「アァッ……!レム様ぁ……!」
「リリア……もっと聞かせてくれ。君の声を……」
「アァッ!アァッ!すごい……!奥まで……来てるッ……!」
「リリアのここは気持ちいいよ」
私は今、名付け親に抱かれている。暗闇が支配する部屋で、彼が私の乳首を舐める。花びらを貪る。分身を激しく出し入れをして、私の肉体は何時も快楽を欲する。一切の愛が無いセックスでもそれは私を満たす唯一無二の快感だった。何故なら……。
私の記憶はいつも、雨の日から始まる。私にはあの時まで名前というものは無かった。愛玩小屋での呼び名は番号。商品番号で呼ばれた。もしくば、愛玩小屋でのショールームの展示品の作品としての名前で。レムレースに来るまで、いくつもの街を歩いた。食料に困ると教会などで食料を譲って貰い、冬の雪が降る街では、少しばかりの太陽の光で暖を取る。雪が降り出すと誰も通らないような路地裏でうずくまり、膝を抱えて座り込む。それが日常だった。
ある日のことだった。滅多に人が通らない路地裏にある男の人が訪れた。高級感溢れる黒いズボンが汚れる事にも構わず、その人は私に色々な事を聞いた。
両親は?住処は?名前は?これからどうしていくのか?聞かれたところで答える事柄が無い私の質問はすぐに終わった。そこで男性は自分自身の事を話す。彼はアートギャラリーの主催者で、そこで移動形式のギャラリーを開き、理解ある人達に見物して貰っているのだと説明してくれた。そして、何も持っていない私にこう言ってくれた。
「何も持っていないのなら、私にその身体を預けて見ないか?衣食住は保証するよ」
元より何も無い私は、それに素直に従った。そうして私は愛玩小屋の女性になった。とあるテントに案内された私が垣間見るのは男と女の絡み合い。ほのかな甘い香りと喘ぎ声が響く空間。私は見てはいけないものを見てしまったという感覚に囚われた。愛玩小屋のマスターは話す。
「人間が本能のままに快楽を貪る姿は何と美しいものか。それも男と女の絡み合いは如実にそれが表れる。これ程美しいものは他に無い。だけど、これを嫌悪する人間の方が多いから、私は移動形式のアートギャラリーとして公開しているのだ」
そしてギャラリーの開かれない時間はこうして探り合いの絡み合いをさせているという。
元より何も持って無い私は、これから先の不安より、未知の快楽の好奇心が勝っていた。マスターからは訓練を受けるように言われた。だが実際は先輩方の訓練をただ黙って何もしないで見つめているだけだった。ただの絡み合いを観ているだけで暇だと思った私にある感情が芽生える。女の人が乳首を弄られる度に声を上げる程の感覚とはどういうものだろう?男の人の分身が刺さる度に喘ぎ声を上げる程の快楽とはどういうものだろう?それを思う度に私の股は愛液で滴り、男の人の舌や分身を欲するようになった……。
ある日のことだった。マスターから呼ばれた私は、マスターに服を脱がされベッドの上でとうとうその時が来たのだと思った。だが、予想に反して私は真っ黒な縄で全身を縛られて、身動きが全く取れないようにさせられた。だけど、ここで不思議な感覚が全身を駆け抜ける。縛られた胸が痺れて、それが冷たい痛みとなって麻痺するような感覚。縄が股間に食い込むと得も言われぬ疼きが来て、花の芯を擦るとまるで何かが内側からなだれ込むこの感覚が素敵に思えた。私は思った。これが快感というものなんだ……と。
そして上から吊るされた私は、マスターがその縄を操る度に訪れる快感に全身を支配されてしまった。何も関心を持たされず、誰も触れられる事の無かった場所に訪れる快感に私は空腹感が満たされるよりも、もっと素敵な満たされ方をその時知った。その快感を貪る私を観てマスターは言った。
「君の展示品の名前が決まったよ。名前は『絶頂する処女』。これで決まりだね」
そうして私は、アートギャラリーの作品として展示される事になる。華美なウェディングドレスの衣装を着て、だが、実際は胸や花びらを露出されて、周りがアクリル板で囲まれた小屋の中で縄で上から吊るされた私が展示された。その小屋の中は官能的な香りで満たされ、私は観客の熱い視線で焼け付くように見つめられ、興奮して自ら快感を貪る。あられも無い声を上げると観客達は興奮して自らを慰める者までいた。
そんな生活を何年か続いた。そんなある日。アートギャラリーがレムレースの街に訪れた時に、私はあの人に会った。その時は訓練の最中で私はその人の姿を見る事は出来なかったけど、今でもはっきり覚えている……。
レム様の感心したような声を。
素晴らしいと讃えた声を。
何やらその場で交渉がされていた。内容はおぼろげだが、覚えている。レム様が私を買いたいという趣旨の話だ。マスターはその彼の申し出に拒む事はせず、喜んで快諾したという。
そうして私は、今度はレムレースの街に、正しくはレム様の使用人として生活を始める事になる。使用人としてだけでなく、夜の伽として。
私と彼の初夜は、彼が私に名前を訊くところから始まる。
「名前は?」
「有りません」
その答えに彼は驚く。
「名前が無いの?両親から付けられた名前も?」
「親は私が産まれるとさっさと捨てていきました」
「あそこでは?あの愛玩小屋では?」
「番号で呼ばれていました。079番って」
「だったら、私が名付け親になってあげよう。親というよりも愛人だけど……」
「名前を頂けるのですか?」
「名無しさんと呼ぶのは、抵抗があるからね。そうだな……」
彼は薄着でバスローブを羽織って、その腕を組んでしばらく考えるとこう私を呼んだ。
「リリア……。君の名前はリリアだ」
「リリア……?」
「そう。リリアだ」
目の前に居る銀髪の男性は優しく見つめるとその独特な薄紅色の瞳で私に唇を近付けて包み込み、舌を絡ませ始めたんです。
初めてだった。男性からのキスなんて。あの愛玩小屋に居た時からずっと貞操を守り通した私が、その日、初めて男性に抱かれた夜でもあったなんて……。それも、初めて自分の『名前』を呼ばれた夜だったなんて…。
「君の名前はリリアだよ。私から最初のプレゼントがまさか名前だったなんて、思わなかったな。私自身も」
「そんな……キスまで頂けるのですか?」
「何なら、全てあげようか?男である私から君へ、名前をあげた記念に。この私のキスも舌も、あれも、全部あげるよ」
「これから君が毎夜味わう『快楽』を私があげよう……」
私にとっては、この街が始まりの街だった。終わりの雨は別の街。始まりの街はこのレムレース。
私に『名前』をくれたこの人は私にとっては親だった。そんな名付け親とのセックスは何時も気持ちいい。でも、それ以外は何にも持って無かったからやっぱり虚しかった。私の心に降るのは何時だって雨が降る……。