奪われてしまった四宝ドラゴンオーブを取り返すにも、体力を消耗していた彼らは、その日の夜に無法者の街ローシャナへと戻った。
今宵は
彼らは意気消沈している。
味方と思っていた人物が、よりによって敵対しているレムの元愛妻である『漆黒のラーズグリーズ』の味方だったのだ。
それを見抜くのがもう少し早かったらこんなことにもならなかっただろうと思うと、レムとしては"情けない”と思う。
彼らは夕食を食べた後、それぞれ自由時間にして、明日、奪われた四宝を追跡する旅を始める。
珍しくパーティの4人はそれぞれ自分達の時間を過ごしている。
リリアもアドニスも今夜は、別の場所でこの十六夜を過ごしているのだ。
翔子は彼の姿を探していた。
多分、あの人のことだから、一人で思い悩んでいるのだろうと思って……。それは翔子にも言える言葉だから元いた現実世界でよくこのアドバイスを貰っていた。
『一人で悩まないで誰かに相談して。一人で何もかも背負おうとはしないで』
あの人も何もかも背負おうとしている。責任感があるのはいいけど、裏を返せば誰も信用していないと捉えてしまう人もいる。
そんな誤解はしたくない。
だから翔子はレムを探した。
そして心にわだかまる想いを話して欲しい……。
レムはあの真っ白な蓮が浮かぶあの泉の側で佇んでいた。
月を憂鬱そうに見つめながら、腕を組んで石の上に座っている。
どうやらため息でも吐いていたのだろう。その顔は少し追い詰められた表情を浮かべていた。
「どうしたのですか?」
「翔子か……。なんでも無いよ」
「なんでもなくないように見えるよ」
「え……?」
「顔にそう書いてある。あのグリンウッドって人のことで悩んでいるの?」
「まぁね……」
「あいつさ……あれでも娘が2人いる子持ちなんだよな。かなり昔に事故か何かで妻を亡くして、それからレムレースの騎士になったんだ。そして数年後、娘達が15歳くらいになった時、調査隊が設立されて娘達と共にデザートエンプレスに赴任して行ったんだ」
「あいつ、女神の類は信じてなかった奴だった。特に戦乙女の類は信じてなかった。なのに……何故、今頃になって奴はシャルロットのことを信用している?……不思議でしょうがない」
「じゃあ、レムは何を信用しているの…?」
「何を?……何を信じているか……か。わからない……。そんなの考えたことも無かった」
「ただ…1つだけ信じているものもある。君のこと。リリアのことを。アドニスのことを信じている。それだけで十分だ」
「良かった。誰も信じていないって言われたらどうしようと思った」
「昔の俺ならそう言った。でも今は違う。そう思いたい。なあ……今の俺は何色の瞳をしている?」
翔子はレムを見つめた。今の彼は"薄紅のレム"だ。目がピンク色がかった赤になっている。
翔子は正直に答えた。
「薄紅色のレム。だけど、その目がとても綺麗な瞳だと思う」
「そうか。でも今はそれを受け入れることが出来る。そんな人が側にいてくれるなら、目の色なんてどうでもいい」
そんな時だった。
何処からか、歌が聴こえた。
女性の声が聴こえる。
誰が唄っているのだろう?
歌の内容で彼は判った。
リリアの唄だった。
真白き恋の花
遥かなる白蓮華
神秘の恋の花
汚れた水面に咲く 愛しい娘よ
いざ歌え 今宵最中
月に酔いしれて……
十六夜の白蓮華
真白き恋の花
遥かなる白蓮華
妖しき恋の唄
永遠の白蓮華
麗しい恋の唄
つかの間の白蓮華
妖しき恋の唄
夜毎に募る想い 可愛い娘よ
いざ踊れ 今宵密か
星と戯れて
愛の花 月の花
水に浮かぶ 気高き花よ
月に歌い 月に舞い
何度も 何度も訪れる
愛の夜に
揺れて果てない 夢を誘う
情熱の花 恋の花よ
幾千の白蓮華
さすらう恋の唄
美しい白蓮華
気高き恋の花
花びらで占えば 恋しい娘よ
いざ踊れ 今宵2人
夜のしじまへと
幾千の白蓮華
さすらう恋の唄
美しい白蓮華
気高き恋の花
愛の匂いがして
恋の唄が聴こえる
愛の夜が来て
何度も 何度も
口つけて
揺れて果てない 夢を誘う
情熱の花 恋の花よ
十六夜の白蓮華
真白き恋の花
遥かなる白蓮華
神秘の恋の唄
永遠の白蓮華
麗しい恋の唄
つかの間の白蓮華
妖しき恋の唄
「リリアさん。あんなに歌が上手いんだ…」
「白蓮華か……。つまり目の前に浮かぶこの気高き花のことだね」
「今夜は綺麗な月夜ですね」
「本当だね。気温も涼しいし、こんな夜は踊り明かしたいね。この月に照らされて」
「早いところ、寝ようか?明日からは四宝を追わなければならないし」
「今夜はしないのですか?」
翔子からの誘いに彼は照れて、こう答えた。
「今夜はしない。でも、事が落ち着いたらまた……」
「なら、せめて…キスをください」
石の上に何気なく腰をかける彼に翔子はその胸に顔を埋める。レムはその彼女の顔を撫でて、その唇を重ねた……。
彼らの
せめて……今は、2人でこの月に酔いしれていたい。
叡智の泉に浮かぶ、気高き水に浮かぶ花は黙って、月夜に気高く咲き誇っていた。