衝撃的な光景を目の当たりにしてから数時間が経過。内閣府官邸に戻る車内で、総理は数枚の資料に目を通してした。資料には、あの赤ん坊と両親の情報が書かれている。その中でも赤ん坊の出産時の情報を食い入るように見つめる総理。
水瀬猛海(みなせたけみ) 性別 男
『父、淳と母、圭子の間の第一子。出産時の状況、複数のキューブと共に産まれ出てくる。子供は健康そのものである。へその緒等の処置の際に、特に異常なし。ただし、出産後、母である圭子は死亡。キューブとの因果関係は不明。』
総理は小さなため息を一つ。
「……水瀬猛海。彼はもしかしたら」
窓の外を眺めながら、静かに決意する。
それから五年の月日が流れた。周囲の大人達に見守られながら、猛海はすくすくと成長。時に悪戯をしては怒られ、猛海は元気に走り回る。勿論、猛海の回りにはキューブ達が浮遊。猛海とじゃれるように回る。その様子を離れた場所から、黒スーツの男達が監視していた。それは集落の住民も猛海の父親も知っている。最初、監視する事を反対していた住民もいたが、猛海に危害が及ばないと分かると、反対する事も無くなっていた。
「……今日も特に異常なしか」
猛海を監視している者からの報告書を読み、総理はポツリと溢した。
「あれだけのキューブの数、どうしたら手に入るのでしょうか?」
「…さぁ、それは今の段階では分からない。しかし、不思議な子供だ」
秘書の問いに、総理は淡々と答えた。秘書もため息混じりに書類を見つめる。書類を机に置き、椅子から立ち上がる総理。ゆっくりと窓の外を眺め。
「まぁ、いずれ何か変化があるだろう。その時を待とう」
「そうですね」
さらに月日は流れ、猛海、十歳を迎える。元々、過疎化の集落。児童数は少ない学校に猛海は通っている。そんな中、一人の児童が猛海を虐めていた。
「お前、この村から出ていけよ」
「……」
「鬱陶しいだよ。何だよ!いつも変な物引き連れやがって」
そう言って、キューブを指差す。猛海の回りにはキューブが浮遊している。その数は、年々増えていた。出産時、ざっと30個位のキューブだったが、今は50位は超えている。一つ一つの大きさは小さいが、数が多ければ、嫌でも目に入ってきて、見ている者には異様に映るのだろう。
「何か言えよ!」
肩を押され、バランスを崩す猛海。彼は何も言わない。ただ、無言でその児童を睨んでいる。それが余計に気に障り、児童は猛海の胸ぐらを掴んだ。
「……ご主人様に触れる事は許しません」
猛海の胸ぐらを掴んだ児童に、一つのキューブが反応する。バチバチと電流を弾けさせながら、猛海と児童の間に入ってきた。いきなりの事に、児童が後退り尻餅をつく。キューブはゆっくりと猛海から離れ、光を増し、そして。
「……初めまして、ご主人様。ベルファストでございます。すぐの召喚で、不慣れではございますが、ご主人様のお世話をさせて頂きます」
メイド姿の女性が現れ出た。スカートを軽く摘まみ、恭しく頭を下げ、礼をする女性。これには猛海も驚いた。
「……ベルファストさん、指揮官様を心配されるのは理解出来ますが、先走りは良くないですよ」
ベルファストと名乗った女性の横に、別のキューブが近付く。そして、同じ様に光を増し、そこに着物姿の獣耳の女性が現れた。
「……初めまして指揮官様。天城でございます。私も指揮官様のお世話をさせて頂きますので、以後宜しくお願いします」
女性二人は、猛海を優しく見つめている。猛海は見惚れていた。何故なら、二人とも美人だったからだ。メイド姿の女性は、銀髪の長い髪を後ろで軽く纏めて流している。目鼻立ちはくっきり。着物姿の獣耳の女性は、何処か儚げで、日本女性の大和撫子を連想させた。その上、二人ともスタイルが良く、巨乳。猛海だけでなく、そこにいた男の子達は胸を高鳴らせる。
「ベルファスト、天城良いなぁ。私達も早く指揮官様にお逢いしたい」
「仕方ないですよ。もう少しの辛抱です」
周囲に浮遊しているキューブから声が上がる。その声は女性。猛海の身体に触れる様にクルクル回る。猛海はキューブ達にされるがまま。ベルファストと天城は微笑んでいる。
その日の夜
猛海は内閣府官邸にいた。目の前にいるのは、総理と秘書。そして、猛海の後ろでベルファストと天城が寄り添い、総理を見つめている。猛海の父もそこにいた。勿論、キューブ達も浮遊している。総理と秘書は驚きを隠せてはいないが平静を保とうと、軽く咳払いし、猛海達に椅子に座るよう促す。猛海は素直に従い、座ったがベルファストと天城は立ったまま、猛海の後ろに控えた。
「…いや、驚きました。こんな事、初めてです」
「何がですか?」
「詳しい事はまだ解明されていませんが、戦艦少女達を召喚出来るのは、16歳を過ぎた少年達だったもので。まさか、10歳で召喚するとは。しかも、召喚する装置も使わずに」
総理が言っているのは、本当である。今までの召喚は、政府が開発した戦艦少女達を召喚する装置で、召喚させていた。しかも、素質のある男の子が、16歳を迎えてようやく出来る事である。それを猛海はどちらも無しで召喚したのだ。
「お言葉ですが、指揮官様は他の方々と違います。一緒にしないで下さい」
言葉に怒気を含ませた天城が言う。勿論、ベルファストの表情も怒りが表れている。
「……申し訳ありません」
総理が頭を下げる。猛海は黙ってそれを見つめていた。今の状況が分かっていない。それは仕方がない事である。猛海はまだ10歳の男の子なのだ。
「…俺、良く分かんないんだけど、ここに呼ばれたのって、何かしないといけないの?」
首を傾げながら猛海が言う。その言葉を聞いて、総理はベルファスト達を気にしながら、猛海を見つめ。
「君は、いずれ戦場に向かわないと行けなくなる」
「戦わないといけないって事?何と?」
「侵略者と。君の後ろにいる彼女達の力を借りて」
そう言って、ベルファスト達に視線を送る総理。猛海は後ろの二人を見た。優しく微笑んでいる二人。しばらく見つめ、総理に視線を戻す。
「何で二人の力を借りないといけないの?俺が戦えば良いんじゃないの?」
「……侵略者を倒せるのは彼女達の力だからだよ」
「おじさん、女性に戦わせるって、それでも男?」
猛海の言葉に、ずっと無言だった猛海の父が吹き出す。猛海は一瞥し、総理を見た。
「君の言いたい事は分かってるつもりだ。しかし、侵略者は普通の武器では倒せない。彼女達の武器でないと」
「良く分かんない。なら、その武器を俺が使えば良いんじゃん」
「指揮官様。私達の武器は、指揮官様にも扱えないのです」
「どうして?」
「……」
「どうして使えないの?みんなの言っている意味が分からない」
「ご主人様」
猛海は身体を震わせ、怒りをみせた。ベルファストが肩に触れる。猛海の腕がベルファストの手を拒否の意思を示す。ベルファストの表情が悲しみに染まる。
「猛海君、君には知識が必要だ。そうすれば、私達の言っている意味が分かる」
「……本当に?」
「ああ、本当だ」
「……分かった」
猛海が小さく頷く。それを確認し、総理は口を開いた。
「猛海君、来月から『指揮官養成校』の特例として転校してもらいます」
「……転校」
「そこで学べば、私達の言っている意味が分かる。彼女達の事も。行くかい?」
猛海は無言。しかし、力強く頷く。そして、そのまま部屋を出ていった。その後ろをベルファスト達とキューブが追う。部屋に残ったのは、総理と秘書。
「上手く言って、あの少年を使えば良かったんじゃないですか?」
「無理だろう。あの二人が黙っていない」
「それは確かに。今までの戦艦少女達と違いますね」
二人は小さなため息を吐く。
「しかし、あの指揮官養成校に行かせるのは、反対です。確かに知識は学べますが、それ以外の問題が悪影響を及ぼしかねません」
「……君の言いたい事は分かっている。対策も万全だ。まぁ、いずれは目の当たりにするだろうが、それも猛海君が通る道だ。我々は見守ろう」
二人は頷き合うのだった。
ベルファストと天城が出ました!これから少しずつ色んな少女達が出てきます。