「で、今日はどうするんだユーフィー」
最近の俺の役割はユーフォリアの買い物に付き合うこと。
ユーフォリアの生活用品を持ち運ぶことが役割なのだが、それも昨日で終了した。
後は彼女の布団などなのだが、それらに関しては『魔法の世界』の大統領が用意してくれるらしいので、今日は本当にすることがないのだ。
タンクトップにショートパンツという先ほどに比べればまともな服装をして、俺の左腕に抱きつきながら頬を擦り付けているユーフォリアに問いかける。
なぜかは知らないのだが、ユーフォリアはこちらに甘えて来るくせに『何をしたい』という主体性をほとんど発揮することがない。
そのくせ、こちらが何をするにもついて来る。
よって、特に用事がない限りは彼女にこうして何をしたいのかを問いかけるようにしている。
そんなことをしているとは知らないユーフォリアはそうですねー、と口にして少ししてから名案が思いついた、と言わんばかりにぽんと手を叩く。
「お出かけしませんか?」
「……別にいいけど。それなら着替えて来い。さすがにその格好は外に出る格好じゃないだろ」
外に出るにはあまりにもラフすぎる。
部屋の中でダラダラするだけであれば何も問題などない格好なのだが、さすがに外に出るともなればもう少しまともな格好をしてほしい。
外向きの格好ではないことは彼女も理解しているのか、特に何かを言うこともなく隣の部屋に戻るユーフォリア。
こんなことをするぐらいなら最初から外に出ても問題ないような姿で出てくればよかったものを、と思わないわけではないのだが、今更言っても変わることはない。
お出かけの準備をその間に済ませてしまえばいいか、とこちらも立ち上がったところで、部屋から出ようとしていたユーフォリアが振り返る。
「……覗いても、いいですよ?」
「そう言うのって普通、覗かないでくださいじゃないのか」
ちょっといたずらっぽい表情で告げたユーフォリアだが、正直こんな幼い少女の裸や着替えに関しては全くと言っていいほどに興味を惹かれない。
なのであっさりとそう言ったのだが、どうやらユーフォリアはそれがお気に召さなかった様子。
少しだけムッとしながらこっちに近寄って来る。
「こんなこと、誰にでも言ったりはしませんよ」
「そうは言ってもなぁ……」
出会ったばかりな俺に言ってる時点でさほど信用がないというか。
いや、まあ、これが普通ではない発言だと理解しているだけマシなのか。
こちらの反応がお気に召さないのかむすっとしながら着替えてきます、と半ば言い捨てるように外に出ようとしたユーフォリアだが、最後の最後にこちらに振り返って。
「あなたに絶対『可愛い』って言わせてみせますからねー!」
そんな言葉を言い残してまた部屋に戻るのだった。
「で、選んだ服装はそれ、と」
「そうですよ」
可愛くないですか、と聞いて来るユーフォリアは、確かに可愛らしいということには否応ない服装。
猫耳フード付きの黒いパーカーに、赤いチェックのミニスカート。
黒いニーソックスも履いていて、絶対領域が眩しい。
にゃん、と猫のように手を曲げながらこちらを上目遣いで見上げている。
「確かに可愛らしいけどさ……」
今はまだ部屋の中なのでいいのだが、外に出た後にその格好でいつもの調子で腕に抱きつかれ頬ずりなんぞされようものなら、俺が周囲から『あいつ猫耳好きなんだな』というふうに見られる。
ついでにここの大統領のニーヤァ、それとこの世界で便宜を図ってくれたナーヤさんの二名からちょっとすごい目で見られる。
もう少しまともな服装をして来ることはできなかったのだろうか。
そう問いかけてみれば、ユーフォリアは視線を逸らして子供のようにだってと言い訳を始める。
「これ以外って、なんだかフリルいっぱいの長袖ロングスカートのワンピースだったり、メイド服だったり。普通の格好って感じしないんですもん……制服デートっていうのもありますけど、初めてのデートなんですからちゃんと着飾りたいですし」
「デートってお前なぁ……」
付き合ってないのだからデートではない。
男女二人で出かけているだけでデート認定するなんて子供か。
子供だった。
ただ、子供だからこそ、ちゃんとした知識はあげないとダメだろう、という気持ちにもなる。
「これはただのお出かけで、デートではないだろ。ちゃんと初デートは好きな人と」
「あなた以上に好きになる人なんてできません」
それは普段の甘えた声を出しているユーフォリアからはあまりにも想像できないほどに硬い声。
バッサリと未来のことを切り捨てる一言。
さすがにそれには驚いた。
「あたしの人生は全部……全部あなたのためにあるんです」
一瞬だけ、彼女の視線が俺の右足に向かったような気がしたが、きっとそれは間違いだろう。
だって、俺の右足はユーフォリアと出会う十年以上前に失われたもので。
ユーフォリアと出会う数日前の避難誘導の際に人の波によって義足が壊れて。
ユーフォリアと出会った当日の朝、ナーヤさんたちからもらった『普通の足と全く見た目が変わらない義足』なのだから。
「だから、お願いです」
どことなく縋るようない瞳。
縋られたことなど一度もないので多分ではあるのだが、少なくとも『まともな状態ではない』瞳をこちらに向けたユーフォリアは、強く左腕を抱きしめてくる。
「あたしのことをそばに置いてください。
あたしのことを捨てないでください。
あたしの人生の全てを、あなたのために使うことを許してください」
あまりにも重たいその言葉に絶句する。
けれどユーフォリアの瞳は不安気に揺れていて。
否定すれば自害してしまうのではないかという錯覚すらしてしまう。
こんなことを口にする理由はわからない。
本気で言っていることしかわからない。
ただ、それだけわかれば、彼女の言葉に対しての返答をするには十分だった。
これが、正しい答えだったのかはわからないが。
「ユーフィーの方が長生きしそうだけど……」
「大丈夫です。あなたがあたしのことを”所有”してくれるなら、絶対に死なせません」
「……重たいなぁ」
絶対に、誰が何と言おうとそんな関係は間違いだと思うのだが。
それでも、このままにしておくわけにはいかないので。
ユーフォリアの頭を、抱きつかれていない右手で撫でる。
「いいよ」
「え……?」
「これからユーフィーは俺の”もの”だ」
その言葉とともにユーフォリアの顔が明るくなる。
彼女のそれは”依存”に見えるのだが、どうしてそんなことになったのかまではわからない。
それでも、さすがに彼女に壊れて欲しいとは思えない。
とりあえず、彼女を普通にするための期限は『この旅が終わるまで』だろうか。
それ以降だと、なし崩しで一緒にいることになりかねない。
なので、ユーフォリアをこの旅が終わるまでの間に普通にして、旅の終わりとともにさようならが一番ダメージが少ないと信じて、そう決意して。
「改めて、よろしくお願いしますね。ご主人様!」
ぱあっと瞳を輝かせたユーフォリアに、その決意が無駄なのではないかと思うほどの、依存心を見た。