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オイゲンとダンケルクを天城達に任せてから、猛海は校舎に戻る。
「猛海、護衛は付けないのか?」
「…いゃ、勘弁してくれ。それでさえ、他の奴らから睨まれてる」
猛海の言葉を聞いて、みんな何も言えなかった。天城達は、猛海との会話を思い出しながら、溜め息をついて無言で座る。静寂な時間がしばらく流れ、ビスマルクがゆっくりと立ち上がった。
「…どうされました?」
「……少し外の空気を吸いに行ってくる」
キュラソーの問いに、そう答えたビスマルク。居間から出ていく。再び流れる静寂な時間。畳部屋に、伊勢、高雄。ラフィー、綾波もいたが、やはり無言だった。誰もどう言葉を掛ければ良いか迷っている。しばらく経つと、1階から複数の声が聞こえてきた。一人はビスマルクのようだ。
「……はい、現段階で侵略者の気配はないです」
「そうか、なら今は安心だな」
「それより、疲れたよぅ」
「お前の場合、はしゃいだからだろ?」
「…ぅ、違う…もん…」
声は、居間の扉の前。そして、扉が開く。入ってきたのは、ビスマルク。その後ろに、ヨークタウン、夕立。ジャン・バールの三人。
「…ヨークタウン姉さん」
エンタープライズが立ち上がる。それに気付くヨークタウン。エンタープライズに近付く。
「エンタープライズ。怪我の具合は大丈夫?」
「…ぁあ、まだ痛みはあるが、生活に支障はない」
「そう」
それ以上は言葉を交わさない二人。
「ところで、エセックスはどうした?」
「…あっ。はい、こちらに向かう途中で、指揮官様にお逢いしたので、護衛に」
その言葉を聞いて、青ざめる面々。
「それはまずい。猛海に先程付けるなと言われたばかりだ」
エンタープライズが声を上げる。あまり動揺を見せないエンタープライズの姿に、ヨークタウンは驚く。
「…それなら問題ない。指揮官には了承してもらった」
ジャン・バールが言う。
「……そうか、なら良い」
力なく、椅子に座るエンタープライズ。その様子に、ヨークタウンは無言で見つめる。
「とりあえず、猛海が戻るまで待つしかないか」
「…そうだな」
ビスマルクの言葉に、エンタープライズが答えた。
夕方、猛海が戻ってくる。その後ろには、エセックスの姿。猛海は、居間の人口密度に驚いた。
「…話には聞いていたが、やっぱり実際に見ると多いな」
「猛海様、お帰りなさい」
入り口で立ち尽くしている猛海に、天城が近付く。
「猛海様ご不在の間、偵察から帰って来た者達です」
天城の言葉に、猛海の前に立ち並ぶ面々。
「指揮官様、ヨークタウンです。宜しくお願いします」
「夕立だ。指揮官、頑張ったご褒美頂戴」
夕立がピョンピョン跳ねる。
「……夕立、うるさい。……ジャン・バールだ。指揮官、宜しく」
猛海は三人を見る。ヨークタウンは、エンタープライズの姉だ。やはり似ている。ただ、ヨークタウンの瞳はどこか不安で、自信がない様に感じた。夕立は、機械の獣耳を付け、落ち着きがない。白髪を揺らし、コロコロ変わる表情が、可愛らしい。ジャン・バールは、金髪の一匹狼。他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。馴れ合いは好きではないようだ。しかし、夕立の言動にツッコミを入れる辺り、完全拒絶ではない。そして。
「…改めて。指揮官、エセックスです。エンタープライズ先輩の様に、完璧に出来ませんが精一杯頑張ります」
青色が少し強い青紫色の髪に、エンタープライズ達とは違う青色の海軍服を纏っているエセックス。ただ、少し際どい服である。エンタープライズを先輩と呼んでいる辺り、後輩なのだろう。
「…猛海、すまない。護衛の件」
「いや、エンタープライズが気にする事じゃない。四人は知らなかったんだし」
エンタープライズの言葉を遮り、そう言う猛海。他の面々も少し申し訳無さそうな表情。
「それより、今後の話をしようか」
「今後の話ですか?」
「ああ」
猛海の言葉に、首を傾げる面々。猛海はその仕草に。
(……何か、みんな可愛い)
そう思ってしまった。我に帰り、誤魔化す様に咳払いをする。
「とりあえず、場所を変える。移動するぞ」
そう言って、猛海が移動を開始する。猛海の後を追うように、全員が移動を始めた。猛海の後ろにぞろぞろと美女達が続く。その光景を不快な瞳で見つめる黒い影が複数。不穏な空気が近付いている事など、この時の猛海は知らない。
今、猛海達がいるのは、学校内の応接室。ここは、幾つかある応接室の中で、一番大きい部屋。現に、天城達が全員入れ、座る事も出来る。ただ、天城達は絶対に座らず、猛海の後ろに控えていた。猛海と向かい合う形で、反対側に座っているのは、校長、小野と猛海をこの学校に転入させた総理と秘書。
「お久しぶりです。総理」
「ははは、猛海君。名前で呼んでくれ、木下と」
「……慣れないんです。総理の方がしっくりくるというか」
「そうか、君の好きな呼び方で良いか」
猛海をこの学校に転入させた木下は、数年前に政界を引退し、今はこの学校の理事をしている。そして、当時秘書だった宮根という男が、現在総理大臣に就任していた。
「それにしても、しばらく会わない間に、大所帯になったね」
「…まぁ、そうですね。」
「何人いるのかな?」
「…偵察に行って、今日顔合わせた子達を入れると、17名ですか」
猛海の言葉に、驚いた表情になる木下。
「それは凄い!いや、赤ん坊の時に、キューブの数が多かったし、驚くのは違うな。うんうん」
木下は一人感心している。
「やっぱり、猛海君は他の指揮官候補生と違うね。何が、彼らと違うのだろうか」
「さぁ、俺には解りません」
木下の問いに、そう答える猛海。
「そもそも、猛海様とその他の方々とは、魂の輝きが違います」
無言で後ろに控えていた天城が答えた。猛海が振り向く。天城は猛海に微笑むと、真っ直ぐ木下を見据えた。
「私達がこの世に実体として現れ出る事が出来るのは『魂の輝き』その一言だけです」
「……魂の輝き」
「はい」
ポツリと溢した木下に、力強く頷く天城。
「我々は、『魂の輝き』を持つ者に惹かれ、その者から離れない。そして、『魂の輝き』がある程度強くなった時、この世界に実体として召喚出来る。自らの意思で」
「自らの意思。つまり君たちは自ら召喚したという事かな?」
「そうだ」
ビスマルクが頷く。
「猛海と他の者達との違いは、その『魂の輝き』そして、猛海の私達に対する愛だけだ」
エンタープライズの言葉に、お茶を飲んでいた猛海が噎せる。
「成る程、愛の成せる技ですか」
「そ…総理、感心しないで下さい」
木下相手にツッコミをいれる猛海。しばらく、談笑が続く。
「ところで、猛海君。何か困っている事はないかい?」
「…あります。見ての通り、人数が増えて少し狭くなりそうな事が悩みなんですが」
実は本題はこれなのだ。ようやく、口に出せて、安堵する猛海。
「確かに、これだけ人数が増えると色々大変だろうね」
「それなら、心配いらないぞ」
ずっと無言だった小野が口を開く。猛海の視線が小野に向いた。
「整備場の裏に、広くは無いけど、平屋を建築中だ。あと数ヶ月で完成だから」
「…っえ!?」
「いや~、ほら猛海って、ギリギリまで言わないだろうから、俺が前以て木下理事にお願いしてたんだわ」
「……いつの間に」
「猛海様、ご存知無かったのですか?」
天城の言葉に、無言で首を横に振る猛海。
「私、てっきり猛海様はご存知なのかと」
「…知らねぇよ。教えといてくれよ」
建築中は、平日、猛海は学校にいて、土日は、武具作りで集中している猛海が気付く筈などない。力無く項垂れる猛海。その場にいた面々の反応は様々。クスクスと笑う者。小さく溜め息をつく者、無表情で見つめる者。
「猛海君」
「はい」
和やかな雰囲気になっていた空間が、ガラリと変わった。木下と猛海の表情が緊張しているのが分かる。
「…君に酷なお願いをするよ」
「分かっています」
猛海は後ろを振り向いた。天城達も表情固く頷く。
「水瀬猛海。君を本日付で正式に指揮官として任命する。政府からの要請があった場合は、何をしていても要請が優先です。宜しいですね」
「分かりました」
指揮官としての猛海の生活が始まった。
整備場の2階、居間に集まる面々。人数分の椅子がない為、畳部屋から座布団を持ち込み、床に座る。
「さてと、これからどうしようか」
猛海は思案する。猛海に集まる視線。
「猛海様、一つ私達からお願いしても宜しいでしょうか」
「ん?どうした?」
いつになく、神妙な面持ちの天城達。天城はみんなを見渡す。真剣な表情でそれぞれ頷く。
「猛海様、今後は戦場に出ないで下さい」
「……はぁ!?何で?」
「みんなの総意です。猛海様に何かあっては困ります」
猛海の表情が変わる。怒り、その一つに。
「…気持ちは分かります。『私達を護りたい』その想いはとても嬉しい」
「例え我々が沈んでも、復活する事は出来る。直ぐにではないが」
天城の言葉をビスマルクが引き継ぐ。
「猛海、さっきの話覚えているか?」
エンタープライズが問う。頷く猛海。
「私達は『魂の輝き』でこの世界に存在出来る。しかし、それは『魂の輝き』を持つ者が生きているからだ。しかし『魂の輝き』を持つ者が死んでしまえば、私達はどのみち消えてしまう。闘わなくても、闘ったとしても」
エンタープライズの言葉で空気が重くなる。
「お前達の総意は聞けない。どのみち消えてしまうんだろ?俺が生きていても、闘い沈めば消え、俺が死んでも同じ。なら、余計に聞けない」
「だが、猛海が生きてさえいれば、私達がいなくなっても」
「…他の戦艦少女が、俺の所に来て、護ってくれるって?馬鹿か!?」
猛海は怒りで立ち上がる。猛海に集まる視線。猛海は、深呼吸すると目蓋を閉じた。誰も言葉を掛けられない。
「お前達の気持ちは嬉しい」
ゆっくりと目蓋を開ける猛海。
「でも、やっぱり無理だ。俺には、お前達が必要だから。それに他の戦艦少女達が来ても、お前達じゃないんだ。例え、復活しても俺が逢えないんじゃ意味がない」
猛海はゆっくりと居間から、自室に向かう。猛海は振り向かず。
「俺にとって、お前達は兵器じゃない。大事な女の子達だ。恥ずかしい話、大事な子達を護りたい俺の愛情表現だよ」
そう言葉を残して、自室に籠った猛海。天城達女性陣は、顔を真っ赤に染め、悶絶したのだった。
近い内に、番外編でエンタープライズ達三人の濡れ場書きます。乞うご期待?