もし千葉くんがエロゲの主人公だったら 作:miyakokat
3年E組副担任 烏間惟臣 ~生徒情報ファイルより~
氏名 浮羽真緒(うきは まお)
出席番号 28(イトナ転入前)
身長 160cm
体重 50kg
血液型 AB型
クラブ活動 なし
学業成績 1学期中間テスト学年総合9位→期末テスト学年総合5位
身体特徴 夏休み中に小学生時代の右膝故障が再発
暗殺訓練 遠距離射撃 クラス2位(女子1位)
※自己都合によりA組からE組へ
** ** ** **
<速水凛香視点>
浮羽真緒がE組にやってきたのは、7月になったばかりの頃だった。
28番目の生徒、浮羽は国から派遣されたプロの暗殺者ではなく、本校舎のA組から来た生徒。
「うおおお!すんげえかわいいしスタイル抜群だなあ!う~ん、Dカップだな!」
「これこれ岡島くん。そういう露骨なことを本人を前にして言ってはいけませんよ!(Eですけど)」
そうたしなめる殺せんせーも、思い切り鼻の下を伸ばしている。
浮羽真緒は3年生になってから椚ヶ丘に転校してきたので、こうしてE組メンバーと顔を合わせるのは初めてだった。
かわいい系の顔立ちに、短めのスカートからスラリと伸びた細脚の黒タイツ、そしてポニーテール。
神崎と矢田を足して2で割ったみたいな出で立ちだ。
男子の興奮ぶりに、少しだけ心配になってチラリと千葉を振り返ると、なぜか唖然とした顔をしている。
「…う、浮羽、どうして……?」
…え?…え?…え?
待って、理解が追い付かない。
なんで千葉はこの子を知ってるの…!?
「ふふふ、久しぶりだね!龍くん」
「おい、なんだなんだ千葉、おまえ浮羽と知り合いなのか!?」
岡島が千葉を振り返る。
「あ、ああ。小学校からな…」
そうなんだ…ショック。
千葉の様子がおかしい。
顔の下半分を真っ赤にして、壇上の浮羽をじっと見つめている。
「浮羽さんの席はあそこ、奥田さんの後ろですね」
殺せんせーに促されて浮羽がこちらに向かってくる。浮羽は私の横を通りすぎてから急に教壇を振り返った。
「ねえせんせー、わたしあんまり視力が良くないので、奥田さんと席を代わってもいいですか~?」
「はい、奥田さんさえよければもちろん」
「あ、いいですよ。浮羽さんどうぞどうぞ」
「うわあ!ありがとう!奥田さんめっちゃいい人だね~!」
テンション高すぎ。なんだか反発を感じるのは私だけなのかな…。…っていうか、奥田の席って。
「わーい!龍くんのお隣さん~」
「楽しそうだね、浮羽さん」
ニヤニヤしてるカルマも、奥田と隣同士になれてよかったと思ってる、絶対。
それから修了式までの数週間、千葉へのなれなれしい態度が時折気にはなるものの、特に目立った行動もなく、夏休みが終わり始業式がやってくるまで、私は浮羽の存在自体をすっかり忘れていた。
2学期の始業式、久しぶりに会った浮羽はどういうわけか右足を引きずって登校した。倉橋が心配して理由を訊ねると、小学校のときに事故で痛めた膝が、今でも痛むという。
それを聞いた千葉の表情が曇った。
困ったことに始業式以降、浮羽は堰を切ったように千葉にベタベタするようになった。
「ねえ龍くん、ここわかんない~」
「それはな、こうでこうで、こうだ」
「わ~い!ありがと~」
すぐ後ろの席なので、千葉とのやり取りがいちいち癇に障ってイライラしてくる…。
金曜日になった。
「午後の訓練は遠距離射撃の記録をおこなう。昼休憩が済んだら射撃場に集まってくれ」
「「「「「「はーい!」」」」」」
「わーい!狙撃だったら得意なんだよね~!」
のぼせてはしゃぐ浮羽にイラついた私は、キッと厳しい視線を送ると、聞こえるようにわざとため息をついた。
「はー…浮羽は経験者じゃないでしょ?」
「ううん?いっつもやってるよ!ゲーセンで!」
ゲーセンか。あきれた私はライフルを抱えて千葉と射撃場に向かう。負けじと浮羽が千葉の腕を持ってついてくる。
…なんなのよ!この子は!
遠距離射撃の順位は、一人10枚ずつ的を撃ち抜いて決める。的の真ん中に近いほど獲得点数が高い。10枚の合計で順位が決まる。
まずは先に男子が狙撃。
さすがは千葉、2位に圧倒的な差をつけて独走だ。
女子は私が94点か。まあまあかな。今日はみんなもそれなりに当ててきている。
浮羽の順番が来た。
30m先の的をめがけてライフルを構える姿勢は、意外にもしっかりしていた。
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
「……え?…あ、あ……」
次々と真ん中を撃ち抜いていくその様子に、不覚にも私は目を奪われてしまった。
「では結果を発表する。1位98点、千葉くん」
パチパチパチ…!
「2位96点、浮羽さん。大したもんだな」
「ええ!マジか!?すごいな~!浮羽!!」
「やるじゃん!速水より上かよ~!」
「続いて3位94点、速水さん」
烏間先生の声がなんだか遠くに聞こえる。
前原と岡島の言葉が私の胸に突き刺さって、目の前が真っ暗になった。
…こういうとき、自分のポーカーフェイスがありがたいと思う。
「すごいな浮羽、速水に勝った女子は初めてだ」
「えへへ!初めてにしては上出来でしょ?」
浮羽の頭をポンと叩く千葉。
…な、なんで浮羽をほめるの…?
悔しさが込み上げて、思わず顔に出てしまう。
そのとき莉桜が私の右手をぎゅっと握ってきた。その温かさに涙が出そうになる。
「…いこ、凛香」
ワイワイと浮羽を取り囲む輪から離れて、莉桜と私は教室に戻った。
放課後、いつものように射撃の練習に行くと、千葉に並んで浮羽がライフルを構えていた。
「………。」
…なんでこいつが千葉の横にいるの!?
どけなさいよ!そこは私のポジションなんだから!!!
「お、速水も来たか」
「……悪い?」
「今から浮羽と競うから記録を頼む」
「………」
「どうした、速水?」
「…いい。二人でやったら?…私は帰る」
プイッ
「…な、なんだよ速水」
「龍くん、速水さんがどうかしたの?」
「い、いや、別に何でもない…」
「そ、なら二人だけで特訓しようよ?」
「あ、ああ…」
「………。」
久しぶりに一人で帰宅した私は、制服のままドサリとベッドに倒れこんだ。黙って天井を見上げていると、自然に涙が耳朶へと伝ってくる。
ふいに千葉の顔が心に浮かんだ。
千葉は私のこと、どうでもいいの…?
冷静になれ、私…。
千葉が私との仲を悪くしたいはずがないではないか。
ピピ…!
突然千葉からスマホにメッセージが届いた。
『今日はいろいろと配慮が足りなかった。本当にごめん。週明けに話したいことがある。』
私は涙を拭いて画面をフリックする。
『いいよ。月曜日の昼休みでいい?』
『いや、放課後で頼む』
『わかった』
スマホをゆっくりとベッドに置いて、もう一度天井を見上げた。
千葉の話したいことって、なんだろう…。
土日のあいだそればかり考えるかと思うと、つらくてつらくて仕方がない。
…でも今は千葉を信じて待つしかない。出来ることは、ただそれだけなのだから…。
** ** ** **
月曜の放課後、千葉から来たメッセージの通り、私は校舎の外の体育倉庫にきた。
ドクン…ドクン…ドクン…。
これから千葉に何を言われるのかと考えただけで、胸の動悸がひどくなる。
ガラガラガラ…!
「千葉、いるの?」
「ああ、入ってくれ」
薄暗い倉庫に目が慣れると、跳び箱にもたれている千葉の姿が見えた。
「話ってなに?」
我ながら言い方がぶっきらぼうでかわいくない。
千葉はうつむいたまましばらく言い淀んでいたが、ふいに顔を上げた。
「…す、すまん…速水、お、俺と…、わ、別れてくれ……」
……え…?ち、ちょっと…待ってよ…!
「…そ、それって、どういうこと…?」
頭がカーッと熱くなって、目の前の景色がグラグラと揺れている…。
「俺と別れてほしい。ほんとに…ごめん」
「え……?…ま、待って、私の話も聞いて…」
「…ああ、もちろん聞く」
「…ど、どうしてそんな結論になるの…?」
「…他に…す、好きな人が、あ、あるんだ…」
頭を鈍器で殴られたような、というのはこういうことを言うのだろう。私は打ちのめされてグラリと足元から崩れ落ちそうになった。
「…う、そ…でしょ?」
「いや、本当だ…」
「ま、まさ、か…、う、浮羽のこと…?」
「え…、あ、ああ…」
そんな……。
く、悔しい…悔しい…けど、れ、冷静になれ…私。こ、これは、千葉の一時の気の迷い、そう、気の迷いに違いない…。
「…あ、あのね、千葉と私の仲って、そ、そんな簡単に…『お前に迷惑をかけないためには、これしかないんだ…』……え……?」
「そ、そんな………」
「…速水、すまん」
「い、いや!」
ギュッ…!
私は千葉を抱きしめた。
「本心は違う、そう…でしょ…?」
前髪に隠れた目と私の目が合う。
「いや…違わない」
「嘘よ…!…んむっ…!」
私は大胆に千葉の唇にキスをした。
お願いだから…これで、これで私への愛を思い出してほしいの…!
「んん…や、やめろ、速水…」
「んむっ…!…ち、千葉が正気に帰るまで、私、やめないから…!」
『…あんまり焦らせると、それこそ千葉くん浮気しちゃうかもよ?』
ふいに莉桜の言葉を思い出した私は、千葉の手をつかんで自分の胸に押し当てた。
「…うわ、や、やめろ速水!」
千葉は慌てて手を引っ込めようとする。
「なんで…!…ち、千葉は私と、私とエッチしたくないの…!?」
「…やめろって言ってんだろ!!!」
ドンッ…!
私は千葉に肩を突き飛ばされた。
「…お、俺は、らしくないお前なんか見たくないんだ…」
「そんな…。私の初めては千葉龍之介のために取ってあるのに…?あんな…あんな女のどこが……」
「お前…自分が何言ってるのかわかってんのか?」
「もちろんよ……お願い…私を抱いて、龍之介………」
「いや、だめだ…」
「どうして…?」
「お、俺にはお前を抱く資格がないんだ…」
「ど、どういうこと…?」
「しつこいね、速水さんって」
ハッ…!
気がつくと倉庫の入り口に浮羽真緒が立っていた。
「龍くん嫌がってるのわかんない?もしかして速水さんってストーカーなのかな?」
「浮羽…あんた…!」
「わたしに銃で勝てないからって、今度は龍くんをカラダで誘惑するわけ?」
「…ば、バカにしないで…!」
「さーて、そろそろ帰ってくれる?わたしと龍くん、これから狙撃の練習あるからね~」
激しい怒りと羞恥心で、私は今にも爆発寸前だった。このあと山道をどう帰ったのか全く覚えていない。
急に降りだしたどしゃ降りのなか、私は下着までずぶ濡れになって、いつものバス停にたどり着いた。
そのバス停にC組の槍本コウスケが雨宿りをしていたなんて、その時の私には気がつくことなどできやしなかった。