後今作、一応挿絵を一枚用意しております。
「──”鬼神演舞”」
水柱と共に重桜の戦艦が轟音を立てて傾く。
致命傷となったのは、足元に突き刺さり爆ぜた無数の魚雷。
火柱を上げながら、彼女は目の前に肉薄する小さな駆逐艦を睨みつける。
「馬鹿な、駆逐艦風情が……! 旧型のはずなのに……!」
小型艦だから、と侮ったのが命取り。
練度、そして改造したことで得た性能の差を前に、敵戦艦は大敗を喫する事になった。
相対しているのは、出自こそ同じものの今や陣営を違えた重桜の駆逐艦。
否──鬼神であった。
「鬼神の力、見るが良い」
「ッ……!!」
トドメに放った介錯代わりの魚雷が爆ぜた。爆沈する敵艦の断末魔の叫びを背に、小さな鬼神は巨大な対艦刀を背中に指す。
戦闘終了。
この海域の敵艦は全て殲滅した。
指令室からも、仲間からそう通信が入った。
しかし。
「……足りない、です」
喉の奥を押し出すように彼女は呟いた。
昂りが収まらない。身体の中に熱が籠っている。
もう居ないはずの敵を探す。
対艦刀を抜く。何か、声が聞こえる。
自分を呼ぶような声が──
『綾波っ』
びくり、と彼女は肩を震わせた。
自分が一番信頼する者の声。
特二型駆逐艦・綾波は、ようやく現実に意識を引き戻される。
『すごいじゃないか! あれが、鬼神演舞。お前の新しい力なんだな!』
「……」
こくり、と誰に向かってでもなく彼女は頷いてみせる。
「そう褒められると……照れるです」
『ところで、ぼーっとしてたけど……スキルにまだ身体が追い付いてないか?』
「……問題ないです。綾波は、平常運転です。それよりも、帰ったら……」
ナデナデ、してほしいです。
いつもなら、すっと出て来るその言葉が、続かなかった。
「……いえ、なんでもないです。綾波、帰投するです」
『そうか。気を付けてくれ』
目を開けると、仲間達が歓喜の表情で水面を駆けてくる。
そうだ。戦闘は終わったのだ、と自分に言い聞かせた。
内に秘めた、昂る熱を抑えて──
※※※
その日の晩になっても、熱は収まるどころか酷くなる一方だった。
「カラダが熱い、です……」
身体の火照りが止まらない。
少女の頬は上気し、お腹の中で熱い何かが昂り続けていて止まらない。
病気では無く、もっと根本的な問題。
生を受けた存在としては避けては通れないものから来ていた。
「……っ」
眠れない。
寝付けない。
否、こんな状態で眠れるわけがない。
身体全身が疼いて切なく、しかし何が原因かも分からず行き場も無い。
全身が衣服が擦れただけで愛撫されているように錯覚してしまう。
元々鮮やかな瞳は、ルビーのように燃えていた。
「……しき、かん……」
静かに、そしてゆっくりと指を動かすと頭の中がぼやけてくる。
じわじわと何かが溢れていくが、胸の中が熱くて手が止まらない。
「ん……ぁう……」
物足りない。
指をもう一本、濡れに濡れた蜜壺に突っ込んだ。
いけない事だ、と自分に言い聞かせ罪悪感を感じながらも彼女は本能のままに自らを慰める。
ご無沙汰な左手を下着も何も付けていない白いシャツの中に突っ込んだ。
こりこり、と胸の頂にある突起をこねくり回す。
「ん、ふぅっ……あっ……」
電気が頭に走った。しかし、足りない。行き着かない。くすぐったさの中に物足りなさと、切なさを感じる。
くぱくぱ、と口を開く蜜壺に二本目の指を這わせたその時だった──
「うーん、それ以上は食べられないよーう、えへへへー」
血相の引いた表情で彼女は慌てて二段ベッドの下段を覗き込む。
豪快な寝相で柵から床に頭を投げ出した同室の長姉──吹雪がチャームポイントの八重歯を除かせ、お腹を出して寝言を抜かしている。
「もーう、あかつきー、おこらないでってばぁ、いなづまがぁ、たべさせてくるのがわるいんだよーう」
「……」
綾波は我に返った。もう少しで、彼女を起こしてしまう所だった。そもそも相室だというのに指が止まらなかった自分に恐ろしさを感じた。
もし、彼女が起きていたら、どうなっていただろうか。
折角強くなって、指揮官にも皆にも信頼してもらったのに──誰かに知られたら、どう思われるか分からない。
それが怖くなってしまった。
罪悪感の象徴たる淫らな粘液が手の中で糸を引いていた。
「綾波は……ヘン、です。ヘンになってしまった、です」
※※※
「おっはよー、綾波ー……って、凄い顔!?」
「……」
翌朝の食堂。多くのKAN-SEN達が行き交う中、げっそりとした表情の朋友の姿を見つけて艦隊の「幽霊さん」ことユニオン陣営の軽空母ロング・アイランドは飛びのいた。
彼女は何も返さずに、呆けた表情のまま椅子に座ってしまう。
朋友、ないし「干物仲間」である綾波がローテンションで大人しい性格であることは周知だが、それでも朝からやつれていて挨拶さえ返さないのは珍しい。
自慢の宝石のような瞳の色は心なしか昏いし、その真下には痣と紛うような隈が出来ている。
「綾波~、すっごくげっそりしてる。徹夜でゲームするなら、このロング・アイランドにも教えてほしかったの」
「べつに、ゲームはしてないのです……出撃明けに徹夜でゲームなんて、流石に正気じゃないのです」
「じゃあアニメとかー」
「アニメも、見てないです。委託任務の吹雪に寝坊させたら悪いので」
「あー、成程。綾波結構気遣いさんなの」
ただでさえ吹雪は寝坊助ですから、と綾波は続ける。
事実そうであった。あんな酷い寝相なのだから、さぞ睡眠が浅いのだろう。
「綾波……もしかして、出撃で疲れてる? ヴェスタルさんに診て貰った方が良いかも~」
「っ!」
ヴェスタルはこの艦隊に二隻しかいない工作艦の片割れ。
言わば学園の医師としての役割も持つ彼女にかかれば、綾波の不調もすぐに分かるだろう。
しかし──それは、昨晩の自分の粗相を誰かに知られてしまうことになる。
「別に……綾波は大丈夫です」
「大丈夫に見えないのーっ。医務室までLets,Go!! なの」
「い、いいです。心配無用、です」
ぐいぐい、と食堂から引きずられる綾波。
普段なら抵抗できるが、寝不足で目の前が霞み、腕に力が入らない。
後、仮にも相手は軽空母。駆逐艦とは馬力が違うのである。
誰かに助けを求めようと廊下を見回す。
赤城。朝っぱらから翔鶴ととっ掴みあっている。論外。そもそも人選ミスだ。
伊勢と日向。朝っぱらからべろんべろんに酔っぱらって三笠に怒られている。論外。
アークロイヤル。朝っぱらから、ビデオカメラを掲げたウォースパイトの前で正座させられている。論外。
残りの艦船は哨戒か委託任務か食堂にいるかのどれかだ。
(だ、誰一人としてまともな味方がいないのです……!)
「あの、ロング・アイランド……気持ちは嬉しいのです、でも単なる寝不足なのです」
「じゃあ昨日何やってたのー?」
「そ、それは……」
「おーい、綾波。どうしたんだ?」
どきり、と胸が跳ねる。
低くも若々しい声。
学園で数少ない男性にして、自分が一番信頼を置いている”ヒト”。
軍服を纏った青年がそこに立っていた。
「し、指揮官っ」
「うおっ、凄い顔。お前……昨日ちゃんと寝たか?」
「それは……あの」
「指揮官、聞いてほしいの! 幽霊さん、綾波が寝不足でフラフラだから医務室に連れてってあげようとしたの! ゲームも何もしてないのに、綾波が眠れないなんて絶対おかしいの!」
「おーいおい、出撃明けなのにちゃんと寝なきゃ疲れが取れないだろう? お前は艦隊のエースだからな。しっかりしてもらわないと」
「……」
事実。綾波の活躍は改造して以降、目覚ましいものだった。
特に、新しい技・鬼神演舞を習得してからは一撃で大型艦を屠ることも珍しくはなくなった。
しかし。綾波は自覚していた。それに伴う自らの異変を。
出撃が終わった後、込み上げてくる熱。止まらない昂り。
それが蘇ろうとしている。
お腹の奥が疼く。
股を擦り合わせると、違和感に気付く。
寝不足で忘れかけていただけで、身体を迸る昂りは結局発散出来ていないのだ。
「頼むぞ綾波。大事な時に倒れてもらっちゃ困るからさ、休める時に休まないと」
ぽんぽん、と何時ものように頭を撫でようとする手を──思わず振り払う。
それ以上彼に触られたら、自分は本当におかしくなってしまうような気がした。
折角此処まで上り詰めたのに……もし、”それ”を知られたら見捨てられてしまうような気がして。
「い、良いですっ」
「綾波?」
「あ、綾波は……綾波は……大丈っ──」
ふらり。
支柱のないテントのように、彼女の身体は倒れた。
「……綾波!?」
※※※
「熱暴走ですね~。睡眠不足はそれが原因じゃないでしょうかぁ」
「はぁ」
工作艦・ヴェスタルは綾波の状態をそう結論付けた。
急患だが、ヴェスタルは嫌な顔をせずに彼女を診てくれた。熱暴走と聞くと指揮官からすれば何とも心臓に悪い言葉だったが、ヴェスタルのふわふわとした語り口から見るに然程深刻ではないようだった。
「好戦的な子、特に駆逐艦に多いんです。戦闘が終わった後、生存本能で戦闘モードに入ったメンタルが上手くスイッチ出来ないってことがたまにあるんです~。それで、抑えきれない闘争本能が熱になって身体に溜まっちゃうんですよねえ」
「それで身体が熱くなる、と」
「熱が出るだけなら良いんですけどー……生存本能が色んな欲求に強く出ます~。抑えたくても抑えられないものを無理矢理抑えた所為で、綾波ちゃんは眠れなかったみたいですね~」
「成程。しかし何故駆逐艦に……そうか、前衛の中でも駆逐艦は生存率が低いから、か」
「そうなりますねー。まあうちは指揮官さんのおかげで、誰も沈んでませんけどね」
「勿論だ。誰一人沈めるもんか」
彼はそう言ってのける。
これは戦争だ。誰が何時沈んでもおかしくはないのに、そう断言するのはおかしいかもしれない。
しかし、指揮官とて誰かが欠けるのは望んでいない。
だから、彼はいつも死力を持って任務に臨む。無茶な作戦を決行したことは一度も無い。
それが死地へ艦船を送り込む自らが出来る最大限の責務だと信じて。
まして、相手が学園の最古参である綾波なら──猶更だ。
──ん?
此処で指揮官は違和感に気付いた。
ヴェスタルの言い方だと、この不調は今までにも起こっていないとおかしいのだ。
「しかし、綾波は今までそんな事無かったぞ。何で今になって? ……まさか、最近期待をかけ過ぎてあいつにとってはプレッシャーになってたとかじゃ……だったらどうしよう、俺の所為!?」
「いえいえ、原因はこの間習得した鬼神演舞にあると思われます~」
「鬼神演舞が? どうして」
「キシンモードになった綾波ちゃんは、”鬼神”以上に精神力と闘争本能が研ぎ澄まされますからあ」
「そりゃそうだろうな」
「その際、艤装のパフォーマンスはスキルによって向上しています。当然、艤装に繋がっているKAN-SENのメンタルも」
「はぁ。……つまり、スキルを引き金にした艤装のパワーアップに精神も相乗効果で引っ張られると」
「そうですー。互いに強化し合う関係ですねー。要は綾波ちゃんが今までにない精神の変化に不慣れなのが原因です~。練習し続ければ自然に治ると思いますー」
「……良かった。もし、何かの病気かと思ったら気が気で無かった」
「まあ、昨日帰投した時、綾波ちゃんの不調を見抜けなかった私の責任ですからぁ」
「自分を責めるなよヴェスタル。いつも助かってるぞ。むしろ、艦船の事は指揮官である俺の責任でもある」
いえいえ、と彼女は微笑みかける。
綾波が普段表情に出さないタイプに加え、メンタルキューブの不調の為、いつものメンテナンスではチェックし切れなかったのだ。
それを少なからず自責しているように思えた。
顔にはあまり出さず、いつも穏やかなヴェスタルだが人一倍自分の仕事には真摯に取り組んでいる。
「それじゃあ、俺は執務があるから戻る。本当は一緒に居てやりたいが……ヴェスタル、綾波を頼んだぞ」
「あっ、それなら……」
「何だ?」
ヴェスタルはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「綾波ちゃん、他に異常もありませんし……指揮官の仮眠室で寝かせてあげては?」
「仮眠室……って実質俺のベッドじゃないか!」
仮眠室は執務室から繋がっている。
実質、指揮官はそこで寝泊まりする日々が続いていた。
たまに某正規空母、装甲空母が侵入するので最近セキュリティをちょっと強化したばかりである。
「はい。綾波ちゃんが安心できるのは、指揮官の傍なので。最終的には心の問題ですからぁ」
「敢えて綾波を俺の傍に置く、と」
「浮かない顔ですね~、指揮官って綾波ちゃんが大好きなんでしょう?」
指揮官は噴き出しそうになった。
「大人をからかうんじゃない」
「皆を平等に扱おうとしてるのは分かりますけど~、綾波ちゃんは格別なんですよねぇ」
「あのなぁ……」
否定はしない。
いや、出来ない。
初めて出会った艦船で、ずっと今まで一緒に戦い、信頼を築いてきたから。それもきっとあるだろう。
しかし、綾波を特別視してしまうのは彼女自体に惹かれていたからだ。
鬼神の如き姿で暴れながらもガラスのように儚い少女に。
浮世離れをした表情を浮かべていても、自分を見ると娘のように懐いてくる少女に。
だから──彼女が離れてしまうのが怖かった。それほど、先程手を振りほどかれたのはショックだった。
「……その、何だ。実は、綾波の様子がおかしかったのは分かってたんだ」
「そうなんですか?」
「ちょっと前までは出撃で武勲を取った後に、頭を撫でてくれってせがんでたのに……此処最近、それが無かったからな」
「惚気ですか~?」
「滅多なことを言うもんじゃない。……まあ、少し寂しかったのは確かだな。あいつとは一番長い付き合いで、それなりに信頼関係も出来てると思ってたからな。もし、あいつに避けられてたのなら俺は……流石にショックだ」
「綾波ちゃんに限ってそれはないと思いますけど~」
「そうか? ……まあ、熱暴走の所為だった、と思えば少しは気が楽だな。あいつは他人に迷惑をかけるのを良しとしない。だから一番大変なのは綾波本人だ」
「話が早くて何よりですー。じゃあ、これは工作艦としての忠告ですけどー」
ぴしっ、と指を立ててヴェスタルは言った。
「綾波ちゃんの事が好きなら……何があっても、綾波ちゃんの事を受け止めてあげてくださいね?」
指揮官を首を傾げるも二つ返事で答えるしかなかった。
それが当然のことだと信じて疑ったことは無かったからである。
※※※
その日の執務も終わり、窓の外ももう暗くなっていた。
隣の仮眠室に寝かせている綾波は結局一度も起きて来なかった。
寝不足と出撃の疲労が重なっていた所為だろうか、指揮官は長年の相棒に思いを馳せる。
休憩事に様子を見に行っていたが、やはり不安だ。
着苦しい上着を脱ぎ、ハンガーに掛けると、綾波の様子を見に仮眠室の扉を開け──ようとして手を止めた。
「んぅ、ふぅ、ぁ……」
「……?」
呻くような声が聞こえる。中には綾波しか居ない。つまり、彼女のものだ。
まさか、熱で苦しんでいるのではないか。
「しき、かん……しき、かん……!」
「あいつ……!」
自分の事を呼んでいる。
こうなれば、もう止まる理由は無かった。
またすぐにヴェスタルの元に送らなければならない。
「おいっ、大丈夫か綾──」
仮眠室の扉が開き、光が差し込む。
それは、今の綾波の姿をはっきりと映し出していた。
白く、雪のようにきめ細かい肌は暗がりの部屋の中でも見える。
ルビーのように煌く瞳、しなやかに伸びた無駄な脂肪のない肢体が乱れていた。
一糸纏わぬ姿で、綾波は自慰をしていた。
「あっ、あっ、うぅあ……」
右手はその股座に突っ込まれており、激しく淫らな水音を立てて指が蠢いている。
そして空いた左手が緩やかな膨らみを這う。
「っぁ、あ、はぁ……はぁ……んぁ」
くてん、とベッドに転がった彼女は肩で息をしている。
見るとシーツは股座から下に掛けてぐっしょりと濡れており、服は下着諸共乱暴に脱ぎ捨てられている。
指揮官の姿にさえ気づかないのか、喘ぎながら彼女は希うように蜜壺に突っ込む指の本数を増やした。
普段なら肉壁を傷つけかねない程の過激なオナニーだったが、発情しきったケモノの蜜壺からは止め止めなく潤滑液が流れており、むしろ快感を煽るばかりだった。
そして、初めて目の当たりにした女の自慰を食い入るように指揮官は眺めるしかなかった。
仮眠室には雌のフェロモンが充満しており、そこに好きな女の子の乱れた姿など興奮材料に他ならない。
「ぁっ、しきか──ん、ぁぁあああ」
やがて少女は激しく身体を反らせて脚をピンと張り、逝き果てる。
噴水のように溢れ出る愛液はシーツを再び濡らす。
「し、き……かん」
「お、おう」
「……指揮官?」
がばっ、と飛び起きた彼女は指揮官を見るなりベッドから降りる。
彼女は指揮官に抱き着いた。
「綾波っ!?」
見てくれは少女。
しかしタガの外れた艦船の馬力に人間が敵うわけはない。
普段は理性で抑え込まれているものが解き放たれているのだ。
か細い指で手首を掴まれ、体重を掛けられるとすぐに床へ組み伏せられてしまう。
少女特有の柔らかい身体が押し付けられた。
捕食者のような迫力を前に、指揮官も抵抗出来なかった。
「し、きかん……」
「待てって……どうしたんだよ、綾波」
「カラダが熱、くて……綾波、ヘン、ですっ……!」
肩で息をしながら、苦しそうに彼女は言葉を紡ぐ。
頬は上気して赤く染まっていた。
あれだけの激しい自慰の後にも関わらず、まだ彼女の頭は沸騰していた。
「気が付いたら、指揮官の事ばかり考えてて……抑え込んだら余計に止まらなくなって」
「よしよし、分かった。俺が付いてるぞ。だから落ち着こう、な? まずは手を離して──」
ヴェスタルの言葉を思い出す。
──何があっても、綾波ちゃんを受け止めてあげてくださいね?
元からそのつもりだ、と指揮官は頷いた。彼女が他の誰にも自分の状態を知られたくないのなら、その意思を汲むべきなのだろう。
「指揮官……こんな綾波を見て、キライになったですか? 迷惑、ですか?」
「なわけないだろう、お前は俺の大事な船だ」
「じゃあ、こんなことをしても、ですか?」
潤んだ彼女の瞳が近づく。
今にも雫が零れそうだったルビーは──急に赤い煌きを増す。
手首を押さえる力が強くなる。
齧りつくようにして、彼女は指揮官の首筋に歯を立てた。
「いっつっ!?」
指揮官は呻き声を上げた。
噛まれた部分がじん、と鈍く痛んだ。
噛み痕を彼女はぺろぺろと舐めている。
「……指揮官っ、ごめんなさい。大丈夫、ですか」
「大丈夫だ……衝動が、止まらないのか」
彼女は申し訳なさそうに頷いた。
全て本能的な行動だ。ヴェスタルが先程言った症状に加え、重桜の艦船が持つ異形の力が関わっているのかもしれない。ヒトの本能ではない。獣の本能だ。
現に、のしかかっている彼女の太腿の間に光を帯びた糸が引いている。
湿っているというレベルではない。満たされない渇きを潤すために自分で慰めていたのか、しなやかな足を伝う程にぐしょぐしょに濡れている。
ヴェスタルの言葉を思い出す。彼女の高ぶりは──獣の如き強い性欲求と、征服欲求となって現れ出ているのだ。
「うぅ……溢れて、止まらないです」
知識としてきちんと理解しているかどうかも分からない。
だが、自分の布越しの息子に彼女の柔らかい淫肉が押し付けられている。
「うあ、これ……」
大きすぎず、小さすぎない程よく熟れた若い果実が揺れている。
成程、見れば見る程今の指揮官は情けない状態であることは確かだった。
こんなに極上の雌を前に、文字通り組み伏せられて自由に動けない。
だがああも言った手前、拒絶をすれば彼女を傷つけかねない。
綾波は──そう思わせるほどに不安そうで、切ない表情を浮かべている。
口をきゅっと結び、目を潤ませて泣きそうな顔で迫ってくる女の子を跳ねのけられる男が果たしてこの世に何人いるだろうか。
ズボンのファスナーを降ろす音が聞こえた。
伸し掛かったまま綾波が手を伸ばしたのだ。
間もなく、少女の自慰と冷たい手に撫でられたことで硬くそそり立った一物が姿を現した。
「……お腹の奥が、じんじんして熱くて、切なくて……体中が沸騰してて」
強い力で床に押さえつけられる。
綾波は指揮官の胸元に顔を摺り寄せ、独り占めするように密着する。
焦らしに焦らされ、発情しきった綾波にとって、それはとても心地よいものだったし、粘液であふれた互いの秘所が触れ合うのがくすぐったかった。
綾波の顔を見上げる。
こんなに辛そうな顔の少女をどうして放っておけるだろうか。
「おい、大丈夫か? 綾波」
「指揮官となら……うん、指揮官と一緒が、良い、です」
「……分かった。来い、綾波」
ヴェスタルに言った言葉に嘘は吐けない。
覚悟を決めた表情で指揮官は綾波に挿入を促す。
言うが早いか、濡れそぼった肉弁が一物を飲み込んだ──
「ッッッ!!」
びくん、と彼女の身体が跳ねる。
膣内に包まれた肉棒はじんじんと熱に包まれていた。
状況と相手が綾波というのもあって、このままでもすぐ果ててしまいそうだが、それでも彼女の事を気遣うことを指揮官は忘れなかった。
「綾波……大丈夫か」
「っ……ぁ、はぁっ」
「ゆっくりな……初めては痛い、っていうしぃっ!?」
返事の代わりに一気に腰が落とされる。
すぐさま指揮官のそれは彼女の最奥に辿り着いたようだった。
普通ならば苦痛が迸るような乱暴な行為だったが、最早焦らしに焦らされた綾波に苦痛は意味を為さなかった。
恍惚とした表情は痛みを感じさせない。
瞳はとろん、と溶けており、既に身を貫くような快楽を貪ろうとしている。
「しきかんっ……しき、かんっ……!」
「ああっ、くっ……!?」
絞る取るようにして肉壁がうねってくる。
恍惚とした表情で腰を降ろしては、また落とす。
その度に電気が走るような快感が彼女を襲った。
普段の大人しい顔はそこにはない。
ただただ淫らな雌の獣の姿がそこにあった。
騎乗位のまま、一方的に愛と欲をぶちまけ続ける。
「頭が、しびれてっ……ふぁあっ、奥に、ずんずんって……!」
「う、絞り、取られる……!」
「びりびりって、頭がふわふわしてっ……! これ、すきっ、きもちいい、ですっ……!」
ぐじゅぐじゅと淫らな水音が仮眠室に響き渡る。
蕩けながらも獲物を捉えるような瞳で綾波はずっと、指揮官を見下ろしていた。
子宮は彼女自身の乱暴な行為によって押し潰され、形を変える。
肉の襞が陰茎を擦り上げ、亀頭を逆なでする。
彼女の呼吸に合わせて、襞は搾り取るようにしてぎゅうぎゅうと彼のモノ全体を握り締める。
当然、それらは意識を朦朧とさせるような快感となって指揮官の放精を促すことになった。
「もっと、もっと……!」
「わぁ、馬鹿ッ綾波……! 激しすぎる、すぐに出ちまう」
童貞だった身に、この刺激はあまりにも強過ぎる。
すぐにでも果ててしまいそうだが、そうなると綾波の情熱の行き場が無くなってしまう。
だから必死にこらえる。
これは彼女の為なのだ。
「こんな”壊れたフネ”でも……最後に、指揮官と一緒に居たい……ですっ」
「壊れた、って──んおお!?」
止まらない。
小さな身体に収まりがつかない程に膨張したモノを綾波はひたすらに肉壁でしごき続けた。
指揮官も彼女の止まらない情熱を一思いに受け止め続ける。
獣のような喘ぎ声を上げながらひたすらに淫らに腰を振り続ける綾波だったが、とうとう限界が訪れた。
くぱくぱと子宮口が本能で彼の精液を求める。
「あっあっあっあぅ、ん、ぁあ、おっきいのが……びりびりっ、って──!」
「うっ……綾波っ」
快感が迸る。
膣が思いっきり収縮した──
「んぁぁ、やっ……ふぁぁああああーっ」
膣が肉棒を踊り食う。
痛いほどに握り締められたペニスが脈動し、鈴口から白濁が留まることを知らずに噴き出す。
とぷとぷと注がれる白濁は彼女の身体を中から汚し、収まらなかった分が溢れだした。
「っ……まだ、もっと、です」
しかし。
ぐにぐに、と肉壁が再びうねる。
そのまま緩く勃起したペニスを再び無理矢理擦り上げる。
「ぐっああ!?」
最後の一滴まで、搾り取るように。
彼女は腰を振り続けた。
一通り暴れた鬼神は、ようやく体の中に溜まりに溜まった熱を放出し切り──ぱたり、と彼の胸に倒れ落ちる。
拘束する手首の力が緩み、ようやく彼の両手は自由になる。
「すき、です……しきかん」
小さな背中を彼は抱く。
右手はいつものように、彼女の頭に置かれていた。
やはり自分は綾波に対しては甘い。
これが惚れた弱みと言う奴だろうか。
「……俺も好きだよ、綾波」
※※※
「……っ!」
仮眠室のベッドの上で綾波は目を覚ました。
もう息苦しさも熱さも、寝不足による疲労も無かった。
しばらく意識を失っていたらしいことに綾波は気付く。
そして、自分が何をしでかしたのかも。
「ぅ、あ、ぁぁ……サイテー、です……!」
このまま自沈してしまいたい。
そんな気分だ。
よもや、指揮官に襲い掛かってしまうなんて。
そしてそのまま行為に及んでしまうなんて。
罪悪感と取り返しのつかないことをやってしまった自分の行いを恥じる。
確かに快楽はあった。熱は発散出来た。
しかし──思いも、行為もあまりにも一方通行だった。
「……起きたか?」
「っ!」
ベッドに座る青年。
指揮官が穏やかな表情で綾波を見下ろしていた。
今すぐ逃げ出してしまいたい衝動に駆られる。
起き上がろうとした矢先──大きな手が頭に置かれる。
「……良かった。熱くない。もう、元通り……なのか?」
ぽんぽん、と頭を撫でる指揮官。
何時も通りにそうしてくれる彼の姿を直視するのがあまりにも辛くて──
「綾波を、怒らないのですか?」
「ん? 何でだ。お前は何も悪くないし」
「綾波、指揮官に酷い事をしてしまったです。襲い掛かって、噛みついたり……無理矢理、したり……」
泣きそうな顔で彼女は訴える。
「目が醒めたら、指揮官の匂いがして……ベッドで勝手に身体が疼いて……うう、こうなるから押し込めてたのに……折角、強くなってもっと指揮官の……皆の役に立てるって思ってたのに」
頭の中がこんがらがって支離滅裂になる言葉の端々に嗚咽が小さく響く。
ルビーの瞳からぽろぽろと雫が零れ落ちた。
慌てて指揮官はそれをハンカチで拭う。
「わあ、待て待て! 泣くんじゃない! 確か、お前伸びててヴェスタルから何も聞いてないんだったっけか」
「え?」
指揮官は話す。
綾波が倒れた後の事を。
彼女の不調の原因が最近習得したスキルと艤装にあること。
そしてヴェスタルの提案で此処に運んだこと、だ。
「……うぅ、それでも綾波……指揮官に、とんでもないことを」
「まあ、俺とお前の仲じゃないか。今更何があっても俺はお前を見捨てたりなんかしないよ」
「……本当、ですか?」
「それに俺的には……役得だったし? 初めてがお前だったしさ」
「役得、ですか」
「だからお前が気にすることは何も無いよ」
指揮官の首筋を見やる。
しっかりと痛々しい噛み痕が付いていた。
「綾波は、そんな事を言ってもらう資格なんかない、です」
「あるよ。こんなに頑張り屋さんで、我慢強くて、辛い事とか全部抱え込んでしまう可愛い女の子をどうして放っておけるんだ? ますます、傍に置いておかなきゃな」
「……そしたら、指揮官の迷惑になってしまうです」
「俺は、お前に避けられる方が辛い」
「っ!」
「お前に嫌われてるんじゃないか、って思ってたからさ。でも……そうじゃないって分かって良かった」
「あ、ぅ……」
彼女も分かってはいた。
自分が指揮官を避けていたことを。
でも、本当は──指揮官と一緒に居られないのが、離れ離れになるのが一番怖い。
「綾波も──指揮官と離れたく、ないです」
「そっか」
「ずっと、一緒が……いいです。ずっと、ずっと……迷惑、ですか?」
返事の代わりに指揮官は綾波を抱き寄せた。
言葉は要らなかった。
「……指揮官。今日の事は、誰にも言わないでほしい、です」
「勿論。二人だけの秘密だな」
小指と小指を絡めた。
子供じみた約束の仕方が可笑しくて、二人は笑い合った。
※※※
ある日のドック。
出撃した艦船達の帰投を待つ指揮官、そして工作艦。
彼はヴェスタルに最近の綾波の状態について語りかけていた。
「綾波の不調もあれ以来無い。戦果もバンバン上げてるし、お前には感謝してもしきれないな」
「私は何にもしてないですよ? 頑張ったのは指揮官さんじゃないですか」
少し含みのある言葉でヴェスタルは返す。
頑張った、か。
確かに彼女を運んだり襲われたりしたが──と指揮官はこの間の事を思い返す。
そして、妙な違和感に気付いた。
ヴェスタルは、そのことに勘付いているのではないか、と。
「──まさかお前」
「あらら、指揮官さん。その様子だと上手く行ったみたいですね~、ちょっと荒療治でしたけど~」
「その様子だと……全部見越してたのか!」
「はい~、熱暴走と恋の病、一緒に治療完了でーす」
「何言ってんだお前!」
結果オーライだったとはいえ、色々な意味でエラい目に遭ったぞ、と指揮官は訴える。
ある意味元凶と言えるヴェスタルは素知らぬ顔で微笑んでいた。
「でも、綾波さんも例の症状を克服出来たみたいですし」
「いやまあそうなんだけど」
「綾波ちゃんとの仲も縮まって、万事オッケー、じゃないですか?」
「まあ……な」
あれ以来、綾波と過ごす時間は増えた。
彼女と同室の吹雪が、「綾波が全然かまってくれなーい!」と、ぶー垂れていたのが記憶に新しい。
しかし、同時に妹の恋の進展を見るや嬉しそうにしていたのもまた事実だった。
綾波はと言うと人目も憚らず積極的にスキンシップを求めにくるので、少し気恥ずかしいところだ。
特に重桜には色んな意味で怖い面子が居るので……色々と懸念が残る所である。
「指揮官っ」
艦船が帰投した。
いの一番に綾波が飛んでくる。
指揮官はそれを抱きしめ、頭を撫でる。
「本当に、お似合いですね。ちょっと……妬けちゃいますけど。ふふっ」
本当に楽しそうな二人を眺めながら、ヴェスタルは笑っていた。
エロシーンが……少ない……!
官能短編は1万字前後で仕上げることが多いですが、今回は色々詰め込み過ぎた上に、女の子から襲われるというシチュエーションの所為でプレイのバリエーションが少なかったような……その分綾波ちゃんのオナニーシーンで埋めた感があります。
まあでもこまけぇ事ァ良いんだよ!綾波ちゃんが可愛いってわかりゃ十分だろ!重桜駆逐万歳!
作者的には少し物足りなさが残りますが……まあそれは次回に置いておきましょう。
感想、コメント等あればよろしくお願いします。ではでは。