「怪しい奴らがいるぞ」
「下の世界から来た奴らかな。シャルロット様は今に下の世界から四宝を手にする4人の人間共が神界アスガルドに来るだろうど予言していた」
「そうらしい。見ろ。奴らは確かに『四宝』を手にしている」
「奴らを倒して名声を得るチャンスだな」
ユグドラシルを神界アスガルドへ向けて登るパーティは、今は休憩していた。この場所は、丁度人間界ミッドガルと妖精界アルヘイムとの境目に値する場所。もう少し上を目指せば、神界アスガルドへと辿り着く。ただ神界アスガルドも近いこの辺りはアスガルドの兵士達も哨戒任務に就いている。
休憩中のパーティを発見したのは、そのアスガルドの兵士達だった。一般的な下級兵士達だ。それぞれが剣と盾を持ち明らかに下の世界から来た異物を排除しようとしていた。
彼らの剣と盾を、あるいは弓を引き絞る音が少し響く。それを優れた聴覚を持つレムは敏感に察知してその攻撃を回避するように怒鳴った。
「敵だ!皆、伏せろ!」
その声と共に容赦のない弓矢が一気に3本くらい近くに立つ木に刺さった。ほぼ同時に続け様に8本の矢が刺さる!突然の敵の来襲に彼らはそれぞれ武器を手に、木の影に隠れる。
木の影に隠れたパーティは、一体何者が襲撃して来たのか息を殺して見つめた。
「仕留め損なったか!出て来い!そこにいるのはわかっている!」
「我らが神界を汚す者達よ!今なら苦しまずに殺してやる!」
アスガルドの兵士達が彼らに投降するように促す。木の影に隠れる彼らは
「どうします?」
「やるしかないだろうな。幸いにも彼らは下級兵士だ。まだ手に負える敵だろう」
「リリア!そこから狙い撃て。少しでも頭数は減らしてから攻撃を仕掛けよう」
「はい!」
自分自身の近くには翔子がいる。レムは翔子にもアスガルドの兵士達を狙い撃つことを頼んだ。
「翔子。君もその魔装銃で狙撃するんだ。スナイパーモードにするとその銃で狙撃出来る」
「出来るかな?私に」
「試しにスナイパーモードに切り替えてみてくれ。コツを教えてあげるよ」
翔子はそこで魔装銃をスナイパーモードに切り替える。すると、遠くの敵を狙撃するための照準器が見えた。それを覗き込む。
「コツはその十字のマークの矢印がすべて中心に向かって指した瞬間に引き金を引くこと。そうすれば、一撃で敵を倒すことが出来る。やれるか?」
「……!」
翔子は息を殺してその照準器を覗き、そして引き金を引いた。すると一撃で倒したのか、アスガルドの兵士が脳天を撃ち抜かれて1人倒された。
「やるね。そのまま!狙撃を続けてくれ。アドニス。彼女達が狙撃している間に囮になって敵の動きを封じるぞ」
「はい」
「リリア、翔子。君達はそのまま狙撃をして頭数を減らしてくれ。合図と共に外に出て攻撃するぞ」
「はい」
「降参だ。君達に投降する」
レムは両手を挙げて木の影から出る。アドニスも両手を挙げてアスガルドの兵士達の前に進み出た。木の影ではリリアと翔子が狙撃をして頭数を減らしている。彼らは注意を自分たちに向けようとする。
「おとなしく投降するか。いい心がけだ」
だが、アスガルドの兵士達は警戒を解こうとしないで彼らに剣を向けている。
重い沈黙が世界樹に流れた。
一瞬の静寂。そこでレムは残った右手で木の影に隠れる彼女達に合図をした。
その瞬間。彼女達は木の影から体を出して一気にその場に残った5名のアスガルド下級兵士を撃ち抜いた!
「貴様ら!」
「お前たちに投降する程、我々は潔い人間ではない!」
「突破するぞ!」
「いい気になるなよ!人間共が!」
「さあ?それはどうかな?」
「リリア、翔子!一気に突破して、神の世界に乗り込むぞ!!」
「アドニス、お前は殿を頼む!」
「はい!」
「ここからはノンストップだ!」
「伝令!伝令を呼べ!」
「下の世界から来た人間共が神界アスガルドに接近中!至急、応援を頼む!」
ここで彼らは一陣の炎になって、神の世界へと駆け抜けた。レムが先頭に立ち彼らを導く。その後ろに翔子とリリアが続き、手にする弓矢や銃で撃ち抜く。アドニスは一番最後の殿を務めて追い討ちを防いで、彼らはユグドラシルの上を目指す。次から次へと湧いて出てくるアスガルド下級兵士を剣で、弓矢で、銃で切り裂き、撃ち抜く。
余りの強さにアスガルド下級兵士達は一様に恐怖を抱き始める。とどまることを知らない暴風のような進撃。そんな彼らをアスガルド下級兵士達はこう呼び始める。
「あいつらは伝説のラーズグリーズの悪魔だ……!!」
「悪魔なんて生易しいものではない!奴らは地獄から来た幽霊だ。いや……亡霊だ!奴らはラーズグリーズの亡霊だ!」
「どけえ!!」
「そこっ!」
「一人も逃さないわよ」
彼らはまるで一陣の風になり、ユグドラシルの一番上の世界を目指す。迷いなど無いように、ひたすらに上を目指した。
そんな人間達をアスガルドの下級兵士達は彼らを『ラーズグリーズの亡霊』と畏怖したという。
彼らは容易く、前線の兵士達の士気を折り、その目に興味を刻み込んで行った。そして風のように目の前を通り過ぎ、残ったのは傷付き倒れたアスガルドの下級兵士達の骸のみ。
まるで一陣の死の神が降臨したかのように、この時の彼らの強さは桁違いであった。
アスガルドの兵士達の間には1日にも満たない時間の間に『ラーズグリーズの亡霊』には気を付けろという命令が添えられるようになった。
地獄から来た悪魔。
悪魔以上に恐ろしい死の神のパーティ。『ラーズグリーズの亡霊』。
それがレム達に与えられた異名である。
彼らが追い討ちを完全に封じる頃には、彼ら『ラーズグリーズの亡霊』は神の世界アスガルドへと到着していたのであった。
一面、鈴蘭の花で満たされた花の平原は変わり無い。しかし……目の前の神の世界は見るも無残な姿へと変わり果てていた。
瓦礫の山と血の匂い。傍らには泣き崩れるとある女神の姿が……。
そこで『ラーズグリーズ』が表に出た。傍らで泣く女神は彼の知り合いだったのだ。
「フレイア」
「レムおじ様……。オーディン様が……オーディン様が…!」
「オーディンがどうした?」
「シャルロットという人間の女に殺されてしまったの…!おかげで今この世界は崩壊が……始まって……」
「……なるほど。この無残な光景はシャルロットの仕業か……。そのシャルロットは何処に?」
「戦うつもりなの?無理よ!あたしでも歯が立たなかったのに…!」
「やって見なければわからない」
「でも……今のレムおじ様の状態では、最悪、精神が分離してしまうかもしれない」
「もし…そうなったとして、対策はあるのか?」
「オーディン様が様々な知識を得た『知識の泉』。もしかしたら……そこでなら『
「とにもかくにもシャルロットに会いに向かおう。話はそれからだな」
瓦礫の山と化した神の世界アスガルドを行くと程なくシャルロットに会うことが出来た。
神の槍グングニルを手にして、傲慢不遜な新たな女神は、彼らが来ると嘲笑うように声をかける。
「思っていた以上に早く来れたじゃない?レム」
「シャルロット」
「だが、もう遅い。私はこれからの世界の創造主となり新たな世界を始めるの」
「だが……その前に要らないものを処分しないといけないわ」
あの『輪魂の呪』を発動させた3名の賢者が現れた。彼らは馬鹿にするように下の世界から来た『ラーズグリーズの亡霊』を嘲笑う。
「要らないものはゴミ箱に捨てないといけませんな。シャルロット様」
「バカな奴らよ。我らがシャルロット様に楯突くとは」
「お前もこの場に集まる人間共もいい加減、シャルロット様に従えば命は助けてやっても良いぞ」
出来ない相談をされた彼らは無言で武器を構えた。
「あくまでシャルロット様を拒むか。それもいいだろう…。ラーズグリーズよ!もう一度、次元の狭間を漂うがいい!!」
そしてまた『王呼の秘法』が発動した。3賢者の高笑いがこだまする中、彼に宿る『ラーズグリーズ』はまたもや何処かに転生したのである。
だが、からくりが判ったパーティは一気に3賢者達に戦いを挑んだ。
「その場に突っ立っていると私の地雷に当たるわよ!」
「ほらほら、踊れ!踊れ!」
翔子の怒りがサディスティックな言葉に変えられる。彼女は地雷弾という弾を地面に仕掛け、3賢者が慌てふためく様を嘲笑う。その間にもリリアの容赦のない弓矢の暴風が襲いかかる。アドニスの黒い刃が3賢者の1人の胸を貫く。そこで『王呼の秘法』は止まったが、『ラーズグリーズ』の魂はまたもや転生してしまった。
だが、シャルロットはもう3賢者の力など必要としていない様子で、彼らを使い捨ての道具のように簡単に捨て去り、そして彼らをその圧倒的な神の力で遥か神の世界の片隅へと吹き飛ばしてしまった。
「愚かなるラーズグリーズの亡霊よ!お前たちにはもはや手は残されていない。そのまま、世界が滅びる様を見届けるがいい!」
そして、彼女、シャルロットによる世界再生の序曲が始まった……。