「着いた。ここだ」
グリンウッドが案内した遺跡は、かなり昔に建設された遺跡だった。所々が朽ちて廃墟のように佇んでいる。
デザートエンプレスでも奥地にあるこの遺跡には『聖宝』が眠るという。
だが、その『聖宝』こそ、彼らがこれから護ろうとしている四宝の1つ『竜宝玉ドラゴンオーブ』である。
竜宝玉ドラゴンオーブ。
人間界であるミッドガルを護る四宝の1つ。今の人間界の秩序が守られているのは、このドラゴンオーブが己の役割を果たしているから存在を許されている。
だが、その力は凄まじく、この竜宝玉を巡って争いが絶えないことでも有名だ。
デザートエンプレスの殆どの盗賊団が狙っているのもこれである。そこでグリンウッドは自分達も盗賊団モノキュラスを創設して、先に探して保護をしようと思っていた矢先に彼らが来たという訳である。
「さあ、レム!暴れようぜ」
「いきなり門番のご登場か?」
「なんか強そうだね」
やはり竜宝玉のある遺跡なので、門番となる魔物の配備がしてあった。魔物は4つの足に頑健な筋肉、頭には大きな2本の黄金の角。口には肉食動物のような牙が剥き出しにされていて、目の前に立ちはだかる人間達を殺そうとしている。殺気が伝わって来ていた。身体の色は深い藍色の逞しい身体の魔獣だ。
「ベヒーモスとは穏やかではないな」
「あれがベヒーモス?」
「ああ。凶暴な魔獣の仲間だよ」
「これくらいで根を上げてくれたら先が思いやられるな。遺跡内はもっと過激な魔物が生息しているぞ?」
「別にビビってはいないよ」
ベヒーモスはその鋭利な角で串刺しにしようと突っ込んで来る!凶暴な雄叫びを上げて、女性陣は、足が竦みそうになる。それでも2人は己が持つ武器で攻撃を加えている。他の男性陣は楽しそうにベヒーモスと戦っている。グリンウッドは赤い槍を自在に操り、飛んだり跳ねたりしてベヒーモスを翻弄している。アドニスは漆黒の細剣で急所を突き、レムは真紅の炎で攻撃を加えて焼き尽くす。こうして門番の魔物は彼らに呆気なく倒された。
「こんなもんか」
「これで遺跡に入れるぞ」
「先を急ごう」
遺跡へと入ったパーティ。中は朽ち果てており、所々が壁が崩れて崩壊している。まるで迷宮みたいな造りだ。場所によっては、1時間ごとに開いたり閉じたりする扉や、ある時間にならないと開かない扉もある。ある扉の目の前に辿り着くパーティ。そこは30分ごとにこの扉と別の扉が連動して開いたり閉じたりする扉だった。
「この扉と連動する扉がある?」
「らしいな。ここの扉は今、閉まっている。ということは他の扉が、開いている筈だな」
「近道はあるのか?」
「あるにはあるが、凶悪な魔物を倒さないと進めないぞ」
「どうします?」
「連動する扉の場所を確認してみよう」
彼らは遺跡の迷宮を進みながら会話を交わす。
「それにしてもよく考えて造られている遺跡ですね」
「何せ四宝が眠る遺跡だ。そう簡単には先に進ませないさ」
「時々砂も落ちて来るんだね。この辺りって地下にあるのですか?」
「地下1階という所かな。四宝がある場所は地下3階だな」
「まだまだ道のりは遠いね」
「でも面白くない?この遺跡?ある時間にならないと開かないとか、30分で連動する扉とか面白い仕掛けだと思うなあ……私」
「そう思えば確かに退屈はしないね。いい心掛けだと思うよ」
そんな会話を交わしているとあっという間に連動する扉に辿り着く。だが今度は、こちらの扉が閉まってしまった。どうやら連動する扉に向かうのに30分はかかる設計になっているらしい。
「厄介な扉だな」
「下手に動いて扉が閉まってしまうよりここで待っている方が楽そうですね」
「しばらく休むか。喉も渇いてきたし」
「いっそのことそうしよう」
彼らは扉の前で砂の床に直に座り込んだ。そして持ってきた飲料水を飲んで、ひと息つく。
上からは砂が静かな音を立てて、落ちる音が聴こえる。その砂は粒が細かく、非常に触り心地が良い砂だった。
綺麗な黄金色の砂である。
グリンウッドは地図を確認している。この先の迷宮の構造を把握している様子が見える。地図を指で確認して何やら頷いていた。道はあっているという意味だろう。
ふと壁を見ると片隅の方には風化してしまった人骨があるのを発見した。恐らくは迷いに迷った挙げ句、ここで力尽きた人間だろうと翔子は思った。
30分がようやく経って、その扉は開いた。何気なく先に進もうと廊下を歩くレム。
そこで……。
何と床が抜けて落とし穴になっているではないか!
「なっ!?おおっ〜っ!」
「レム!捕まって!!」
「翔子ちゃん!」
「リリア様。俺が引っ張りますからそのまま翔子さんを!」
「翔子ちゃん!大丈夫?」
「早く引っ張って!私まで落ちそう!」
アドニスの火事場の馬鹿力のお陰て何とかレムは落とし穴に落ちなくてすんだ。
「助かったよ」
「グリンウッドさん。何故落とし穴があること知らせてくれなかったのですか⁉」
「すまん。すまん!忘れていたよ」
「こういう遺跡って大抵落とし穴があるものなんだね」
「久しぶりに肝が冷えたよ」
「この先は大丈夫かしら?」
「床に注意してみよう?もしかしたら床に違いがあるとわかるかも」
真っすぐに伸びている廊下である。両方の壁には、遺跡独特の彫刻が彫られているのを確認できる。壁には松明が取り付けられているが、それでも薄暗い。床の模様は同じ模様でよく見ても、落とし穴なのかどうか判別しにくい造りだった。
「まあ、落とし穴にはまったらはまったでどうにかなる筈だな」
「考えても始まらないわね」
「さっさと通過しようか?」
グリンウッドから見てこのパーティはそれなりに息が合ったパーティだと思う。
先ほどの落とし穴なら、今の彼らではなかったら、真っ先に落ちているはずである。なのに、彼らは特に2人の女性の機転が良いのか、罠と言う罠に引っ掛かっていないのである。
グリンウッドはワザと罠が多いルートで遺跡を進んでいるのだが、このパーティを罠にはめるのは相当骨が折れる所業だ。
(まあ、お陰でこっちは苦労しないで『聖宝』を手に入れることができそうだがな……)
彼は腹の内で笑った。
レムは少し疑問に思うどころが彼、グリンウッドに浮かぶ。
さっきの罠ならグリンウッドなら見抜けた筈だ。なのにまるで罠にはめようとしているのか、忠告もしないで進んでいる。
(何か臭うな……)
レムの鋭い直感は"何か"を嗅ぎ付けた。昏い何かを。
遺跡を先に進むパーティとグリンウッドの5人。
そしてようやく地下3階に辿り着く。ここからは、『聖宝』を護る魔物との闘いがメインになる。
すると地下3階の空気がまた淀んでいく。まるで"死の空気"を察知したかのように。
風が吹かない屋内で突如として、漆黒の風が吹き、あの漆黒の空間が発生した。
死界(しかい)だ。
「アドニス!また死界(しかい)が現れたわ!どうする?!」
「突破するしかないでしょうね」
「アドニスの言う通りだな!突破するぞ!」
「グリンウッド!お前、騎士として腕は訛ってないだろうな!?」
「俺を誰だと思っている?」
「何かお前の様子がおかしいと思って声を掛けたんだよ!」
「調子が少し悪いだけだ」
「なら、いいがな」
彼らの前に立ちはだかる魔物は先ほどの門番の魔物であるベヒーモス。しかも混沌に呑み込まれたベヒーモスだ。全身が漆黒に染まってしまっている。混沌(カオス)ベヒーモスは猛火の炎を吐いた!
「こいつ!炎を吐くぞ!」
「混沌の影響だな。一気に畳み掛けるぞ!」
「はい!」
「なら、俺はこれだ!名誉ある最期をくれてやる!ヴィーリングリッパー!!」
アドニスの剣技が炸裂する。彼か剣で作り出す風の刃は、容赦無く全ての存在を斬り刻む。
まるで竜巻のような嵐の剣技にカオスベヒーモスは刻まれる。
立て続けにレムの必殺技も炸裂した。
「その身に刻むがいい!ニーベルンヴァレスティ!」
手にする剣で無数の斬撃を加えて、高くジャンプすると、巨大な槍で攻撃を加える。だがまだ倒れない。彼はまるで吐き捨てるように言った。
「まだ動くか!虫唾が走る」
「私に任せて!浄化してあげるわ!エーテルストライク!」
リリアが両方の手から青白い光を発生させて、それをカオスベヒーモスに投げ付けた!
まるでそれは光の嵐のように荒ぶり、真っ白な光の中へ消し去る。
リリアは手応えを感じたのが優雅にさよならの挨拶をした。
「手応え十分ね。ごくろうさま」
そうして混沌に呑み込まれたベヒーモスは倒された。同時に発生した死界(しかい)も無くなっていく。
彼らは更に奥へと向かう。
とうとう遺跡の最深部。『聖宝』がある部屋に入ったパーティに待っていたのは竜宝玉の守護を務めるドラゴン。ブラックドラゴンのゾフィエルが待ち構えていた。だがそこで、ブラックドラゴンが彼らに語りかけてきたのだ。
正しくはレムの心に。
『竜宝玉ドラゴンオーブを護りに来た者よ……』
『誰だ…?』
『目の前のブラックドラゴンだ…。お前の心にだけ話し掛けている……』
『我はゾフィエル。偉大なる大天使ミカエルの腹心。気を付けろ。目の前にいるあの男はお前達の味方ではない。敵だ…。そいつはあの『漆黒のラーズグリーズ』に捧げようとしている。ドラゴンオーブを』
『何!?』
『今なら間に合う。そいつを止めるのだ。そいつは……グリンウッドはお前達の敵だ…!』
「翔子!リリア!アドニス!そいつは敵だ!」
「どうしたのですか!?」
「グリンウッドを止めろ!そいつはドラゴンオーブをシャルロットに捧げようとしている!」
「残念だったなあ。レム」
そこでグリンウッドが隠していた本性を明かした。彼は馬鹿にするような嘲笑いを浮かべて、竜宝玉ドラゴンオーブの守護者であるゾフィエルを倒して、その右手にあの人間界を護る四宝が掌握されていたのだ。
「歪んだパズルは一度リセットするべきだ。竜宝玉ドラゴンオーブは『漆黒のラーズグリーズ』に預けて、世界をゼロに戻してやり直そう」
「俺達が生きる世界は歪み過ぎた。世界をゼロに戻してやり直せるなら……俺は…」
「何を考えている!止めろ!人間界を無茶苦茶にする気か!」
「俺の生きがいがいなくなった世界に今更救いを求めてどうする?なら、『漆黒のラーズグリーズ』が作る世界に賭けてみよう」
「……男がいなくなる世界だぞ…!お前も男だろうが……!」
「娘は女だ…。次の世界でも生まれ変わる」
「お前は生まれ変わらないぞ。もう会えなくなるんだぞ…!それでもいいのか…?」
「答えは『漆黒のラーズグリーズ』が出す。俺が生まれ変わるのか、どうかは『神』のみぞ知る」
「また会おう」
四宝ドラゴンオーブは、こうして『漆黒のラーズグリーズ』と自らを呼ぶ元愛妻の下へ行ってしまうのであった。
彼らはここにいてももはや無意味なので一度、ローシャナへと戻ることになった……。