『薄紅のレム』が居なくなってしまった作用で一切の魔法が使用出来なくなってしまったレンブラント。
今、彼の心は乱れに乱れている。それは今までの人生でも体験した事がない出来事だった。
今の彼には簡単な『炎』を生み出す魔法さえも唱える事が出来ない。それの源となる「魔力」そのものを奪われてしまった状態だ。
彼らは今、レムレースの街へと戻っている。彼らは一応、医師の診断を仰いだが医師にもその原因は解明できなかった。
だが、パーティの皆はその原因が何となくわかる。『薄紅のレム』というもう1人の『彼』の魂が何処かに転生してしまったからだと思う。
レムレースの街に戻ってからというもの、彼は何処か上の空で、深いため息を吐いている。考えたところで何も変わらないのは判っているが、やはり時間が少しでも空いてしまうと、何処かへ行ってしまった『もう1人の自分』のことを考えてしまう。
収まりかけていた不眠症まで再発してしまった様子だ。
明らかに動揺している彼のケアを担当する翔子は、少しでも『もう1人の自分』のことを考えるのを止めてもらおうと、毎日、レムレースの街の観光名所の案内を頼んで、気持ちの入れ替えをしてもらおうと心を砕いている。
観光名所の案内をしている彼の姿は元気そうな様子だ。彼としてもたまにはこういう場所で遊んでみたかった気持ちがあったので、気分転換のつもりで、色々な場所の案内をした。
娯楽と歓楽の街であるレムレース。ここは遊ぼうと思えばいくらでも遊べるエンターテインメントの街である。演劇…カジノ…競馬…ライブ…アミューズメントパーク…あらゆる娯楽が集まる街である。
世界が破滅に向かっても面白おかしく世界の終わりを迎えようという趣旨の街。いや、終わりを迎えるからこそ、この世に未練を残さないで、人生の幕を閉じるのだという人が大半だ。
故に街ではいつも何かしらの歌が流れており、道端ではギターやバイオリンを片手に音楽を奏でてチップを貰うミュージシャンも結構いる。ある意味では芸術の都とも取れるこの街で名前を挙げようとやってくる人も多い。
娯楽の街の盟主は、さまざまな趣味を持つ男性でもあった。おかけで彼と共にいる翔子からすれば退屈しない。
ダンスのゲームがあれば、彼は華麗なる舞でその場にいる観衆の目を釘付けにしてしまう。酒場に行けば、品のある色気が女性を惹きつけてしまうのか、ホステスからは大人気の客人に。
久しぶりの休暇に彼は楽しそうに過ごしている。ただし、戦いに関する施設だけには行かせないように翔子は注意をした。戦いに関する施設に立ち寄ろうものなら、彼は辛い現実に目を行かせて、苦悩するのが目に見えている。
時にそれは人を追い詰めて、暴力にまで発展することは翔子自身が知っている。だから、適度に逃げる事も必要なのだ。
レムレースの街には目立った敵の襲来の情報は流れていない。
その前にリリアとアドニスが先手を打って攻撃して水際で防いてくれている。彼らが居るからこそ安心して自分達は、こうして娯楽を楽しんでいられる。翔子は彼らに感謝する。
ただ。四六時中、彼と共にいる訳にもいかないので、夜はむしろ離れて過ごしていた。
そんな日々を送ること、2週間。
ある日の夜。
珍しく翔子の方から呼び出しを受けたレンブラントは、2階の使用人の部屋に姿を現した。
そして、彼はそこでまるで迷路みたいな苦痛を彼女に明かす。
「いかがですか?あれから魔力は戻りましたか?」
「いいや……。あれからというもの全然魔力が戻ってくる気配がない。心は相変わらず、「空っぽ」のままだよ。どんなに楽しい1日を過ごしても、空っぽの心には何も響かないようだ」
「レンブラント自身はどう思っていたの?薄紅のレムのことを?」
「……ずっと居なくなればいい……って思っていた。あいつは俺の暴力的な面の象徴だったから。だけど……居なくなって初めてこう思える。『薄紅のレム』は大事な『もう1人の俺』だ。あいつが居たからこそ今まで生きてこれた。それが嫌というほどわかった。翔子…。欠けた心のカケラはどうしたら取り戻すことが出来るのだろうか?」
「心のカケラ…。探しているのね。レンブラントは?」
「ああ。探しているよ。でも……何処にあるのかわからないんだ……。一体……何処にあるのか知りたいんだ。このままじゃ俺は永遠に「空っぽ」なんじゃないかと思うと胸が苦しくて、自分が狂ってしまうような気がして……」
「いっそ……こんな自分、居なくなってしまえばいいのかって思って」
彼はそうして、今までずっと抱いていた想いをここで明かした。