ファイアーエムブレム ヒロインズ ~英雄たちの受難~ 作:瀬部唯人
特務機関拠点にある施設の一つに「ピンク宿屋」なるものが存在する。
一言で言ってしまうと所謂ラブホテルそのものであり、宿泊や休憩に訪れる男女は
元々は普通の宿だったのだが、どういうわけか利用客のその多くがカップルの割合を占め、イチャコラとおっぱじめる男女がほとんどであったことから、いつからか営業方針がガラリと転換され、そういう店へと相成ったのだった。
防音などの機能も充実して利用者のプライベートもしっかりと守られ、現在ではマニア向けのSMルームのような部屋まで造られている。
どちらかというと小規模に部類される然程大きくない施設であり、立地もそこまで優良という場所にあるわけでもない。そのため知る人ぞ知るといった知名度もそこそこ程度の宿であったのだが、ここ数日の間に利用客の数が跳ね上がり、連日満室という状況が続いているのだった。
その利用者のうち、ほとんどの女性客にはある共通点が存在する。
件の塔に敗れて帰還した英雄という事である。
塔で様々な辱めを受けてきた少女たちは、その身に刻みつけられた拷問の後遺症によって、その後、何かしら不調を患うこととなり、しばらくは懊悩とした日々を送ることを余儀なくされる。
その身を長時間媚薬の毒に侵され続けたワユやカチュアなどは、帰還した英雄たちの中でも一際症状が目立つ顕著な一例であろう。
帰還当初に比べれば随分と症状が和らいだものの、現在でも肌が過敏なままであるらしい。他者から肩を叩かれるなどするだけでも過剰な反応を示し、何事もない平時においても官能の波に苛まれ顔を赤らめている様子が度々見受けられる。
その他にも、気絶するまで性感を刺激する電流を浴びせられ続けたオリヴィエなども症状の重い英雄の一人に挙げられるだろう。帰還してからまだ日の浅い彼女は、その身に無理やり刻み込まれた快楽の余波が未だ色濃く残り、得意の踊りを思うように舞うことも出来ずにいるのであった。
当然ながら戦闘への影響も少なくはない。
いずれも療養し安静にしていれば大抵は時間が解決してくれるものではあるが、それでも彼女たちが完全に回復するまでは、どうしてもそれなりの時間を要してしまうのである。
ゆえに、塔から帰還した少女たちには例外なく数日余りの休暇が与えられ、その身を癒すための療養期間が設けられるのであった。
さて、その間彼女たちが自室で大人しく療養しているのかというと、難儀な事にもその大半が“否”というのが実情となっている。
それどころか、部屋を抜け出した彼女たちが向かう先は、あろう事かそのほとんどが冒頭のピンク宿屋なのであった。
身体の疼きに苛まれる少女たちが、燻った熱を手っ取り早く静める手段は凡そ二極化される。身もふたもない言い回しをしてしまうと、自家発電をして発散するか、己がパートナーとヤるか。そのいずれかである。
しかしながら、召喚された英雄たちにそれぞれ用意される各部屋はそれなりに良質ではあるものの、残念ながらそこまで優れた防音機能は備わっておらず、声や物音は周囲に程よく聞こえやすいという難点があった。
―――情事の声や音を他人に聞かれたくはない。事に及ぶには他の場所が望ましい。
誰もがそう考えるのは当然のことであり、そうして場所を探した先に彼女たちの目に留まったのが、そう。ピンク宿屋なのであった。
己が欲求を存分に発散できる整った環境。
療養中の彼女たちが、夜な夜な部屋を抜け出してはピンク宿にお忍びしているというのは、そういった事情からくるものであった。
ホイホイとついて行ってしまう彼女たちのパートナーの側にも問題はあるのだろうが、愛する女に誘われて乗らないというのもそれはそれでどうなのかという話となるため、中々に難しい問題なところである。
そんなわけで、今宵も満室御礼のピンク宿屋なわけだが、そのうちの一組に数ある特務機関の中でも他ではなかなか見かけることのない少々珍しい男女の組み合わせがあった。
グラド帝国の皇子リオンとロストン聖教国の王女ラーチェルの二人である。
どちらもマギ・ヴァル大陸と呼ばれる異世界から招かれた人物であるが、元いた世界で両者に交流はなく、それどころか方や魔王に身を堕とした存在。もう一方は魔を退ける正義の使者であり、絶対に相容れない敵対関係にさえあった。
そんな二人であったが、この世界で改めて出会い、少しずつ交流を重ねていくうちにいつしか互いに惹かれ合い、紆余曲折の末になんと恋仲の間柄にまで至ったのである。
交際当初。多くの仲間が祝福を贈る中、両者の親友であるエイリークの喜び様など特に際立ったもので、涙ながらに破顔し心からの祝福を贈られたことに、二人して思わずもらい泣きしてしまったものであった。
当時の暖かな光景は、それなりに時間が経過した今でも二人の胸に焼き付いている。これから共に過ごす時間、そんな思い出を一緒に少しずつ作っていこう。そう二人で誓い合ったのだった。
……そのはずなのだったのだが、薄暗い一室で向かい合う二人の間には、そんな誓いや思い出など幻でしかなかったのだと言わんばかりの、冷たく張りつめた空気が吹き荒れていた。
穏やかなものとは程遠く、それどころかかつて敵対していた頃以上に剣呑とした雰囲気が漂う。室内はまるで戦場のような緊張感に包まれていた。
ラーチェルがリオンへ向ける眼差しなど、まるで親の仇でも見るかのような激情を孕んだものとなっており、全身から滲み出る怒気を隠そうともしない。
一方、彼女の目の前で佇むリオンもまた普段の柔和な彼からは想像もできないほどに歪んだ邪悪な笑みを浮かべ、愛する者に向ける表情からは大きくかけ離れたものとなっていた。
「いい姿だね、ラーチェル」
「くっ……!」
せせら笑うようなリオンの言葉に、ラーチェルの表情が羞恥に歪む。
彼女は今、一糸まとわぬあられもない姿となって室内の中心で磔に拘束された状態にあった。
身体は床から僅かに浮かび上がって空中で静止し、両の手足を大きく広げる格好で固定されているがために肌を隠す事さえできない。
手首と足首の先には、仄かに紫の光を放つ鎖のない枷がそれぞれ取り付けられている。リオンが得意とする闇魔道術、その応用を用いた捕縛術であり、ラーチェルを動けないよう縛り付ける戒めであった。
「魔に打ち負かされ、捕らわれの身となった聖王女にはお似合いの艶姿じゃないか。中々にそそるものがあるよ」
光る枷と室内の少ない光源がぼんやりと彼女の全身の輪郭を浮かび上がらせる。
全体的にほっそりとしたシルエット。腰や脚などの肉付きは薄めであるが乳房は程よく実り、細身の見た目に反して骨格はしっかりとしているのか、見る者に肉感的な印象を抱かせた。
惜しげもなく晒された彼女の素肌は白く透き通り、暗闇の中でなお美しく映える。股間には髪と同じ若草色の恥毛が薄らと茂り、最奥から放たれる女の色香が男の情欲を激しく掻きたてた。
「だけど……、その反抗的な目はいただけないな。少し矯正するとしようか」
言うが早いか、リオンはラーチェルの背後に回ると後ろから彼女の乳房へと手を伸ばした。
両の掌に収まる程よい大きさ。下から持ち上げるように抱えると柔らかな感触と幾ばくかの重みが両の手に伝わってきた。
心地よい手触りをしっかりと堪能しつつ、リオンは少しずつ指先を沈み込ませながらゆっくりと乳房に刺激を与えていく。
「っ、ふぅっ!」
繊細な触れ方に思わずラーチェルの口から吐息が漏れる。
くすぐったいようなもどかしい感覚。邪悪な言動とは裏腹に、リオンの手は驚くほどに優しいものであった。
「う……ん……。あ、んっ……、んぁっ」
拘束されて辱めを受けているこんな状況にありながら、不快と感じるどころかあろう事か心地よいとさえ感じてしまっている。
事が始まりだしてからまだほとんど間もない段階であったが、早くもラーチェルは身を委ねてしまいそうになっていた。
「おやおや、もう気をやってしまっているのかい? だらしないことだねえ」
「……っ。だ、黙りなさいっ」
背後からこちらを小馬鹿にするようなリオンの嘲りに、ラーチェルは不意に我に返った。
危うく流されかけてしまっていた事に慌てて取り繕い、誤魔化すように反発を叫ぶ。
もっとも後ろの男にはそんなラーチェルの心情も容易くお見通しなのだろう。低く嗤う声を聞けばリオンの浮かべる表情が相当に意地の悪いものになっていることぐらい、こちらから見えずとも予想がついた。
「くく……、まだまだ余裕がありそうだね。それがいつまでもつことやら」
「んっ! こ、こんな事をしても無駄ですわ。許しを乞うのなら今のうちですわよ!」
「この状況でまだそんな口が利けるとはねえ……。でも―――」
不意に、それまで緩やかな動きであったリオンの手が、突如激しいものへと動き方を変える。
掌全体を使って乳房を繰り返し何度も何度も激しく揉みしだいていく。しばらくその動作を繰り返したところで、一段と力を込めて乳房の形を崩しその状態で掌の動きを制止する。
そこから今度は人差し指と中指を使って、突起した乳首を挟み込むように抑えつけると、そのまま柔らかな肉の内側に押し込めるように少しだけ乳首を沈みこませていく。沈めた乳首を逃がさないよう意識しながら指先を動かし、乳首をくすぐるように転がし回し続けた。
「や、ふっ……くぅ、んああっ!」
「許しを請うのは果たしてどちらになるだろうね?」
「あっ、く……や、やめなさ、んぃぃぃっ!」
彼女が胸で最も感じやすい触り方。
甘美なその刺激にラーチェルは堪らずに仰け反った。悔しいがリオンの指がもたらす刺激は非常に官能的で、味わう快楽は自分で触る時と比較にならないほど大きなものであった。
(あ、ああっ……。ダメ、わたくしの弱いところを的確に……っ、胸だけでこんなに感じてしまうなんて……)
拘束された状態では身体を反らして快感を逃すこともままならない。
碌な抵抗もできずラーチェルの反応は次第に大きなものとなっていった。
「あぁっ! ひあっ、あ、んっ! はぅんっ!」
頬は茹で上がったように上気し、力なく目尻がどんどん垂れ下がっていく。
艶気を帯びた彼女の表情が快楽に蕩けきったものになるまでそれほど時間は掛からなかった。
「ふむ、良い表情になってきたな」
と、背後のリオンから再び声が掛けられる。
位置関係上、特にリオンの方からではこちらの表情など確認のしようがないというのに、まるで直に見ているかのような物言い。加えて、ラーチェルの限界が間近にあることさえ見透かしたかのような絶妙なタイミングでの揺さぶりであった。
耳元に吹きかけられる吐息に、ゾクゾクと身体が昂ぶらされていく。
「あ、あぁ……だめ、本当に……もう……」
「我慢する必要もない。さあ、胸だけで果ててしまうといい」
「―――――ひっ!」
キュッと、一際強く乳首が摘ままれる。それと同時、片側の耳にリオンの唇が触れ、甘噛みをするように優しく噛みつかれた。
刹那、鋭い快感が電流の如く全身を駆け巡る。
「ひぅぅぅんんんんっ!!」
甲高い悲鳴が上がると、カクカクと腰が小刻みに震え、それに合わせて白い素肌がビクビクと波打っていく。
ほとんど胸だけの責めだったというのに、あっという間に絶頂に達してしまった。
「くく……、イったね。満足いただけたかな?」
「ハアッ……ハアッ……」
絶頂直後の倦怠感からラーチェルは答えられない。
じっくりと弄ぶつもりなのか、幸いにもリオンの責めがすぐに再開されるようなことはなかった。その間にラーチェルはゆっくりと呼吸を整えていく。
「……休憩も十分にできたところかな。さてと、それじゃあ……」
「……っ!」
頃合を見計らって再び迫るリオンにラーチェルは半ば無意識に身を強張らせた。
屈辱的な責めにイかされたばかりだが、本番はおろか、まだ下半身に触れられてさえもいないのだ。本格的に辱められるのは寧ろこれからであろう。
為す術もなく蹂躙される未来をラーチェルは覚悟した――
「今晩はぼくの勝ちということで、そろそろ普通にベッドに行こうか」
「お待ちなさい!」
――ところで、唐突に素に戻ったリオンに対して間髪入れずに叫んだ。
首だけ動かして背後を見やる。そこにあったのは、それまでの邪悪な言動が嘘であったかのように困った笑みを浮かべるいつものリオンの姿であった。
「なに唐突に素に戻っていますの!? 寧ろここからが本番だったでしょう!?」
「いや、まあ……そうは言っても、ラーチェルもまだ病み上がりから間もないし、こういう形であんまり無理をさせるのは、やっぱりよくないと思ったから……」
「もうっ! リオンったら、本当にもうっ!」
憤慨するラーチェルとは対象に、リオンの声は尻すぼみに小さくなっていく。
ラーチェルに至っては未だ拘束されたままの状態にあり、リオンの圧倒的優位性は変わらないはずであるというのに、二人の立場はすっかりと入れ替わってしまっていた。
察しのいい方々であればもうお気づきであろう。
邪悪に見えたリオンは再び魔に囚われてラーチェルを弄んでいたわけではなく、険悪に見えた二人に破局の危機が訪れていたというわけでも決してない。二人の間で行われていた一連のやり取りは、即ちそういうプレイの一環なのであった。
内容を端的に言ってしまうと『悪い魔道士と捕らわれの聖王女』というもの。
数日前、ラーチェルもまた例の塔に挑んでは敗れた英雄の一人となった。
他の英雄たちと同様、彼女もまた塔で受けた性的な拷問によって火照らされた身体の熱がどうしても静まらず、拠点に帰還したその日、夜を待たずしてリオンを求めたのであった。
はじめこそ戸惑ってはいたものの、リオンはいつものように己を優しく受け入れてくれたのである。愛を誓い合った半身に抱かれ、ラーチェルは満たされる思いとなった。
だが同時に、その行為だけでは
信じられない事であった。
最初に抱いたのは戸惑い。これまでもリオンと肌を重ねたことは幾度とあったが、こんな感情を抱いたのは初めてのことだった。
次いで湧き上がってきたのは、彼からもっと激しくされたいという欲求。
かつては闇に身を堕とし魔に染まりこそしたリオンであるが、その人柄は皇族とは思えないほどに控えめな性格をしている。少々気弱な一面はあるが、とても優しく思いやりのある人物で、そんな彼にラーチェルは強く心惹かれていったのだ。
彼は同衾して事に及ぶ夜であっても変わらずにいつも優しい。
ラーチェルとしては、自分が大切にされていると理解できるので当然のことながら嬉しく感じている。しかし、夜ぐらいもう少し積極的になってくれてもいいのではないかと、そんな思いを抱くことがあったこともまた事実なのであった。
そしてこの夜、その思いは止まる事なく肥大化していき、一気に膨れ上がっていったのである。
塔から無理やり叩き込まれた快感は、正直に言えば確かに気持ちいいものではあった。
しかし、だからといってもう一度味わいたいかと問われれば、ラーチェルは間違いなく「否」と即答するだろう。どれほど気持ちよくとも、望まぬ快楽を強引に刻み込まれた当時の記憶は、ラーチェルにとって苦痛なものでしかないのだ。
――では仮に、それと同じような内容の事を愛するリオンからされるのだとしたらどうか?
唐突に思い浮かんだ思考からその情景を思い描いた時、ラーチェルは痛ましい記憶も忘れ去るほどの興奮を覚え、かつてない衝動に全身を震わせた。
はしたない考えだとは自分でも思う。聖王女というより、これではもはや性王女だ。
それでも己の内から込み上げてくる衝動を抑えることができない。リオンに強引にされることは、既にラーチェルの中では決定事項となっていた。
思い立ったが吉日。ラーチェルは己の願望をすぐさまリオンに打ち明けた。
当然のようにいい顔をしないリオンに、しかしラーチェルは確実に「イエス」と言わせるように言葉を並べていく。
自分に対して望む欲望を好きにぶつけることができるという男の嗜虐心を刺激し、普段とは趣の異なる行為をすることでマンネリ化に陥らないメリットを説き、塔で受けた苦痛の記憶をリオンの手によって上書きしてほしいと情に訴え掛ける。
話の最中も興奮冷めやらぬラーチェルであったが、自分でも驚くほどに頭は理性的な思考を続け己を勝利へと導くための言葉が自然と次々に流れ出てくるものだから、急転直下の勢いでリオンは追い込まれていった。
おまけに、ラーチェルの言葉には何一つとして偽りがなく筋の通ったものばかりであるため、反論の余地が全くといっていいほどない。
結果などほとんどわかりきった話だろう。
猪突猛進気質の目立つラーチェルであるが、その実、彼女は知性に優れ非常に弁がたつ。舌戦となれば軍配が上がるのは圧倒的にラーチェルの方なのだ。リオン陣営から最終的に白旗が上がったのは、戦の開始からわずか数分のことであった。
それから少しだけ時間が空いて迎えたこの日の夜。
大まかなシナリオだけを取り決め、細かな部分やその後の流れなどはその時々の雰囲気やアドリブに任せ、事前の準備も個々で整えるという些か大雑把な段取りでその時がやってきたのだった。
どちらも素人役者な上にはじめての試み。
一先ずは区切りのいいところまで練習のつもりで実践してみようという話から始まった活劇プレイは、予想以上の仕上がりを見せたリオンの手腕によって当初ラーチェルが望んだ舞台まさにそのものとなった。
元魔王経験者は伊達ではないという事か、リオンの悪人役は驚くほどの出来栄えという他ない。
これならこのまま最後までとラーチェルは期待を膨らませたのだが、一度果てさせられたところでリオンからまさかの終了宣言が飛び出したのであった。
「今日は練習というかお試し、みたいな話だったでしょ? 一応区切りのいいところまでは要望通りに出来たと思うんだけど……やっぱり不満だった?」
「ええ。不満ですわ!」
すっかりと普段の優男に戻ってしまったリオンにラーチェルはぷりぷりと頬を膨らませる。
「歌劇などの舞台に立たれるような方々にも引けを取らない素晴らしい演技だったではないですの! わたくし、とてもビックリしましたのよ!」
「ああ……うん。それは、どうも……」
「確かに今日は予行演習のようなものという話でした。で・す・が! だとしても、ほとんどまだ何もしていないじゃありませんの! リオンだって満足していないのではなくて!?」
「まあ、そうだね。だからそろそろベッドで君を抱きたいんだけど……」
「却下ですわ!!」
「え、えぇぇ……」
バッサリとリオンの要望は切り捨てられた。
彼にも満足はしてもらいたいという思いはあるようだが、その手段はどうあっても彼女が指定したもの以外で譲る気はないらしい。
「このまま中途半端に終わりだなんて、そんなのあんまりですわ! ここまでわたくしを辱めたのですから、最後まで責任を持って乱暴にお抱きなさい!」
「す、すごい宣言だね……。正直、指摘したい所が多すぎるよ……」
「むぅ……。これだけ言っても渋るだなんて……、一体何を気にしていますの?」
捲し立てるようにヒートアップしていたラーチェルであったが、いつまでも渋るリオンの様子が流石に気になったのか、幾ばくか声のトーンを落とす。
彼女の姿勢を受けたことで、歯切れ悪く言いよどんでいたリオンもまた観念したように重く息を吐き出した。
「その、さ……。正直に言うと、こういう形で君に触れるのは悪い気はしないよ。新鮮さもあるし、何より自由を奪われた今のラーチェルの姿はいつも以上に艶めかしくて扇情的だ」
「うっ、そ、そう言われると照れますわね……。というか、今更ですけど流石にいつまでもこの格好でいるというのは、少し恥ずかしいですわ……」
高飛車気質のあるラーチェルとて当然のことながら羞恥心はある。
自分で頼んだことの上に本当に今更ではあるが、指摘を受けて意識してしまい、途端に込み上げてきた恥ずかしさに、ラーチェルの頬が僅かに赤らんだ。
「うん、すごく綺麗だよ。そんな君を、他でもない自分の手で辱めているんだ。背徳感はあるけど、それ以上に確かな昂りを覚えたよ」
「ま、まあ! やはりリオンも満更ではなかったのですわね! それでしたら、悩む必要などないのではなくて?」
「だからこそ、なんというか……このままこれ以上続けてしまうと、歯止めが効かなくなると言うか、自制ができなくなりそうで……」
「むしろ望むところですわ!」
「でもその結果、もしも自分の欲望がラーチェルに傷を残すようなことになったら? そう考えると、やっぱり不安になるから……」
「リオンは本当にお優しいですわね……。ですが心配には及びませんわ! 貴方もわたくしの強さはよくご存じでしょう? 少しぐらい乱暴な扱いをされてもヘッチャラですし、そもそもそれを望んでいるのはわたくし本人なのです。それでリオンを嫌いになる事など決してないと宣言いたしますわ!」
「…………。本当にこのまま最後までしてしまっていいの? 多分、次はもう途中で止めることも出来なくなると思うよ?」
「愛する殿方からそれだけ求められるのなら、それこそ本望という他ありませんわ!」
「そうか……」
そこまで話し終えるとリオンは静かに俯いた。
おそらく自分の中で最後の葛藤や問答を繰り返しているのであろう。他でもない、ラーチェルの身を案じて……。
彼の気遣いを無碍にするようで申し訳ないと思う気持ちはある。己の欲求を叶えて貰いたかったからとはいえ、少しばかり強引に過ぎたという感はどうしても否めない。
しかし、これで今度こそラーチェルの願いは叶えられることだろう。
なんだかんだ言いつつもリオンはラーチェルに対して甘々なところがある。その上、今回の話は彼にとっても満更ではないものなのだ。彼の抱く懸念もラーチェル本人が取り除き、後押しも十二分に果たした。最早、彼に否とする理由もないだろう。
普段何かと遠慮がちなリオンが、強引にラーチェルに触れる。それは、どれほど甘美なものとなるのか。想像しラーチェルは無意識に喉を鳴らすのだった。
やがてゆっくりとリオンの顔が持ち上がる。
穏やかな雰囲気が掻き消え、口元には半月に浮かべた静かな笑み。その表情にラーチェルの期待が大いに膨らだ。
そして―――
「そこまで言うなら、望みどおりにシテアゲヨウ―――」
そして、自分の考えが少々楽観的に過ぎたものであったとラーチェルが思い知るのは、これからもうすぐのこととなるのであった。
ラーチェルの受難 後編に続く