聖なる『知識の泉』で彼らが永遠の愛を誓い合った時に手に入れたメビウスの指輪。それは、新たな知識を必要とする者にその知識を授ける無限大の可能性の指輪だった。
世界が崩壊に向けて歩み出して、彼らは最後の時を過ごし、そして今、盟主レムは魂だけの存在になってしまった『ラーズグリーズ』を『
ラーズグリーズを物質化出来れば、戦力が増える。それこそ、神の世界で最強と呼ばれた者が肉体を持ち復活すれば、あの新たな神の世界の女王となったシャルロットを倒すことが出来る筈だ。
彼らは最後の愛を交わした後。
何処かに転生してしまったラーズグリーズの魂を探して崩壊した神の世界を彷徨っていた。
「それにしても、ラーズグリーズのレム様は何処に転生してしまったのでしょうか?」
「流石に知識の泉では、物質化する方法はわかっても、魂が目に見えることは無いようだな」
「でも、ラーズグリーズの加護が今こそ私達には必要なのは間違い無いよね」
「ああ。だからこそ、俺は君の愛に答えた。あいつが居なければ、俺は俺じゃないのは自分自身が良く知っている」
崩壊した神の世界。
そこはもう、地上と何も変わらない地獄が広がるばかりだ。いや、地上の方が余程地獄だ。秩序が崩壊して、混沌が歯止めが利かない状態になり、そして暴走を開始した。そして、その先にあるのは何も無い「ゼロ」の世界だ。そしてそのゼロの世界を創るのは新たな神シャルロット。その彼女が創る世界には、とある存在が居ない。
このパーティにいる『男性』が居ない世界だ。その存在が否定された世界。そして、新たに創造された人間はその彼等を目にすれば異質の物として排除するだろう。
もしそうなれば、男性という存在が確実にいなくなる。子孫繁栄は叶わない。永遠に彼女らしか居ない世界で、そして今に再生が叶わない破滅に向かうだろう。それが少し早く来るか来ないかだけの差だ。
宛も無く彷徨っているパーティは、ラーズグリーズの魂が一向に見つからないことに焦りを感じる。
だが……ここで宿主であるレンブラントは足を止めた。そして、心でラーズグリーズを探す。魂だけになったなら心で探す。心のカケラである自分自身が呼べば彼は必ず答えてくれる筈だ。
突然、足を止めたレムにパーティの皆は声を掛けようとする。 が、それを翔子は止めた。
「今は静かにさせてあげて。あの『薄紅のレム』を探しているから。転生したとはいえ、もしかしたら近くに彼の魂が漂っているかも知れない」
「魂は目に見えないですからね」
「なら、心で探すという訳ね」
「リリア。下を見てみろよ。世界はひどいことになっている」
「これは?」
「聞いたことがある。神の世界には魔法の水鏡があるって。これが多分その水鏡というアイテムだろうな」
「何?混沌が暴走して人々を呑み込んて消えて行っているわ!」
「あの先には何も無い。そこに呑まれたら最後。その存在は再生も叶わない破滅しか無いんでしょう?」
「歴史が変わろうとしているのね。今まさにこの瞬間に」
「御伽話が真実になったんですね」
彼らは魔法の水鏡で眼下の地上を見つめていた。地上には漆黒の空間が発生して人々を呑み込んている。彼らの悲痛な叫びさえも、非情にも呑み込まれていく。
レンブラントはその間、瞳を閉じてかけがえのない『もう1人の俺』を探している。そこに温かい力を感じる事が出来た。まるで、それは絶望を照らす光のような一筋の光。漆黒の闇を照らす光のような力が側に漂っている。
(ラーズグリーズ。もう1人の俺よ。何処にいるんだ?お願いだから出て来てくれ……。共に戦う為に、俺の体に戻って来てくれ)
(やっと見つけた。やっぱり俺にはお前という魂が必要なんだな。あの『王呼の秘法』が発動してしまうと俺は成すすべも無い。情けない話だけど、俺達は一蓮托生なんだな)
(話は後にして、俺の中に入れよ。今、『
(わかった)
まるで鴉のような姿の人物はもう一度、彼の体に戻って来る。そしてまるで器に収まるように魂を馴染ませた。
「みんな!」
「レム様」
「見つかったぞ。ラーズグリーズが!今、物質化するから見ていてくれ」
そこで宿主であるレンブラントの身体からあの漆黒の戦鎧の男性が背中から出て来ていた。真っ白な光を放ち、白い羽根を何枚も散らせてゆっくりと地面に降りる。その瞳を閉じて、仰向けに眠っている姿がある。
パーティのメンバーはそのラーズグリーズの下に集まる。周囲を囲むように彼の目覚めを待っていた。
すると、ラーズグリーズが目を覚ました。あの特徴的な薄紅色の瞳が少しずつ開き、そして周囲を囲む彼らをゆっくりと見つめた。
「目を覚ましたか。ラーズグリーズ」
「物質化の知識を手に入れたのか。やるね」
「凄いな……まるで鏡が目の前にあるようだ……。まるで俺達が鏡の住人になったみたいに……」
「ああ。そうだね。まるで……本当に鏡があるようだ」
ラーズグリーズのレムと宿主であるレンブラントが己の左手を重ねながら、その確かに感じる肉体の感触を確かめていた。レンブラントの左手にはエンゲージリングのメビウスの指輪が填められている。黄金色に輝く無限大の可能性の指輪。綺麗なダイヤモンドが飾られている。その指輪を見つめるラーズグリーズに照れるレンブラント。パーティのメンバーから見ると、本当に鏡が現れたように見える。あの『薄紅のレム』と『薄紫色のレンブラント』が鏡に映って出てきたように見えた。そっくりそのままの2人が己の手を合わせている光景が見えた。
2人は微笑む。黒髪のレムと灰銀色の髪のレムが笑みを浮かべ、そして戦況の確認が始まる。
「あの人為的に発動した『王呼の秘法』からどのくらい時が経った?」
「ざっと人間界の時間で3日は経っている。その間にシャルロットは新たな神になり、世界を創造した様子だ」
「どんな世界なのかはまだ自分達の目では確認していませんが」
「地上の様子は?」
「混沌が暴走して人々を消滅させていっています。でも、シャルロットが望む世界は今の眼下の世界では無いから、大した問題でも無いと言うと非情にも聞こえますけどね……」
「そんなにひどい状況なのか?」
「あの壊れた魔法の水鏡でも確認出来ます。ひどい状況です」
「そんなに呑気にしていられないという訳か」
ラーズグリーズのレムは起き上がるとその破壊されてしまった魔法の水鏡を覗き込む。地上の様子を見たラーズグリーズは息を呑んで、次の手を考える。
「オーディンはあの女に殺された様子だし、神の世界は崩壊した。なら……あのワルキューレも無事かどうかは疑問だな。幸いなのは、我が妹の
「一度、地上の様子を見た方がいいな。どのような世界が創造されてしまったのか一度、確認した方がいいな」
「神槍グングニルの力は四宝では格段に桁違いの力を持つ物。世界を1つ、創造することなど造作も無い」
「一度、地上に戻るのか?ラーズグリーズ?」
「戻ろう。そして今の状況を整理するのが最優先だな」
「そうだね」
「秩序を失った世界は一体どういう世界なのかな……?きっと……ひどい世界が広がっているのね」
「でも……君だけは守り抜く。誓っただろう?翔子?大丈夫だから、俺の側にいるんだ」
「なんか、変な感じだね。貴方の妻になるなんて、こんな物語になるなんて思わなかった」
「想像を超えた奇跡は何処でも存在するものさ」
「俺達はその奇跡を起こす為にこれから進もうとしているのだから」
「そういうことよ!翔子ちゃん」
「俺もそう思いますよ」
「ラーズグリーズもそう思いたいな」
「行こう。すべてに決着を着けに。そして、新たな秩序を作ろう!」
こうして、この先からは肉体を持ったラーズグリーズも戦いに参加する。秩序を失った地上の様子を見に行った彼らを待ち受ける世界は彼らの想像を超えた脅威の世界が広がっているのを、彼らはまだ知らない。