 囚われた二人だけが取り残された空間には、その後も彼女たちの艶めかしい嬌声と突起棒による振動音が長らく響き渡り続けることとなるのであった。

 

 

 

 続

 

 

 

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