ファイアーエムブレム ヒロインズ ~英雄たちの受難~ 作:瀬部唯人
魔物。
一般的に魔性を持つものと定められ、人に害をなす「魔の物」や「物の怪」といった類の存在を示すその総称である。
成人した人間を優に超える大型のものから、犬猫と同程度の大きさといった小型のもの。
獣や人型に近い形状のものもいれば、昆虫や爬虫類などにも似た姿形をしたもの、さらには現存する生物とは全く異なる異形の姿をしたものと、大きさから形状に至るまで、その種族やその種類は非常に多岐にわたるものとされている。
それらに共通するのは、程度の差こそあれ人知を超えた力をその身に宿しているという事。そして、最初に記述したように人に害をもたらすという事である。
―――それは、突如としてアスクの地に現れた淫魔の塔においても例外ではない。
件の塔内には、それこそ前述したような魔物たちが無数と言っても過言ではないほどに存在し、内部の至る所を住処としている。
稀に魔物同士での抗争というのも勃発しているようではあるが、基本彼らは己の領域から動くことが実はあまりない。そのため塔の住民に限った話でいえば、彼らの世界は驚くほどに秩序が守られたものとなっているのだった。
しかし反面、己が領域に土足で踏み込いる無法者に対しては一切の容赦がない。
裏を返せば、彼らのテリトリーにさえ踏み込まなければ無益な争いは起きないわけなのだが、他に道のない唯一の通路やその先を抜けたフロアといった場所などを住処とする魔物というのは、残念ながら一定数以上に存在しているのが現状であった。
ゆえに彼らからその牙を向けられるのは、いつも決まって塔の調査へと訪れる特務機関の女英雄たちとなってしまうのである。
さて、そんな塔に住まう魔物たちであるが、彼らはいずれも一般的に存在する大多数の魔物たちとは大きく異なる、ある独自の特徴を持っていた。
―――即ちこの塔の性質と同じくする、女を性的に辱めて弄ぶという変態的な習性である。
何故そのような行動をとるのか。その最大の要因というのは、あらゆる生命にとって最も重要となる「食」に起因するためのものであった。
人間や家畜などといった他の生物の血肉を主食とする一般的な魔物とは異なり、この地に住まう魔物たちはそういったものへの関心が皆無と言えるほどに薄い。
では、そんな彼らが主食とするものは何かというと、ズバリそれはある種の「女の汚れ」あるいは「女の恥部」とも言える、極めて限定的なものなのであった。
例えば失禁による尿や性的絶頂に伴う潮、全身から滲み出した汗などの体液に類するもの。その他にも身体にこびり付いた垢などの老廃物といった固形的な汚れ物などが挙げられる。
そうしたものを効率的に得ようとするがために女を性的に襲う。もしくはそれらを得るための行為自体が、自然と性的な責め紛いなものとなってしまうと取れなくもない。そのあたりの話は、数ある魔物の種族などによって異なってくるものであろう。
いずれにせよ、女英雄たちからしてみれば業腹極まりないものには違いなかった。
重ねて言うが、塔内で出くわす魔物は総じてスケベなエロモンスターばかりなのである。
ゆえに英雄たちの間で、避けては通れない場合以外には可能な限り魔物との接触を避けよう、という方針が定められることとなったのは、必然とも言えることなのであった。
それでも出くわしてしまったのであれば、その際にとるべき選択は自ずと「戦う」か「逃げる」かのどちらかに分けられる。このあたりは、普通の魔物であろうが変態の魔物であろうがそう変わらない話といえよう。
……ただしそれも、あくまでも「選ぶことができる場合」に限った話である。
今話これより始まるのは、退路なき地にて強大な敵を相手に独り挑む少女の、文字通り「茨の道」となる戦いなのであった……。
「―――……っ、ここは……?」
何の変哲もない空間に忽然と姿を現した少女は、困惑した様子であたりを見渡した。
花をモチーフにした装飾が要所にあしらわれた妖精を彷彿させる可憐な装いに、色鮮やかな碧の髪を靡かせた美しい少女の名はエイリーク。ルネス王国第一王女にして、かつて大陸の支配を目論んだ魔王に挑みそして打ち破った英傑の一人である。
彼女が自らの意思ではなく、「強制転移の罠」という元居た場所から全く別の場所へと強制的に移動させられる罠によって仲間たちと分断され一人飛ばされてやってきた場所は、一面を色とりどりの花が覆う庭園のような場所であった。
エイリークの立つ僅かに開けた空間を中心に、彼女を囲うような位置取りで四方に花畑が広がり、見たこともないような鮮やかな花々が辺り一帯に敷き詰められている。
幻影の魔法が施されているのか、天井にはほとんど本物も同然に見える穏やかな青空が映し出されており、屋内にありながらまるで閉塞感を抱かせず、甘い花の香りが漂う空間はそこに居るだけで心を和ませるものがあった。
彼女がつい直前までいた無骨な岩壁に覆われた狭い通路などに比べれば、雲泥の差と言えるほどに平和で豊かな場所に思える。
しかしその美しい光景に見惚れて呆けていたのも束の間のこと。
それまで穏やかであった空模様が突如として曇天の空へと切り替わり、不穏な気配が周囲一帯に満ち始め出したのだ。
「……っ!?」
明らかに自然現象とはかけ離れた事象を前にエイリークにも緊張が走った。
咄嗟に腰に帯びた鞘から「ジークリンデ」を抜き放つ。魔を祓う不思議な力を宿した剣は、まるで主を守らんとするかのようにその刀身の輝きを強めていく。
やがて、一際大きな変化が訪れる。
エイリークから見て正面、彼女の立つ場所から僅かに離れた距離に位置する場所。この空間の中において極めて異質な存在感を振りまきながら鎮座するのは、果たして本当に「花」と呼べるのか疑問であるほどに巨大な花の蕾であった。
大きさにして成人男性の三倍ほどのサイズはあろうか。その縦筋が一瞬白く発光を灯したと思いきや、そこを境に蕾が開いていきゆっくりと開花していく。
程なくして完全に開き切ったそれは、中央に大きな横穴を広げ、その縁から連なるように五枚の花弁を広げた斑点模様の散らばる深い群青色の花となった。
形状を現存する植物でよりわかりやすく例えれば、ラフレシアが近いであろうか。
その巨大な大きさもあって、見る者によっては美しいという好意的な印象さよりも、どこか不気味で近寄りがたいという負の側に傾いた印象を抱いてしまいそうである。
そしてエイリークが抱いた印象は、やはり後者に該当するものであった。
実物のラフレシアを実際に見たことはないエイリークであるが、流石に目の前の花が普通ではないものだという事くらいは理解できる。
何よりも、先程から彼女の「女の直感」とでも言える本能的な部分がけたたましく警鐘を鳴らし続けており、しきりに逃げろと急き立ててきているのだ。
ただ……、この場から離れようにも周囲に出口らしいものは見えず、道らしい道もないために移動しようとすれば、あたりの花を踏みしめながら進まなければならないのである。
親しい友人たちや兄であるエフラム、臣下たちからでさえも些か心根が優し過ぎると心配されがちなエイリークであったが、そんな彼女だからこそ、たとえここが敵地であろうとも無用な命を散らすような真似が出来ないのであった。
「せめてもう少し足場があれば良かったのですが……」
思うように動けないでいるエイリークを前に巨大花は新たな動きを見せる。
中心の大口がなにやら伸縮するような動きを見せたかと思った次の瞬間、口の奥から上方に向けて大量の粉末を吐き出したのだ。
花粉のようではあるが、まるで毒ガスを噴出するような勢いである。花弁とは異なった黄味がかった白色が大気を染め、独特な甘い香りを伴ってあたり一帯へと降り注いでいく。
「こ、これは一体……? とにかく、出来るだけ吸わないようにしなくては……!」
当然のことながら、花粉はエイリークの下にも容赦なく降りかかってくる。
遮れるものが何もないために身体に付着してしまうのはどうしようもないが、せめて吸い込むことは避けようとジークリンデを構えながら口元をハンカチで覆う。
そうしている間にも、今度は巨大花の根元から複数本に及ぶ細長い紐状の触手のようなものが伸び出してくる。本体の巨大さもあって、植物の蔓というよりもまるで大型の蛇のような太さがあり、凶悪な印象が一層強まっていった。
そのうちの一つが、エイリークに向けて無造作に振るわれた。
「―――――ッ!? ああっ!!」
鞭のような鋭さを帯びた強烈な横薙ぎの一撃。
咄嗟にジークリンデで受け止めるものの、片手で止めるにはあまりにも重過ぎる衝撃で、エイリークの細身な身体は容易く宙へと投げ出されてしまった。五メートル近い距離を弾き飛ばされて背中から地面に打ち据えられる。
衝撃に息が詰まりそうになるが、花の絨毯のお陰で身体へのダメージは然程大きくはない。
ただ、今の攻防でハンカチはどこかに取り落としてしまったようで、たちまち濃密な甘い匂いが鼻をつき喉の奥へと流れ込んできてしまう。寧ろジークリンデを手放さなかった事の方が奇跡に近いことであった。
「くっ……」
衝撃の余波にふらつきながらもどうにか上体を起こす。
幸いにも巨大花からの追撃は来ないようだが、だからといって気を抜いている暇はない。巨大な花が明確に危険な存在と明らかに以上、すぐにでも動き出さなければならなかった。
膝を起こしながら、結局押しつぶすこととなってしまった花たちにそっと目を向ける。
自分の重みのせいで傷つけてしまったという罪悪感から向けた視線はしかし、そこで見た信じられない光景によって驚愕に彩られることとなった。
「なっ、花が……!?」
エイリークが膝を付く場所を中心とした付近で咲く花たちがそれぞれ頭頂部を一斉に彼女へと向け、巨大花と同じように怪しい粉末を噴き掛けてきていたのだ。
元来植物という生物には、外敵などからその身を守るための自衛手段や機能といったものが備わっていないものが一般的と認知されているものである。
しかし今現在エイリークがその植物から向けられるそれは、まさしく“威嚇行為”という行動に他ならないもので、周囲の花たちからは明確に敵意が伝わってくるようであった。
「まさかこんな行動をとる花があるなんて……。もしかして一面の花の全部が……!?」
花の中を歩く度に周囲の全ての花から花粉を噴きつけられる光景を想像して思わず戦慄する。
巨大花が吐き出すそれと比較すれば、当然ながら一つ一つは大した量でもないが、無数に群生する花の数を考えればそれは十分に脅威というものである。
今のところは、全身に纏わりついてくる粉末の不快感と濃密な甘い香りに少々頭がぼんやりするという程度の事柄を除けば、然程大きな影響をきたしてはいないという状態であるが、前触れもなく唐突に悪化するとも限らないのだ。
ただでさえ「毒」を含む罠には事欠かないのがこの塔なのである。寧ろそうなりうる可能性の方が遙かに高く、たかが花の粉末であるなどと間違っても楽観視できる筈がなかった。
幸か不幸か巨大花は変わらず粉末を吐き続けるばかりで、先の一撃以降再び触手で叩きつけてくるような様子はない。
ただ、あれを相手に逃げるにせよ戦うにせよ、この場に留まり続けるのは悪手であるに違いなかろう。あまりにも地の利が悪すぎであった。
僅かな立ちくらみを覚えつつも重い腰を上げて立ち上がる。
たちまち身体にこびり付いた粉末の一部が宙へと舞い落ちるが、この場にいる以上、全てをはたき落としたところで何ら意味をなさないだろう。本音を言えばすぐにでも全身の粉を落としたいところだが、今は捨て置くしかない。
巨大花の動きに最大限に警戒の意識を向けながら、どうにか撤退することを目的にエイリークはすぐさま移動を開始する。
果たして逃げ場などあるのかも不明瞭であるが、それでもこの状況下で戦うなどという選択は、自殺行為以外の何物でもなかった。
分断された頼もしきパートナーである魔道少女のニノが居れば、強大な魔法を以って遠距離からでも巨大花を焼き払い、無力化することも可能であっただろうが、剣による近接戦闘が主体であるエイリークには、残念ながらそのような力はない。
戦うためには、どうしても敵の懐まで潜り込まねばならないのだから尚更であった。
花畑の中を踏み荒らしながら歩むごとに、エイリークの良心が痛みを訴え掛けてくる。しかし踏みしめてしまった花たちはもっと痛いに違いないはずだと、こんな状況であっても彼女は小さな命に心を砕いていた。
せめてもの配慮として、出来うる限り花を傷つけないよう、刺激しないよう意識して歩く。
そんなエイリークに、しかし周囲の花たちは気遣いなど意味をなさないと言わんばかりに、彼女が近づいた途端から容赦のない制裁を振りまいてくる。お陰でエイリークの身体で粉末に染まっていない場所など、最早衣服の内側くらいなものであった。
「ごほっ、ごほっ……! うっ、く……身体が、重い……っ」
そうして時折咳き込みながら動き続けてから程なくした頃。エイリークの全身には、異様なまでの疲労感と倦怠感が纏わりつくようになっていた。
ほんの少し前までは何の問題もなかったはずの足取りは、今や鉛のような重いものへとなり下がり、真っ直ぐに前へ歩むことさえも覚束なくなってきてしまっている。
意識はしっかりとしているのに、身体だけがまるで思うように動いてくれないという状態。
案の定というべきか。過剰に浴びせられる花の粉は、やはり人体に何かしらの害を及ぼす作用があったのだろう。エイリークの体調は、急降下する勢いで劣悪なものへと陥ってしまっていた。
(いけない、このままでは……!)
しかしこの状況を今すぐ打破する術などあるはずもなく、とうとうエイリークの身体は、麻痺を起こしたかのように全く動かなくなってしまう事態となる。
粉塵に塗れいつしか輝きを失っていたジークリンデが力なく滑り落ちると、エイリークもまた崩れ落ちるようにその場に膝を付く事となった。
その瞬間を待ちわびていたかのように、巨大花が再び動き始めた。
開花してからこれまで延々と吐き出し続けていた花粉をピタリと止めたかと思いきや、周囲で停滞させていたすべての触手をエイリークに向けて伸ばしていく。
無遠慮に腰回りや手足へと巻きいてくる触手に強い嫌悪感を抱くが、戦うことはおろか立ち上がることさえ儘ならない今の彼女にはどうすることもできない。
何ら抵抗もできないまま入念に拘束を施されると、そのままエイリークの身体は軽々と持ち上げられ、花畑の上を飛び越え巨大花の下へと運ばれていくこととなる。
そうして彼女が連れて行かれた先は、巨大花の丁度真上に位置する場所。
まるで生贄に捧げるかの如く高々と掲げられたエイリークのその真下では、今まさに彼女を捕食せんと巨大花が大きく口を開いているところであった。
「ひっ……! い、いやです……やめて……っ」
眼下に広がる暗闇の大穴は、正しく花の姿をした魔獣の腹へと続くその入り口そのものである。
そこがまともな場所であるはずないことぐらい、実に容易く想像がつくというもの。そんな救いようもない場所に、彼女はこれより放り込まれてしまう事になるのである。
己が身にもう間もなく訪れるのであろうどうしようもないその未来に、これまで気丈に振る舞っていたエイリークも流石に恐怖で表情が歪んだ。
やがてその瞬間が訪れる。
身体を締め付けていた触手による圧迫感が一斉に緩むと同時、代わって落下による浮遊感が全身を包み込んだ。
落ちる。と身を強張らせるも、それはほんの瞬く間のこと。
次の瞬間には、エイリークの身体は柔らかな感触に受け止められており、思わず瞑っていた目を開いた時には既にそこは巨大な花の内側にあった。
「うっ……これが、あの花の内側……」
内部は意外にも完全な暗闇というわけではなく、外の光が薄らと浸透してきているようで、周囲の環境を程よく見通すことができた。
外観から見た巨大さとは対照的に、その内側はかなり窮屈な造りである。
立ち上がってとしても、身体を曲げずに横たわったとしても、天井や壁に頭をぶつけてしまいそうなほど狭く、花の香りの濃度が異様に濃いこともあって、息苦しさと閉塞感がかなり酷い。
肉の檻、とでも表現すればいいだろうか。周りはすべて重厚な肉質感のある凡そ植物には似つかわしくない素材で出来ており、時折脈動するように蠢いている。
生理的な嫌悪感を抱かずにはいられない不気味極まりない場所であった。
「―――きゃあっ!? な、何ですか!?」
不意に、首筋に走った悍ましい感触にエイリークの口から素っ頓狂な悲鳴が上がる。
内部に渦巻く濃密な花粉の残り香に咽ていたがために気づくことに遅れてしまったが、いつの間にか周囲の壁の至る所から新たな触手が這い出してきていたようであった。
サイズこそ一回りほど細長なものとなっているが、外でエイリークを打ち据え、この場所へと引き連れてきたものと同様の触手が彼女を取り囲み、同じように身体を拘束しようと伸びてくる。
「やっ、放して! やあっ……!」
口では明確に拒絶を示すものの、すっかりと花の毒に侵されてしまったエイリークの身体は、己の意思に反してやはり全く動いてくれない。
ジークリンデも失い、為す術もないまま触手による拘束が施されていく。
最終的にエイリークは、空気椅子にでも座らされるような体勢で天井から宙吊りに拘束され、完全に身動きが取れないようにされてしまうのであった。
地面と水平になるよう両腕は左右に大きく広げる形で固定され、両脚はがに股となる姿勢で開脚することでスカートの内を晒すことを強制させられる。あまりにもはしたない姿を取らされることに、エイリークは言いようのない羞恥の念を抱かずにはいられない。
もっともそんな恥じらいなど、彼女がこれより味わう辱めの内容を思えばほんの始まりに過ぎないものであったのだと気づくのは、それからすぐのこととなる。
「ひっ……き、きゃあああああああああああああああああっ!!」
直後エイリークの拘束に加わらなかった残りの触手たちが、いよいよ本格的に彼女を責め立てんと一斉に伸びてきた。
ノースリーブにミニスカートという衣装でむき出しとなった二の腕周りや太ももを撫でまわされる不快感に、一瞬にして全身が総毛立つ。碌に身動きもとれない中にありながら、それでもエイリークの身体が反射的に跳ね上がった。
さらにそれだけでは止まらず、何本かの触手が服の袖口やスカートの裾から内部へと侵入し、衣服の内側へと押し寄せてくる。得体の知れない存在に素肌の上を好き勝手に這い回られ、全身を直にくすぐり回される嫌悪感に、堪らずエイリークの口から甲高い悲鳴が上がった。
「ひぃぃっ! や、やめて! いやっ、いやああああああああああっ!!」
花の毒による痺れと四肢を縛る触手の拘束の二重苦によってほとんど身体を動かすことはできず、しかし肌に与えられる刺激だけは嫌でもしっかりと伝わってくる。
どうにもならない状況にエイリークは只々悲鳴を上げ続ける他なかった。
「ひゃあっ!? だめっ、んっく……くすぐったい……っ、やっ! んはぁぁぁんっ!?」
衣服の内側を適当に這い回っていただけかと思いきや、唐突に触手たちがその動きを変える。まるで人の指先のように先端部を動かしはじめ、それぞれの場所をピンポイントに責めるような動きを取り始めたのだ。
脇の下や脇腹、臍など明確に弱い部分をくすぐられ、胸の頭頂に位置する乳首が転がすようにして刺激される。いつの間にか下着の中にまで潜り込まれていたようで、ご丁寧にも乳首に関しても直責めであった。
「はっ、ん……くっ、ふぅぅぅっ……!」
はじめに抱いていた不快感は、既に「くすぐったい」という感情一色に置き換わっている。そういう意図があっての動きをされているのだから当然であろう。
しかし、これが真に問題となるのはそれとはまた別にあった。
触手が指のような動きを取るようになってからというもの、触れられる箇所にはその度にまるで電気が流れるような感覚が奔り、甘い痺れにも似た刺激が肌に迸るのである。
やがてそれが性的な快感へと繋がっていくことを知るエイリークは、ゆえに大いに戸惑った。
「んあぅっ! い……いやっ、こ、んな……っ、こんなので、感じたくなんてない……っ!」
思いを通わせた彼女の恋人以外の――それもこのような人ならざる異形の存在の――手によって気をやってしまいそうになっていることに。こんな状況にありながら快感に流されかけている己が身の浅ましさに。エイリークはひどい自己嫌悪に苛まれていた。
必死に官能に流されはすまいと歯を食いしばるが、しかし意思に反してじわじわと身体は昂ぶりを感じ始めてしまっている。
身体中に付着した花の粉は妙にサラサラとしたパウダー状のものとなっており、それが肌への滑りをより滑らかにして皮膚への刺激を強めているようであった。
特に太腿から内股にかけての愛撫責めは非常に甘美なもので、感じたことのないほどのくすぐったさと気持ちよさが、濁流の如く同時に押し寄せてくる。
「ハアッ……ハアッ……! ひぃぅんんっ!? そ、そこはダメぇ!!」
ギリギリで堪えていたエイリークが突如として焦りも顕わに取り乱す。
彼女にとって最も触れられたくない場所。即ち女性器という股間に位置する場所が、とうとう触手に狙われることとなってしまったのである。
「ああっ! や、やめてっ! そこだけは嫌! お願いやめ―――んんぅぅぅぅぅぅ!!」
強制的に開脚させられ、大胆に晒すことを強要されたパステルグリーンのショーツ。
その内側へと侵入してきた触手は脇目も振らずに女陰へとたどり着き、必死に拒絶するエイリークの意思などまるで関係なしに蠢き始める。
真っ先に狙いを定められたのは陰核であった。
先端が妙にざらざらとした二本の触手は彼女の突起部を挟み込むような位置取りを取ると、ブラシで擦り回すかの如く丹念に扱くように動いてくる。
さらには、薄っすらと愛液が滲みつつあった膣口が陰核への責めによってその水量を増やしはじめると、蜜を舐め取ろうとする蟲のように何本もの同じような触手がその場所へと殺到し、恥蜜を吸い取りながら刺激してくるのだった。
「あああああっ! ああっ、ふぁぁぁぁんっ! やめて……お願いします、もうやめて……くぅぅぅんっ!!」
嫌で嫌で仕方がなく、何度も何度もやめてほしいと懇願する悲痛なその声はしかし。思いとは裏腹に、徐々に艶気を帯びた色を増していき少しずつその熱を強めていく。
本来であれば真っ先に抱くべきはずの嫌悪感や不快感などといった感情はそれら触手たちの官能を揺さぶる動きによって薄らぎ、全くの別物である「快感」へと変容しかかってしまっている。
それどころか、絶頂感はもうすぐそこまで迫ってきているという状況であった。
「あっ、あ、っ、……イきたくない、こんなのでイきたくない。耐えないと……っ、んんっ!」
自分に言い聞かせるように耐えろと強く念じ続ける。
自尊心といったものが少々希薄な傾向にあるエイリークではあるが、そんな彼女にも「女の矜持」というものはある。
既に十分すぎるほどの辱めを受けてしまってはいるが、ここで快感を享受してしまう事だけは、絶対に受け入れてはならないことであった。
それでも、身体が「気持ち良く」となってしまっているのはどうしようもない。
元より性的な事に対する耐性や免疫がそれほど高くはないエイリークでは、これほどまでに凶悪な色責めに耐え続けること自体が不可能というもの。
身分の差を超えて晴れて彼女と恋仲の関係となったルネスの騎士ゼトは、交際初期の頃から現在までにおいてもそのあたりを常に配慮して何かとエイリークを慮ってはくれるが、残念ながらこの魔物がそのような事を気遣うことなどあるはずもない。
ゆえに、限界寸前の状態にあるエイリークに対して、情けも容赦もなくダメ押しと言わんばかりに触手の責め手が強められるのは、ある意味当然の帰結と言える事なのであった。
「~~~~~も、もう……ダメ―――――あ゛ん゛っ!!」
エイリークの口から一際甲高い悲鳴が上がると、その腰がびくりと跳ね上がった。
ほとんど身動きの取れない状態は相変わらずであるというのに、それでも全身に渡って小刻みな痙攣が引き起こる。膣口からはおびただしい量の愛液が溢れ、膣内では忙しなく筋肉の縮小する動きが起こっていた。
これまで我慢に我慢を重ね続けてきた反動であろう。凄まじい快感が身体中を突き抜けていく。
彼女自身にはその自覚も意図も全くないことではあるが、絶頂の余韻によってぐったりと脱力し、荒い息を吐きながら力なく触手に身を預けるエイリークのその横顔には、薄らとではあるがどこか満足気で恍惚としたものがあった。
「―――……っんひぃぃぃぃぃっ!? ま、また動いて……あ、ああっ、ああああ……っ」
しかしそれもほんの一時のこと。再び触手が蠢き始めたことによって、エイリークは弾かれたように我に返ることとなった。
改めて自分の身体を見下ろすと、異物の入り込んだ衣服が上下に揺れ動く様子を見せつけられ、その下で己の柔肌がいやらしく弄ばれているのだと今一度認識させられた。
「あ、はぅっ!? やあぁ……は、ぅんっ! く、んあぁんっ!?」
そして、意識すると思い出したかのように快感がぶり返してくる。
どうにも衣服の下で繰り広げられている触手たちの卑猥な行為は、先程まで以上により活発なものとなっているようであった。
だが、一度気をやって果てさせられたエイリークの身体はすっかりと敏感な状態となってしまっており、強められた責め苦に耐えよう筈もない。
「ふあああああんっ! あぁんっ、んぅあああああっ!」
結果、彼女は二度、三度と立て続けにイかされ続けることとなった。
甘い絶叫を上げながら淫らに腰をくねらせる。ようやく身を捩ることができる程度には身体の痺れも治まってきたようであったが、身体中からは既にあらゆる力が抜け落ちた状態となってしまっており、最早何の解決にもならない話であった。
「あ……っ……はっ……あ、ああっ……ふ……、……?」
連続絶頂の余韻に粗い息を吐いていたエイリークは、そこでふと触手による責めがいつの間にか止まっていたことに気がついた。
それどころか、ショーツの内側に侵入し彼女の女陰を散々弄び続けていた触手までもが引き下がりはじめ、唐突に安寧の時間がもたらされたのである。
卑猥な拷問に耐えきれたということか、あるいは必死の懇願が聞き届けられ、慈悲から解放してくれる事としたのか。
そんなことがあるはずもないというのに、一瞬でもそのような甘い考えを抱き、あまつさえ気を緩めてしまったのは、今なお続くエイリークの抱える弱さに他ならないものである。
ゆえに彼女は、直前までその身に迫る新たな脅威に気づかない。
「―――――ひぃっ、きゃあああああああああああああああっ!?」
直後、下半身をゾワゾワとした悍ましい感触が襲い、エイリークは思わず悲鳴を上げてしまう。
尻側から再び下着の中へと潜り込み、股下を通りぬけて下腹部の側から飛び出すようその手を伸ばしてきたのは、ぬめり気のある表面に細かなイボイボとした瘤のようなものがびっしりと敷き詰められた横幅のある平べったいタイプの触手。
ぴったりと肌に吸い付くように貼り付いたそれは、さながら女の下半身を擦り犯すことに特化した官能ブラシといったもので、前後へと動き始めると抗いようのない強烈な快感が流し込まれることとなった。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!!」
悲鳴とも嬌声ともとれる声を上げながら、エイリークの身体が限界まで弓なりに反っていく。先程までの触手責めとは比較にもならない暴力的ともいえる凄まじい刺激だった。
尻の割れ目をなぞりながら股の真下を通り、陰核をはじめ大陰唇や小陰唇、膣口といった敏感な場所が余すことなくまとめて舐め取られていく。
ローションのような滑りもある表面によって途中で引っ掛かり止まるというような事もなく、リズミカルに股下で往復を繰り返す触手によってエイリークは絶え間なく責め続けられた。
「きゃうあああああっ! あ゛あ゛っ! だめぇっ、こんなの耐えられないぃ! 気が変に、狂ってしまう……ぅぅううううああああああああああっ!!」
半狂乱にのたうち回るように首を振り乱す。
ブラシ触手が往復を繰り返すたびに強制的な絶頂を立て続けに迎えさせられ、目の前がチカチカと明滅をし始める。陥落寸前であった。
股座からは愛液がずっと流れっ放しで、いつしか潮や失禁といったものまでもが続けざまに噴き出すようにまでなってしまう。それらは全て、彼女の股座を犯す触手によって吸い取られていっていき、巨大花の養分として取り込まれていく。
自分の体液が魔物の食事となるという女としても耐えがたい事実に、しかし当のエイリークはまるで反応を示さない。
清廉であることを日頃から心掛けるエイリークには、はしたなさの極みとも取れるような醜態であるが、最早彼女には怒りを抱く余力も羞恥を感じる余裕さえも残されてはいなかった。
「……う、あぅ……はっ……んああっ」
心身ともに限界を迎えたエイリークの瞳から次第に光が失われていき、ついに彼女はその意識を失う事となる。
それでもなお触手による凌辱は続き、意識を失った後でさえもエイリークはその身体を弄ばれることとなり、巨大花が満足するその時まで彼女はいつまでも悶えさせ続けるのであった。