導入なんでエロないです…
ということでエイナさん編です、ドゾー
ダンジョンを運営管理する『ギルド』の受付嬢のハーフエルフ、エイナ・チュールはここ最近ある一件で非常に悩んでいた。
それは――
「やぁ、エイナちゃん。今日も相変わらず可憐だッ!仕事を抜け出してデートでもどうだい?仕事もそろそろ終わるのだろう?」
「あ、あの…確かに後は資料をまとめるだけですが…まだ職務中ですので、ご遠慮させていただきます」
「遠慮なんてしなくていい!私の君の仲じゃあないか!まぁ、君がそう言うのであれば仕事が終わるまでここで君の華麗な姿を見ながら待っていることにしよう!」
「え?あ、あの…っ」
エイナが抗議の声をあげる前に、大きな声、大きな歩幅でその神は待受用の椅子にドカリと腰を降ろすと猛烈に熱い視線を職務を全うするエイナに注ぎ続けた。
このやり取りは今日が初めてではない。ここ一週間くらい毎日ギルドに通い詰めてはエイナに愛の言葉を囁やき続けている。
ここまでくると言わずもがなであると思うが、度が過ぎる求婚を繰り返し、何度も断りをいれても粘着質にエイナにまとわりついて来る名もしれぬ神が特大の悩みの種だった。
暫く取っていなかった休暇を有意義に使おうと外に出たのが運のツキ、服を買って気分が上がっていたエイナをその目に収めた例の神が舞い上がるかのように求婚し始めたのだ。
エイナはその優れた容姿から
エイナがあまり男女の関係に興味がなく仕事一筋というのもあるが、強いて言うなら、エイナの好みは頼りになる男らしい男性よりかは少し頼りないくらいの男性が好みだった。
そう、毎度のようにエイナを困らせる兎のような少年みたいな―――
『エイナさん!』
脳裏に兎の笑顔が過ぎる。好みの男性で最も当てはまるのが兎のような少年というだけであって好きという訳では……訳では…
(って何考えてるの私…///!仕事中なのに…)
ブンブン頭を振って業務に集中する。しかし、集中しようとした矢先、例の神が不敵な笑みを浮かべてエイナの下へと歩み寄った。
「どうしたんだい愛しのエイナ。僕の視線に照れているのかい?恥ずかしがることはない、君の照れた顔を見しておくれ」
どうやら顔を赤くして頭を振るエイナを見て愉快な勘違いをしたのだろう。神はキザな物言いでエイナに再び言い寄った。
カウンターに身を乗り出してまでエイナの顔を覗きこもうとする神にエイナは少しばかり引いた。
それに冒険者や他のギルド職員からの視線もあり、エイナはこの神に一刻も早くお帰り願おうと顔を上げた。
「あ、あの!すみません、職務がございますので…ギルドへのご用件がなければ――」
全てを言い切る前に神はエイナの手を強引に掴んだ。引っ込めようにも冒険者でもないエイナが男性の腕力から逃れられるはずもなく引き寄せられる。
「照れなくてもいいと言った!確かにギルドに用はない!いや失くなったというべきか!何故ならこれから私と君で愛の逃避行に出るからさ!さぁ、僕と夜の街に繰り出そうじゃないか!」
あまりの神の横暴に周囲の人間が殺気立った。当然、その横暴を受けているエイナはその神に対して明確な嫌悪感を懐き始めたその瞬間、エイナの視界に白い兎が目に入った。
「あっ、ベル君!」
咄嗟に掴まれていない手を振って
そしてエイナの腕を掴んで強引に引き寄せようとしている男神の横暴を見て、ベルは男神の肩を叩いて困ったように話しかけた。
「あ、あのーすみません、僕エイナさんに急用があって…」
(ありがとうベル君…!)
視線と表情で感謝を告げるとベルはそれを理解して頷いた。
「急になんだね君は…?私のエイナに何のようだい?」
穏便に済めば良かったのだが、粘着質な神は突然割って入ってきたベルに不快感を隠さずに睨みつけた。
「えっ!?い、いや…そのエイナさんが困っているように見えたので…取り敢えずその、手を離しませんか?」
「私とエイナの仲だ。君がどうこう言うものでもないだろう!」
ベルが未だにエイナの腕を掴む神の手を指差して言うが、神は益々不快だと言わんばかりに眉間に皺を寄せて語気を強めた。
(このままだとベル君にまで被害が…)
剣呑な雰囲気まで醸し始めた神にエイナは危機感を覚える。一刻も早く事態を収めなくては、と。
「私とエイナの愛の語らいを邪魔しないでくれるかね!そもそも君はエイナとどういう関係なんだ!?」
「ぐえっ!?ちょ、ちょっと待ってください!暴力はやめましょうよ!?」
しかしエイナが仲裁するよりも早く、神はベルの胸ぐらを乱暴に掴んで問いただそうとした。
相手の怒りを買わないようにと困ったように笑っているが、僅かに苦しげに歪むベルの表情。
それを見た瞬間、エイナの何かがプッツンとキレた。
「あの!エイナさんは僕の専属の――」
「――私の恋人です。この後デートに行くのでギルドに迎えに来てもらいました。ねっ、ベル君?」
おそらく専属のアドバイザーと言おうとしたのだろう。ベルの言葉を遮る形で普段のエイナからは想像も出来ない甘えた声を出してベルに視線を送った。
「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」
衝撃のカミングアウトに、猛烈な求愛を仕掛けていた神と白兎が目を点にして仰天した。
彼氏役が驚いたら元も子もないと思われたが、あまりのショックに厄介神はエイナの腕を離して地に伏して愕然としていた。
「そ、そんな…馬鹿な…!!私のエイナが…すでに他の男のモノに…なっている、だと…ッ!?」
そこに追い打ちをかけるように、エイナは見せつけるようにベルの腕を掴んで引き寄せた。
「こういうことなので、私のことは諦めてください」
「がっ…はぁ…ッ!?くっ…!認めん…認めんぞッ!そんななよなよした男のどこがいい!!?」
ガバッと頭を振り上げて未だに放心状態のベルを指差す諦めの悪い神。
「少なくとも、強引に女性に迫る貴方よりはずっと魅力的な男性です」
「ぐはっ!?!?」
キッパリと斬って捨てたエイナの物言いに神は吐血しながらぶっ倒れた。
しかし、数秒もしない内に幽鬼のようにムクリと起き上がると二人に向かってビシリと指を突き付けた。
「…諦めん…私は愛の神!その軟弱男から君の愛を!いつか!奪い取ってみせよう!!ふはははははははは――」
神は人にぶつかるのを厭わずに高笑いしながらギルドを出て行った。
ベルとエイナの二人が二人が大きく胸を撫でおろしたのも束の間。
途端、ギルドに黄色い歓声が包まれた。
「ひゅーーーーっ!お熱いじゃねぇーかリトルルーキー!!いつの間にみんなのアイドルのハートを射止めてたんだ!?」
「くそっ!?エイナさんがあんなガキと!?」
「こりゃスクープだ!数多の求愛をちぎっては投げちぎっては投げて100人斬りとまで言われたエイナ嬢がリトルルーキーとデキてたなんてよ!」
「リトルルーキー!!絶対に許さん!!俺のエイナさんをよくも!!」
二人の熱愛を祝福する声、ベルに対する妬みや怨嗟の声などでギルド内は一気に色めきだった。呆然とする主役の2人を差し置いてギルド内は熱狂に包まれる。
「へ…?」
「あっ、いや!これは違――」
ハッと意識を取り戻したエイナが急いで訂正しようとした瞬間、隣から肩を叩かれる。
視線を横に移すとピンク色の髪の
「エイナ!」
「あっ、ミイシャ!これは違うの…あの神を――」
全てを言い終わる前にミイシャは手で制するとウンウンと頷いた。
「皆まで言わなくても分かってるよ。私とエイナの仲だもん!」
「ミイシャ…」
「あとの仕事は任せて!新人君とデート、楽しんできて!」
先程の演技を全て理解していて事態の収拾を手伝ってくれるのだろうと思っていたエイナをミイシャは笑顔で裏切ってきた。憎たらしいサムズアップとともに。
「ミイシャ!?」
「いいのいいの!その代わり、今度美味しい食べ物でも奢ってよね!」
「ミイシャーーー!!!」
そうしてこの盛大な誤解が解決することなくエイナとベルはこの場から逃げ出すようにギルドを後にした。
夕焼けで赤く照らされた通りは人混みで溢れかえり、露店には人集りが出来るほどの往来を、近いような遠いような距離でベルとエイナは歩いていた。
「えっと…ごめんねベル君。あんなことに巻き込んじゃって」
「い、いえ…その…エイナさんにはいつもお世話になっているのでコレくらい…」
二人とも気まずそうに視線を彷徨わせながら歩く。あんなことになるとは思っていなかった。
「あの男神にはね…一週間前くらいから言い寄られてて…あそこまで強引に来たのは初めてで…その時ちょうどベル君が来てくれたから…つい助けを求めちゃったんだ」
「そうだったんですね…。その、助けになれて良かったです。」
「でも…ごめんね恋人だなんて言っちゃって…迷惑だったでしょう?」
「いっ、いえ!!全然そんなことは!むしろ嬉し――」
ベルはそこまで口を開いて慌てて口を押さえた。後に続く言葉は抑えたものの、顔が真っ赤なのは全く隠せていない。
「「………///」」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。しかし、周囲の人間が見れば甘酸っぱい空間と評するのは間違いないだろう。
当人たちは気まずい空気をなんとかしようと視線を四方八方に彷徨わせているとベルの視界にある人物…否、神物が映り込んだ。
「――アッ゜…」
その正体は言わずもがな先程エイナに熱烈な求愛を行っていた男神だった。
「……………ジーーーーッ」
その男神が体を折り曲げて、大きな植木鉢の影から強烈な視線を二人に送っている恐ろしい姿が一瞬だけベルの視界が捉えた。否、捉えてしまった。
「…ひっ…!?あ、あの…エイナさん…落ち着いて聞いてください。先程の男神が僕たちを尾行してるみたいです…」
「えっ…?本当なのベル君…」
エイナはあまり不自然にならないようにキョロキョロせずに前を向いて尋ねた。
「…凄い形相でこっちを見てました…」
エイナは大きく溜息を吐いた。なんとなくだが、尾行する男神の目的は大方予想が出来る。
私とベル君が本当に恋人同士なのかを疑い、二人の様子を悉に観察して真相を見極めようという腹積もりだろう。
心底諦めの悪いの男神に、善人のエイナでさえ辟易とした。
この諦めの悪い神は、ちょっとやそっとのことでは手を引かないだろうと確信させられたからだ。
あの神を諦めさせるには、ダンジョン攻略後で時間のあるベルが隣にいる機会を逃さない方が良いだろう。
(さっきあんな事になったばかりで申し訳ないけど…)
エイナは申し訳そうにしながらベルに近寄り耳打ちした。フワリとベルの鼻腔を良い匂いが擽る。
「――ベル君、お願い、私とデートのフリをしてくれる?」
「…へっ?」
ベルの拍子抜けな返答とともに、ストーカーと化した男神を欺くためのデートが始まる。
偽デート編スタート…っ!
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