「夢のようだわ……!今、こうして貴方が私の手の中に支配できているなんて……!そう。私は貴方が欲しかった。美しい薄紅色の瞳の貴方が…!後は、私と貴方が魂から融合すれば貴方の力と心までも私のものになる…!」
「それが、君の望みか」
唐突に背後で冷徹なレンブラントの声が響く。彼女、シャルロットが優雅に傲慢に振り向いた。もはやその表情は自らの勝利を確信した顔だった。
歪んた世界樹で始まる、最後で最初の闘い。
最後の闘いの場には水色の結晶に閉じ込められた目を閉じたラーズグリーズがいる。印象的な漆黒の戦鎧姿のまま、頭に飾られている筈の羽根飾りが外され、漆黒の髪の毛の男性が、意識を失うように眠っていた。
「ラーズグリーズ…!」
「ようこそ。舞台を失くした演者達よ。私とラーズグリーズの結婚式に駆けつけてくれるとは嬉しいわ。律儀な演者に免じて特別にその瞬間に立ち会わせてあげよう。私がラーズグリーズとの融合を果たす瞬間を」
「それまで少し準備体操でもしようじゃないか?」
「そうね。少しだけ踊りましょうか?」
そこで最後の戦力を生み出す作戦会議をされた。小さな声を拾えるように
「油断しきっている今しか、チャンスは無い。ラーズグリーズを閉じ込めている結晶の魔晶石を破壊しよう。そうすれば後はグリンウッドが全てを進めてくれる手筈は整っているから、俺達はそれをするだけだ」
「油断大敵って言葉を忘れた、あの女に現実って奴を思い知らせてあげるわ」
「……」
「翔子?らしくないな。こういう時の君ならきっと背筋が凍えそうな言葉を吐いているのに。まだ、覚悟が決まって無いのか?」
「私、やっぱり、あなたが居なくなるなんて嫌なの」
「消えると決まった訳じゃ無いのに?翔子ちゃんは最初から諦めてしまうの?意外に翔子ちゃんは肝が据わっていると思っていたのに。私は残念に思うな〜」
「リリアさん」
「私ね。翔子ちゃんには持って無いものがあるの。それは、例え勝率が1%でも有るならそれに賭ける度胸なら負けない」
「リリア……」
「徹底的に足掻いて、足掻いて、足掻き抜いてやるの。それで、負けたら認めるの。自分自身を。でも、翔子ちゃんは逃げる事を考えている」
「……」
「もし、この闘いが終わった時、そこにレム・レンブラントが居たら、ガッカリしちゃうわね。彼」
「それも皮肉をたっぷり込められて、結婚を破棄する位に」
「アドニスさんまで」
「翔子さん。俺が知るレム様の好みの女性は例え勝率1%でも諦める事を知らない意志の強い人です。今までの貴女はまさにそうだった。だけど、貴女は今、本当に愛する人を見つけたから失いたく無いと思っているんですね?なら……闘ってください。貴女のレム様を守る為に。今こそ!」
「闘うべき時は今。この瞬間。この闘いを終わらせる。後の事を考えるのはこの時ではないの!」
パーティの叱咤激励を初めて聞いた翔子は、そこで振り切れたように、シャルロットに言葉汚く、罵詈雑言を浴びせ、自らを鼓舞した。
「現実逃避する女神なんてこの世には要らないのよ。要らないものはゴミ箱に捨てないといけないわね!?綺麗サッパリ、捨ててあげるわ、私がねぇ!」
「軽く質問するけど、どういう風に捨てる?」
「切り花よりも哀しく標本よりも残酷に捨てる」
「おやおや……これはまた、上品というか下品というか。やっとらしくなってきたね。翔子のそういう所が俺は好きだよ」
「要らないものはゴミ箱に捨てる?何を言っているのかしら?要らないものはアンタ達の方よ!!」
「よし!かかった!こっちに気を引かせればアドニスが楽になるからな」
彼らは最後のパーティを2つに分けて行動している。アドニスとグリンウッドは魔晶石の破壊に、レムと翔子とリリアはシャルロットを挑発する為に行動している。
案の定、彼女、翔子の挑発に乗ったシャルロットは結婚式を放棄して彼らと闘いを始める。
これこそが彼らの狙いだった。
気をそらせば勝機は自ずと生まれる。そうすれば、1%のチャンスが10%のチャンスになるのだ。
シャルロットが己の結婚式を放棄して闘いを始める頃、アドニスは自らの剣で最強の奥義を出す日が来た事を自覚していた。
彼が14歳の頃、元々存在していた世界で彼はウィンバリアシオンでの戦争に参加して、結果として残ったのは愛する人を殺して悔やむ、不安定な精神状態の彼が残った。アドニスは自らの答えを求めて、レム・レンブラントの下に戻って来た。そして、リリアに出逢った彼は長年、求めている答えを見出す。誰よりも生きる事に諦める事をしなくなった。あの時、レムレースの街にリリアが居なかったら。自分はまだ答えを見出す事が出来ずに悩んで孤独に苛まれていた事だろう。だけど、今は違う。剣を振るう理由がある。この世界の為に、リリアの為に、剣を振るう。そして、レムからは全てを斬り払う奥義を託された。今こそ、それを使う。彼は目を閉じると精神を集中させて、全てを斬り払う奥義を繰り出した!
「奥義!ファイナルストラッシュ!」
アドニスの閃光のような豪剣が刹那、ラーズグリーズの魔晶石を容赦なく斬り払った、その時。
「ラーズグリーズ!!」
シャルロットの悲痛な叫びと共に、レム・レンブラントの手には同じく魔晶石と化した
眩い白い光の奔流の中、シャルロットの憎しみの言葉がほとばしる。
「この……愚か者共があああ!!」
「ラーズグリーズの魂が、ずっと求めていた彼の魂が!貴様らあ、何をしたのか判っているのかあああ!」
「心配する事は無い。貴様が望む終末を再現してやったまでだ」
翔子は見ていた。
白い光の奔流の中に迷いなく進んで行った彼を。
ヴァルキリーの魂と共に。ラーズグリーズの魂と共に。
暴走を始めた愛妻を止める為に。
この世界を治める盟主として。
その身を投じた彼を。
『何千、何万もの、人間に私達は転生して来た。人と神の間を彷徨って……』
『それが私達の因果というものだろう。だけど…その因果が無ければ君に出逢う事も無かった…。そうだ…。今なら判る。私が君の中に転生したのは、今、この瞬間の為に存在していたんだ。ありがとう。レンブラント。君の勇気が、私達に最後の力を与えてくれる。君に出逢えて良かった……』
「咎人よ。みだりに神の力を振るい、人を滅ぼし、数々の生命の運命を狂わせた、その罪。今こそ、贖って貰うぞ。貴様の魂の消滅を持って!!」
そこに居たのは、銀色の短髪を持った、瞳が孤高の黄金色の目を宿した男性が居た。
纏った鎧が変化している。
純白の戦鎧に、片方の左側には、天使の羽根が飾られた絹の布地が巻かれている。
そして手にする剣はあの魔剣では無い。神の剣ラーズグリーズ。自らの名前を持つ聖なる剣が握られていた。
全ての神を超越する者。
運命をも超越する者。
ラーズグリーズ。それがこの者の名前である。