「ようこそ。新たなる世界にはじめて足を踏み入れた演者たちよ。心から歓迎するわ。私の創り上げる世界を見守る為に集まってくれて……」
「創り上げる世界だと……?傲慢も甚だしい!貴様は何を自分でしたのか判っているのか!?罪の無い人間達を滅ぼし、みだりに神の力を振るい、新たな世界を創り!新しい女神気取りか?いい加減にしろ!」
「堪らないわ……。その冷ややかな薄紅色の瞳……。私が本当に手に入れたい存在がやっと肉体を持ち存在しているなんて……」
「お前が最後に欲しいのはラーズグリーズか」
「それは違う。私が欲しいのは最初から貴方1人。目の前に居るその漆黒の戦鎧を纏う貴方だけ……。ずっと待っていた。その器から飛び出し肉体を持ち復活するのを……」
「その為に以前の世界を破壊したということか」
「言ったでしょう?私が欲しいのは最初から貴方1人と」
「……許せない。その為に世界を滅ぼすなんて。その為にこの人を苦しめるなんて。その為だけに、新しい世界を創造するなんて……!」
「何とでも言うがいい。案の定、以前の世界はオーディンという愚神の為に犠牲になってきた。愚かな神の支配から私は解放してやったのだ。お前も、そこの混沌の女神も、そこの騎士も、そして器に恋をしたお前も、あの愚神に操られて生きてきたのだ!それを私はわざわざ解放してやった……?なのに礼の1つも無いなんて」
「誰がそれを頼んだ?俺達は端から頼んだ覚えは無い。勝手に助けてやったと浮かれるのも、そこまでだ」
そこでアドニスが怒りを表に出して言った。今までの運命に対して彼なりの答えが語られる。
「俺は今まで、レム様の護衛を務めて来たから判る。レム様はただの一度たりとも、この世を呪って破壊しようなんて思って無かった。それよりも自分自身を責めて傷を自ら負って泣いてきた。呪われた運命でも世界の為に自らを犠牲にして、人々が浮かべる笑顔を見て生きてきたんだ。それに比べてお前は何様だ!?まるでここに居る『薄紅のレム』1人いればそれでいいみたいに聞こえるな!傲慢なんだよ……!1人の女が世界も男性も手に入れようなんて」
「何を言いたいの?つまりは?」
「あなたの愛は歪んでいる……。そういう事よ」
「今度は混沌の女神の答弁?勘弁してくれない?」
「いいえ。聞いて貰えるかしら?あなたの愛は要らないのよ。この人には。この人に必要なのは、翔子ちゃんの愛なの。そしてこの人は器では無いわ。レンブラントという1人の意思を持つ男性よ」
「悲しいな……。シャルロット……。君は誰からも必要とされて居ない……」
元夫であるレムは悲しそうな表情を浮かべ憐れむ。新たな世界の女神になっても必要とされない存在が目の前に居る。それが哀しい。
「君は新たな世界の女神となっても必要とされて居ない……。君を拒む存在しか居ない……」
「なら、せめてもの俺の償いだ。俺の手で君を抹殺する」
「どうやら……私が世界に及ぼす変化には興味すら湧かないらしい……。なら!!私は私の欲望のままに行動するまで!!」
「よせ。これ以上、罪を働くな。今ならまだやり直しは出来る。闇雲に罪を働くな」
紺碧の戦乙女は諭すように話しかける。彼女の厳しくも慈悲のある心がシャルロットに初めて向けられた。
「これ以上罪を働くな。新しい女神になっても、貴女を拒む存在しか居ないのは哀しい。だからといって、自暴自棄になるな。このまま、世界を以前よりも遥かに良い世界を貴女なら生み出す事が出来るかも知れない。その希望がある。何故、そこまでラーズグリーズのレムに拘る。生まれ変わりならいくらでもこれから生まれる。何故、ラーズグリーズに拘る?」
「ヴァルキリー……」
「ヴァルキリー様…」
「以前、あなた方には話した筈よね。私がレムに暴力を振るわれたことを」
「だが、貴女はそれに対して、一度たりとも『憎んでいる』という言葉は話された事は無かった。何故だ?」
「私はそれでも『薄紅のレム』を愛していた。夜に隠れて泣くのも見た。だけど……あの時、あの醜い争いの後から貴方は変わってしまった」
「あの醜い争いの夜だね」
今でも忘れる事は出来ない。あの時の醜い夫婦2人の喧嘩の夜。お互いにナイフを持ち身体を刻み合う瀬戸際まで行ってしまった夜だった。
「でも、そこまで貴方は私を信じてくれていた事を知った。だから……私はあの時のままの貴方を手に入れる為にもう一度、いいえ、何度でも罪を犯してやる!」
「ヴァルキリー。これ以上、説得は無理だ。奴は狂気に囚われている。奴には俺しか映っていない」
「ラーズグリーズ」
「やるしかない。もうそれしか奴を救う事は出来ない」
「討論は終わったかしら?さぁ……私だけのラーズグリーズになりなさい!」
「こ、これは!?」
「また王呼の秘法よ!」
「こ、こんな場所でその呪文を唱えたらラーズグリーズの魂だけじゃなくヴァルキリーの魂まで転生してしまう!」
「その前に殺す!」
「そんな程度の力で何が出来る!?」
リリアの強弓から放たれる矢が無情にも弾き返される。翔子の魔装銃の弾丸が無情にも跳ね返る。アドニスの鋭利な刃が根っこから折られる。レンブラントの鋭利な刃も無情にも折られ身体に刺さった。
「あぐっ……!!」
「レンブラント!!」
そこに、見知った赤い槍がシャルロットに直撃する!しばらくするとあの黒人系の肌を持った逞しい男性が、ヴァルキリーの魂だけを手に入れて、彼らに撤退を促した!
「今だ!今の内に一時撤退を!」
「グリンウッドか!」
「判った!」
そうして彼らはまるで結晶化してしまったヴァルキリーの魂だけを奪い一時撤退をした。
シャルロットの下に残ったのはラーズグリーズの魂だけだった。
だが、これがシャルロットの本当に望んでいることだった。自分自身の魂とラーズグリーズの魂が一緒になること。魂そのものを支配すること。それがシャルロットの望みだった……。
彼女は高笑いすると、ラーズグリーズの魂を奪い去りその場を去った。