突如、内閣府官邸に鳴り響く電話機。この国のトップが受話器を取った。
「……私だ、何の用だ」
苛立ちを隠す事なく話す。そのトップは、驚愕の表情で勢い良く立ち上がり。
「何だと!?それは確かか?……分かった。すぐに準備しろ」
震える手で受話器を戻し、深々と椅子に腰掛けた。
「……遺伝子データに載っていない、素質の子か」
ポツリとこぼし、トップは不敵な笑みを見せる。何の前触れもなくもたらされた情報に、内閣府は混乱が起こっていた。
過疎化の進んだ山奥の集落
民家の少ない集落に、不釣り合いな高級外車が一件の家に止まり、黒スーツの集団が一斉に降りてくる。その光景を、集落の重鎮達が怪訝な表情で見ていた。築年数がかなり進んでいるその家は、何の変哲もないただの民家だ。所々に長年の雨風で傷みが進み、屋根には割れた瓦も数ヶ所ある。黒スーツの集団に囲まれる様に、国のトップがその家に近付いた。玄関の前に立つと黒スーツの一人が、インターホンを押す。家の中で誰かが近付いてくる足音。ガチャリと鍵が開き、ゆっくりと扉が開いた。そこに立っていたのは、見た目30代くらいの細身の男性。その男性は黒スーツの集団を睨んだ。
「……どちら様?」
「我々は政府の者です。こちらの方は、今の内閣総理大臣」
「帰れ」
男性は言葉を遮り扉を閉めた。国のトップ、総理がインターホンを押す。しかし、扉は開かない。
「水瀬さん、お願いです。お話させて下さい」
「話す事はない。帰れ」
「貴方に無くても、こちらにはあります」
「それは俺には関係ない」
「…そうですか、しかし、我々は帰りませんよ。貴方のお子さんに会うまでは」
頑なに閉じられた扉を見つめ、総理は小さなため息を吐く。
「貴方のお子さんは、この国の戦力になる。例え、本人が拒否をしたくても逃げられない運命」
「……子供の命を差し出せと言いたいのか?」
「それは保証出来ません。……が、我々は全力でお子さんのサポートします」
「………俺は認めない…」
「恨まれる覚悟はしています。憎まれるのも、蔑まれるのも覚悟しています。しかし、どうかお願いします。一人でも素質のある子がこの国には、否、この世界には必要なのです」
総理は扉に向かって頭を下げた。扉の向こうに立っている男性からは見えない。それでも頭を下げ続けた。しばらくの静寂。ガチャリと扉の開く音。男性は苦悩の表情で総理を見た。
「……まだ認める事は出来ないが、会わせても良い」
そう言って、家の中に入る様目配せした。総理は少し目尻を下げ。
「ありがとうございます」
そして、一歩中に入る。黒のスーツの集団は、家の外で待機。総理と秘書の一人が部屋の奥へと通された。通された場所は、どうやら居間だったらしい。だが、居間には見えない空間が広がっていた。寛ぐ為の椅子やテーブル、テレビ等は無く、あるのはベビーベッドのみ。男性がベッドの側に立つ。総理も同じ様に近付いた。
「……こ、これは!?」
驚愕の表情の総理。隣にいた秘書も目を見開き驚いていた。ベビーベッドで寝ていた赤ん坊の周囲を無数のキューブが浮遊していたからだ。
「…なんて……数なんだ。信じられない」
「どうした」
「…いゃ、その…水瀬さん、お子さんは産まれた時からこの状況、つまりキューブを?」
「…?」
総理の問いが良く分からない様な表情を水瀬がした。
「言っている意味が分からない」
「ですから、出産時の状況を知りたいのです。水瀬さんのお子さんは最初のキューブ、幾つありましたか?」
「最初からこの数なんだけど?……っあ、でも最近増えた感じもあるかもな、把握してないから正確な事分からん」
水瀬の言葉に、総理も秘書も開いた口が塞がらない。呆然としながらも、キューブに目をやり、一番近くを浮遊していたキューブに、そっと触れようと指を近付けた。触れる直前、キューブから電流が弾け、暴れまわる。その様子に、キューブ全体が電流を弾けさせながら部屋の中を回り始めた。
「何してくれてんだ!」
水瀬が怒号を上げる。総理は青ざめ、立ち尽くしていた。
「……あ…う」
緊張感のない可愛らしい声。その声の主を見ると、さっきまで寝ていた赤ん坊が目を覚まし、総理を睨んでいた。次の瞬間、赤ん坊が小さな手を天井に向け。
「…うう…あう」
赤ん坊の声に、キューブ全体が電流の放出をやめ、素早い動きで赤ん坊の回りに集まる。一つのキューブが赤ん坊の頬に触れた。キューブを優しく掴む赤ん坊。そして、また眠りにつく。
「……今のは」
「いや、俺も初めて見た。大体、この状況になった事が一度もなかったからな」
何も言えず、ただ赤ん坊を見つめる総理。
(……こんな事、聞いた事がない。しかも、まるで意思があるような動き、もしかしたらこの子供、今までの子供達と違うのでは?)
総理は赤ん坊とキューブを見つめ続けた。
全体的にコンパクトなお話を書くと思います。短編なだけに…(うん、ツッコミが欲しいね)
多分、進むに連れて長めになるであろうと思っています!