※この作品はR-18です。

もし千葉くんがエロゲの主人公だったら   作:miyakokat

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不安の時間

…放課後の教室に、少しずつ夕陽が射し込んでくる。

 

矢田さんはゆっくりと俺の両膝に腰をおろした。

 

「ごめん、重くない…?」

「いや…そんなことない」

 

整った顔立ちに、大きくてまん丸の透き通る瞳。よく見るとその瞳に前髪の長い俺の顔が映っている。

 

「ん…んむ…」

 

矢田さんは目をつむり、もう一度俺にキスをする。それからゆっくりとその唇が開き、おそるおそる彼女の舌が俺の唇をこじ開けて、スルリと中に入ってきた。

 

まだ経験の浅い舌使いで、ぎこちなく俺の口のなかをまさぐってくるので、いたずら心で俺も舌を絡ませてみる。

 

「んッ…!ふむうッ」

 

俺のささやかな反撃に矢田さんは思わず目を見開いてビクンと反応した。それから意を決したように、俺の背中に回していた腕に力を込めてきた。

 

「あむ…(ピチュッ…)んん…」

 

なんて気持ちいいキスなんだろう…。心地よすぎて頭の芯がぼんやりとしてくる。

 

しばらく互いの舌を絡めあったあと、矢田さんの腕の力がゆるんだのを合図に、唇同士がゆっくりと離れた。

 

「…はあ…はあ、ね、ねえ、千葉くん」

「あ、ああ…」

「もうあんまり時間がないと思うの…」

「うん…」

 

さすがにそろそろ先生たちが帰ってくるよな。

 

「だから…エッチ、しよ?」

「え…!?」

「わたし、もう我慢できないから…お願い!」

 

その真剣な表情に俺は何も言えなくてドキマギしていると、矢田さんはスカートの中に手を入れて、下着を脱ごうとした。う、うわっ…、ちょっ、ちょっと…!

 

 

ガラガラガラッ…!

 

突然、廊下の端から勝手口が開く音が聞こえた。

ビクンッと肩で反応した矢田さんは急いで俺から離れると、何事もなかったかのように自分の席に戻った。

 

せわしなく廊下を歩く足音だけで、すぐに烏間先生だとわかる。ということはビッチ先生も一緒か…。

 

「ちょっと、カラスマッ!そんなに急がなくたっていいじゃないの!もう!」

「そんなカカトの高い靴で仕事に来るほうが間違って、…おや、君たちまだ残ってたのか」

 

「はい、ちょうど帰ろうとしてたところでした」

「そうか、少し暗くなったから気をつけて帰ってくれ」

「はい」

「はーい先生!」

 

「あ!千葉くぅん!残ってたの?…ふふふ、これからわたしといいことしなぁい?」

「おい、バカなこといってないではやく来い!」

「ちぇっ…カラスマのイケズ…」

 

…は、はは。助かった…。

 

 

旧校舎から市街地へと下る山道を、俺は矢田さんと並んで歩く。このままバス停まで下ると、そこで別れ道になる。さよならを言う前に、一言だけ伝えないと…。

 

「や、矢田さん、さっき彼氏できたって言ってたよね」

「…うん」

 

「じ、実は、…お、俺も好きな人がいるんだ」

「…そ、そう」

 

矢田さんがぐっと真剣な表情になった。

 

「…だ、だから、ん…んむッ?」

 

突然矢田さんの両手が俺の口を塞いだ。

ま、またもや胸がしっかり俺に当たってます…。

 

「…わかってる。わかってるよ?…でも、いまは言わないで…」

 

 

俺の頭のなかに、さっき教室で矢田さんが話した言葉が思い浮かんだ。

 

『わたしに恥をかかせないで…』

 

 

「ねえ、千葉くん…」

「は、はい…」

 

「今日はほんとにありがとう。わたしのわがまま、いっぱい聞いてくれて…」

「いや…、いいよ。矢田さんさえそれでよければ…」

 

「また練習台になってくれる…かな?」

「え…?」

 

「ごめんね…こんなわたし、幻滅した?」

「そ、そんなことないよ」

 

「ふふふ…」

「どうかしたの?」

 

「千葉くんのここ…すごいことになってる」

「げっ…!」

 

カッコわりい…。

見下ろすと、俺の分身がズボンをテント状にくっきりと押し上げていた。

 

 

☆☆☆☆☆

 

その夜、風呂から上がるとすぐに携帯が鳴った。

 

『もしもし、千葉か?』

「ああ三村か、どうした」

『ちょっと今いいかな…』

「もちろん」

 

三村からC組の槍本のことを聞かされた俺は、ショックでスマホを床に落っことしそうになった。

 

「速水のことだから、すぐに心配はないと思うけど、あいつしつこいから気を付けたほうがいいよ…」

 

マズい、最高にマズい…。

「ヤリ捨てコースケ」の悪いウワサはもちろん俺も知っている。

 

椚ヶ丘のナンパ師三人衆、前原陽斗、榊原蓮、そして槍本コウスケ。

 

友人の名誉のために言っておくが、前原は絵に描いたような軽いヤツだけど、女の子にはとっても紳士だ。それは間違いない。

 

A組の榊原のことはよく知らない。勉強が出来てキザな男だが、不思議と嫌味な感じはない。

 

問題は「ヤリ捨てコースケ」だ。ナンパ師の異名通り、一見ハンサムでよくモテるが、気になる女子にしつこく交際を迫ってストーカーまがいのことをする、と聞いたことがある。同じテニス部員にも奴の協力者がいると聞いている。どこまで本当かは知らないが、テニス部の部室はヤリ部屋と化していると聞いたことがある…。

 

そんなヤバい奴は、本来なら勉強や規律にうるさいこの学園に居られるはずはないのだが、どうも父親が大手広告代理店の偉い人らしく、ここ数年で急成長したこの学園のメディア戦略と深く関係していると聞いたことがある。それなら多少のウワサくらい、何の問題にもならないのかもしれない。

 

そんな悪い奴が速水に狙いを定めたしたら…。考えただけで頭がクラクラしてくる…。

 

「…すまんな、教えてくれて」

「いいんだ。それよりお前も大変だな」

「…ああ」

 

「ではまた、明日学校で」

「…おう、おやすみ」

 

 

『俺、実は速水のことが好きなんだ』

 

口の固い三村を信じてそれを伝えたのは、先週二人でキャッチボールをしていた最中のことだった。

 

「おどろいたな。…でも、全然不思議じゃない」

「…そうか?」

 

「もし俺にできることがあったらなんでも協力するよ。うまくいくといいね」

「すまん、そのときはよろしく頼む」

 

「あ、でも…」

「どうした?」

「そんな大事なことを俺だけが知っているのはつらいから、菅谷にも話してやってくれないかな」

 

そう三村に言われて、俺は少々面食らった。

だけどそれは、三村の友人に対する誠意の表れかもしれないと思い直し、翌日菅谷創介にも話すことにした。

 

「そうか、わかった」

 

菅谷は予想通り淡々と受け止めると、サラサラとなにやら描いて、スケッチブックごと俺に手渡した。

 

「これはお前にやる」

 

それは顔の横で銃を構えた速水の絵だった。

睫毛の長い凛々しい瞳が、俺をまっすぐに射抜いてくる。

 

「…上手だな」

「これで最後だけどな」

「…?」

「この前、速水の後ろ姿を描いたら、本人に見られて微妙な顔をされた。だから、もう描かない」

「そ、そうなのか…」

 

それはそれで残念なことだと俺は思った。それほど菅谷の絵は速水の特徴をよく捉えている。

 

「がんばれよ千葉。応援してる」

「ああ…」

 

 

菅谷との会話を思い出しながら、髪をタオルで拭いて自分の部屋に戻ると、俺は鍵の掛かる引き出しから菅谷の描いたスケッチを取り出して、ベッドに寝っ転がってそれを眺めた。

 

ダダダ…!ばーんっっ!!!

 

「こらあ!龍之介!あんたまたオ〇ニーしてたでしょっ!!!」

「うるせえ!なに勝手に人の部屋入ってきてんだよ!いいかげんにしろこのバカ姉貴!!!」

 

「なんですってえ…?バカ姉貴い?あんたそんな生意気な口きいてると、あんなことこんなこと、みーんなあんたの好きな子に暴露しちゃうから!」

「おう上等だ!言ってみろよ、どこのだれかもわかんねえくせに!」

「ほほー、言ったわね?…私がなんにも知らないと思っているの?」

 

ま、マズい…。コミュ力の高い姉貴がこの町で持っている情報ネットワークには恐ろしいものがある。それこそ小さな子どもからお年寄りのことまで、姉貴の知らないウワサはないと言っていい。弟の同級生のことを調べるなんて、朝飯前かもしれない。

 

「〇〇町の速水さんとこの凛香ちゃんでしょ?龍之介の好きな子」

「うげ…」

 

ガックリとうなだれた俺の手から、スケッチブックが滑り落ちた。

すかさず姉貴はそれを拾ってパラパラとめくっていく。

 

「これ、だれが描いたの?」

「菅谷…。同級生」

「あー、あの子、天才だよね。ちっちゃいときから有名だもん」

 

菅谷のことまで知っているのか…。こいつにはほんと勝てんな…。

 

「ねえ、龍」

「な、なんだよ…」

 

「あんた、この子とどうなの?もう付き合ってるの?」

「なわけねーわ」

「…ちょっと、なにグズグズしてんの」

「そういうけどな、なかなかタイミングってやつが…」

 

「あんた、ちょっと正座して聞きなさい」

「な、なんだよ急にあらたまって」

 

俺はベッドの上で姉貴と向かい合う。

 

「たぶんだけど、凛香ちゃんもあんたのことが気になってるわ」

「そ、そうかな?」

「姉の私が言うんだから間違いない。あんたには他人を惹きつける魅力がある」

「んなわけねーし」

「いいから黙って聞いて。あんたがそうやってグズグズしてる間に、大事な彼女がだれかに盗られちゃうかもしれないのよ?」

 

ドキッ…!!

 

「な、なんでそう言い切れるんだ…?」

「はー…。あんた、一度でいいから真面目に鏡を見たらどう?」

「はあ?」

「あんたに脈がないかもしれない、って思うだけで、知らない間に女の子は傷ついてるもんなの」

「はあ…そうですか」

 

いったいなにが言いたいんだ?姉貴は。

 

「まあいいわ。知らない子にそこまで肩入れする理由もないからね。でも、あんたが好きなんだったら、とにかく一刻も早くその子をほっとかないこと、これ大事」

「そうなんだ、それはよくわかってる…」

 

俺はさわりだけだが、速水が「ヤリ捨てコースケ」の標的になったかもしれないと話した。

 

「…なんと、それはまずいわね…」

「だろ…」

 

「でも」

「?」

 

「よかったね。これであんたの出番ができたじゃない」

「そ、そうか…!そういう考えもあるな!」

 

「さあ、凛香ちゃんに悪い虫がつかないように、明日からボディーガードがんばりな!」

「で、でも速水が俺を頼ってくれるのかな…」

 

「あんたがしてあげないで、他のだれがそれをするというの?」

「…そうだよな」

 

「好きなんでしょ?…その子のこと。だったら迷ってる暇はないんじゃない?」

「…わ、わかった!」

 

 

なんだか無性に勇気が湧いてきた。

ありがとう。持つべきものは、姉貴…かもな。

 

 

一本取られたみたいで、ちょっと悔しいけど。

 

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