彼らがレムレースに戻り3 週間が経過した。リリアとアドニスのおかけで今のところは"混沌"は水際で防がれている。だが、日々を追うごとにその混沌の暴走は激しさを増すようになって来た。
盟主レムの下には、毎日のようにどの区画で"死界(しかい)"が発生したかを報告される。その区画が日増しに多くなってきているのだ。
昨日は合計6ヶ所。死界の発生が確認されているが、今日は午前中だけで8 ヶ所の死界の発生が確認されている。
それらは全て、レムレースの兵士達の手で消滅させている。
だが、今日はやけに死界の発生が頻発している。彼の執務室に、リリア、アドニス、翔子の3名が集合して場所の特定を地図を広げてしている姿があった。
「失礼致します!また死界が発生しました!」
「何処の区画だ?」
「北のコンビナート区画です。B-2区画に発生しました!」
「またB区画か。今日は特にそこが多いな」
「また、南側のE区画にも、時空の歪みが発生しております。恐らくはそこにも発生するものと」
「休める兵士達には休ませてやってくれ。今日は特に死界の発生が頻発している」
「わかりました!」
今日は朝からレムレースの兵士達は忙しい。幸いなのは、居住区画といわれるC 区画には発生していないことか。だが、それも時間の問題のようにレムは感じている。
「今日は多分、正念場だな。混沌の暴走が激しい。いつC区画に死界が発生してもおかしくないぞ」
「C区画は居住区ですからね。そこに発生したら俺達の出番ですか?」
「ああ。リリアとアドニスの出番だな。北側の区画は破壊されても構わないが、居住区だけはやらせる訳にはいかない」
「こうやって見てみると、偏りが見えますね。北側が一番多いわ」
翔子は地図を見ながら分析する。死界が発生した場所に印を押していくと意外に偏りがあるのがわかる。B区画と呼ばれる北側のコンビナート地帯が多いが、だんだん自分達が待機しているC区画に近寄って来ているのもわかる。
「もしここでC区画に死界が発生したら俺達で迎撃するしかないですね。今、兵士達は揃ってB区画やA区画、E区画にも出払ってしまっていますから」
「こんな時に襲ってくるなんて、タイミングが悪いというのか、良いと言うのかわからないわね」
「リリアさん。少し休んだ方がいいよ」
「今まで連戦だったんだし、私が代わりに出るから」
「ありがとう。翔子ちゃん。でも、翔子ちゃんはレム様の近くに居てあげて。私はこれくらいで根を挙げないわ」
「今の内に弓矢のメンテナンスをしておくわ」
リリアの弓矢は非常に大きいサイズの弓矢だ。矢じりも大きく、鋭い。白を基調にアクセントに黒いラインが入っている。彼女の弓矢は実は、とあるドラゴンの素材で出来ているという。それはレムレースの者なら誰でも知っているある黒き龍の存在。世界を滅ぼす悪魔とも世界を創造する巨人とも云われる黒き龍だ。その黒き龍の素材で出来ている弓矢は、四宝である『光弓シルヴァンボウ』と比べると恐ろしい威力を発揮する。なのでリリアはその弓矢を愛用しているのである。
また誰かが来る。駆け足の音が聴こえた。
「失礼致します!C区画に突然、死界が発生しました!現在、市民の避難をさせておりますが…!」
「とうとう来たな。C区画の何処だ?場所の名前を言え」
「美食のエリアです!」
「ここからはそんなに遠くないですね。なら俺達が行きましょうか?」
「頼む」
「美食のエリアに現れたのね?メンテナンス完了よ。行きましょう!アドニス」
「それでは行って来ます」
「気を付けて!リリアさん、アドニスさん!」
「翔子さんも気を付けて!」
「冷静にね。勝てるものも勝てなくなるから」
「はい」
リリアとアドニスは急いで『美食のエリア』へと走って行った。
次から次へとまた死界の発生の報告が入ってくる。
彼らがレムレースの美食のエリアに向かって5分後。翔子のCOMMに連絡が入る。
「リリアよ。翔子ちゃん。C区画で発生している死界はある?」
「今度は悦楽のエリアに発生しているわ。行ける?」
「通り道ね。行けるわ!任せて!」
「レム。リリアとアドニスは悦楽のエリアに向かっているわ」
「わかった。そのまま彼らと連絡を取って」
「わかったわ」
「B区画の兵士の一部をC区画に回すんだ。誰でもいい。B区画は破壊されても構わん。C区画の守りに向かえ」
だんだん事態が混迷してきている。来るのか、ここに?レムの鋭い直感はそう感じている。死界は少しずつ、本部を置いているこのエリアに近づいてきている。
翔子はリリアと連絡を取って、逐一、状況を伝えている。
彼らは今、彼らが『C区画』と表現している区画を担当しているのだ。
すると、彼らの部屋にあの漆黒の市松模様が発生した。
すぐにそれは消えたが、次の死界の発生場所はこの神託のエリアと直感でわかったレムは、丁度リリアと連絡を取る翔子に伝えた。
「翔子!次の死界の発生場所はこの『神託のエリア』だ!すぐにアドニス達に戻って来るように伝えるんだ」
「リリア!聴こえた?!次の死界の発生場所は『神託のエリア』よ!」
「聴こえたわ!すぐに戻るわ!」
「らしいわ。レム」
「俺達も戦闘の準備をしておこう。ここだけはやらせる訳にはいかない」
左腰に細かい装飾のされた剣を下げて、椅子から立ち上がるレム。翔子も改良型魔装銃を握り締めて部屋から出た。
外の天気は、暗雲が垂れ込めている。嵐の前触れのように、冷たい風が吹いている。そのうち、雨が降り出す。大雨だった。彼らはその服を濡らして時を待つ。混沌の暴走が来るのを。
しばしの沈黙の後……。
漆黒の市松模様の空間が彼らを包み込む。そして黒い風が吹いて、彼らは死界へと呑み込まれた。
「来たな。この状態でどこまでやれるかわからないが、引き返す訳にはいかない。だけど……君だけは守り抜いてみせる!」
「突破しましょう!」
死界に現れたのは、あの砂漠の遺跡に現れた魔物、ベヒーモスが混沌に呑み込まれた漆黒のベヒーモスだ。カオスベヒーモスだ。
「よりにもよってこいつ?。性懲りない魔物ね」
「でも…これさえブチ込めば…!!」
翔子は早速、聖属性の属性弾を連続で撃ち込んだ!
レムは彼なりの対処の仕方で予め属性が付与された剣を持ち込み瞬速の速さで刻み始める。
だが、この間のベヒーモスとはわけが違うらしく格段に防御力が上がっているのか、全然先効果がない。攻撃力まで上昇しているのか、重い一撃が加えられる!
鋭利な角の一撃が、翔子の腹部を直撃した。
「あうっ!!」
「翔子!」
咄嗟に回復魔法を唱えようとした時、彼は忘れていたことに気付いた。そうだ。今、俺は魔法が使えないんだ。だが、このままでは彼女が…!
相当な重傷を負ってしまっている。腹部を中心に血が滲んてきている。
カオスベヒーモスはトドメの一撃を加えようと、助走をかけようと一度、距離をあけた。
「わ…私に構わないで……攻撃を」
「そんなこと出来ない!」
「こんな時に魔法が使えないなんて……!!」
そこでレムの切なる願いが漆黒の空間に響いた。
(力が欲しい……。目の前の大事な人を護る力が欲しい……!俺はどうなっても構わない…!この人を……目の前の大事な人を護る力が欲しい!目の前の人を護る力を…圧倒的な力を、今こそ俺にくれ…!!)
そして、帰って来た。
あの……『薄紅のレム』が…!!