「よう来たなのじゃ! 刀の勇者ユウよ!」
目を開けると俺は勘違いしてしまいそうになる。
目の前にいる女神のせいだ。
あたりを見渡す。
ここは……まるでだめなゲーオタの部屋である。
部屋自体はそれこそ教室くらいに広いのに、部屋には雑誌や洋服が散らばっており床が見えない。
開きっぱなしの雑誌にはゲームやアニメらしきものの紹介記事のようなものが見える。
女神の背にはディスプレイらしきものが8つも並んでいる。
机にはディスプレイ以上の数のコントローラーが積まれており、あるディスプレイにはチャットらしきコメントが流れており、「オイしごとしろ」「ねおちするなたたかえ」「お前のせいだぞ今度見抜きさせろ」などのコメントが流れている。
多分仕事とは女神の仕事ではなくゲーム内での役割のことだろう。
「うわあ……」
「何だその態度は! 私は女神だぞっ!」
そこにはふんぞり返る幼女がいた。ドヤりとしているが、胸もない。
よれた服、邪魔だからとまとめられてそうな左右の高さの違うツインテール。まとめきれていない髪は頬に張り付いており、枝毛も見える。非常にだらしがない。
顔はゲームのキャラを現実に呼び出したように左右狂いのなく整っているがその様子で台無しである。
神のオーラなのか、悪臭がしないことだけが救いだった。
総じて女としては”ない”レベルの相手である。顔はいいのに立てようとしても小さくなりそうな程だった。
「……はぁ」
「黙るなっ! ため息を付くなっ。きっ、聞きたいこともたくさんあるじゃろ? ほら! 聞いてみろ」
よくもまあ、グラスやラルクたちはこの相手を信頼したものだと思った。神像からはこの子の見た目を全然感じなかったので、彼らの前には整えてから現れたか、適当に見た目を偽って現れたのかもしれない。
頭がパンクしそうになり、ため息が出る。
悪意はなさそうだ。威厳もないが。しかし、これはこれで信頼しづらい。
正直こんなやつに会いにここまで来たと思うとやはりがっかりしてしまう。
「じゃあ、波の真実というか、一体どういうもので、あんたは俺に何を期待しているんだ?」
「ふむ。それか。そうじゃなー、波は世界の融合現象である。この認識は正しい。ただ、なんのため……いや、誰のための現象なのか。それが抜けていては真実にはたどり着けんじゃろう。のう?」
ミステリーを自力で説いたのではなく、見終わったから真実を知っているだけなのに、未視聴組にネタバレをちらつかせながらドヤるような薄っぺらい笑顔を浮かべる。腹立たしくてちょっと驚かせたくなる態度である。
ドンッ。足で強く床に叩く。
「ヒエッ!? なんじゃ」
「ごめん足が痒かった」
「そ、そうか。賃貸じゃから気をつけるんじゃよ」
広いが安っぽい作り場所だったが、賃貸なのか……。
ます安っぽくなる。
「全ての黒幕。それはメガヴィッチのせいなのじゃ。あの女は生きの良い世界を見つけると、世界を融合させることで世界の許容値を高め、一定以上になったところで顕在して世界を食べてしまうのじゃ!」
「何だメガヴィッチって」
「メディア・ピデス・マーキナー。世界を食べることで成長する方法を選んだ糞女神じゃ。ほれ、メルロマルクのマイン。あんな感じの女じゃ。女神ビッチ。じゃからメガヴィッチじゃ。冴えてる呼び名じゃろ?」
確かに善人ではないし、自分の願いに素直な女性ではあるが、そこまで悪しく言われるほどだろうか。
まあ、そこは言い合っても仕方がない。
「世界を食べるとは?」
「女神が成長するには2パターンある。世界を食らうか育てるか、じゃ。農夫のように世界の種を植え、世話をして育てる私のような素晴らしい女神と、人の育てたものを横から奪おうとする糞女神の二パターンあるのじゃ」
目の前の女神がまめに育てるとは全く思えない。
「何でじゃ! ちゃんと世界は回っておったじゃろうが!!」
どこまでもその株価は暴落中だが、納得するしかないだろう。
見た目と態度は残念だが、その存在感は恐ろしいほどだ。
おそらくだが全力で切りかかったところで傷一つ負わないだろうことが確信できる。
LVの桁が違うのだろう。すなわち、いくつもの世界を育てているから強いのだと納得ができる程度には桁外れている。
世界を経験値稼ぎに使うのが女神なのであればその格は確かに勇者だろうとスライムの存在以下の相手に違いない。
そして、それ以上に危ないかもしれない女神が世界を襲おうとしている。
「でじゃ、このままあの糞女に黙って世界を奪われるのもしゃくじゃろ? 育成コストをうわまって安定してる世界なんじゃし。そこで思いついたのがお前じゃ!」
びしっとこちらを指差すが、大きな動作にホコリがまう。置物になっている掃除機は活用されていないようだった。
「あの世界での魔王は世界の穢を一箇所に集めるための装置じゃ。そして、魔王を倒した勇者とは魔王の魂を抱えるちりとりであり、ゴミ箱じゃ! 勇者の力がそのうち浄化するじゃろうし、あとは周りに悪影響が出ないように魔力のまったくない地球においておけば自然と処理が完了するというわけじゃな! このシステムを考えた私は天才! と思ったもんじゃ」
すごいじゃろーと無垢な瞳を向けてくるが、やらされた方としてはまったくもって冷静に聞けることではない。
魔王が世界の穢を集める装置? 俺はそのゴミ箱?
ぎりぎりと手に力がこもる。こんなやつの狙いで人を殺したのか。こんなやつにあの世界は信仰を捧げていたのか。こんなやつに……。
この体の中にはあいつの魂があるのかと胸に手を当てる。こちらの勝手で対話もなしに殺したのだ。
俺は女神と同じくらい魔王にとって悪いやつだっただろう。状況は女神のせいであってもやったのは自分である。
恨むのは筋違いだろう。深く息を吐く。
今の俺には大切なものがたくさんある。まずはそれを守らなければいけない。
「浄化しきっていない魔王の魂がある世界を食べればあいつにもダメージ食らうじゃろ! 驚くところが見ものじゃなっ!!」
「毒殺ってことか?」
「いいや? せいぜいが3日腹を下す程度じゃろ。でもそうしたら煽りまくって、他の女神にも教えてやるつもりじゃったんじゃ。SNSで拡散! あいつ男盗ったとか世界奪ったとか恨まれまくってるからめちゃウケるはずじゃー!」
なるほど、こいつもロクでもないようだ。ただ、直接危害がないだけましなのだろうか。
だが──
「それだと世界が食われるじゃないかっ!」
毒薬代わりなどいくらでも受け入れてやるが、……ラフタリア、メルさん、メルティ、マイン……様々な大切になった人たちの顔が浮かぶ。世界が失われる想像に体が震えた。
「うむ。そのつもりじゃったがあの糞女神、勘付きおった。分身からも手を引いて、様子見モードになってしもうた。お前が生きている限り食わんじゃろなー。死ねば魂は地球に飛ばされワンちゃんあるからの。立ち去らんならしょうがないから、世界を融合させることにしたんじゃ。そうすれば2つとも狙われなくなるし、大きくなれば浄化の力が上がるからの。波のあともそこそこ魔物は増えるじゃろうが、対処できるレベルに落ち着くじゃろうし、あとは長生きしてくれればなんとかなるじゃろ。寿命で死ぬ頃には魂も地球じゃなくてこの世界に馴染んで紐づくから流石にあの女も狙うのは諦めるじゃろ」
「そうか。俺はあとは死ななきゃいいんだな?」
「そうじゃな。あとはまあ、四聖を失うと波の影響を受けすぎて融合ではなく消滅になる。融合までは四聖を失うな、くらいじゃな。一人二人なら失ってもいいが、そのときはバランス取ってもう片方も減らしておくことじゃな。バランス悪くなるからの」
さらっと目の前の女神は勇者殺しを提案してきた。勇者を人とも思わぬ態度に腹が立つ。
だが、なるほど、女神なのだ。人でないのだ。人とも思っていないどころか、人はもっと価値なく扱うだろう。
そもそも人の理屈でかたるほうが悪いのだ。
世界を育てようとしている女神なのだから、食べる女神よりはまし。
そして、本性を知らない人たちにとって見れば確かに世界を支え、育てる彼女はそれこそ信仰に値する存在なのだろう。
女神は女神だけど、別のあり方をしている女神が仕込んだのが刀の勇者ユウでした、という話でした。
よくわからなかった方用のまとめ。
・女神の成長には世界を食べる方法と育てて信仰や感謝などを受ける方法があり後者のほうが時間がかかり非効率。
・のじゃ女神は複数世界を育てており、ユウの最初の異世界もその一つ。直接顔出ししている割と手をかけている世界の一つのようだ。
・魔王は一定以上の世界の穢を感知して適正のある人間や動物が設定される。世界中の穢れが集まり、周りの動物が魔物化。世界で暴れだす。それを処理させることで世界をきれいに保っており、危険から信仰心が芽生え、勇者を通して感謝も受けられるため収益率が高い。適度に文明が発達しすぎないようにもなっている。
・魔王を倒した勇者に魔王の魂が宿るため、魔法のない地球で休ませることで浄化をさせるシステム。
・しかし、メガヴィッチ女神に育成中の世界が狙われた。力関係で直接どうこうできないため、食われるのはしょうがないと嫌がらせをすることに。腹を下してしまえー。
・だが見破られてしまい、手をひかれる。それと同時にマインから「勇者をはめたくなる」思考がなくなる。
・とはいえ、ユウを日本に戻せばまた狙われるので、2つの世界を融合させ、浄化力を上げた上でユウを世界に紐付けることで、悪影響を小さくして女神避けを行う。
・そのためあとは四聖が生きており、ユウが生存していること世界にひも付き勝利となる。
……というのがのじゃ女神の企みでした。
割と初期に設定したのに、100話を超えてようやく出てくるという不思議。
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全員さほど好きではない