ファイアーエムブレム ヒロインズ ~英雄たちの受難~ 作:瀬部唯人
落とし穴に落ちた。
カチュアが置かれた今の状況を端的に表すのならその一言に尽きる。
「あぁ……。ほんとに、なんて無様なの……」
己が心底情けない。
動けない穴底で何度目かのため息が漏れた。
それなりに塔の内部を進み、上のフロアまで順調に登りつめていた頃。他の階層と比べてもやたらと多く罠が仕掛けられた回廊をどうにか抜けた先に、カチュアを含めた小隊は広間に出た。
天井の高さも奥行きの広さもあるその部屋に出たことに、ようやく一息つけると間違いなく気が緩んでしまったのだろう。罠だらけの通路を切り抜けたという事への安心感も大きかった。
それでも警戒を緩めて室内に足を踏み入れたのは、カチュアに油断があったという他ない。
突如足元が崩れたかと思う頃には落下する浮遊感がカチュアを包み込んだ。あまりにも予想外の出来事に、普段の冷静さから乖離したなんとも情けない悲鳴を上げながら、彼女は為す術もなく穴底まで滑り落ちていったのである。
「天馬騎士たるこの私が、よりにもよって落とし穴に落ちるなんて……」
空を翔る天馬に乗って戦場を渡る彼女の主な戦場は、当然のことながら空の上が中心だ。城内など屋内での戦闘を除けば、地に足をつけて戦うこと自体そう多くはない。
そんな彼女が地上で穴に落ちる。なんという皮肉だろうか。
こんな話、もしも姉妹たちの耳に入ろうものならば、特に天真爛漫な妹に聞かれようものならばどうなるか想像に難くない。初めのうちこそあれこれと気を使われるだろうが、その後は事あるごとに笑いの種にされ、あまつさえ指をさされて笑われる可能性さえある。
そうなった時、正直カチュアには妹に手を上げない自信が全くなかった。きっと手の形は「グー」となってしまうだろう。それはカチュアとしても望むところではない。
姉としての威厳や尊厳を守るため、ついでに妹に拳骨を落とさないようにするため。目下最優先すべきことは、早期にこの穴底から脱出し、上にいる仲間たちにこのことをきつく口止めすることなのだが。
「う、くっ……。自力での脱出は、やっぱり難しいわね……」
現状この場から抜け出すのは困難を極めていた。落下するときに思わず獲物を手放してしまったため、武器を突き立てて上へ登るという手段もとることができない。
縦長に掘られたこの穴は結構な深さがある。高さにすると大の大人の倍以上の高さはあるだろうか。上のフロアの明かりだけがわずかな光源として頼りなく降り注ぐ。
少し前までは仲間たちからこちらを気遣う呼びかけが聞こえ、穴から引き上げる手段を模索する様子も確認できていたのだが、その最中に敵の襲撃に見舞われたらしく、今はそちらの応戦に掛かりきりになってしまっていた。
自力で這い上がるのはほぼ不可能。脱出するにはどうあっても仲間の助力が不可欠なわけだが、上から聞こえてくる戦いの喧騒音からみても、当面の間は救援を望めそうにない。
「…………っ」
仮にこの場を自力で脱せたとして、その時の己の体力はきっと多くは残っていまい。そんな状態で戦場の中心に姿を晒すなど恰好の的であろう。仲間たちにとっても迷惑に違いない。
この場においての最適解は、下手に動こうとはせずに体力を温存し、救助してもらえるまで動かず穴底で待機していることである。仲間に頼りきりとなってしまうことを申し訳なく思うが、今回ばかりは致し方がない。
そう、普段の冷静なカチュアならそれを理解して、大人しくじっとしていたはずであったが。
「――んくっ! この粘液、ベタベタして気持ち悪い……。それにこの臭いも不快だわ……」
思わず顔をしかめるカチュアの表情には一切の余裕がない。
大人しく待機などという思考はとっくに抜け落ち、今はただ一刻も早くこの場から抜け出したいという思いが大部分を占め、あろう事か感情に任せるままじたばたと足掻いていた。
彼女にとってとりわけ問題となっているのは、壁から滲み出てくる粘性のある白濁の液体がカチュアの全身にまとわりついてくることと、穴の中に独特な花のような異臭が充満していること。そして、まんぐり返しのような姿勢でカチュアが動けないという事であった。
凹凸の多い穴の中は壁から底に至るまで、ナメクジの表皮のようなぬめり気がありヌルヌルと滑る。材質もどこか生物的な弾力のある素材で出来ている事もあって、落下した時に怪我を負わずに済んだわけだが、残念ながら素直には喜べなかった。
さらに穴は底に行くほどに狭くなる構造となっており、穴底にもなると壁とほとんど密着するように形で身体を挟まれ、とても窮屈なのである。
有り体に言って、まるで食虫植物に捕まった獲物のような様相を呈していた。
「っ……。とにかく、この体勢だけでもどうにかしないと……」
あられもない姿勢となったのは落下の途中から急激に壁の幅が狭まったことが大きな要因だ。
大蛇にでも丸呑みにされてその食道を通るかのようにズルズルとすべり落ちていき、その過程でバランスを崩してしまったのか、底に落ち気づいた時にはこうなってしまっていた。
丈の短いスカートは当然のように捲れ上がってしまっている。人目がない事こそ幸いであったが、だからと言って大胆に下着を晒してしまっている事実に羞恥が沸かないわけではなかった。
「んっ、変なところに当たって……っ!」
もぞもぞと身体を動かそうとしていると、不意に股の間を瘤のような小さな突起が擦った。
瞬間、甘い痺れにも似た感覚が電流のようにカチュアの身体を走り抜ける。
「いやっ。そ、そんな、うそでしょ……。こんな状況でまさか私、感じて……!?」
触れた先からじわじわと熱が広がってくる感覚に彼女は大いに戸惑った。明らかに性的な昂ぶりを覚えてしまっている。
なんという浅ましさだろうか、カチュアは己を酷く恥じた。こんな悍ましい場所で満足に身動きも出来ず、おまけに上の部屋では今も仲間たちが必死になって戦っているというのに。
「んんっ! だ、ダメよっ! こんなの、堪えなきゃ……!」
声にして己を戒める。
官能の波に流されまいと歯を食いしばって堪えるが、異様な臭気に当てられたせいか、意思に反して身体は徐々に熱を帯びて昂ぶっていく。
どうにか陰部に触れた突起から肌を離そうと試みるも、中々思うようには動くことができない。それどころか、下手に動こうとすれば他にもいたる所に存在するいくつものイボイボの突起が、今度は尻回りを刺激してしまうことになり、さらには自ら股を突起に擦りつけるような形となってしまう。
「あっ、あんっ! ダメっ、こんなはしたない事、したいわけじゃないのにぃ……!」
穴の中に満ちる粘液によってベトベトになっていた下着に、内側から新たな染みが広がりだす。穴の粘液ではない、己の恥ずかしい体液であった。
自覚し、酷い自己嫌悪に苛まれるが、それさえ官能的な快感が思考を塗りつぶしてくる。
「んあっ! あぁん! ダメぇ、止められない! んふぅっ!」
カチュアの声が少しずつ大きくなっていく。ついには自らの意思で腰を動かし、本格的に股への刺激を求めるようにまでなってしまう。
「はあっ! ふあぁっ、ああっ! んあああぁっ!」
下着越しとはいえ、尻と秘部に伝わる刺激は非常に甘美なものだった。
こんな場所で自慰行為をして嬌声を漏らしている事に対する罪悪感や背徳感といった感情が立て続けに浮かんでは快楽に押し流され、とうとうカチュアの感情は「イキたい」というもの一色に染まりきる。
「―――――ぅっん゛ん゛ん゛っ!!」
呻くようなくぐもった声とともにカチュアの腰が大きく跳ねた。少し遅れて細やかな身体の震えが後に続く。絶頂し達し、イった動きだった。
「ハアッ、ハアッ……っ、最悪だわ……」
絶頂の余韻に息をついていると次第に頭が冷えてくる。
こんな場所で自慰行為に耽り、あまつさえ果てるまでやってしまった。ましてやここは敵地の中心であるというのに。どんな事情であれ、その事実は生真面目な彼女をひどく苛んだ。
自己嫌悪から大いに気落ちしていると。
「ひっ……!?」
ゾワゾワゾワゾワ。
突如カチュアの全身を細い何かが這い回る感触が襲った。
見るとそれは、壁のいたる所から噴出したカチュアの人差し指ほどの大きさの細い触手の群れだった。それらの表面にもべっとりと粘液がまとわりつき、カチュアの身体に触れるたびに粘液を塗りたくってくる。
「いっ、いやあああああぁぁぁぁぁっ!!」
全身をくすぐる感覚に総毛だった。生理的な嫌悪感に堪らず悲鳴が上がる。
油断、いや失念していた。この塔に潜む罠は、その多くが殺傷目的としたものではなく、侵入者を辱めることに特化した変態まがいの卑猥なものばかりなのだ。それはカチュアの落ちた落とし穴にしても例外ではない。
「(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……っ!)」
今頃になって己の窮地を悟るが、時すでに遅し。
カチュアの身体は粘液と臭気に仕込まれた催淫作用によって蝕まれ、さらには自慰による余韻によって完全に脱力しきってしまっていた。
『肉壁の淫魔』はカチュアが絶対に抜け出せなくなったタイミングを見計らい、彼女が弱ったところでいよいよ本格的な拷問へと乗り出したのだった。
ただでさえ思考力を奪う臭いに、肌を敏感にさせる粘液をまとった大量の触手に触れられ続ければどうなるか。考えただけでも怖気が走る。カチュアは何とか脱出しようと必死にもがいた。
「んふぅんんんんっ……! い、イボイボがぁ……っ!」
しかし下手に動けば、またしても瘤のような突起が股間や尻を擦る。
ろくな抵抗さえも封じられ、いつの間にかカチュアは、将棋などで言うところの「詰み」にまで追い込まれていた。
それから始まった触手たちによる蹂躙は、まさに生き地獄そのものだった。
「いやああぁぁっ! やめてえええぇぇぇ!! 出してっ、出してええっ! ここから出してえええぇぇぇっ!!」
恥も外聞もなく泣き叫び、狂ったように暴れ続ける。カチュアがそうすればするほど肉壁の突起は擦れ、触手はより激しく蠢いた。
強烈な粘液媚毒には服や鎧、人体への溶解作用などはないものの、衣服をたやすくすり抜け、その下の素肌に容赦なく擦り込まれていく。
服の下では乳首が腫れ物のように膨れ上がり、恐ろしく敏感な性器へと化す。本来は身体を守るための鎧は、胸が擦るたびに性的な刺激をもたらし、今や身体を締め付けるだけの拘束淫具へと成り下がってしまっていた。
「あ、あっ、ぅああああぁぁんっ! やめてっ、無理ぃ! もう無理ぃぃぃ!」
胸だけではない。
つま先から頭に至るまで身体中を触手に舐め回され、今や全身のどこであろうと感じてしまう身体へと作り変えられてしまっている。
その中でも性器においては格別であった。
媚薬粘液をたっぷりと染みこませた下着は、それそのものが快感を増幅させる装飾として機能し、直に触られるよりも強烈な刺激をもたらすようになっている。それによって、下着の中では性器がヒクヒクと脈打つようにひくつき、陰核においては乳首と同じくらいにまで膨れ上がってしまっていた。
すでに何度も無理やり絶頂に導かれ、股の間からは絶えずに愛液が漏れだしているが、今のカチュアには羞恥心に意識を向ける余裕さえない。
「んひぃぃぃぃぃ! イクッ! またイっちゃう! いっ、ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
びくびくと身体を痙攣させながら、もう何度目かの絶頂を繰り返す。
これ以上ないほどの快楽が絶え間なく与えられ、平時の彼女からは想像もできない獣のような呻き声が苦しげに上がる。快楽によって官能的な気持ち良さがあるとはいっても、それは望まない強引なイかされ方であり、絶頂にはどこか苦悶の色を伴った。
漏れ出した潮や小便が脈打つ壁の中に吸収されるように次々と吸い込まれていく。女の恥ずかしい体液こそが、この魔物にとって極上の食事となる。
落とし穴の主である「肉壁の淫魔」は、その性質から自ら動くことはできない。が、罠にかかった獲物に対しては最高位の魔獣も同然の存在と化すのであった。
「っ! イヤっ……、これ以上はもう……! いやいやいやいやぁぁぁぁぁ……っ!!」
絶頂を迎えたカチュアに、無慈悲にも触手たちの凌辱が再開される。
下着越しに尻穴を穿たれ、股間に群がる触手も下着を押し込んで膣口を弄り回す。むき出しである二の腕や太ももをくすぐられ、衣服の上から腹部や背中が舐めしゃぶられ媚毒を塗り重ねられていく。
容赦のない苛烈な責めに、カチュアの精神はもはや快楽に溶け切る寸前であった。
「あ゛あ゛っ、いやあ゛っあ゛あ゛ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――っ!!!」
悪い夢ならどうか早く覚めてほしい。
悲鳴を上げ続けるカチュアは、残った意識の中でただそれだけを願い続けた。
カチュアが仲間に救出されたのは、彼女が穴に落ちてから二時間近い時間が過ぎてからであった。それだけの時間、穴の中で快楽漬けにされたカチュアの惨状は筆舌に尽くしがたい。
最も大事な純潔こそ奪われてはいないもの、全身という全身はドロドロに汚され切っていた。その身体からは穴の異臭や粘液、果ては様々な己の体液が混ざり合った酷い臭いが放たれている。
快感の余韻は色濃くカチュアの中に残り、穴から助け出された後も、しばらくは身じろぎすることさえままならず、彼女がまともに身動きするができるようになるまでかなりの時間を要することとなった。
そんな状態にありながらも、彼女の理性は辛うじて生きていた。
倒れて動けなくなったカチュアの口から弱々しく漏れる声が、彼女を介抱する仲間たちの耳に小さく、しかし確かに届く。
「この事を他の仲間には……、特に姉と妹には、お願い……どうか言わないで」
譫言のような口止め。
この場にいる者達の中に、仲間を貶めるようなことを吹聴する者は誰一人としていないが、確約の言葉をもらう事がカチュアにとって何よりも大事な事がらであった。
―――自身に誓った落とし穴から脱してから為すべき最優先事項。
こんな状態になりながらも己の使命をしっかりと記憶し、なおかつ遂行してみせるあたり、彼女はとても逞しい。
仲間たちが力強く約束してくれたことを受けたカチュアは、疲れ切った表情を幾ばくか穏やかにすると、やがて静かに意識を手放すのだった。