暗い夜空が明るくなり始めた頃。猛海は一人、施設の外へ出ていた。外の空気は、少し湿り気を帯び、雨が降りそうな気配。猛海は缶コーヒーを片手に、遠くを見つめていた。太陽が少しずつ水平線から現れ始める。何かが猛海の視界に入り、猛海はそちらに視線を向けた。蛍の様な今にも消えてしまいそうな光。フラフラと飛び、ゆっくりと猛海に近付く。猛海は、缶コーヒーを地面に置き、その光を優しく掴んだ。
「…これは……」
「キューブだな」
猛海が振り返ると、モナークとジュリオ・チェザーレの二人がいた。
「見回りか?」
「ああ」
モナークが猛海の手の平の上で、浮いているキューブを覗き込んだ。
「…弱っているな」
「そうなのか?」
「ああ、かなり衰弱している」
モナークが小さく息を吐く。
「…君、私の声が聞こえるか?」
キューブに話し掛けるモナーク。猛海は固唾を飲んで見守る。
『…誰?』
弱々しい光を点滅させながら、キューブが声を出した。
「私の名はモナークだ。君、どうしてこんな所にいる?君の指揮官はどうした?」
『……私の指揮官は死んだわ…。ずっと前に』
その言葉に、モナークが息を呑んだのが分かった。猛海は、モナークの表情を窺う。困惑の色が濃い。珍しく眉間に皺を寄せ、小さく唸るモナーク。
「モナーク、どうした?」
「……」
猛海の問いに、モナークは無言でキューブを見つめた。そして、一度猛海に視線を向けてから、再びキューブに視線を戻す。
「…猛海、我々がこの世界に存在出来る理由は、知っているな?」
「ああ、俺達指揮官が放つ『魂の輝き』だろ。以前、モナークやみんなに教えてもらったから、覚えているけど」
「そうだ。我々には、その『魂の輝き』がこの世界に存在出来る唯一のエネルギー源だ。だから、最初にキューブの状態でこの世界に生まれる際、必ず『魂の輝き』を持つ者の近くで生まれ、その者を自分の指揮官として認め、存在を確定させていく」
モナークは小さく息を吐く。
「…自分の指揮官が死亡した場合は、エネルギー源である『魂の輝き』が絶たれ、我々はこの世界に存在出来ず、消える。だが、それは人で言うところの死ではない」
「死じゃないなら。何だ?」
「……そうだな、簡単に説明すると、思念体として空中を漂う。思念体の状態であれば、エネルギー源は必要ないからな。我々は何年後でも『魂の輝き』を持つ者の側でキューブ体になれる」
「……それで?」
猛海はモナークに問いながら、表情を曇らせた。
「…う…むぅ」
唸りながらモナークは目を伏せた。猛海の視線が、手の平のキューブに向けられる。
「思念体に戻らず、『魂の輝き』からエネルギーを絶たれたままのキューブは、自らの命を削り、徐々に消耗し、そして消滅する。…それが我々にとっての死だ」
「……助ける方法は?無いのか?」
「一つだけ、この娘を救う方法はある」
猛海の視線がモナークに再び向けられた。
「簡単な事ではあるが、それを本人が望まなければならない」
「つまり、俺を指揮官として認めさせなければならないんだな?」
「そう言う事だ」
頷くモナーク。猛海はキューブを見る。
「…君は、どうしてそんな状態で彷徨っているんだ」
猛海の呟き。すると、キューブが反応した。
『……ずっと一緒だったの。いつも、どんな時も私達は二人で行動してた』
猛海が言葉を発しようと口を開き掛けたが、モナークが手で制した。
『…私達の指揮官が死んで、彼女は先に思念体へ戻ったわ。でも、私は出来なかった。だって、思念体になったら、また同じ指揮官の元で逢える保証がなかったから。だから、私はキューブのまま、彼女が来るのを待ったの』
「…その彼女は見つかったのか?」
『……えぇ…気配を感じ…た…』
言葉が途切れ始める。猛海の表情が焦りに変わる。モナークの表情も苦悶に歪んでいた。
「俺を、君の指揮官として認めろ」
『…それは無理。…って…貴…を、指揮…として認め……彼女に……逢…保証…な』
「彼女の気配を感じたんだろ?なら、逢える確率は高い」
『彼……が、近く…保証…はないわ』
「…分かった。なら、君の名前を教えてくれ」
微かな光のキューブ。大きさも米粒程しか無い。
『……ポーラよ』
「…ちょっ⁉︎今、ポーラと言った⁉︎」
今まで、無言で猛海達の会話を聞いていたジュリオ・チェザーレが、慌てた表情で猛海の腕を引き、手の平のキューブを凝視した。僅かに、光が戻るキューブ。
『…チェザーレ、久しぶりね。…ラには逢えな……けど、最後にチェザーレに逢えた…も、救われたわ』
「ポーラ、最後じゃない。…今から言う事、落ち着いて聞いて。ザラは私達といるわ」
『…本当…に?』
「ええ、本当よ。だから、猛海を指揮官として認めて。そしたら逢えるから」
チェザーレは微笑む。声色も少しだけ明るい。
『…嘘じゃないわよね?』
「ポーラ、この状況で嘘言えると思う?」
『………分かったわ』
その言葉と共に、キューブの光が徐々に大きくなり始める。弱々しい光がゆっくりと人の形になり、青い髪をサイドに結んだ女性が、猛海の前に現れる。
「…ザラにそっくりだ」
「ザラとポーラは、姉妹艦だからね」
ポツリと溢した猛海に、ジュリオ・チェザーレが言う。ポーラの身体がフラつく。猛海は素早くポーラの身体を支えた。
「…本当にザラに逢える?」
「ああ、100%保証する」
「…良かったわ。早く…逢いた…」
ポーラの意識が途切れた。猛海はポーラの身体を抱き上げ、ポーラの顔色を見る。かなりの疲労感が見て取れたが、呼吸は落ち着いていた。
「とりあえず、俺の部屋に連れて行く」
「ザラに伝えようか?」
「その必要はない。ザラは俺の部屋で寝てるから。リットリオも一緒だけど」
「…っえ?」
「ザラに話さないといけないだろうから、チェザーレも一緒に来い」
猛海の言葉に、チェザーレの表情は戸惑い。しかし、頬はピンク色に染まっている。チェザーレの返答を待たずに、猛海は歩き出していた。慌てて猛海の後を追うチェザーレ。その後ろを、モナークも追う。
部屋に戻ると、ザラとリットリオ、ジャン・バールの三人が起きていた。ちょうど下着を身に付けている最中。
「…猛海、どこに行ってたの?…って、ポーラじゃない⁉︎」
ザラは、猛海にお姫様抱っこされているポーラを見ると、下着姿のまま慌てて近付く。
「色々あってな。説明はチェザーレから聞いてくれ。俺は小野先生の所に用事があるから。それと…」
そう言って、猛海がモナークに視線を向ける。
「モナークは、天城達に彼女の事、話しておいて」
「ああ、分かった」
頷くモナーク。猛海はポーラをベッドにゆっくりと下ろし、部屋を出て行く。続いてモナークも退出。部屋に残された面々。ザラはポーラの横に近付く。先程より表情が穏やかに見える。
「それで?何があったの?」
ポーラの頬を優しく撫でながらザラが問う。チェザーレは先程までの経緯を説明する。その間もザラはポーラの頬を撫でていた。小さく溜息をつく。
「…本当、ポーラらしいわね」
どんな時も離れず、同じ指揮官の側でザラとポーラはいつも一緒だった。先の戦線で指揮官が殉職した時、ザラは爆風でポーラと離れ離れになっていた。ポーラの気配を探したが、身体の装備も体力もボロボロで、意識を維持する事も難しかった。だから思念体に戻ったのだ。
『いつかまた逢えるから』
そう信じて。ポーラの瞼が開く。しっかりとザラをその視界に捉えるポーラ。満身創痍の身体を起こし、大粒の涙を浮かべザラに抱き付いた。
「ザラ…、逢いたかった」
「私もよ、ポーラ」
抱き締め合う2人。それを見ていた3人は静かに部屋を退出した。
こんばんは、久方ぶりです。とりあえず生きてます。死んでません。鬱病にはなりましたがね。モチベーションを上げるべく、しばらくは仕事休業。執筆を無理ない程度にしていきます。書く気力も殆ど無いんですけどね…。