ファイアーエムブレム ヒロインズ ~英雄たちの受難~ 作:瀬部唯人
草木も眠る夜の遅い時刻。簡素な一室の軋むベッドの上で一組の男女が絡み合っていた。
仰向けで股を大きく広げて寝そべるオリヴィエに、上からのしかかるようにルフレが覆い被さる。いわゆる正常位と呼ばれる体位での組み合いであった。
どちらも一糸まとわぬ生まれたままの姿であり、むき出しとなった女の柔らかな乳房が、男の固い胸板に押しつぶされて歪に形を変える。
互いの背にどちらもそれぞれ両腕を回し、熱い抱擁を交わしながら貪るように口づけを交わし合う。長いディープキスから、どちらからともなく唇を離すと両者の唾液が糸を引き、淫猥な橋となって二人の間に残った。
室内には情事特有の空気が充満し、二人は時間も忘れて只々ひたすらに愛し合う。行為はすでに三度目となる佳境にまで差し掛かっていた。
「ぐう……っ! オリヴィエ、そろそろもう……」
「あっ、ぐ……うあっ。はい……いつでも、きてください」
陰茎は根元まで膣の中に挿入を果たし、肉壁に絡みつくように締め付けられ、今や限界寸前にまで熱く滾っている。暴発を間近にルフレは大いに眉をしかめた。
肉欲に高揚するのはオリヴィエとて同様である。愛する男に女の密壷を最奥まで貫かれ、その衝撃がもたらす甘美な刺激に、ルフレの腕の中でオリヴィエは激しく身悶えていた。
「んはあぁぁぁ……。気持ち、いい……!」
「うぐぅ……!」
オリヴィエの漏らす官能の声に、膣内の締め付けが一層強まった。
切なげに漏れる甘い声はルフレの耳朶を打ち、男の本能を直に刺激してくる。
彼女の善がる表情も、男の情動を大いに揺さぶるものであった。玉汗が滲む額、恥じらうと自然に寄る眉根、しっとりと潤んだ瞳、浅い吐息を吐き出す口元。快楽に蕩けきった表情のそれら全てに、実にそそるものがあった。
その姿にルフレはほとんど無意識に喉を鳴らす。
腹の奥底から、征服欲にも似たゾクゾクとした感覚が込み上げてくる。これまでも彼女と事に及ぶことは幾度とあったが、これほどの昂ぶりを覚えたのは初めてかもしれない。
「まいったな……ちょっと、抑えられそうにない」
すでに二度、精を吐き出した後であるというのに、欲望は収まるどころか益々強まってくる。
三度目をいつ吐き出しても構わない腹積もりで、ルフレは腰の動きを一層強めていった。
「はあぁっ! あっ、ああっ、いい、それ良いっ。それ、もっとぉ……」
その動きに、自然とオリヴィエの嬌声も高まっていく。
無自覚に恥ずかしい催促を口走る彼女もまた、すっかりと快楽に溺れた様子であった。
男根が前後する度に亀頭がざらざらと膣内を擦りあげる。己の最も深い部分を行き来するざらついた感触は大いに官能的な刺激をもたらし、脳髄が痺れるような感覚が立て続けにオリヴィエの首筋を走り抜けた。
「あんっ、うあっ、んっ。あ、はあっ、んあうっ。だめ……もう……」
喘ぐオリヴィエの口から限界を訴える声が漏れるが、ルフレは動くことを止めない。何度も何度も、構わずに突き上げ続ける。
ルフレの射精感は、もうすぐ間近まで迫っていた。今更止めることに意味などないし、止めることもまたできない段階まで来ている。
「だめぇ……もうっ、イク―――っ!!」
オリヴィエがギュッと目をつむる。最早、限界であったのだろう。
彼女はルフレより一足先にがくがくと腰を震わせる。直後、膣内の締まりが一段と強烈になった。それは、同じく限界が来ていたルフレへの最後の後押しには十分に過ぎるものとなり、
「……っ。
「~~~~~っ!!」
短く告げて、ルフレは精を放つ。男根が脈を打ち、吐き出された白濁が膣内に満ち溢れていく。熱い白濁に蹂躙され、しばらくの間、オリヴィエは全身を震わせ続けた。
―――時間はほんの少しだけ遡る。
塔で力尽きたオリヴィエが、エクラの召喚術によって特務機関の拠点に帰還したその日の夜のこと。彼女は己の身体が疲労困憊であることもお構いなしに、恋人であるルフレの部屋へと押しかけていた。
オリヴィエの訪問に幾ばくか驚いた様子を見せたルフレであったが、ただならぬ様子の彼女をそのまま追い返すわけにもいかず、一先ず話だけでも聞こうと部屋に招き入れたことが全ての始まりであった。
扉を閉めた途端、彼女はルフレの胸へと飛び込むと、熱にでも浮かされたような表情でルフレの首に両腕を回してしがみ付く。
わずかによろめくルフレを引き寄せ、そのまま背が届くよう精いっぱい背伸びしながら、オリヴィエは彼の唇に吸い付いた。
いきなり舌を交えての激しい口づけ。
恥ずかしがり屋なオリヴィエがここまで情熱的で大胆なアプローチを仕掛けてきたことに目を白黒させながらも、ルフレは努めて冷静に彼女を受け入れた。
正直なところ、ルフレには予感があった。
アスクの地に現れた例の塔が、女を辱める罠に溢れた悪趣味な場所であるという事は、特務機関の中でも既にそれなりに知れ渡っている話である。
―――そして、もう一つ。統計上、塔に挑み敗れて帰還してきた調査部隊の少女たちは、その後ある行動に出ることが多い、ということが明らかになってきていた。
それが己のパートナー、あるいは意中の相手を性的に襲うというもの。
その内容ゆえ、こちらに関してはアンナなど特務機関の首脳陣によって規制が掛けられ、まだ一部にしか知られていない話であるが、広まるのは時間の問題だろう。
事実、オリヴィエの恋人という事でルフレに伝えられるはずであったその内容を、アンナから聞かされるよりも前から、彼はその情報を掴んでいたぐらいなのだから。
しかしながら、実際に怪我を負ったわけではないとはいえ、本日帰還した小隊のメンバーの中で最も
日中にルフレが見舞いに向かった時には意識はしっかりとしていたものの、熱に浮かされたように顔は赤く上気し、時折ひどく苦しげに呻いてはベッドで身じろぐのだ。傍目にもひどく不調なのは明らかで、実際ベッドから体を起こす事もままならないほどだったのである。
ゆえに、あまり想像がつかないながらも彼女に押し倒される可能性はあれ、しかし少なくともそれは今日ではないだろうと予想していたわけで、だからこそ、夜に彼女が訪ねてきたことには少なからず驚いた。
そして程なくして、ルフレは己が彼女の状態を見誤っていたのだということに気づく。
体調が思わしくないのは間違いなかったのだろう。しかしそれ以上に、彼女の身体は塔から受けた性を弄ぶ拷問によって性的な欲求を強引に引き上げられ、燻る熱を持て余した興奮状態……もとい発情した状態だったのである。
―――そして、気づいた時には今しがた三ラウンド目が終わったところであった。
「……オリヴィエ、大丈夫?」
男根を引き抜きながら今更のようにオリヴィエを気遣う。
繰り返すが、今の彼女は体調が万全とは程遠い。はじめのうちこそ気を回すように心がけていたのだが、後半になるにつれてルフレの方もノリノリになってしまっていた。
我ながら、なんというケダモノ振りだろう。聖王の軍師が聞いて呆れる。
「ハアッ……ハアッ……だ、大丈夫です。まだ、まだイケます……」
「うん。思ったより元気そうで安心だ。でも流石に自重しようね?」
気だるげな様子ではあるが、しっかりと返事を返すオリヴィエに、一先ずルフレは頷いた。
力なく全身を投げ出し、肩で息をするオリヴィエの姿に一抹の罪悪感がよぎる。
「誘ったのは、私の方です……。ですから、ルフレさんにも、満足してもらわないと……」
「息切れしながら『大丈夫』なんてまるで説得力がないね。赤点だ。君を抱くのは至福ではあるけど、今日はもう十分に満足もさせてもらったよ」
オリヴィエの頭をなでながら出来るだけ優しくささやく。ルフレとしても、流石に三度も射精すればある程度は萎えてくる。
……が、とうにヘトヘトのはずなのに、オリヴィエの方はまだ続けようとするつもりであったらしい。驚嘆に値する精神だ。
あるいは、古くから伝わる「ピンクは淫乱」という伝承に所以するものなのであろうか。オリヴィエの淡い桃色の髪を眺めながら、ルフレは中々に失礼なことをひっそりと考察する。
「それに、焦ることもない。こうして無事に帰還できたんだ。しばらくは休養期間も貰えるだろう。時間はあるんだ。君が望むのなら、これからいくらでも僕は君を抱くよ」
その言葉に、オリヴィエは目を見開くと恥ずかしげに俯いた。
少しばかり気障なセリフだとは思ったが、今のオリヴィエにはそれなりに効果的であろう。
「わかりました……。これからも、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそだよ。よろしくね」
良かった、どうにか納得してくれたようだ。とルフレは密かに胸をなでおろす。
オリヴィエから求められるのは、こちらとしてもむしろ大歓迎なところではあるが、病み上がりで弱っている彼女にこれ以上の無理をさせるのは流石に気が咎めた。
「それで、その……。一つ、お願いがあるのですが……」
「うん? 何かな?」
おずおずと顔を上げるオリヴィエに首をかしげる。
平時から控えめな彼女がお願いとは中々に珍しい。己に出来ることであれば、可能な限り叶えてあげたいところである。
「えっと……。ルフレさんは、雷の魔法が得意でしたよね?」
「…………んぇ?」
予想もしない言葉に思わず間の抜けた声が出た。
対して、一度切り出したことで踏ん切りがついたのか。言い辛そうな様子から一転、それまでの疲れも忘れる勢いで、わずかに鼻息を荒げながらオリヴィエはしゃべり出す。
「むしろとても得意ですよね!? 戦場でもその力でご活躍されていると特務機関の皆さんも仰っていますし、何より私自身そのお姿を傍で見ています! 私は魔道についてそれほど詳しくありませんけど、それでもルフレさんが特務機関の中でも上位に入る使い手であることはわかります!」
「いや、そんなことないと思うよ?」
「そんなことあるんです!」
「ア、ハイ」
オリヴィエの勢いに思わず頷いてしまう。
軍師が踊り子に言い負かされた瞬間であった。
「……それで? その事とオリヴィエのお願いにどんな関連性があるのかな?」
話が逸れはじめたので一先ず本筋に戻す。
分析や考察が己の領分ではあるが、今得た情報だけではオリヴィエが何を求めているのかを読み取るのは些か難しい。
ともあれ、この愛らしくも貞淑な己の恋人から奇天烈な内容が飛び出すことなどないだろう。そう思い気軽に構える。……あくまでも表面上は。
そう、不安になることなどないはずだ。だというのに、どうしてなのだろう。なんというかこう……、あまりにも良い予感がしない。
結論を促されたオリヴィエは、それまでの勢いが嘘のように再び言い辛そうに閉口して縮こまる。その仕草にルフレはますます不安を募らせていく。
束の間の静寂。
やがて彼女は静かに胸の内を声にする。その内容は―――
「―――父さん。ここに居たんだ」
オリヴィエの帰還から数日が過ぎた昼下がりである。
それまで日当たりの良いテラスには向かい合うエクラとルフレの他に人影はなかったが、凛とした声とともに新たな人影が姿を見せた。
僅かに息を切らした様子でやってきたのは成人手前の若い少年。ルフレとオリヴィエの未来の息子、ラズワルドである。
ちなみに彼の真名はアズールといい、故あって異なる名を名乗っていたがために、特務機関内において人によって呼び名が変わる人物の一人として数えられている。
さらに余談であるが、父たるルフレからは事情を汲まれて「ラズワルド」と呼ばれ、母たるオリヴィエからは未来の我が子として「アズール」と受け止められ、召喚士たるエクラからは「アズワルドくん」というあだ名をつけられ、近しい者たちからもそれぞれ異なる呼び名を持つ人物でもあった。
「ラズワルドか。……何やら慌てた様子だね。何かあったのかい?」
二人の前までやってきたラズワルドにルフレが水を向ける。
が、肝心のラズワルドはというと、用があったものの言語化する用意ができていなかったのか、あるいは父以外の人間がいることに二の足を踏んでのことか、何やらまごついた様子で思い悩みはじめていた。
己とそう歳の変わらない息子であるが、そうやって思い悩む仕草もオリヴィエによく似ているなと、ルフレは胸の内でひっそりと感慨を抱く。
「その……、母さんの事でなんだけど、ここではちょっと……」
「ああ……」
どうやら後者だったようだ。第三者がいることが問題であるらしい。
ルフレは神妙に頷くと静観するエクラをチラリと一瞥し、改めてラズワルドに向き直った。
「ラズワルド、心配はいらない。エクラになら話を聞かれても大丈夫だ」
「え? で、でも……」
「……というより、おそらく君が持ち込んできたであろう話と同じような内容を、ちょうど彼に聞いてもらっていたところだったんだ」
「えぇぇ……」
淀んだ目で乾いた笑みを浮かべるルフレから、エクラに視線を移すと無言で頷き返された。
聡明な父は、冒頭のラズワルドの言動だけで諸々を察したらしい。
ラズワルドとしても、ルフレでどうにもならなければ最後の砦としてエクラを頼るつもりではあったが、頼りになる父の弱り果てた様子を見て、早くも雲行きの悪さを抱かされる。
「じゃ、じゃあ話すけど……父さん、本当にいいんだね?」
「ああ、本当に大丈夫だ」
話す内容が内容なだけに、どうしても尻込みしてしまう。
一体何が悲しくてこんな話を己が召喚士に相談しなければならないのだろうか。ラズワルドは半ばやけくそになった。
「何から話したらいいかな……。えぇと、母さんが最近さ、結構な頻度で時々ふらふらとどこかに出掛けることがあるんだ」
すでに父から聞かされた話であるのなら、エクラには同じ話を聞かせることになってしまう。
それならば、ラズワルド自身の視点で話を聞いてもらおうと彼は話を続ける。
「気になってどこに行っているのか聞いても、いつもはぐらかされてばかりだった。もしかしたら、何か良くないことに巻き込まれているのかもって……。だから悪いとは思ったけど、心配だったし一度後をつけたんだ」
実際、異なる視点からの見解というのは物事を俯瞰的に見るうえで非常に重要な側面を持つ。
興味深げに耳を傾けてくれるエクラの様子に、ラズワルドは己の判断が悪くなかったのだと密かに安堵した。
「それで、母さんが向かった先なんだけど、それが特務機関にある飛空城だったんだ。その中をどんどん人のいない方へと進んでいくとさ、雷の塔が一つだけ設置された妙な場所に出て、そこで―――」
「そっちだったかぁ……」
思わずぼやいたルフレの呟きをラズワルドは聞き逃さなかった。
「ちょっと待って! えっ、そっちって何!? これ以外にも何かあるの!?」
仰天して目を剥くラズワルドと、話の腰を折られたエクラのじっとりとした視線がルフレに突き刺さる。そのルフレはというと、天を仰ぐような姿勢で顔の上半分を片手で覆い、何とも言えない複雑な表情で重い息を吐き出していた。
指の隙間から日の位置をそっと確認すると、それがまた
「いい機会だ。少し足を延ばそうか。今の内容はエクラにはまだ話していなかったことだし、歩く道すがら話をするとしよう」
「え? 足を延ばすってどこまで……」
おもむろに立ち上がるルフレに困惑するラズワルドと、すぐに行き先にあたりをつけるエクラ。
……いや、ラズワルドの方も何となく察しているのだろう。父を見る彼の目は、普段の尊敬の眼差しとは真逆に正気を疑うようなものへと色合いを変え、露骨に引きつった横顔がそれを如実に物語っている。
当然のようにルフレの方も息子から向けられる視線の意味合いに気づいていたが、その上で彼は行き先をハッキリと宣言した。
「―――決まっている、飛空城さ」
オリヴィエの受難finalへ続く