そして謎の宗教集団『闇の戦乙女』が儀式を開く時間が迫ってきた。今の時間は夜22時30分。
翔子が担当する北の駅前広場の公園には誰も居ない。ただ深い闇が広がる闇夜だった。微かにだが細い月が見える。
それが彼女には、あの愛しい男性が守っでくれているように感じた。だが公園のトイレは人通りが余りにも少なく、そして闇がだんだん深くなって来ているのを、彼女は敏感な六感で気づいた。
今更ながら気づいたが、自分には何となく守り神様がついているのではないかと思っている。
大概の危険は避けることが出来るし、自分が「もうダメかも知れない」と思った時に助け船が来たりと”奇跡”と表現すると大袈裟かも知れないが”タイミングが良い”人間かも知れないと思っている。
北側の駅前広場の方向から誰かが何かの唄を口ずさんでいる。アコースティックギターの音に合わせて唄っている。
気になり近寄りたい気持ちになったがそこでレムからの通信が
「レムだ。翔子、そろそろ時間だけど大丈夫かな。北側の駅前広場はあまり人が居ないから少し心配で連絡を入れた」
「結構、静かですね。それがかえって不気味に感じます」
「数字が浮かび上がったら、連絡を今のCOMMで取ってくれよ。そうしたら君は俺がいる西側の『忘れられた墓所』へ抜け道を使って来るといい。さっきアドニスが教えてくれた道だ」
「わかりました」
「後5分で時間だ。時計塔の音は北側でも聴こえるはず。それを頼りにしてみてくれよ」
「はい」
「それじゃあ後で落ち合おう」
「レムも気を付けて…」
「ありがとう」
連絡を終えた。
そうしたら、確かに東側の時計塔の音が聴こえた。
深夜23時を知らせる時報が鳴っている。
すると……本当に浮かび上がった。トイレの外側の壁にある数字が…。真っ赤な血のような赤い数字で『6』と浮かび上がった。
これをレムに報せればいいのね。
「レム。数字が浮かび上がったわ!『6』と出たわ」
「6だな。OK。すぐにこちらへ来てくれよ!」
「はい!」
彼と手短に通信をした私はアドニスに教えてもらった抜け道を走っていった。
抜け道は意外と単純な道だ。
私は走って抜け道を行く。
抜け道は北側駅前広場からいわゆる裏通りをひたすら西の方向へ真っ直ぐ歩いて行けばいいとアドニスは教えてくれた。目印として常に西側に建つ一際高い塔を目印にするといいって。
走って行くこと10分。
すると周囲の景色がだんだん陰気な雰囲気になってきた。街灯が無くなって来ているし、血の匂いまで漂って来ている。
すると、南の方角からリリアが走ってきた。リリアも数字がわかったから走ってきたんだ。
「翔子ちゃん!」
「リリアさん!数字は?」
「浮かんで来たわ。こっちも。レム様に伝えて走ってきたの」
「アドニスさんは?」
「もう少しで来るはずよ。向こうも数字がわかったから」
「公衆電話に急ごう?」
「ええ。今頃、レム様は入力をしているはずよ」
リリアと一緒というのは本当に良かったと思った翔子。
こんな陰気な場所は独りきりは怖い。いつどこで魔物に襲われてもおかしくない場所だからだ。
彼らが『忘れられた墓所』に向かっている頃、レムは各々の場所から聞いた数字を組み合わせてダイヤルした。
翔子からは『6』、アドニスからは『2』、リリアからは『4』と伝えられた。最後にブランコに数字の『8』が浮かび上がる。
彼は『6248』とダイヤル式の電話にダイヤルした。
すると『闇の戦乙女』の関係者だと思われた彼はあるパスワードを聞かされた。『ラーズグリーズ』。それが扉を開く為のパスワードだ。彼は一足先に『忘れられた墓所』の奥へ向かう。
どうやら『忘れられた墓所』には暗黒街に通じているらしい。その先の奥に怪しい扉がある。
「これのことかな」
確かに扉の片隅にはキーボードがある。全部、英単語と数字の現実世界のパソコンと変わらない物が存在していた。
パスワードは『ラーズグリーズ』。それを英文で入力しろということだろうと思ったレム。
確か『ラーズグリーズ』は……『Razgriz』と書くのでは無かったのではだろうか?『ラーズグリーズの悪魔』という御伽話はこの世界では有名な話だ。『北の海から来た悪魔は後に幽霊となり、そして英雄となり、英霊となり消える』と締めくくる。
レムが子供の時に母親から聞いた御伽話。まさかその御伽話の『悪魔』がパスワードとは。思わず苦笑するレム。
そんな時だった。翔子、リリア、アドニスが駆け付けたのは。
「レム!」
「レム様!」
「ご無事ですか?!」
「大丈夫。番号はばっちり合っていたよ。よくやってくれた。問題はこの先だ」
「見るからに怪しい扉です」
「パスワードは『ラーズグリーズ』らしい。それを英文で打ち込むと開く筈だ」
「英文で『ラーズグリーズ』と打つんですか?」
「御伽話では『Razgriz』と書くのだが、扉を開くにはどう打ち込むかで悩んでいたよ」
「そのままでいいのでは?」
「やってみた方が早いですね」
レムはそこで御伽話のスペルで打ち込む。『Razgriz』と。しかし……。拒否音が鳴った。これではないらしい。
「違うな。こうじゃないらしい」
「そっか。パスワードだから全部小文字で打ち込むんだ。多分」
「つまりは……。こうか?」
今度は『razgriz』と打つ。
パスワードがあっていた。
扉が開き始める。
「やるね。翔子。ここからが本番かな。武器を用意しておけ。突っ込むぞ!!」
「はい!」
「な、何者だ!?ぐあっ‼」
「侵入者だ!異端の者が来たぞ!」
「排除せよ!」
彼らが『女神復活の儀式』の儀式の間に素早く乱入していく。
そこにはあの教皇フューネラルが教えたリーダー『漆黒のラーズグリーズ』がいた。
漆黒の戦鎧にまるで闇そのもののような真っ黒の長い髪の毛の女性。目は真紅。
彼は思わず厳しい表情を浮かべた。『漆黒のラーズグリーズ』は昔の愛妻だった…!
「お、お前は……」
「誰か曲者が侵入して来たと騒いでいたけど、久しぶりね…レム」
「フューネラルが貴方こそがラーズグリーズだと言っていたけど、笑わせてくれるわ。それにいつの間に貴方…そんなに女を侍らすようになったのかしら?」
「侍らす目的で同行しているんじゃない。彼女たちは私の『仲間』だ。下僕でもないし、奴隷でもないぞ。私の『仲間』だ」
「まあ……そんなことどうでもいいわ。私は私の目的を果たすまで」
「何を考えている?」
「それは貴方の剣に聞いてみなさいな」
「ど、どういうこと?」
「貴女、この世界の人間ではないわね。なら真実を教えてあげるわ。私はこの男の妻だった。だけどこの男は私に暴力を振ったのよ」
「本当……嫌な男。今度はその女を自らの愛人にした訳ね」
「……」
彼は何も言うことが出来ずただし黙っている。そして剣を構えた。
「いい度胸ね。なら…大人しく私に殺されなさい!!」
「レム!」
「お前達は儀式の生贄を助けるんだ!ここは私が引き受ける!」
「行こう!」
「はい!」
「翔子ちゃん!」
「レム…」
「君も行くんだ。これは俺の問題だから…」
「死なないで」
翔子も生贄の救助に向かった。
元夫婦がその場に残った。
「今度はその子を下僕にした訳ね」
「彼女は下僕じゃない。言った筈だ。仲間だと」
「でも夜は立派な『下僕』でしょう?貴方にとっては?」
「あの頃の俺と今の俺は違う!だけど過去の過ちは認める。ここで俺を殺したいなら殺せばいい」
「残念。私が殺したいのは貴方だけでは無いの。この世界そのものよ!くだらない男共すべて!あの力で破壊してやるわ!」
「何をするつもりだ?」
「貴方は知っている筈よ。『四宝は四方を護る』という言葉を」
その言葉で狙っている物か見えた。妻は四宝を狙っている。それを手にして世界を破壊するつもりだ…と。
「その為に『混沌の女神』を呼び出そうと思ったけど」
「生憎だな。『混沌の女神』は既に保護されているよ」
「なら…話は早い。これで四宝の封印は解かれる。私を止めたいなら妖精の谷に来なさい?そこで四宝を手にする私を見ているがいいわ!指をくわえてね!」
「シャルロット!」
思わず彼は妻の名前を呼んた。
彼女は見下した視線を送りその場を去った。闇のように……。
生贄救助の為に突撃をしたリリア、アドニス、翔子の3人は『闇の戦乙女』の使徒達を全員倒して、生贄として捧げられた女性から『漆黒のラーズグリーズ』は四宝を狙っているという情報を手に入れた。
急いでレムの下に戻って、確認する彼ら。
レムも敵が四宝を狙っているのを聞いたので彼らは、光の都ウィンバリアシオンの奥の妖精の谷に向かうことにした。
その前に翔子は聞きたいことがあった。『四宝』というのは何なのかを。
「あの…『四宝』って何なのですか?」
「この世界では有名な言葉があるんだ。『四宝は四方を護る』。『四宝』とは4つの世界を護る宝のことだよ。その1つがこの光の都ウィンバリアシオンを護る『四宝』の1つ。光の弓…光弓シルヴァンボウと呼ばれる」
「そしてシルヴァンボウは同時に妖精界を護る宝でもあるんだ」
「それが、『妖精の谷』にあるということですか?」
「そういうことだな。時間が惜しい。このまま暗黒街を抜けて、妖精の谷へ向かおう」
「はい!」
「……どうした?翔子?」
「さっきの女性は?」
「妖精の谷へ着いたら教えてあげるからそれまでは……」
「……はい…」
翔子の背中を見つめるレムはすまなそうにただ沈黙を守ることしかできなかった……。