闘いは終わった。
元愛妻が起こした人災は終焉を迎えた。
あの銀髪の男性は今、光の中で最後の挨拶を交わしていた。
ラーズグリーズと呼ばれた戦乙女と同一の存在と。
今までの人生でずっと彼とラーズグリーズは一心同体の存在として共に生きてきた。
しかし。それも終わりを迎えようとしている。ラーズグリーズは英雄となり、そして英霊となって消えようとしている。己の役目を終えたラーズグリーズは、今までの宿主であったレム・レンブラントと別れを告げようとしている。
「遂にこの時が来たね。ずっと、疑問に思っていた事を君は答えをくれた。これで私はまた新たな女神として転生してまた誰かを救える使命を授かる事が出来た。感謝するよ。レンブラント」
「行ってしまうのか?俺達と共に生きる道は無いのか?共に生きていきたいとあの時……」
「ああ。確かに言った。でもな、レンブラント。もう新しい世界は始まろうとしているんだ。君達がそれを始める。だからこそ、私は今度こそ役目を果たす為に戻るんだ。元の場所へ。帰るべき場所へ」
「帰るべき場所」
「お前も"帰るべき場所"が有るだろう?君を待つ人が居るだろう…?帰ってやれ。そして、今度こそ自分自身の人生をやり直せよ?レム・レンブラントとしての人生を」
「居なくなるんだな…。"薄紅のレム"が。もう1人のレムが。寂しいな…。お前が俺で俺はお前だったけど、それも無くなるんだな……」
「でも、永遠の別れじゃない。きっといつか、何処かで逢える。君には。それまではこの世界をより良い世界にしろよ?弱者が虐げられない世界を作れよ?そして、君を愛してくれるあの娘を大事にするんだぞ?」
「……別れじゃない。これは旅立ちなんだな?俺達の」
「そうだ。俺達の旅は始まったばかりなんだ。この先、劫火に焼かれる世界にするか、慈しみの水が降り注ぐ世界にするかは、君達次第。なら…ラーズグリーズからの願いは、ただ1つ。世界を慈しみ溢れる世界にしてくれ。お前達ならそれが出来る」
「間違っても消えてしまおうなんて思うな?お前自身が言った台詞があるだろう?俺が君達にした事を振り返れば……」
「こんな安っぽい責任では無い…だよな。ああ。そうだ。消えてしまおうなんて、そんな事をしたら、翔子に怒鳴られてしまうよ」
「帰ろう。お互いに。自分達の"帰るべき場所"へ……」
アドニスとリリア、そして翔子が見た光景は銀髪の黄金色の瞳の男性が最後、微笑んで、力強く頷いている姿が見える。そして、最後の最後、翔子を見た彼は左手の指輪に唇を近付けてキスを捧げる光景が見えた。そうして、あの"薄紅のレム"は己の役目を果たす為に"帰るべき場所"へと歩き始めた。
残ったのは、主を失った"歪みの世界樹"だけ。程なくそれは滅びを迎える世界になるだろう。
シャルロットが遺した最後の四宝『神の槍グングニル』。それを手にしたアドニスは話した。
「この世界は余りにも歪み過ぎてしまった。だけど……それを正す事がこれからいくらでも出来る。俺はこの槍グングニルの守護者になります!そして崩壊した神界をやり直します!」
リリアが今度は言葉を発した。
「なら……私は妖精界を護る女神になる。この手にある光の弓シルヴァンボウを護るのが私の役目ね」
「翔子ちゃんがするべき事は人間界を再生する事よ?」
「私には無理よ。そんな資格なんて無い」
「じゃあ…誰が人間界を元に戻すの?仮にもドラゴンオーブを護るならこれからの人間界の未来はあなたにかかっているのよ?」
「翔子。心配は要らない。俺が側に居るから。人間界の平和も、死者の世界の平和も同じ事だから、俺も側にいるよ」
「君と生きて行きたい。これから、笑顔で、どこまでも一緒に、共に生きよう。未来を」
「俺と君は、尻尾を絆のリボンで結ばれた2人なんだ。これからの世界を共に歩いて行こう」
そこにはいつもの彼がいる。
銀髪の薄紫色の瞳を持つ、レムレースの盟主が。
1つ違うのは、あの左手のリストカットが消えた事だろう。ようやく彼はその消えない傷を癒す事が出来た。目の前に居るこの御崎翔子という女性によって。
翔子は泣いていた。何故だかわからない。でも、自分にもそんな男性を見つける事が出来た。一緒に行こうと言ってくれる男性が。
嬉しかった。
翔子は思わず、彼の胸に飛び込んだ。それを彼はきちんと受け止めてくれた……。
グリンウッドはそれを見て、思う。これからの世界では我々、不死者は対立しなくても良さそうに見える。これでもう……不死者王(ノーライフキング)の役目は終わったな。この歪みの世界樹も崩壊しようとしている。良い死に場所を見つける事が出来た。未練は無い。
「これでもう……我々、不死者も争う必要は無いな。お陰で良い死に場所を見つける事が出来た」
「グリンウッド。お前……」
「さあ……早く脱出しろ!この水鏡で!そして、新しい世界を再生させろよ」
「わかった。さあ、行こうか」
彼らは水鏡で元の地上世界へと帰る。彼らが去った後、グリンウッドは仰向けに倒れて、地平線から昇る太陽の光を浴びながら、元愛妻の名前を呼んで静かに生を閉じた。
「ケーティ。今、行く」
全ての戦いを終えた後、のちの世界をあるひとりの小説家が書いた。ある1人のレムという名前の男性から始まった物語は、最後に彼女の独白で締めくくられた。